邪神教の戦争犬《ヴェアヴォルフ》   作:コバヤシィ!!!!

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お久しぶりです。如何せん忙しくて全く来られなかったんです。反省してるから訴訟しないで。
評価感想ありがとうございます。ランキング乗ったりしててテンション上がりましたー。


▼ イレギュラーと 英雄

 

 

 

 

 

 

うーんワンちゃんフォルムを使うつもりはなかったんだけどなぁ。まあちまちま蹴って潰すのも芸が無いってか初めの芋虫軍団相手にそれしちゃったし、数が多過ぎたからしゃーないか。やっぱ大尉って格下相手には蹂躙が似合いそうだしね?

 

 あの後ロキ・ファミリアは50階層と51階層の被害が酷すぎたから撤退する事にして現在はダンジョンを順調に登っている。さっきキャンプを張ってた安全地帯(セーブポイント的なもの)である18階層を後にしてまた上を目指し始めた。今ココね。

 

 個人的には流石大尉って感じでまだ全然余裕なんだけど、主力のアイズが爆風を直でくらっちゃったしリヴェリアの魔力も減っちゃったしガレスとかアマゾネシスターズの武器も壊れちゃったからね。この先は危ないって事で大尉があの芋虫の上にくっ付いた人間みたいなの吹っ飛ばした時点で帰ることになった。

 その後はまあ予想通りポーションぶっかけ祭りよ。あれ? なんかこの言い方卑猥だな。

 

 

 それよりもあんのクソ虫容赦無く爆粉飛ばしよって。お陰で服が少し破れた。というか焦げた。また修理に出さんといけんのか。面倒だ。

 

 

 

「大尉さ……大尉。さっきは助かりましたっス! ありがとうございます!」

 

 脇に破れた軍服と軍帽を抱えたまま上半身裸という大尉だから許されるスタイルで黙々と地上への歩を進めていると、【超凡夫(ハイ・ノービス)】のラウルくんが謎の敬礼を携えて礼を告げてくる。

 毎度思うけど二つ名で超凡夫ってほぼ悪口だろ。どうせ「取り敢えず決めなきゃなんねーけど特徴ねぇから」みたいな感じでつけたんだろ。辛辣過ぎんだわ。

 

 ただの礼のみだったので、特に筆談する事も無く一つ頷いてその言葉を受け取る。多分強竜(カドモス)の泉で吹き飛ばした溶解液っぽいやつの事言ってるんだろうし。

 

 因みに初対面の人は大抵大尉「さん」って呼ぼうとするからいっつも「さん」は要らないって言ってる。大尉は大尉であってさんを付けられると何か違和感が凄いんだよなぁ。

 

「大尉、今回は⋯⋯いや、今回"も"君に危険な場面を任せ過ぎてしまった。すまないね」

 

 ラウルの他愛も無い会話を聞いていると反対側から聞き慣れた少年らしい、男のものとしては高めの声が飛んできた。言わずもがな我等が団長、フィンである。しかし大尉がタッパあるから余計フィンが小さく見えて仕方がない。首屈めなきゃいけないから痛めそう。なんて本人に言ったら速攻風穴空けられそうだけどね。

 とにかく『気にするな』と簡易な文字を書いた紙をフィンの顔の前で提示すると、苦笑を一つ返された。

 

「うん、大尉なら平気だと思っていたよ。だけど"困ったら君に任せる"を常住にしたくはないんだ。……課題は山積みだが、見直さなくてはならない」

 

 流石は団長。既に次の遠征に向けての反省会とかこれこそモノホンの意識高い系ですわ。俺も見習って、どうぞ。

 しかし正直なところ俺はゲームやってて強キャラは使用しませんなんて縛りプレイやるようなガッツ無かったから強い奴に丸投げする気持ちは全然分かるんだけどね。それもゲームの中だけの話だし、なら実際大尉が抜けた場合まともに下層に潜れなきゃ"ファミリアの"遠征にならない。そんなん大尉が一人で下層に潜るのと同じになる。だから今回の遠征は出来るだけ前線に立たないようにしてたんだけど50階層で出てきたフォモールの群れとか以降の芋虫軍団とかちょい難易度が上がると、どうしてもねー。案の定流石の大尉だからさらっと葬っちゃうし、ここの加減が難しい。今後の課題として考えとかないと。

 

 

