仮面ロクダーは悪を許さない。
仮面ロクダーは正義の味方。
俺は全力で走っている。
彼女のつけていた香水の匂いの痕跡を追って走っている。
仮面ロクダーになった黒田録の嗅覚は犬の6倍もあるのだ。
はっ、はっ、はー!
すいません、嘘をつきました。
仮面ロクダーになっても、いつもの黒田録です。
なんなら、夕闇が迫る周辺の暗さとサングラスのせいで、視界がいつもより悪くなってます。
俺は見失ってしまった三浦さんを闇雲に捜索していた。
そんな状態では見つけれるはずも無く、見失ってしまった場所から200メートルぐらいの位置にある、○○公園の側までやって来た。
ここは自然が豊かで少し大きめの公園だったはずだ。
んっ、あれは?
道端に落ちている物を見つけ、近くに駆け寄り掴み上げる。
「ハンカチ・・・」
すぐさま公園の中へと入って行く。
入るとすぐに男女が言い合っているような声が聞こえてきた。
「おい、静かにしろ!」
「触んないでよ!」
「大人しくしてれば、痛い思いはしなくて済むからさ」
な、なんだとー。
あいつら、三浦さんに何をしようとしてるんだー!
聞こえてきた声に妄想を膨らませ、声がする方に急ぐ。
「トォー!」
〈ズサー〉
足を地面の砂に滑り込ませながら3人の前に登場する。
「悪党ども、そこまでだ!」
三浦さんの様子を窺う。
彼女は男の1人に手を捕まれていて、必死に振りほどこうとしている状態だった。
恐かったのであろう、顔をひきつらせながらこちらを見ている。
想像していた光景とは違った事に安堵した。
「なんなんだコイツは!」
「話と違うぞ!」
男達が俺の登場に戸惑っているようだ。
「彼女を離して立ち去れ」
出来れば暴力沙汰は勘弁してもらいたい。
「おい、どうすんだよ。こんなヤバイ奴って聞いて無かったぞ!」
「ここまで来て、逃げられるかよ!」
男達は何かを話し合ったのち、攻撃態勢をとる。
「いいだろう、オマエ達に正義の鉄槌をくらわせてやる!」
自らの懐に手をやり、忍ばせていた物を掴む。
俺の行動によって男達に緊張が走った。
「あの世で後悔するんだな!必殺・・・」
掴んだ物を出し、ボタンを押して耳にあてる。
「もしもし警察ですか!?〇〇公園で女の子が襲われています!今すぐ来て下さい!!」
「「なっ!?」」
男達の時間が止まる。
「さあ、どうする?オマエ達が捕まるのも時間の問題だぞー!」
「おい、どうすんだよ!?」
「くそ!逃げるぞ!!」
男達は恐れをなして逃げて行く。
はっ、はっ、はー!
俺は通報などしていない。
これは、マジックアイテムで正義の番人を召喚したと思わせ、逃げるを選択させるという必殺技なのだー!
俺は男達が公園から出て行くのを見届けて、彼女の方に向きなおる。
「お嬢さん、お怪我は無いですか?」
「・・・・・」
さすがの彼女でも恐かったのであろう、言葉が出ないようだ。
「心配はいらないですよ、悪は滅びました」
「・・・・・あんた、C組の黒田でしょ?」
な、なんだとー、何でバレたー!
「ち、ち、ちがうよー!だれ、それー!!」
「・・・・・」
彼女は無言のまま、目の前までやってくると、
〈ひょい〉
俺の顔からサングラスを奪い去る。
「えっ!?」
「ほらー、やっぱりあんたじゃん」
反応できなかっただと・・・・・。
もう、お嫁にいけない!
