邪神教の戦争犬《ヴェアヴォルフ》   作:コバヤシィ!!!!

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また一間隔空いちゃいました申し訳ない
評価感想誤字報告ありがとうございます


キャラ崩壊注意回です。誰の事なんてもうタイトルでお察しだね!!!


▼ おや ? べートの ようすが …

 

 

 

 少し触れてはいけない話になるが、大尉は言わずもがな異質(イレギュラー)な存在だ。本来ならばロキ・ファミリア引いてはオラリオ、この世界にも居ない筈であった。

 たかが一人、されど一人。予定されていない何かが入り込めば物語(ストーリー)に歪みが生じるのは最早仕方の無い事である。そしてその"仕方の無いこと"の影響を最も受けてしまった人物がロキ・ファミリア団員の一角に存在している。してしまった。

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 遠征から拠点である"黄昏の館"に帰ってきたロキ・ファミリアの眷属達が各々疲れや戦闘での傷を癒す中で、アイズはロキの元を訪れステイタスの更新を行い、Lv.5となって三年の月日が経つのにも関わらず満足に上昇することのない数値を見て思い悩んでいた頃。

 

 ベート・ローガは一人鍛錬所に篭っていた。

 

 

 

 言わずもがなべートはこの遠征で多大な貢献をした一人だ。彼の存在に身体的にも精神的にも救われたものは少なくない。

 だと言うのにその目には何一つ納得の色は無かった。寧ろ己の不甲斐なさに苛立ちを隠せていないような、そんな攻撃的な意思が宿っている。

 

 その通りにべートは苛ついていた。確かにフォモールの大群を退けた時はそれなりに討伐した。強竜(カドモス)の泉に向かう精鋭部隊のメンバーにも選ばれた。だがそれは当たり前なのだ。己はロキ・ファミリアでも、オラリオでも有数のLv.5の第一級冒険者なのだから。

 

 女体型が現れたあの時、自分は何も出来なかった。アイズに討伐を託し、彼女が爆風に吹き飛ばされて怪我を負った時その体を受け止めることしか出来なかった。

 

 腰から伸びる長い尾でバランスを取りながら、ハリボテ相手に演舞のような蹴撃と拳撃の連打を一通り終えて地面に降り立つ。

 もっと強く、もっと速く。眼前に思い浮かぶのは、枯草色の軍服に身を包んだ銀髪の男の背中。強竜(カドモス)の泉に新種のモンスターが発生した時、その始末の全てを彼に任せて自身は撤退した。確かに命令ではあった。だがそれでも腹底から湧き上がる己への怒りが、強ければ共にあの場へ残れたかもしれないと思うとどうにも収まりそうにない。

 猛烈な激情に任せ、蟀谷《こめかみ》を伝い地面に落ちた汗の跡を睨みつけながら更に鍛錬を続ける為に顔を上げた。

 

 だがその瞬間、べートの人を殺してしまいそうな程険しかった表情はすうっと変化する。一瞬のうちに顔つきを変えた若い狼人の視線の先には、先の遠征で服の一部を破損させられた為か何時もの軍服を纏っていないロキファミリア、いやオラリオ最強候補と謳われる男が鍛錬所の入口に立っていた。

 その姿を確認したべートは、ハリボテに向かって振り上げていた脚を下ろし狼人特有の俊敏さで、自身の質量に悲鳴を上げる風を巻き込みながら鍛錬所を訪れた男の前まで一瞬で移動すると、

 

「────大尉!」

 

 実に青年らしい、()()()()()を見せた。

 

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 ベートが初めて大尉を知ったのはべート自身がロキ・ファミリアに改宗した数日後だった。

 

 話だけなら聞いていたのだ。凄まじい勢いでレベルの昇華を果たした第一級冒険者。多くどころか一言も語る事の無い彼は有名であるだけで、殆どが謎に包まれたまさに霧のように掴みどころのない存在だった。

 

 ある日べートはステイタス更新時に、ロキの発言から大尉が自身と同じ狼人(ワーウルフ)だということを知る。

 勿論疑問は持った。耳も尻尾もない彼はどう見てもヒューマンにしか見えない。まあロキは「ウチもよく分からんけど大分特殊だから狼人とは違う種族だと思っとき」とは言っていたが。

 

 だがどうにしろ同じ狼人と名乗る種族となると話は違う。そもそも狼人族というのは"弱肉強食"を重んじる言わばかなり血気盛んな種族だ。族内でも優劣をはっきりさせる為に決闘を行う事も多かった。

 相手は同種で、性別も雄。因縁など有りはしないが、ベートの中にふつふつと敵愾心なるものが生まれるのは仕方の無いことだったのかもしれない。

 