「────ハッ。俺等がまだまだ弱ェ、それだけだろ。要は大尉が手ェ出さなくてもあの芋虫野郎軽く捻れる位強くなればいい。一々悩むような事じゃねぇ」

 

 

 似合わないくらい真面目にファミリアと自身の今後について考えているところで、非常にスタイリッシュなモフモフが気になる狼人────べートが相変わらずの強い口調で語りながら横を通り過ぎていった。傍から見れば取っ付きにくいが今回は存外冷静な物言いだな。まあお口は悪いけど。

 ふと周囲を見渡すと、べートだけでは無くアマゾネシスターズやアイズ、挙句隣のラウルまで伝染してく様に決意に満ちた表情になっている。

 流石はオラリオ最強(かもしれない)ファミリア。誰も彼も向上心カンストしてんね。俺も見習わないとなー。

 

 といった具合に早くも次の遠征が楽しみになってきたところで、突然周囲の壁が卵の殻みたく崩壊し始める。特におかしい事ではない。モンスターが生まれる前兆だ。

 挙句ここは既に上層付近。Lv.2辺りはまだ警戒しなければならない地点だが、アイズやフィンなど第一級冒険者を一捻りできるモンスターなど出現しない。取り乱さないのも当たり前だ。

 

 だから此処では大抵第一級冒険者は戦闘に参加しない予定なのだが、如何せんそのモンスター────ミノタウロスの数が多過ぎる。どう見ても"怪物の宴(モンスター・パーティ)"だった。

 んで数的な問題でもそうなんだけど、相手がミノタウロスっていうLv.2でも手こずるような厄介な奴なのでちょっと任せるの大変じゃね? という団長の判断もあって俺らも参加することになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【悲報】ミノタウロス、逃げる

 

 

 モンスターが逃げたらアカンでしょ。いや気持ちはすんごい分かるけどね。お仲間が少女のハイキック一発で死ぬ光景とか見せられたらそら逃げるよ。俺でも全力で逃げる自信ある。

 

 

「なッ、テメェらモンスターだろうが!!」

 

 文字通り尻尾巻いて逃走する奴等にべートがド正論な怒号を投げるが、正直今はそんなこと言ってる場合じゃなさそうなんだよなぁ。ミノタウロスが逃げた先は上階、つまりはまだLv.2にも達していない冒険者もいる場所。んな所にむざむざ行かせたらいらん所で死人が出るだろう。明らかにロキ・ファミリアの失態になる。

 そんなこんなでフィンの指示と共に珍しく焦った表情を浮かべた第一級冒険者の面々が、その俊敏さを活かして逃げた牛共の後を追うハメになり、

 

 冒険者が鬼でモンスターが逃げるというシュールな鬼ごっこが始まった。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ、ハァッ……ッぐ、」

 

 

 

 ベル・クラネルは全力でダンジョンを駆けていた。息が苦しげに上がっているところを見ての通り、既にスタミナ切れが眼前に迫ってきているし、脚も縺れてもおかしくないくらいには疲労が溜まっている。しかしその脚を止める事は許されない。

 背後には少しずつ、"絶望"が迫ってきているのだ。

 

『ブモォォオォオオオオオ!!』

 

 牛頭が咆哮する。呼応する様に壁が振動を起こして、ベルの恐怖心を更に煽った。口からは情けない悲鳴が止まらない。

 

(なんで、なんであんな怪物が!)

 

 普通に上層で昨日と同じ様にモンスターと対峙していただけなのに、と混沌と化した頭に浮かんでくる意味の成さない疑問を払いながら必死に逃げ道を探す為に目を動かす。

 疾走する先には曲がり角。頼むから出口へ、そんなベルの祈りは最悪な形で砕かれた。

 

「っ……行き、止まり」

 

 目の前に現れたのは無機質な壁。見慣れてきていたその色合いが、今では悪魔の象徴のように思える。目に見えて蒼白に塗り替えられた顔を背後に向ければそこには鼻息荒く此方へと近付いてくる怪物(ミノタウロス)が居た。

 逃げ道はもう、無い。

 

 小さい悲鳴が漏れて、ベルは壁を背に腰を抜かした。確実に殺される。適う相手では無い事は明白だった。

 ダンジョンが危険だということは分かっていたがまさかこんなに早く、呆気なく終わってしまうとは。自分が本当に情けない。情けなさすぎて、涙が出てきそうだった。

 そんなベルに対してもミノタウロスは容赦無くその太い腕を小さな白髪の頭を潰さんと振り上げて、

 