「なんでそんな変な格好してんの?」
「・・・・・日焼けしたくないから」
ごめんよ、仮面ロクダー。
自分の弱さには勝てなかったよ。
「ふーん、それ暑くないの?」
「暑いけど、美白のためなら我慢できる」
「あんた、バカなの?」
仮面ロクダーを捨ててしまった俺には、美白キャラしかないのだ。
「ていうか、何で俺の名前を知ってるの?」
「わかるわよ!だって、・・・・・前にも助けてもらったし(ボソッ)」
「えっ、なんて?」
「もういいでしょ!うっさいし」
後半を聞き取れ無かったんだけど、顔を赤くして怒っているため聞くのはやめておこう。
「ところで、あの男達はなんだったの?」
「わかんないし。友達と別れて1人で帰ってたら、あいつらに急に手を引っ張られてここまで連れて来られたんだから」
「面識は?」
「無い。・・・あっ、もしかして前に付きまとってきた奴かも」
やはり、あいつらは女王様の洗礼を受けた男だったのかもしれない。
「三浦さんは、自分の言動には気をつけた方がいいよ」
「どういう意味よ、それ」
彼女はムッとした顔をする。
「別に愛想を振りまけとは言わないけど、もう少し遣り方があると思う」
「うっさい・・・・、助けたからって何様のつもり。
なんで近寄って来る男達の顔色を窺うような真似をしなくちゃいけないのよ」
彼女の美しくしさなら、数多くの男が近寄って来てしまうのだろう。
こうなってしまうのも仕方がない事なのかもしれない、だが
「三浦さんの事が心配なんだ!」
「えっ・・・・」
「今日みたいな事がまた起きて、君が傷つけられてしまうかもしれないと考えると心配なんだ!」
「・・・・・・」
物語の中の"三浦優美子"は女王様なのだが自身の近くにいる者に対しては世話焼きで友達思い、愛に溢れている女の子なのだ。
そんな彼女が誰かに傷つけられて、あの教室に"三浦優美子"がいなくなってしまうと考えると心配で堪らなくなってしまう。
「決めた!」
彼女の声が暗くなった公園に響く。
「あんたをボディーガードにする」
「・・・・・はっ?」
「だって、あーしの事が心配なんでしょ?」
「・・・・・」
彼女の頭の中がどうなっているのか心配で堪らなくなってしまう。
「だ・か・ら、あーしのボディーガードにしてあげる♪」
「ごめんなさい、無理です」
「うっさいし。もう、決めたの」
王様ゲームならぬ女王様ゲーム。
女王様の命令は絶対!女王様だーれだ?
・・・・・。
なにこれー、俺のターンは一生来ないよね!?
女王様の命令をこなしていくだけの流れ作業だし。
「あっ、あんたのコートのボタン、取れてるし」
「ふぇっ」
彼女の声で現実に帰ってくる。
コートを確認してみると確かにボタンが無かった。
たぶんバッグから取り出す時に引っ掻けてしまったのだろう。
「コート脱ぎな」
「はっ?」
何?身ぐるみまで剥がされちゃうの?
「あーしがボタンを付けといてあげる」
「あっ、自分で出来ますんで大丈夫です」
「いいから脱ぐ」
俺はコートを脱がされる。
女王様の命令は絶対!
「あーれぇー」
「いちいち反応すんなし」
彼女はコートを剥ぎ取り満足そうにこちらを見ている。
「自分で出来るからよかったのに」
「ボディーガードのケアはしてあげないとね」
ボディーガード=ペットって意味じゃ無いですよね?
「出来上がったら連絡するから、あんたの連絡先を教えて」
そう言うと手に持っていた携帯電話を奪い取られてしまう。
そして連絡先の交換が終わると彼女は、
「じゃあ、あーし帰るから」
落ちていたハンカチの事を思い出し声をかける。
「このハンカチって、三浦さんのじゃない?」
彼女に手渡すと
「あーしのじゃない、ていうかこれ男物でしょ」
なるほど、なるほど。
それじゃあ、あの男達のどちらかが落とした物なのだろう。
「じゃーね」
「送って行かなくて大丈夫?」
もう、あの男達はいないと思うが心配だ。
「ここから近いから大丈夫。なに?あんた、家に上がり込もうとか考えてる?」
「いえいえ、滅相もないです」
「少しくらい考えなさいよ、ボディーガードでしょ!」
彼女はスタスタと公園の入口の方に向かって歩いて行く。
えっ、俺はどうしたらいいの?
すると彼女は立ち止まり、こちらへクルリと振り返る。
「今日も助けてくれて、ありがと♪」
そう言うと、小走りで公園から出て行ってしまった。
「・・・・・可愛い」
最後のめっちゃ可愛いんだけど、ボディーガードも言うほど悪く無いのかもしれない。
ふー、緩んだ気持ちを切り換え、最後の仕事をするため後ろに目を向ける。
そこには、木々や背が高い植物などが生えていた。
「そこで、見てないで出てきたらどうかな?」
この場所に来てからずっと視線を感じていた。
最初は勘違いかと思っていたのだが、だんだんと気配が強くなる。
〈ガサガサ〉
「・・・・・」
「ニャー」
一匹の黒猫が出て来た。
「・・・・・」
最初から、猫って解ってたんだからね!
「ニャー」
「・・・・・可愛い」
「ニャー」
「もう、暗いからお家に帰りな」
「ニャー」
猫はそのまま入口の方まで歩いて行く。
「よし、俺も帰るか」
猫の後を追うように入口に歩いて行く。
“雪ノ下陽乃”に“三浦優美子”俺は無事に2学期を迎える事ができるのだろうか。
「はぁー」
溜め息を一つ吐き、帰途につく。
〈ガサガサ〉