邪神教の戦争犬《ヴェアヴォルフ》 作:コバヤシィ!!!!
▼ てきは 木っ端微塵 !!
ヒェ……評価と感想ありがとうございます。
ここまで真っ赤になると駄文晒してんのが戸惑われるとこです。止めないけどね。
若干話の展開が走り気味になったけど、大尉無双の巻が始まるよ!
何とか道中のモンスターを全滅させた後、神妙な顔をしたフィンが語る推測によれば、芋虫型のモンスターが発生している方向は50階層への正規ルート。安全地帯であり、キャンプの防衛こそリヴェリアを筆頭とした遠征メンバーに任せているのだが、どうも嫌な予感が拭えない。
その不穏な予測は無慈悲にも彼らに牙を向く。
50階層に戻った彼等の目に入ったのはキャンプ直前まで迫った芋虫型のモンスターの大群だった。リヴェリア達が迎撃を行ってはいたのだが、群に圧されており状況は果てしなく悪い。
だが腐ってもオラリオ最強の一角の肩書きを背負うファミリアである。ここで諦観するような冒険者の集では断じて無い。
フィンの統率の下即席の編成を伝達し、憤怒さえ交えた闘志を燃やす者達による蔓延るモンスター共を一掃する為の戦の狼煙が、50階層より挙げられた。
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殴り飛ばす、蹴り崩す、噛み砕く、千切り取る。
フィン達が既に撤退を終えた51階層の広大な空間で、芋虫型のモンスターの大群は惨々な肉塊を晒し、体液を撒き散らし、魔石を残して次々と間隔無く霧散していく。
悲鳴、破壊音の混じる不協和音の中で唯一、その地獄を作り出す男だけが黙々とモンスターを鏖殺していた。少しの無駄もなく放たれる洗礼された一撃は、芋虫型の弾力性のある身体を、命ごと確実に抉り取っていく。それは最早"作業"に等しい。
先程まで天地を余すこと無く這いずっていた芋虫型の数は遂に二桁を切り、その運の良い生き残りさえもたった今、モーゼルから放たれた弾丸により吹き飛び、死骸と成り果て死に絶えた。
群がっていた芋虫型はこれで全て魔石に変わっただろう。
「────」
しかし安息も一時で終わりを迎える。
一匹たりとも残さず残滅した筈の空間、その無骨な壁が、まるで卵で睡る生命が中から殻を破り出てくるように轟音を立てて崩壊し始め、その内から再び芋虫型が大量に這いずり出てき始めた。
それだけではない。同時に芋虫のような下半身から伸びる四本の細い腕を持った女体型の上半身、そんな奇怪な容姿をした更なる新種のモンスターが、四方八方に
"
それは文字通り
傍から見れば、絶望としか言いようがない状況だ。冒険者によってはこの時点で生きる事を諦めてしまうかもしれない。
だが周囲を見渡すだけで驚愕するわけでも絶望するだけでもない、ただ目の前の事象を確認するだけで何も変わることなく佇む大尉を、異形共はモンスターながらに警戒し暫くの間動かずに観察する。今にも崩れそうな緊張感を孕む静寂の中、先に動いた女体型のモンスターが六体同時に細い腕を振るって付着した鱗粉と思われる虹色の粉末を彼に向かって放つ。
刹那、鱗粉が一気に爆発し、閃光と轟音が場を埋め尽くした。
爆破の波動によりダンジョンに地震のような振動が走る。轟々と爆発の余韻、そして煙が上がり閉鎖的な空間を埋め尽くした。
同時に舞い上がった男のカーキ色の軍服のみが風を受けながら緩やかに落下してくる光景を前に、怪物達はあの冒険者の呆気ない死を確信する。この場にいれば誰もがそう思うだろう、そのくらいに容赦の無い、少なくとも一人の冒険者相手に使う様なものではない威力だったのだ。
だがモンスターは知らなかった。自身の認識がただの仮初でしか無いことを。自身が牙を向けた者こそが"怪物"だということを。
『────!!!』
突然響いた、劈く一つの悲鳴。
それを耳に爆心地から背を向けようとしていたモンスター達の身体が硬直した。本来は聞こえるはずのないイレギュラーな音。敵は、あの男は死んだはずだと理解の出来ない奴等はゆっくりと背後へ向き直す。
目に入ったのは、覆っていた煙が晴れ始めて鮮明となった空間に現れた、同種である女体型のモンスターの無残な死骸。予想されたものではない光景にモンスター達が一斉に警戒態勢と思える距離を取り、眼前に存在するこの事態を引き起こした
その殺気に応答するように、この場に居る同種のモンスターのものでは無い地を這うような獣の唸り声が響いた。
喰いちぎられたような痕を残して息絶えた死骸の周囲に立ち込める膨大な霧。
そんな霧の中心で姿勢を低くし構える、確かに仕留めたと思っていた男。高威力の爆発を受けて軍服さえ吹き飛ばされたというのに、その鍛え抜かれた身体はダメージを負った様子も見られない。
