理想の旋律   作:鞠菊

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久しぶりに書いてるから難産でした。日に日に文字数が減っている現実と向き合えない状態です。


04 顛末、そして

 国木田は事件収束の翌日。つまり夜が明けたのち直ぐに報告書の作成を行っていた。K大学連続殺人事件報告書。簡潔にまとめると以下のとおりである。

 

 全ての事件の発端は、3年前の同時期に起きた一人の大学生の殺人事件であった。犯人は被害者の友人で会った村上。村上は自分より一歩先に行く被害者が妬ましく、また被害者の恋人で会った女性に横恋慕していた。

 劣等感と嫉妬にかられた村上は被害者を殺害。女性を脅し、アリバイの偽造と証拠の隠ぺいを携わらせた。その後、その事実をネタに女性を脅し恋人にするが三年が経ち、女性が罪の意識と村上の横暴さに堪えられなくなり警察に駆け込もうとした男が女性を殺害。これが第一の被害者であった

 皮肉にも殺害場所は以前殺した被害者と同じ場所であった。犯行がばれる前に死体を隠そうとしたところに仮面の化け物、虚が現れ女の半身を食べた。虚は村上に取引を持ち掛けた。村上は消してほしい人間を虚の餌にすることで取引に応じる。

 その姿を偶然にも見かけたのが第二の被害者であった高校生である。その後も日をかけて事件に直接、あるいは間接的に関わったものを殺害し続けた。(ここまで虚と書かれているところが黒く塗りつぶされている。)

 事件収束後、軍警に引き渡された村上から事情聴取を取るものの言っていることが支離滅裂なところもあるため、現在は精神病棟で強制入院させられている。意識が正常になり次第、改めて逮捕する予定。

 尚、医師の判断によると回復の兆しは見られないらしい。

 

 そして国木田は次の文を付け加えた。

 

 結局、今回の依頼主の正体は不明のままであった。また事件解決のためとはいえ部外者を不法侵入させたK大学学生である高槻紗呂は停学こそ免れたものの。

 

●○●○●○

 

 学長室―。

 

 そこには対象の紙束を山のように積み上げて作業をする生徒がいた。徹夜明けで一睡もしていない目を無理やり広げながらペンを走らせている。紗呂だ。せめてもの慈悲で浴びることが出来たシャワーで濡れた髪がぽたりと、反省文を濡らした。

 

「若い時には無茶など当たり前だと思っていましたが、まさかここまで活躍されるとは思いませんでしたよ、高槻君。」

「…嫌味ですかね?学長先生。」

「まさか。君たちのおかげで犯人は逮捕。事件は終結しました。たとえ見学者と偽って依頼していないはずの探偵社の人間が大学を無断で調査したり?深夜に構内に不法侵入したり?中庭と廊下と花壇を滅茶苦茶に壊しても、君たちの活躍を考えれば取るに足らない事でしょう。」

 

 笑いながら学長は言う。紗呂も笑いながら(内心は、この狸爺と思いつつ。)一枚一文字で反省文を書き始めた。

「反」「省」「し」「て」「い」「ま」「す」「。」

 やがて適当に書き進めたまま紗呂は学長に尋ねた。

「謎の依頼人は貴方でしょう?どうして彼処まで面倒な真似を?」

「何故だと思う?」

「否定はしないんですね…。

推測ですが、犯人…村上に悟らせたくなかった。と、思っていますが。」

「うん、それもあるけどね。私は虚が息子だと思っていた。」

「…!」

 

 怨恨で嘗ての恋人を殺し、次に狙っていたのが村上。やがては無差別に人を襲い始めていた。そう思ってしまった。

 

「そう思ったらいつの間にか私は、依頼はしていないと口走っていた。あれが息子なら息子は無念を晴らそうとしているのではないのかと。でもそう思う反面、やはり人を殺すというのは許されない事だ。」

 

 だから、学長は依頼料を既に払っていた。怪しい痕跡を残せばそれを理由に探偵社は調べると分かっていたから。

しかし真実は違った。虚はただ餌場を探していた小賢しい悪霊で、村上はその悪霊と手を組み、罪を犯していた。

 

「私の本当の依頼人は探偵社ではありません。勿論、手引きの話を持ちかけた養父でも。

息子さんです。学長先生、貴方の。」

 

 その言葉に学長は驚愕した顔を浮かべた後、ゆっくりと項垂れた。ポソリと呟く。

 

「それは…、そうか。そうだったのか。」

「彼はこれ以上友人が罪を犯さないことを願い私に頼り、私はそれに応じました。」

「何処までもあいつというやつは…。」

 

 そのまま学長は黙り込む。紗呂は反省文を書き込み続けた。静寂が包み込みやがては静かな雫の降る音が聞こえる。それでもペンを動かす手は止めない。

 

 ありがとう―。

 気配が消える。

 紗呂はその声にどういたしましてと小さく呟いた。

●○●○●○

 事件収束から数日後、紗呂は一軒の建物の前に立っていた。表の看板に書いてある文字は「武装探偵社」

 紗呂がここにいるのは、ある一本の電話がきっかけだった。

 

「聞きたいことがある。」

 

 国木田のその言葉に、全てを話していない事を思い出した紗呂は自然と探偵社へ足を運ばせていたのだ。

 

 四階に上がり、事務所の中に入る。すると、蝶の髪飾りをつけたおかっぱの美女に話しかけられた。

 

「おや、アンタが噂の人物かい?」

「噂の?」

「あぁ、コッチの話さ。気にしないどくれ。さぁ、国木田と社長が中で待ってる。入んな。」

 