 このような経緯を経て、現在と比べれば分かりやすく荒れていたこの頃ベートは何の躊躇もなく、大尉と雌雄を決する為に果たし事を叩きつけたのである。

 

 因みにその様子を見ていた他の冒険者達は「あの時ほどべートが自殺志願者に見えたことはないよ」と後に語る。

 

 まあ何を言うこともなく負けた。秒で負けた。

 挙句大尉はデコピンを一発打っただけ。だがその一撃は笑い事にならない程の威力を持ってべートの頭部を主とした身体を吹き飛ばした。

 

 予想通りだったと言える。まずレベルが違うのだ。一つ差があるだけで勝機は劇的に低下するというのに彼等のレベル差は"3"もあったのだから。

 そこからはもう何度も挑んだ。止められようがその声を振り切って大尉の元に赴き、その度一撃で叩きのめされる。無謀としかいいようがなく、耐久値の上昇には役立ったようだが仕舞いには面白がっていたロキにも軽く窘められる程には見境も見通しも無い行動を繰り返していた。

 

 そんなべートの価値観をひっくり返したのは、とある遠征だった。元々才能もあるが努力も惜しまない性格が功を奏してか、入団からそう日も経たぬ内に遠征メンバーとして選抜されたタイミングでそれは起きた。

 

 "怪物の宴(モンスターパーティ)"、そして"階層主"の出現。ファミリア内の総合的なレベルの平均も徐々に高まってきた頃に、下層を視野に入れて遠征を行ったのがこの時だったのだがその帰還時、疲弊した冒険者達をバーバリアンの大群が襲った。

 既に後衛を中心とし、リヴェリアやアイズまで精神疲弊(マインドダウン)を起こしかけていた状況で何とか怪物の宴(モンスターパーティ)を退け、帰路を確保したのだが。そんなファミリアに降りた束の間の安堵を嘲笑うかのように現れたのは階層主ウダイオスであった。その強さLv.6相当、集団戦となればスパルトイを無制限に生み出すそれは、現状最も遭遇しなくなかった存在。

 

 武器が尽きた者、疲弊し戦うことさえ出来ない者の脳裏に絶望が過ぎったその時、ウダイオスの単独撃破を自ら望み"殿"を請け負った者、それが大尉だったのだ。

 彼は弱りきった冒険者達の中、外套の端さえ破損させずに平然と仲間の前に立った。彼が一人で自身の相手をする事を理解したウダイオスは、虚空から巨大な黒剣を取り出して大尉の背後に居る冒険者ごと斬り裂かんと大剣を振るい、扇状で広範囲な衝撃波を発生させた。前方に見えるスパルトイさえ犠牲にして襲い掛かる見えぬ刃に撤退の準備を進めていたフィンやべート達は不意を突かれて身構えるが、予想していた衝撃は訪れなかった。

 

 斬撃が大尉の直前まで迫った瞬間、大尉は左脚を軸にして軽く跳び、その場の空気が悲鳴を上げる程の速度で蹴撃を放ってその斬撃を相殺したのだ。誰もが呆然と彼の背を見た。

 彼はふわりと地に降り立ち腰元に下げていたモーゼルを引き抜いたと思えば、衝撃波を逃れた数体のスパルトイを無慈悲な銃弾によって動かぬ屍に変え、爆発的な跳躍力を以てしてウダイオスの頭蓋骨の前に殆ど瞬間移動のような形で飛び込み、額中心辺りに強烈な拳撃を叩き込んだ。体格差など一蹴する威力に晒され、ウダイオスは背後の壁にめり込むように吹き飛ばされた。

 

 苛烈さを増してゆく闘争の行く末を、撤退し離れた場から眺めていたべートは、ただ只管に戦慄した。そして恥じた。

 自身がろくに力量差も測れぬ無知だった事、仲間が無駄死せぬようにと罵倒を繰り返していたと言うのに己も強者の背に隠れて生き延びている事、大尉という存在を意識しておきながら、これまで"何もかも"見ていなかった事。

 遂に階層主を打ち倒し、それでも変わらない冷淡な相貌のまま歓声を浴びながら此方へ歩みを進める男の姿を前に、べートは奥歯を噛み締めながら目を伏せた。

 

(本当に、情けねェ……!!)