ゆっくりと上げられた顔は、普段の冷淡な表情ではない。禍々しい牙の生え揃った口は大きく開かれ、顔の半分が狼のそれに変貌し蒸気の様に霧と混ざり合っている。
正に、捕食者としての姿。
モンスターの大群がまさに息を呑むように彼に注視を向ける中、霧は徐々に大尉へ集中し、形を成して、
「■■■■■■■■■■!!」
具現した巨大な銀の狼の咆哮が、轟いた。
▼
一方で安全地帯と思われていた50階層でも、同様の女体型モンスターが単体で発生していた。
広範囲を吹き飛ばす鱗粉と、一級品の武具さえ溶解させる体液を擁するモンスターを前に、魔法の詠唱を語る隙も無く、通常通りの編成を組む事もままならない。挙句周囲にキャンプを張っているこの状況では満足に戦力を注ぎ込む事も出来ず、しかしこのまま討伐せずに撤退すれば上階層へと被害が及ぶ可能性がある。
そんな一見すれば八方塞がり現状で、フィンは一つの決断を下した。
"女体型のモンスターをアイズ一人で倒し、他団員は撤退の準備を進める"
指示を発した途端に飛ぶ遠征メンバーからの反論は勿論多かった。
だがフィンとて何も考えずにこの決断に至った訳では無い。
女体型のモンスターから撒き散らされる鱗粉は広範囲だ。例え離れた位置からの支援であっても逃れられるような相手では無い。並行詠唱であればまだ分からないだろうが、この中でそれが唯一可能なリヴェリアは先の防衛により魔力を消費し過ぎている。それ以外の後衛隊はまだ未熟であり、前衛の足を引っ張りかねない。
そして前衛もこれまでの戦いで多くの者が主力武器を破損しており疲弊も手伝って万全の状態ではない上に、相手の溶解液によって無闇に斬撃を行えないだろう。それで新種の強敵に挑むのは危険極まりない。
対してアイズは
(────それに)
もう一つ。
少し前から下層方向より雪崩込んでいた芋虫型の姿が一匹も見えなくなった事が、アイズとあの女体型の一騎打ちを可能としている。
リヴェリアの魔法ですべて残滅した可能性もあるが、それでも51階層に蔓延る大群は並のものではなかった。恐らくここよりも下層にいる何らかの因子が働いている。それはこの状況でならば考えずとも一人しかいないだろう。
(分かってはいたけど、まさかこの新種の大群まで蹂躙できるとはね……)
一人懸命に女体型へ剣を振るうアイズの後ろ姿に視線を向けながら、フィンは現在はここに居ないロキ・ファミリア最強の男に少しだけ畏怖の念を覚える。
大尉に殿を任せた後、背後の方からまるで爆発が起きたかのような轟音と芋虫型のモンスターらしい高い悲鳴が響いてきた時は衝撃を覚えざるを得なかった。
基本大尉は腰に下げたあの物騒な銃器以外は武器も防具も持ち合わせていない。つまり発砲音が無かった時点で殴打による攻撃は確実だ。それだけであの大群を退けられる等、普通では有り得ない。
「────リル・ラファーガ!」
考え込んでいる間に、アイズが女体型のモンスターへトドメと言える一閃を放ち、同時に最後の置き土産のようにアイズを巻き込んでモンスターが爆発を起こし、辺りに爆風が立ち込める。
片腕で顔を庇いながら息を呑んでその様子を見守る団員達の前で、煙の中から風を纏ったアイズが姿を現した。その確かな歩みを見せる姿に、退避していた団員から地鳴りが起こる程の歓声が起きる。フィンの判断はやはり最良のものだったのだ。
やっと終わったと安堵の息をつく彼等の数名が腰を抜かしたように崩れ落ち、数名が激しい戦闘を終えたアイズの元へポーション等を持って駆け寄ろうとする。
だが、歓喜もつかの間。
フィンは原因の分からない奇妙な違和感に気付き、一人こちらに戻ってくるアイズの背後へと視線を向ける。その目に入るのは未だ濛々と立ち込める爆煙。しかし靄のかかった空間で、フィンは確かに正体不明の蠢く影を見た。
「────気を抜くな! アイズ!」
フィンの叫びを聞いてアイズは怪訝な表情を浮かべながら振り返り、その人形の如き表情が驚愕に塗り替えられる。
煙幕から、最早見慣れた虹色の鱗粉が押し退けるようにこちらへと迫ってきたのだ。何故、女体型は確かに目の前で倒れた筈、とその場の全員が完全に意表をつかれ、対応をしようとした時には鱗粉はアイズの後ろへと避難していた団員達にも影響する程に近付いていた。
「ッ【
咄嗟にアイズが魔法により風を生み出し鱗粉を押し返そうとするが、遅かった。容赦無く生み出される爆発。
避難していた団員は爆風こそ当てられたものの爆粉自体に巻き込まれることは無かった。だがアイズが居たのは鱗粉のほんの手前。
「アイズッ!」
