邪神教の戦争犬《ヴェアヴォルフ》   作:コバヤシィ!!!!

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▼ こ ろ せ !!

評価に感想に驚いていますよ。やっぱ皆大尉が好きなんだよね知ってる。


▼ やせいの フォモール だ !!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無機質な闇の空が広がる大地で、山羊の角を持つ巨体の怪物が、手に持つ無骨な鈍器を無慈悲な力で振り抜いた。その矛先、怪物に比べれば随分と矮小な人間が盾を前に一撃を相殺させる。

 しかし怪物は止まらない。魔法の詠唱に集中する後衛を吹き飛ばさんと、前衛の冒険者達を吹き飛ばしながら巨体を疾走させた。

 だが刹那に響いた切断音と共に怪物────フォモールの身体は縦へ二つに分断され、どちゃりと赤い体液を撒き散らしながら崩れ落ちた。物言わぬ肉塊に目もくれず、フォモールを斬り倒したアマゾネスの姉妹は次なる獲物へと駆ける。

 同じく獲物を追う狩人の様に怪物へ飛びかかり、容赦無い蹴撃の嵐を浴びせる狼のような耳と尾を生やした男も、彼女らに負けない速さでフォモールの群を蹴散らしていく。

 だがそれを嘲笑うかのように延々と雪崩込む怪物。

 

「【間もなく、()は放たれる】」

 

 

 そんな混沌とした戦場に落とされる(うた)の如き声色。

 その主である端麗な面相のエルフは、翡翠の髪を靡かせながら詠唱を紡ぐ。それはフォモール達へ突き付ける破滅へのカウントダウン他ならない。

 生存本能からか、その声を耳にした怪物達の猛攻は更に苛烈さを増していく。雪崩の様に冒険者を押し込み、遂に一匹のフォモールが前衛の一角を盾ごと殴り飛ばして間を潜り抜けて後衛の一人であるエルフ、レフィーヤへと牙を向けた。

 

「まずい! レフィーヤ!!」

 

「ッ!」

 

 ただでさえ後衛の中でも見習いに位置するであろう未熟な冒険者である彼女が、詠唱の集中している真っ最中で周囲に目を向けられる筈も無く。目の前で獲物を振り上げた怪物の姿に悲鳴さえ上げられない。己を丸ごと覆う影の中で、レフィーヤは詠唱も忘れて目を閉じる。そのままか弱い命は刈り取られる──

 

『ッオオオオオオオオ!?』

 

 ──事は無かった。

 彼女の身体が叩き潰される前に、フォモールは叫喚を上げて魔石のみを残し霧散する。いくら待とうが訪れない衝撃にレフィーヤが恐る恐る瞼を上げた。

 その視界に写る、金の長髪。

 

「ア、アイズさん!」

 

 レフィーヤに名を呼ばれた剣姫は、刀身に付着した血を振るい落とすと、再び剣を構えて後衛に流れ込んでくる怪物達の元へ風の如く疾駆する。まるでその場から消えたように思えるほど、残像さえ見せずに駆けた次の瞬間にはフォモールの集団が一斉に斬り裂かれ、次々と魔石を落としていった。

 

「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲な猛火】」

 

 

 戦火は広がっていく。後衛から響く詠唱が進むにつれて怪物達の進群は勢いを増し、遂に前衛が押され始めた。

 指揮官であるフィンの指示が飛び、遊撃に回っていたアマゾネス姉妹のティオネとティオナ、加えてワーウルフのベートも防衛に加勢するが、焦りも手伝って綻びが顕著に現れ、一匹また一匹と流れ込もうと怪物が突進する。

 戦況が優位に傾いてきた景気にか、フォモールが獣に相応しい咆哮を上げたその時、

 

「────」

 

 苦悶の表情を浮かべる冒険者達の頭上を、霧風が駆け抜けた。

 

 

 

 瞬間、前衛と交戦する怪物数十匹の胸腹首と、各々異なる身体の一部がまるで戦車の砲撃を直接撃ち込まれたような大穴を開けて吹き飛んだ。余りにも予兆の無い死、獣達は嘆く事も叶わない。

 一瞬で多くの同族が息絶えた信じ難い悪夢の光景に、つい先程まで威勢の良かった怪物達が冷水を浴びせられたと同位に静まり返る。

 

 そんな悪夢の元凶である霧の風は、敵味方関係無く注がれた驚愕、畏怖、待望と様々な意を持つ視線の先で、ゆっくりと人型を成してゆく。

 

 そして現れる枯草色のコートに身を包んだ男。意志を持つように二股に別れた外套の尾が、フォモール達と前衛の間を劃かつように悠然と佇む彼の背で揺らめき、陽炎として顕る威圧感を尚更際立たせた。

 

 男の真紅の瞳の内で静かに蠢く闘志を確認したフィンは、僅かに静まった戦場へ向けてまるで勝利を確信したかのような不敵な笑みを浮かべ、高らかに宣言する。

 

「遊撃、大尉に続け! 後衛への侵入を許すな!」

 

 呼応する様に冒険者達の戦意に満ち満ちた叫びが轟いた。そこには先程の焦りや悲愴は欠片も残されていない。全隊の魂に余すこと無く、燃え盛る火が灯っていく。

 