 そう促されるままに案内された社長室に入る。そこには先程の美女の話の通りに着物を着た貫禄のある男性が座っていた。国木田はその男性の後ろに立っていた。

 

「待っていた。其処に座りなさい。」

「は、はい。」

 

 静かだが、刀のような鋭さを持つその雰囲気と声にのまれ勧められるがままに目の前のソファに座った。

 

「私はこの武装探偵社の社長をしている、福沢諭吉だ。

泉とは知己でな。今回の事件は君のお陰で解決した。そして一般人である貴殿を危険なことに巻き込んだ事誠に申し訳なかった。」

 

 唐突の謝罪。国木田も後ろで頭を下げており紗呂は慌ててそれを止めた。

 

「やめて下さい。そもそも私の方から首を突っ込んだのです。むしろ、どっ…、国木田さんには助けてもらい私の方こそ謝罪をしなければなりません。

虚の事キチンと説明せずに事件に関わらせた事申し訳ありませんでした。」

「その事についてもお尋ねしたい。虚とは何だ。そして、それを倒した貴殿の能力も含めて。」

「はい。分かりました。」

 

 虚とは何らかの理由で堕ちた人の魂である。そして人間の魂を食べる悪霊であり、生死問わず人の魂を襲う。

 それを退治する力、霊能力を四年前に虚に襲われた事がきっかけで手に入れた。以来、虚を退治するようになった。

 

「手に入れたのは偶然に等しいものですが、私は今自分の意思で戦っています。」

「…何故、戦う。力を持っているからか?」

「力が手に入るまで、私は守られていました。」

 

 脳裏に浮かんだのは、金色。暖かかく優しいのに、近づけない眩しさを持つ彼の人。

 

「もう、守られているだけは嫌でした。口先だけの人間ではいたくなかった。力があるなら私が守られた分、誰かを守るべきだと。そう、思いました。」

 

 私が本当に守りたかった人達は、守られてくれない人達だった。だからせめて、酷いと叫びたいくらいに優しいその人達が守りたいものを守りたかった。

 

 たとえこの思いが、高潔なそれとはかけ離れているものであっていたとしても。

 

「だから、戦い続けます。剣と銃が握れなくなるその日まで。私は私の手が届く限り守りたいです。」

「そうか。」

 

 優しい顔を浮かべている。紗呂もまた微笑んでいた。

 

「高槻紗呂。」

「…?は、はい。」

「その志、この探偵社で生かしてみる気はないか?」

「…!!」

 

 突然の誘いに驚きを隠せない紗呂。国木田も聞かされていなかったのか驚いていた。社長は構わず続ける。

 

「ここで人々を守り、救う気はないか。」

 

 その言葉に悩む理由など無かった。

 

「はい。私にそれが出来るなら…私は守り、救いたいです。」

「…改めて武装探偵社、社長の福沢諭吉だ。これからよろしく頼む。」

「高槻紗呂です。特技は幽霊が見えて、触れて、喋れることです。これからよろしくお願いします。」

 

 こうして、武装探偵社に新たな仲間が加入したのであった。

 

●◯●◯●◯

 

 その夜。紗呂は自宅のソファに腰掛けていた。

 自宅、といっても実家ではない。養父が気まぐれで作るいくつかのアトリエ。ここはその一つだ。横浜の大学に通うことが決まった時、鍵を渡された。

 

“機嫌が良いな。そんなに嬉しいか。”

 

 高くも低くもない不思議な声が聞こえる。しかしその声に戸惑うことなく紗呂は答える。

 

「ずっとこんな日を待っていたのかもしれない。独りよがりの戦いから本当の意味で誰かを救うために剣を握れる。あの最後の戦いの後私は逃げてばかりいたから。正しく力を振るえる場所が欲しかったんだ。きっと。」

 

 

“私のことを喋らず隠したのにか?”

 

「隠した…そうだな。そうかもしれない。話せばきっとあの人達の事だ。力になろうとするだろう。」

 

 そう言って紗呂は自らの左腕を掲げる。そこには蛇の鱗の様な痣が左腕を覆う様にあった。

 

「お前は一体何なんだ、白蛇。」

 

“私は加護であり、呪い。お前の願いを叶えお前の大切なものを喰らう存在。”

 

 紗呂はその言葉を聞いて目を閉じ、その言葉を頭の中で繰り返す。

 

 左腕がじくじくと痛みを訴えた気がした。

 

 

 




~総合的なあとがき~
これにて第1シーズンと(自分な中で)称していた幽霊探偵編は終了しました。まだまだ序盤なのでこれから少しづつオリ主や文ストのみんなの活躍を描いていきたいと思っています。次回の時系列は飛んで1年後。太宰治の入社試験編から開始いたします。つたない分ですが精一杯書いていきたいと思っているのでよろしくお願いします。





おまけ~オリ主紹介編~

高槻 紗呂(たかつき しゃろ)
19歳(幽霊探偵編時点)
177cm/57kg/A(何がAかはお察し案件)
異能力【???】
空座町出身の横浜の大学に通う文系女子大生。
顔は中性的でさわやか系のイケメン。男装に違和感がないことで有名。
特技はピアノとヴァイオリンの演奏。
大学卒業後は作曲家になる予定だった。
探偵社に入社後はまだ大学生なのでアルバイト扱い。
高槻家には養子として引き取られた。
生まれた時から蛇の鱗のような痣がある。
幽霊は6歳の時に両親とともに事故にあった後見えるようになった。
必ずヤタガラスが描かれているストールを巻いている。夏は腰巻き。


※ストールについては戦国無双4で雑賀孫一が着ている物とほぼ同じ物をイメージしています。

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