間も入れない爆発に、アイズが吹き飛ばされる。だが地面を転がろうとする前に持ち前の跳躍力で距離を詰めていたべートがその身体を受け止めて、負荷により後退する自身の身体を足裏にかかる摩擦により押さえ込んで止める。
漸く呆然としていた意識を戻した団員達の目の先には、この現象の元凶である女体型のモンスターの姿が聳えていた。
一匹目の女体型モンスターをアイズが倒した後、最後の爆発に紛れてもう一匹、同じく女体型が天井より生み出され落ちてきていたのだ。爆煙により完全に姿を隠していたために誰もが気付くことが出来なかった。逸早く気付いたフィンでさえ、確認したのはアイズが気を抜いてしまった後だったのだ。
爆風により多くの擦傷を受けて意識を混濁させているアイズに、べートは歯軋りを鳴らして女体型のモンスターを睨み付ける。その瞳は並の生物が見れば卒倒する程の殺意と怒りを混じらせてギラついていた。
武器は破損した。気力も削がれていた。魔法が使えるかどうか分からないほどに魔力を消耗した。中には
絶望的。だがそれよりも、この様な奇襲で仲間を傷付けられた事に対しての怒りが、悔しさが、己の不甲斐なさが次から次へと湧き出て仕方が無い。
「────アイズを手当してやってくれ」
フィンが徐に女体型の前へ立ち、自身の槍の矛先をモンスターへと突き付けた。普段の余裕のある表情は影を落とし、眼前の敵を鋭く捉えている。
もうこの命が尽きようとも、一矢報いられれば。
その想いで冒険者たちが立ち上がり、モンスターの方へと歩を踏み出そうとした。
ドン。
その時、遠くから確に壁を殴ったかのような音と地響きが起きて、モンスターも冒険者も動きを止める。
ドン!
何処からだろうかと推測し、二度目で漸く理解した。
ドンッ!!!
音が地面から、
ドッッガッアアアア!!!!!!
瞬間、警戒する女体型の目の前の地面が、轟音を持って驚異的な威力に晒され突き上げられるように粉砕し、土煙と土塊が宙に舞った。
何が起こったのか理解が追いつかない。まさか新たなモンスターが下層を突き破って現れたのか。団員の顔色が再び悲壮に変わろうとしている中で、フィンやべートは目を見開いてその光景を見ていた。
固まった女体型モンスターの目の前に転がる、地面に空いた穴から飛び出してきた何か。土煙が過ぎ去って確認できたそれは、酷く屠られた別の女体型の死骸だったのだ。
「────!」
状況が理解出来ないのは恐らくモンスターも同じだ。突然地面が吹き飛んだかと思えば下層で生み出されていた同種の死骸が塵芥の様に投げ飛ばされてきたのだから。
混乱の中、屍が飛ばされてきた先。未だ晴れない眼前の大穴付近で、女体型はぼやけて光る赤い二つの点を確認する。
それが"目"だという事は理解出来ぬまま。
「■■■■■■■■■■■!!」
獣の咆哮がビリビリと空間を振動させ、その衝撃で立ち込めていた煙を全て吹き飛ばした。誰もが顔を背けて暴風から身を守り、体を飛ばされぬよう脚に力を込める。
絶叫の余韻を残してゆっくり収まりつつある衝撃に少しずつ顔を上げて、彼等はそれを見た。
「…………!」
鮮明となったその場に君臨するは、銀の大狼。
毛先は煙の様に緩やかな軌道を持って逆立ち、心の臓を駆け巡るような唸り声の漏れる大口は軽く下げられた状態で、今にも喰らいつきそうな程女体型の目の前に迫っていた。
冒険者たちは何を発する事も叶わず、ただその幻想的で圧倒的な姿に目を奪われる。
金縛りにあったかのような女体型モンスターの直前でもう一度、
狼は女体型の細い腕を喰い千切り、溢れ出る溶解液を霧化によって避けて再び上半身自体に牙を突き立て、喰い破る。鱗粉を振りまけば驚異的な跳躍力で爆発の届かない上空に跳び、弾丸の様な蹴撃を突き刺す。
それはもう
怪物の猛攻を余すこと無く叩きつけられ力尽きる直前、モンスターは先程と同じようにヤケクソの様に思える爆発を起こした。
やがて爆音の余波も煙も収まった団員達の眼前で、直に爆発を食らったのにも関わらず平然と降り立つ銀の狼が静かに成りを潜め始め、収縮していく霧の内より普段の軍服を纏わぬまま彼等に背を向ける大尉の姿が現れる。
彼は暫く女体型のモンスターの存在していた方向を眺めて、まるでこんなものかと言うような若干の落胆を瞳に宿し、急く事なくゆっくりといつも通りの無表情を団員に向けた。そして同時に、
二度目となる大歓声がダンジョンを支配した。
階層の壁なんて大尉からすればミルフィーユみたいなもんよ。サクサクよ。美味しい。
誤字報告も有り難き。一部変更しなかったのは仕様だと思ってください。
ステイタス気になるって感想もあったからその内公開したいなぁと思ってますよ。