前世で見れなかった物語の続きを   作:マジンガーD

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物語のワンシーン

「お兄ちゃん、どう?」

 

「うん、美味しいよ」

 

あれから2年が経ち、小学5年生に進学した。

 

そして、今日は月一回のお兄ちゃんDay。

 

お兄ちゃんDayというのは、月1回、いろはちゃんが指定した日に2人でマッタリとする日の事で、これが始まったきっかけは、一緒に居れ無い時間が続いていた、ある日曜日の朝に彼女が急に家の中に入ってきて「今日はお兄ちゃんDayです!」と宣言した事から始まった。

 

 

あれからも道場通いは続けている。

自分の弱さを知り、強くなるために途中で辞めることはしたく無かった。

いろはちゃんも自身のコミュニティを持ち、交友関係を着々と広げている。

傍目で見て彼女は強くなった。そして、

 

あざとくなった。

 

「もぉ、ほっぺにクリームついてるよ♪」

 

彼女の指は俺のほっぺからクリームを奪い去ると、そのまま自身の口に運び

 

(パクッ)

 

「お兄ちゃんの味がする~♪♪」

 

あ・ざ・と・い

 

俺は怪物を作ってしまったのかもしれない。

 

いっそこのまま魔王まで成長させ、これから出て来るであろう魔王との戦いに備える事も考えるべきであろう。

 

とバカな考えは置いておく。

 

この2年間の彼女は自分磨きに余念がなかった。

外面はもちろんの事、内面の事もだ。

休日はお菓子作りに精を出したり、俺から裁縫を習ったりと彼女の女子力は日に日に上がっていた。

 

「あー、美味しかった。ご馳走さまでした。将来はケーキ屋さんを開けるね」

 

「将来の話とかして、口説いてるんですか?ごめんなさい、まだ無理です。私が16歳になってから、もう一度お願いします。」

 

物語の中の彼女のお決まりフレーズを彼女も使える様になったのだが、使い方をよく解っていないため、これは修正が必要だ。

 

「本当に美味しかったわ。いろはちゃんをお嫁さんにできる男の子は幸せね」

 

母親の言葉に彼女は顔を赤くして俯いてしまう。

 

彼女がお嫁さんに嫁ぐ日に笑って送り出せるだろうか。

 

彼女が結婚相手を連れて来て「この人と結婚します」と言われた時に冷静でいられるだろうか。

 

彼女が彼氏を連れて来た時に彼氏を殴らないでいられるだろうか。

 

前世から妹という者がいなかった俺は、比企谷くんの気持ちが痛いほど解った。

これまでリアルにシスコンの方を見たら”この人、気持ち悪い”と思ってしまっただろう。

だがしかし、俺はシスコンの入り口を見つけてしまったのだ!

いや本当の妹では無いので“イロコン”なのだ。

すき焼きの中に入れてしまいそうな名前になってしまったのだが、彼女が連れて来る男は俺が見極めなければならない。

ふと、比企谷くんだったらと考える。

この世界の中で出会っていないのだが、物語の中の彼で考えてみると優しくて男気もある。

それでもって頭もキレる。

 

しかし、専業主夫になるとかいう輩にウチのいろははやれません!

 

ただ彼女が比企谷くんに告白して、彼が彼女をフッたと考える。

間違いなく彼のことを殴ってしまうだろう。

そうなってしまうと、俺は無条件で葉山くんも殴ることになってしまう。

彼には申し訳ないのだが、いろはちゃんをフッてしまうような男は悪なのだ!

