前世で見れなかった物語の続きを   作:マジンガーD

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お食事中の方は不快な表現があります。
後、黒田録君は精神が病んでしまっているので後半はいつもよりアホな子になっています。


仮面ロクダー

先日の一件から数日が経ち、夏休みも中盤へと差し掛かる。

 

「お疲れ様でしたー♪」

 

「お疲れ様、明日も頼むよ」

 

〈カラン、カラーン〉

 

今日のバイトも終わりドアを開けると、外は夕焼けに染まっていた。

 

「はぁー」

 

溜め息を一つ吐き、帰途につく。

 

喫茶店の冷房で冷やされた体は、夕方になっても下がることの無い気温で、汗が噴き出してくる。

シャツがベトベトと湿る不快感と闘いながら、先日の事を思い返していた。

 

あの時は冷房の効いた喫茶店の中だというのに、魔王の攻撃によって出た冷や汗で今の比では無いくらい服を濡らしてしまって・・・・・。

 

えっ、漏らしてないからー。

あれ、汗だからー。

本当の本当の本当だからねー!

・・・・・ゴホン、気を取り直して。

 

俺は結局のところ、応急処置をした事は認めた。

あの後も彼女の追求が止むことは無く、早く楽になりたいという思考に陥りゲロってしまったのだ。

ここでの"ゲロった"は白状したという意味で、本当にゲロってしまったのは彼女達が帰った後なので注意してもらいたい。

ただ何故あの場所に居たのかは、「偶然」で押し通した。

彼女もこれ以上、俺が話さないのだと解ると「そういう事にしといてあげる」と引き下がってくれ折り合いをつける事が出来た。

それに比企谷君に応急処置の事を知られたく無いから、他言しないでほしいという事も了承してもらい、これで彼に知られて面倒臭い事になる事態は起き無いと信じたい。

 

隣に座る城廻先輩も納得はしてくれたものの、変質者みたいな格好をしていたという事に最後まで引っ掛かっているようだった。

なので彼女に向かって、

 

「あの格好をしていたのには理由があるんです!俺の身体には暗黒龍が棲んでいて、朝の日の光りを浴びてしまうと暗黒龍が暴走してしまって・・・・・」

 

とヤバイ発言をしていると、

 

「解ったから、もうやめて!男の子には、そういう時期があるって事は知ってるから大丈夫だよ」

 

と言って、ダメな弟を見る様な目で俺の事を見つめながら頭を撫でてくれた。

 

『めぐりん、チョロい♪』

 

と思っていた俺の心が、自分への情けなさで泣いていたのは誰も知らないだろう。

 

ふと、頬を流れる涙で現実に戻ってくる。

 

「はぁー」

 

あの日からこうやって、よく溜め息を吐くようになった。

雪ノ下陽乃に恋をしてしまったからという理由では無い、出来る事ならもう二度と会いたく無いと思う。

彼女が帰り際に言った「また遊びに来るねー」のフレーズが頭の中でリフレインして、目に見えない圧力が俺の肩に重くのし掛かる。

 

俺は無事に2学期を迎える事ができるのだろうか。

 

「はぁー」

 

何度目かわからない溜め息を吐き顔を上げると、前の通りを見覚えのある女の子が横切って行く。

 

ゆるふわウェーブの金髪をなびかせ、美しく整った容姿が人の目を惹き付ける。

獄炎の女王の"三浦優美子"さんだ。

 

2ヶ月前に彼女からもトラウマを植え付けられたのだが、雪ノ下陽乃の恐ろしさを知ってしまった今、その出来事は些細な事に感じられる。

人はこうやって、大人になっていくんだな。

 

センチメンタルな気分で彼女を見ていると、ある違和感を感じた。

彼女の十数メートル後ろを二人組の男達が追いかけるように後をついて行く。

二人の男の間には会話は無いようで、その視線は彼女を捕らえたまま離さない。

俺の中で嫌な予感が膨れ上がってくる。

2ヶ月前の事を考えれば最悪な事態に陥る可能性も充分に予測できるため、俺は男達の後をつけて行く事にした。

 

 

 

数分つけているのだが、やはり男達は彼女の後をつけているようだ。

空のオレンジ色も闇が混じり始め、だいぶ視界も暗くなってきた。

俺はバッグの中を漁り、常備している尾行四点セットを引きずり出す。

 

コートを羽織り、マスクをつけ、帽子をかぶる。

そして、最後にダテ眼鏡を手に取ったところで動きを止めた。

これをつけても、正体がバレてしまう可能性があるという事を思い出したのだ。

 

『くそぉー』

 

自分の無力さに心の中で叫んでしまう。

瞬時に丸腰の状態で立ち向かう事を決意し、持っていたダテ眼鏡をバッグの中に仕舞おうとしたその時、バッグの角で見慣れない眼鏡ケースを見つけた。

 

「こ、これは」

 

夏休み前に買った、サングラスの入ったケースだった。

夏休み入ったら友達と海に行く機会があるだろうと買っていたのだが、今のところ出番はまだ無い。

 

い、いやさ、まだ夏休みも中盤だからー

それにバイトも忙しいしー

別にボッチって訳じゃないんだからねー

て、ちょっと待てよ。

比企谷君のベストプレイスの影響かもしれない。

ボッチのサンクチュアリー恐るべし!

ボッチパワーを過剰摂取しすぎたぜ。

 

あれれ、俺は何してたんだっけ?

あー、海に行きたいなって話だ。

比企谷君を誘って行こうかなー。

あっ、連絡先を知らないんだった・・・・・。

 

『くそぉー』

 

自分の無力さに心の中で叫んでしまう。

俺の弱さが三浦さんを助けるという事から目を逸らさせてしまった。

周りを見てみる、三浦さん達を見失ってしまったようだ。

ヤバイ急いで探さないと、俺は持っていたケースを開けてサングラスを取り出すと、

 

「変身!!」

 

掛け声と共にサングラスを装着する。

 

「仮面ロクダー、見参!!」

 

三浦さんのお友達に命名してもらった名前をモジって、最高のヒーローを誕生させてしまった。

 

「ねぇー、ママー、あの人なにー?」

 

「見ちゃいけません!この時期はああいう人が多いのよ!」

 

通り過ぎて行く親子が声援を送ってくれる。

 

「トォー!」

 

仮面ロクダーは、三浦さんの元に駆け出した。

 


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