 

 

 

 

『ッッオ゛、』

 

 瞬間、ミノタウロスの頭部がまるで高所から落としたトマトの様に粉砕した。破裂したのだ。飛び散る鮮血がベルの上半身を容易く赤色に染める。頭を失くしたミノタウロスは振り上げた腕をそのままに、壊れた人形みたくベルに覆い被さる形で膝から崩れ落ちて魔石を残し霧散した。理解出来ない現状に頭が追いつかず、呆然と前方を眺める。

 

 巨体が消え去って漸く見えるようになった視界の先、そこには一つの影が、恐らく今ミノタウロスが絶命した原因であろう蹴りを放った後の体勢で立っていた。鍛え抜かれた上半身を晒した、己と同じ白髪の男。前髪の間からは澱んだ赤い瞳が真っ直ぐ此方に焦点を当てて覗いている。その底知れない闇の様相にぞわりと背中が栗立っているのが分かる。

 

 すぐに理解した。彼はミノタウロス等足元にも及ばない程の存在だと。

 本物の怪物であると。

 

 だが多分冒険者だろう。たった今ミノタウロスを屠った事を考えても揺るがぬ事実である。結果的にかもしれないが、助けてもらった事実には変わりない。

 失礼だが湧き上がってきてしまう怯えを何とか抑えながら、目の前の男へ声をかけようとした。

 

「────大尉、終わった?」

 

 しかしその前に声が飛んできた事で、「あの、」の最初の文字さえ口にする事も出来ずに口籠もってしまう。女性特有の高い声。彼の仲間なのだろうかと、声が聞こえてきた方向へ目を向けた。

 

 

 息が詰まった。

 

 向けた視線の先にいたのは、金色の髪を靡かせた剣姫だったのだから。

 

 アイズ・ヴァレンシュタイン

 

 オラリオ屈指の第一級冒険者であり、勿論駆け出しの自分が易々とお目にかかっていいものではない。そんな彼女はベルの混乱などお構い無しに、此方へと目線を向けて、「誰?」と首を傾げている。

 すると何やら助けてくれた男性の方が小さい紙切れを取り出し、流れる様に執筆してアイズへと見せた。この人は喋られないんだろうか。恐らく自分の説明をしているのだろう。アイズは大尉が提示した紙を一瞥して、表情を変えないまま一つだけ頷いた。そのまま徐に腰を抜かしたままのベルの方に歩み寄り、手を差し出した。

 

「大丈夫ですか?」

 

 だがベルは答えない。答えられない。それまで呆然としていたベルは頭の中は、第一級冒険者が目の前にいることに対しての畏れ多さと女性に助けられる羞恥で一杯一杯だったのだ。

 一向に返事が無い様子にアイズは疑問を感じてもしや見えない損傷を負っているのかと思ったようで、もう一度声をかけようとする様子が見られたところで、

 

「だああああああああああああ!!?」

 

 次の瞬間にベルは思考を爆発させて、処理出来なくなった感情のまま手を差し伸べているアイズを置き去りに疾走した。

 

 

 白兎の叫び声も遠のいて静寂が降りた場に残ったのは、手を差し出した姿勢で硬直しているアイズと、少年の逃げ去った方向を無表情のまま眺める大尉と、偶然現場に居合わせてしまい「笑うのはマズいのは分かるがどうしても止まらない」と内心で葛藤しながら険しい表情で口元を抑えるべートの三者三葉の反応だった。

 

 

 

 

 

(……えっ俺なんかミスった? 無表情か? 無表情だからいけなかったのか? でも大尉が笑ってたらそれはそれで怖いだろ。最期は楽しい夢見てる子供みたいって言われてたけどそれも最強の眷属(セラス嬢ちゃん)の感覚だから当てにならなさそうだしね? しゃーない(強面についてはもうどうしようもないから)切り替えていく)

 

 

 

 

 

 

 






(エイナさんが出てくる場面の描写は)ないです。ごめんねエイナさん。自分はエイナさん好きだからね。

一部若干キャラ変してんなって気づいた人も居ると思うけど、次回はそれについての話の予定。大尉のステータスもいつかきっと出すよ。多分ね、恐らく、メイビー。

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