前世で見れなかった物語の続きを   作:マジンガーD

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後の祭り

「クロダ君、パないわー、男の中の男だわー!」

 

「ははは・・・・」

 

戸部君の言葉に渇いた笑い声で答える。

文化祭も終わり、今は教室で後片付けを行っていた。

 

「あの場で告白とか根性アリすぎでしょ!」

 

「文化祭の熱気で舞い上がっちゃっただけだよ」

 

文化祭2日目終盤のイベントだった事もあり、俺のした行動の余韻は少しも収まる事は無く、様々な感情のこもった視線をクラスメイト達から浴びせ掛けられていた。

 

「でもクロダ君がユキノシタさんの事を好きだったなんて、マジびびったわー」

 

「ははは・・・・。まあ、告白は失敗だったんだけどね」

 

「ユキノシタさんとか無理ゲーっしょ。人を寄せ付けないオーラとかマジ恐いから。クロダ君の勇気にダツボーだわ」

 

「そんなこと無い、彼女は優しい人だよ」

 

そう、あんな計画に付き合ってくれた彼女は優しい人だ。

 

「そ、そうだよねー。まぁなんつーの、打ち上げでパァーと騒いで今日の事は忘れるきゃないじゃん!」

 

「うん、ありがとう。・・・・本当にごめん」

 

彼の思いやってくれる気持ちが、俺の心を罪悪感で締め付ける。

 

「ヨーシ!あらかた片付けも終わったし、みんなで"おつかれクロダ君会"にレッツゴーでしょ」

 

「「「「「オー!!」」」」」

 

戸部君の言葉を合図にクラスメイト達が集まって、この後の予定を決めていく。

 

「ごめん、少し用事があるんだ。その後で合流するよ」

 

「リョーカイ、主役のタメに舞台は整えとくから!」

 

「ありがとう。それじゃあ、また後で」

 

そう言うと俺は、すぐに教室を後にした。

あの場所に居るのが、こんな俺の事を気遣ってくれる彼の顔を見ているのが本当に申し訳なかった。

 

教室を出て、目的の場所まで歩みを進める。

 

「黒田君!」

 

その途中、声を掛けられ振り向くと

 

「・・・・城廻先輩」

 

守りたかった女の子の1人、城廻先輩が立っていた。

 

「えへへ、大声コンテスト見てたよ。・・・・・残念だったね」

 

「あっ、あの・・・・・」

 

「ハルさんの妹さんの事が好きだったなんて、もうびっくりだよー」

 

あの噂の事は、もう大丈夫だって言わないと。

 

「私なんかが、どう足掻いたって敵いっこないよね(ボソッ)」

 

「えっ」

 

「何でもない。後片付けの途中だったから、もう戻るね」

 

「ちょっ、ちょっと城廻先輩!」

 

彼女は、こちらを振り返る事なく廊下を駆けていった。

 