 

 

 

 

 

 その後遠征は無事に終了し、各々が傷を癒したりステイタスの更新をしている間に、べートは一人大尉の部屋を訪れた。

 そしてまるで啖呵を切る様に叫んだ「俺に戦い方を教えてくれ」の言葉に対して、目の前の男は珍しく意外そうな表情をして考え込み始めた。暫くの間が開き、大尉は元の顔付きに戻って空中に魔力を使い文字を綴り始める。

 

『本当に、俺に教えて欲しいのか?』

 

 疑問を持つのは当たり前だとは思う。その前までは暇さえあれば喧嘩を売っていたべートが突然自身に教えを乞うて来たのだから。頭を打ってしまったのかもしれないと言われても仕方が無い。べートは一度力強く頷いて、険しい表情のまま口を開いた。

 

「……強くなりてェ。だが何時までもガキみてぇな喧嘩ふっかけてるだけじゃ、何も変わらない。俺はアンタを越える為に、"アンタ自身"から学びてェんだ!!」

 

 我ながら自分らしくない言葉を大声で吐いてしまった気がするが、構っていられるか。今更恥も外聞もどうでもいい。突き動かすのは過去の屈辱であったし、同時に脳裏に過ぎった、周囲の制止の声も聞かずに迷宮(ダンジョン)へ潜る"剣姫"の姿でもあった。

 

 勝手な認識だがアイズは自身と似ている、と思う。彼奴の事情は全く知らないが、只管強さを求めたあの眼は、振るわれる剣は、眼前に存在するのに届かない何かに向かって必死に手を伸ばしているような盲信的な危うさを孕んでいる。

 故に普段は意識をしない"女"という性である彼女に、無視をする事が出来ない対抗心というものも持ってしまった。遅れなんざ取ってたまるかと、それは心の底から沸沸と首を擡げるのだ。

 "剣姫"と"闘争"。強者の背に護ってもらうような、そんなクソほども情けない弱者にはなりたくない。

 

 大尉は暫くその何を考えているのか分からない赤い瞳をこちらに向けた。しかし一瞬だけ、瞬きすれば元に戻っているような束の間だけいつもは真一文字に引かれた口の端が小さく弧を描いた気がした。気のせいかもしれないのだが、見た事の無い表情の変化に気付いたかもしれないベートは思わず「は、」と間抜けな声を漏らし、そんな己に構わずいつの間にか普段通りの無表情に戻っていた──元から無表情のままだったのかもしれないが──大尉はこの突拍子も無かった事柄へ一言短い返答を寄越した。

 

『良いだろう』

 

 

 それ以降徐々にベートは変わったらしい。ロキまでがそう言うのだから間違いないだろう。強気で挑発的な発言は見られるものの、自身よりレベルの低い冒険者達に対する叱咤の仕方や他者に対する発言に見られていた棘が、大分和らいだそうだ。元々ベートに反感を持っていた数人の団員の中でも遠征時に助けられて状況の判断についてのアドバイスを受けただとか、強かろうが弱かろうが学べるものは取り入れようとするひたむきさを好印象と捉えて印象が変わった者もいるとか。

 

 余談だが、どんな指導をすればあんな問題児であったベートを弟子に迎えるだけで変えてしまえるのかという、大尉の謎が追加される事となり、畏怖の念が更に強まったという。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 うわあ何という純粋な笑顔なのでしょう。俺みたいな大人が見れば浄化されそうな無垢さだね! キャラ変ってやべぇ!

 

 彼の啖呵聞いて初めに思ったのは「これどっかの海賊王(予定)のクルーが七武なんちゃらの目付きやべえ奴に土下座しながら言ってたのに似てるな」だった。強気で好戦的な子って皆こんな感じなのだろうか。というか本当にここの冒険者向上心あり過ぎだと思うんだけど他もそうなの? 俺も強くなんないとなーとか思って了承しちゃったけど。

 

 それより誤解が生まれているようだからどうにかして解きたいんだけど、俺はベートの精神指導なんてしてない。ただ戦闘方法が似てるから身体的な修行に付き合っただけで考え方まで良い子ちゃんに変えようとか全くもって興味なかった。そもそもミレニアムも排他的で利己的な奴等の集まりだった訳で例に漏れず大尉も親愛的な忠誠心があったとは思えない。そんな彼が仲良くしろとか弱いものいじめダメとか言い出したら違和感しか無いから。

 別にベートも単に優越感に浸りたいから見下してる訳じゃ無いのは知ってたし、実力がある奴がそれを見せつける事柄に対してダメな事だとは思わないからなー。

 

 結局何が言いたいかというとベートは勝手にキャラ変しただけだからねって事ね。寧ろ何か年齢にそぐうくらい快活な青年みたいになっちゃって一番困惑してるの俺だから。いや明るいのはいいことだけどさぁ。

 

 

 

 

 などという中の野郎の葛藤などつゆ知らず、程なくして鍛錬所に訪れたアイズも交えて、遠征終了から半日も経ってないというのに何やらスパルタな稽古(大尉vsベート&アイズ)が始まってしまったのだった。この体力オバケ!

 

 

 






なお勝敗は言わずもがな。
アイズベートかわいいよアイベ

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