 

 

そんな、お兄ちゃんな日々を過ごしていた俺は運命的な出会いをした。

 

剣道の稽古の帰りに家の近くの公園の前を通ると、公園のベンチに女の子が俯いて座っていた。

俺は立ち止まり女の子の様子を伺っていると、女の子の肩が震えているようだったので、近づいて話かけてみた。

 

「こんな時間にどうしたの?」

 

いきなり話しかけられた事により、女の子は驚き顔を上げた。

顔を上げた女の子の容姿は可愛らしい顔していて、髪は肩にかからないくらいのセミロングなのだが、特徴的なアホ毛が伸びている。

俺はその特徴的なアホ毛を掴んでしまいたい衝動にかられてしまうが、彼女が泣いていることに気付き、正気に戻る。

 

「えっと・・・、なんでも無いです。」

 

「なんでも無い事はないでしょ、涙が出てるよ」

 

ハンカチを差し出す。

 

「けっこうです。自分で持ってますので」

 

「・・・・・警戒してるよね」

 

「兄が優しくしてくる男には気をつけろって、注意されてますので」

 

「この女の子は絶対、小町ちゃんだよ」と内心叫びつつこの世界で出会った2人目の登場人物に歓喜していた。

 

「いいお兄さんだね!俺も妹的な子がいるんだけど、悪い男に騙されてしまわないか、心配で心配で」

 

小町ちゃんの目がより一層、警戒心に染まってしまった。

 

「よいしょっと」

 

俺は小町ちゃんの隣に座る。

 

「なんで隣に座ってるんですか!?」

 

「お兄さんが来るまで、話しようと思って」

 

「・・・・・兄は来ないです。」

 

「なんで来ないのかな?」

 

「・・・・・。」

 

小町ちゃんは何も言わなくなってしまった。

 

「俺は今からベンチの一部になります。」

 

「何、言ってるんですか?」

 

彼女はジト目で睨んでくる。

 

「君がどんな弱音を吐いても、俺はベンチの一部なのです。」

 

「・・・・・プフッ、何やってるんですか。変なのは、兄だけで間に合ってます。」

 

彼女が笑ってくれた事にホッとする。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・家出してきたんです」

 

それから彼女は家出の原因を話してくれた。

家に帰っても誰もいないという寂しさに耐えられなかった事を。

 

「・・・・・寂しかったんです」

 

「そっか」

 

「なんでベンチが相づちしてるんですか」

 

小町ちゃんは悲しい顔をして笑う。

 

「家族に君の寂しさは、話せたのかな?」

 

「話して無いです。というか話せないですよ」

 

「遠慮しないで、家族に話してみることだよ。ほら、お迎えだよ」

 

「えっ」

 

小町ちゃんは公園の入り口を見る。

 

「小町!!」

 

「お兄ちゃん!!」

 

小町ちゃんは立ち上がると比企谷くんに向かって駆けていく。

 

俺はそのままベンチに座り感動的な再会を遠目で眺めていた。

 

しばらくすると小町ちゃんが、比企谷くんを連れて近づいて来る。

 

「兄とは、少しですけど話してみました。」

 

「そっか、君は遠慮する事ないんだよ」

 

「い、妹が迷惑かけたみたいで、すまん」

 

「俺は何も迷惑かけられて無いですよ、お兄さん」

 

「お前にお兄さんて呼ばれる筋合いはねえ!」

 

「もう何いってんの、お兄ちゃん」

 

比企谷くんが俺の“お兄さん”に反応してくれた事に喜びを感じる。

 

「妹さんとちゃんと話してくださいね。お兄さん♪」

 

「うるせぇ、お前に小町はやらん。帰るぞ小町!」

 

「もう何やってんのお兄ちゃん。本当にすいません、バカな兄で」

 

「いや、シスコンの鑑だよ!君のお兄さんは目標だ!!」

 

「そういえば、あなたもバカな人でした。それじゃあ、行きますね♪」

 

「うん、もう遅いから気をつけて」

 

「はい、本当にありがとうございました。ベンチさん」

 

小町ちゃんは比企谷くんを連れて帰って行った。

2人の背中を見送りながら遅れて来た感動に浸っている。

物語の場面に立ち会えたことに運命を感じ、これから立ち会えるであろう場面を想像し興奮していた。

一時の間、余韻に浸っていた俺は、家に帰ることにした。

マンション前までやって来ると、入り口の所にいろはちゃんが立っている。

 

「・うわ・き・?・・あの・・お・んな・・なに・?」

 

入り口の前でブツブツ言っているいろはちゃんに話かける事が出来なかった・・・。

 


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