物語の中での【一色いろは】といったら、あざと可愛くて、男子を手玉にとってしまう小悪魔女子。
現実にいたら男子からの人気は高く、女子からのウケは期待できないであろう印象だった。
実際、物語の中でも生徒会長選の時に女子から嫌がらせを受けている。
しかし、お隣に住んでいる小学1年生の【一色いろは】には、可愛い以外は1つも当てはまる所はない。
無口な恥ずかしがり屋さんで、人見知り。
万人が守ってあげたくなるような女の子だ。
こんな真っ白な女の子が、あの小悪魔女子になってしまうと考えるとロリコンの気持ちが、少し解ってしまう気がする。
・・・。
・・・。
俺、ロリコンじゃないからね!
大事な事なので、もう一度言います。
俺、ロリコンじゃないからね!!
そんなこんなで春休みも終わり、俺の転校初日やいろはちゃんの入学式などもつつがなく終わていった。
転校してからの1週間は、他にも俺ガイルメンバーが学校内に居るかもしれないと探し回ったりしていたのだが、結局誰も見つけることは出来なかった。
それから2ヶ月、クラスにも馴染め充実した学校生活を送っていた俺は、ある問題に直面していた。
それは、いろはちゃんの人見知り具合が度を越しているという事だ。
基本は2人で登校しているのだが、学校まで10分弱のこの空間に言葉のキャッチボールという物は、存在していない。
《俺がいろはちゃんに話しかる》
《彼女は俯いて反応してくれない》
《俺は1人でワチャワチャして、その話題を完結させる》
《俺は違う話題をみつける》
これの繰り返しである。
傍から見たら、モテない男子が脈の無い女子に猛アタックを仕掛けている様に見えているに違いない。
嫌われているのかもと不安になった次の日、彼女の俺に対する好感度を手繋ぎ実験で確かめて見る事にした。
手を繋いでくれたら嫌われてはいないだろうとか、嫌々手を握ってくれても涙は流さないよう耐えようとか、ベッドの中で夜遅くまで悩まされる事になった。
翌朝、いろはちゃんが来るのをマンションの前で待っていると彼女は出てきた。
「おはよう、いろはちゃん」
「・・・おはよぅ」
「それじゃあ、行こっか」
俺は手を繋ごうと左手を差し出す。
(ギュッ)
「えっ」
俺が差し出した左手を彼女の右手が何の躊躇いもなく握った事で驚いて声を出してしまう。
「あうっ」
驚いてしまった事で、彼女は顔をみるみる赤くして握ってる手を離そうとしてくるが、力を少し強め、離れてしまわないように精一杯耐える。
「「はぁ、はぁ、はぁ」」
一時の攻防ののち彼女の体力が無くなってしまった事で、この戦いに終止符が打たれた。
「ほら、学校に行こう。」
俺が声をかけると、彼女はいつもの様に顔を俯かせてしまう。
「手を繋ぐのは、嫌かな?」
「・・・・・。」
俯いたまま何も言わない彼女に申し訳ない気持ちになり、手を離そうと握る力を弱める。
(ギュッ)
離そうとした俺の手は、彼女の手により離れる事を拒まれた。
「・・・いやじゃない」
「えっ!?」
「・・・てをつなぐの、いやじゃない。」
そう言って彼女は歩きだそうとするが、まさかの不意打ちに動く事が出来なくなった俺は、彼女の歩みを止めさせる。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・がっこう、いかないの?」
その一言で現実に戻ってくる。
「う、うん、そうだね。学校に行こう」
そう言って歩き出す2人、学校まで10分弱のこの空間にいつも通り言葉のキャッチボールは無いのだけれど、彼女と繋がる左の掌の温もりは、俺の心を満たしてくれた。
~翌朝~
「おはよう、いろはちゃん」
「おはよぅ」
いつもの様に待っていると彼女がマンションから出てきた。
「それじゃあ、行こうか」
歩き出した俺はその場から動こうとしない彼女に気づき歩くのを止める。
「いろはちゃん、どうしたの?」
「・・・んっ、」
俯いていた彼女は顔をあげて右手を差し出してくる。
「・・・て、つなぐ」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・。はっ!もしかして、今の行動って口説こうとしてましたか、ごめんなさい。かなりときめきかけましたが、冷静になるとやっぱり法律的に無理です。」
いろはちゃんの不意の一発に朝からKO寸前まで追いつめられてしまうが、未来の彼女の言葉を借りて冷静になる。
「あぅ・・・、だめ?」
「いやいや、さっきのは違うからね。いろはちゃんがカワイイ事するからパニックになっちゃったんだ。」
俺は誤魔化しながら、彼女の手を握った。
(ギュッ)
「ほら、遅刻しちゃうよ」
「・・・もぉ。」
そう言って彼女は頬を膨らます。
その顔を見て俺は、
やっぱり彼女は【一色いろは】なんだと嬉しくなった。