 

~~~

 

〈コンコン〉

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

ドアを開けると、この1週間で見慣れた奉仕部の部室の光景が目に入ってきた。

 

「あら、どうしたの?」

 

「雪ノ下さんのおかげで無事に計画も達成できたから、お礼を言いに来たんだけど」

 

「いいえ、その事じゃないわ。私が言っているのは、あなたの顔の事よ」

 

「顔?」

 

彼女が言っている事の意味が解らず、手で顔を触れてみる。

 

「自分で解らないの?今のあなた、とても酷い顔をしているわ」

 

あれ?今の俺って、どんな表情をしているだろう。

 

笑えてる?喜べてる?・・・・・泣いてる?

 

 

「そんな所に立っていないで座ったら」

 

「あっ、・・・・・うん」

 

立ち尽くしていた俺は、彼女の言葉に従い椅子に腰を掛けた。

 

「ありがとう。雪ノ下さんのお陰で無事に終わらせる事ができたよ」

 

「まだ終わってはいないわ。例の噂が終息したのかは、時間を置かないと解らないもの」

 

そうだった。計画を実行したからといって、噂が無くなるという事じゃないんだ。

 

「そうだよね。でも一応、お礼は言わせてよ」

 

「私は何もしていない。あなたが自分で考え、そして行動しただけよ」

 

「そんな事は無いよ。雪ノ下さんがいなかったら、この計画は実行出来なかった。・・・・・だから、ありがとう」

 

彼女に向かって、頭を下げる。

 

あんな最低な計画に付き合わせて、・・・・・ごめん。

 

「わかったわ、その感謝の気持ちは受け取っておきましょう。でも、・・・・・あなたのやり方、嫌いだわ」

 

やっぱり君は、そうだよね。

 

「上手く説明出来なくて、もどかしいのだけれど。あなたのやり方が嫌い」

 

それなのに付き合わせてしまって、本当にごめん。・・・・・でも、

 

「あれは、俺のやり方じゃないよ」

 

「えっ」

 

「あの方法は俺には考えつか無い。俺はただ模倣したにすぎないんだ」

 

「それは、どういう事?」

 

「あのやり方を実行した人物を知っているんだ。似たような状況で誰にも頼る事も無く、自らを犠牲にして、誰かを守るやり方を・・・・・。」

 

みんなを、奉仕部を、

彼が君の信念を守るために行った、最低なやり方を・・・・・。

 

「だから俺は実行出来たんだよ。雪ノ下さんを巻き込んでしまったんだけど」

 

「・・・・・模倣する方も模倣する方なのだけれど。そんな解決案を考え付くなんて、その人物は人としてどうかと思うわね」

 

「俺もそう思うよ。でもね、雪ノ下さんはその人の事を嫌いにはならないんじゃないかな」

 

そう、物語の中の様に君は彼の事を・・・・・。

 

「仮定とはいえ、そんな"ろくでもない人物"とそんな風に言われるのは不愉快なのだけれど」

 

「・・・・・ごめん。でもね、これから雪ノ下さんの前にそんな人が現れる時が来たら、その時はちゃんとその人の事を見てほしい」

 

「・・・・・?」

 

「その人のする事を解ってあげてほしい」

 

あれ?俺は何でこんな事を言っているんだ。

 

「そして、その人の事を叱って、優しく抱きしめてあげてほしい」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「ごめんなさい。あなたの言っている事の意味がよく解らないのだけれど」

 

「ははは。だよね、俺も自分で言ってて何を言っているのか解らなくなっちゃったよ。・・・・今日の事で、ちょっと疲れているのかもしれない」

 

ただでさえ物語をグチャグチャにしてしまったのに俺は何を言っているんだろう。

 

「そうね。あなたは少し休んだ方が良いと思うわ」

 

「うん。何かごめん、お礼を言いに来たのに・・・・」

 

「いいえ。気にしていないわ」

 

俺は立ち上がる。

 

「それじゃあ、俺は行くね。依頼の件、本当にありがとう」

 

「ええ、気にしないで。・・・・・さようなら」

 

奉仕部の部室を後にする。

 

俺はどうして彼女にあんな事を言ってしまったのだろう。

この物語が大きく変わってしまう様な事をどうして言ってしまったのだろう。

 

あんな事を・・・・・・いや、違うな。

 

あれはたぶん、今の俺がしてほしい事なんだ。

 

こんな駄目な俺を誰か・・・・・・。

 

「三浦さん」

 

奉仕部のある階の階段に差し掛かった時、俺が守りたかったもう1人の女の子。

三浦さんが階段の壁に背中を預ける様な体勢で立っていた。

 

「ロク、話があるから連いてきて」

 

彼女はそう言うと、上の階に向かって階段を歩き出した。

 

 

~屋上~

 

お互い無言のまま彼女に連れられて薄暗い階段を上がり、屋上へとたどり着いた。

 

彼女はそのまま屋上の端の手すりの所まで歩いて行き、こちらに振り返る事なく、そこから見える景色を見ていた。

 

お互い無言のまま時間だけが流れていく。

 

ここが学校内でまだ沢山の人が居るというのを忘れてしまうくらいにこの場所には音が無く、さっきまで居た空間とはまったく違う空間に来てしまったんじゃないかと錯覚してしまう。

 

この空気に耐えられなくなった俺は、話があると言っていた彼女より先に言葉を発した。

 

「えっと、・・・・・見に来てくれた?」

 

「・・・・・うん」

 

「それじゃあ、俺がした告白も?」

 

「・・・・うん」

 

やはり、あの場所に来ると言っていた三浦さんにも見られていたようだ。

事後報告になってしまうが、彼女に話しておこう。

いや、話さないといけない。

俺が実行してしまった、最低な計画を。

 

「実は、あの告白なんだけどね」

 

「・・・うん」

 

「嘘なんだ」

 

「・・」

 

「あれは噂を無くす為に計画した嘘なんだ」

 

「知ってる」

 

「えっ!?」

 

何で?彼女が何であの計画を知っているんだ。

 

「ロクの事なら解るよ。どんな事をしようとしてるのかは解らなかったけど、何かをしようとしてるのは解ってた」

 

「・・・・・」

 

彼女はこちらを見ないまま話を進める。

 

「あのステージの上での立ち振舞い方ってさ、あーしを助けてくれた時みたいに演技がかってたし」

 

「・・・・・」

 

そうか、彼女には全て見透かされていたんだ。

 

「・・・でもさ、あんな事をする前に言ってほしかった。あんな馬鹿な事をする前に言ってほしかった!」

 

彼女がこちらに振り返る。

 

「えっ」

 

振り返った彼女の瞳からは涙が流れていた。

 

「あーしがどんな気持ちであの告白を聞いていたかわかってる?嘘だと解っていても・・・。嘘だと解っていてもつらかった」

 

何で泣いてるの。

 

「言ったよね。いつも通りのロクで大丈夫だって」

 

俺は君達を守りたかったんだ。

 

君達の笑顔が見たかったんだ。

 

「あーしがロクの事を守ってあげるって」

 

「・・・・・」

 

「あーしの気持ちをもっと考えてよ!」

 

あっ、俺はまた間違えたのか。

 

彼女達を守る為と言っておいて、本当は自分の事を守りたかったんだ。

 

弱い自分を見せているのが嫌で彼女達の言葉も聞かずに自己満足の為、彼の行った解決方法を模倣した。

 

何が最低な解決方法だ。最低なのは俺自身じゃないか。

 

「ロクの側に居るのが苦しい。ロクの側に居るのがつらい。・・・・・このままじゃあーし、ロクの側でちゃんと笑う事ができない」

 

俺はまた間違えたんだ。

 

「ロクの顔を見ていたくない」

 

彼女はそう言うとこちらに向かって歩いて来る。

そして、俺の横を通り過ぎる間際。

 

「バカ」

 

その言葉を残して屋上のドアから消えていった。

 

彼女が居なくなってしまった屋上。

 

俺は重い足取りでさっきまで彼女が居た屋上端の手すりの所まで来た。

 

そこには彼女の瞳から零れてしまった涙の後が残っている。

 

俺はそのまま視線を上げて空を見上げながら、手すりに寄り掛かった。

 

あの時、君が見ていた空はどんな風に見えていたんだろう。

 

澄みきった空にちゃんと見えていたのだろうか。

 

こんなに心が雲ってしまっているのに。

 

君はどうだった?

 

青く澄みきった秋の気配がする空は、その答えを教えてくれる事は無かった。

 




1年生の黒田君視点はこれで終わりです。
次からは別の視点で話を進めていきます。

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