 火付け役となった張本人はその声達と他の遊撃隊を置き去りに疾走し、一撃でフォモールの身体を大破して次へ飛びかかる。ある獣は蹴撃で胸部に穴を開けられ内臓を晒し、ある獣は拳撃で四肢の一部を吹き飛ばされ、ある獣はモーゼルから放たれた弾撃で首から上が破裂した。

 身体を霧に変え、次々と間合いを詰めては同種を粉砕していく男の姿に獣達は本能から慄き、同時に確信する。

 

 怪物は我ら等では無く、目の前の存在であると。

 

 通常は冒険者を絶望の淵へたたき落とす彼等が、冒険者に明確な恐怖を抱いたのだ。普通は有り得ないことだろう。だが男に慈悲などない。

 

 彼を打ち倒していいのは、彼に打ち倒される覚悟がある者だけだ。

 

 

「【焼きつくせ、スルトの剣──我が名はアールヴ】」

 

「大尉、アイズ、ベート! 退け!」

 

 後衛の詠唱が完了し、巨大な翠色の魔法陣が浮かび上がる。しかし放つべき戦場の深部に大尉、アイズ、ベートの三人が攻め込んでおり、挙句まだ戦闘中だ。魔法の発動は間近、このままでは全員巻き添えを食らうだろう。

 だが大尉は顔色一つ変えず、自身の蹴撃により崩れ落ちるフォモールに背を向けて瞬間移動の如き速さでアイズとベートの元に駆け降りると、二人を両脇に抱えて再び跳躍した。

 

 

「【レア・ラーヴァテイン】」

 

 彼の一飛びで三人が前衛の後方まで下がったと同時に魔法陣から放たれた、地獄の業火も生温い焔の柱。それは渦を巻くように唸りを上げてフォモールの大群を覆い囲み、秒と経たずに全てを燃やし尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 

 はーつっかれ。間違ったつっかえ。大尉やめたら?

 

 

 うるせぇ望んでなったわけじゃないんだよ、とは言わない。寧ろこの姿にさせてもらった事は地面に額擦り付けて喜ぶべき事態だ。恥じるべきは中の人こと俺の弱さに他ならない。つーかこの反省何回目だよ。

 

 しかし原作の大尉ならあの程度の獣共秒で滅ぼせたでしょ絶対。なのに俺と来たらよ。数十匹どころかこっちに詰めてきやがった奴ら数匹逃してしまってたからね。汚点だよ汚点。大尉マジすんませんでした。

 モーゼルをぶっぱなされるべきなのはあの獣共じゃなくて俺なんだよなぁ…。謝った上でだけど絶許案件ですわ。

 

 

 そんな内心勝手に穏やかじゃなくなってる俺に向かって、キャンプが張ってある方向から団長であるフィンが近付いてくる。

 

 因みに現在ロキ・ファミリアは絶賛遠征中であり、辿り着いた安全地帯の50階層にて休憩所を設けている。さっきあんだけ大量のフォモールと殺りあったからね。それこそ殴られまくった前衛係とか瀕死になっててもおかしくない。

 

「さっきは助かったよ、大尉。ギリギリまで引き付けておかなければリヴェリアの魔法から漏れるフォモールが居たかもしれなかったからね。きっと大尉なら無理やりあの二人を後衛まで戻してくれると思ったから限界まで呼び戻さなかったんだ」

 

 なんだそれ、信頼って奴か。そ、そんな単純な言葉で尻尾振って喜ぶような簡単な奴じゃないんだからね!! 嘘、普通に嬉しかったです。

 けど一歩間違えれば俺達消し炭になってたよね。そこは反省してお願い。

 あの場面は焦った。なんせ戻れって言われた時既に足元に魔方陣出てたもん。発動まで後三秒とかそんな感じだったろ。殺す気か。

 

 だがそんな俺の矮小な嘆きなど微塵も出さないのがこの大尉フェイスだ。多分今も表情筋は一ミリも動いていない。

 

「それで本題なんだけど、これから"強竜(カドモス)の泉"に向けた編成を行うから集まってくれ」

 

 ろっとぉ、そうだった。

 うっかり今回の目的を忘れるところだったわ。本当大尉が関わると他の事が疎かになるのどうにかなんないかね。

 

 とりあえずいつも通りの笑顔を浮かべてるフィンに向かって一つ頷いて了解の意を見せる。

 反省しといてなんだけど今回についてはフォモールは前菜でこれからが本番なんだよなー。正直はよ行きたい。50階層以降の方が絶対に楽しい(大尉並の感想)。

 

 よし、今度こそ大尉としての仕事を果たすぞ俺は。カドモスがなんぼのもんじゃい! もみじおろ死にしてくれるわァーーーーーッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロキ・ファミリア所属、実名不明、"大尉"。二つ名【闘争(ストゥラグゥ)】。

 彼はオラリオに極少数しか存在しないLv.7の第一級冒険者である。

 

 

 






一話の続きは気が向いたら番外編でね。
因みにストゥラグゥはStruggleです。チクショーメー!!!の方の本から頂戴したのをダンまちっぽい語感にしただけ。だってルビが思いつかなかったもの…誰か良いの提案してくれないかなー(チラッ)

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