小学3年生の頃に、私は高い壁にぶつかりました。
お兄ちゃんが恋愛対象として、見てくれないんです。
色々なアプローチを仕掛けたんですが、妹がジャレてくるみたいにしか思ってくれません。
私は絶望に打ちひしがれました。
このままじゃ、妹ポジションで終わっちゃう。
そんな時です、魔法の本に出会ったのは、
従姉妹のお姉ちゃんが置いていったファッション誌を広げたら、10ページにも満たない小冊子が出てきました。
なんだろう?と思いタイトルを見てみると、
『男を落とせる小悪魔術』
私は悪魔を召喚しちゃうヤバい本だと思い、投げ捨てました。
少し時間をおいて冷静になった私は、もう一度確認してみます。
そこには男性を思い通りにしてしまう、様々なテクニックが記されていました。
お兄ちゃんに恋愛対象として見てもらえるなら、小悪魔でも魔王でもなんだってなってあげます。
それからは勉強の日々でした。
モテメイク、モテファッション、モテ仕草
小学生には早いと思われるかもですが、私は本気なんです。
着々と小悪魔としての基礎が出来てきた私は、お兄ちゃんに試してみます。
結果・・・・・・・手ごたえアリです。
いつもの妹を見るような慈愛に満ちた目では無く、顔はクールに装ってますが目は明らかに動揺していました。
私は感動に震えてしまいます。
この魔法の本は"一色いろは"という小悪魔を召喚してしまったのです!
それからは、私とお兄ちゃんの我慢比べの毎日でした。
"お兄ちゃんDay"という大義名分を得てまでイチャイチャしてるのに、お兄ちゃんは土俵際で踏みとどまるんです。
膠着状態がしばらく続いていたんですが、お兄ちゃんの転校という結末で締め括られました。
でも、約束したんです。
総武高校で再会する時までに、最高の女になるんです。
ここで終わったら最高だったのですが、ハッピーエンドとはなりませんでした。
中学校に入学してからも女磨きに邁進していたんですが、私の中の小悪魔ちゃんが制御不能になっちゃったんです。
無意識のうちに出てしまうみたいで、男子のみんなが私の事をチヤホヤするようになっていきました。
それに比例して、一部の女子が私に嫌がらせを始めたんです。
困った私はナナちゃん先輩に相談したんですが、「自業自得」の一言で片付けられてしまいました。
そして今、私は中学校生活最大の分岐点にいます。
目の前にいるイケメン君への対応を間違えてしまうと、大多数の女子を敵にする事になってしまうでしょう。
「こんにちは、一色さん」
目の前にいるイケメン君の名前は・・・・・佐藤?田中?・・・鈴木!
彼の名前は鈴木君です。
「隣のクラスの"脇屋"だけど解るかな?」
そうでした。そうでした。彼の名前は"脇役ん"でした。
「こんにちは、どうしたの?」
「偶然見かけたから話しかけちゃったけど、迷惑だったかな?」
「全然、迷惑とかじゃないよ」
すごく迷惑です。
お菓子作りの買い物も、まだなのに。
それに、彼は良い噂を聞きません。
二股、三股は当たり前で、数々の女の子が彼の魔の手に堕ちているそうなんです。
私も、彼が女の子とデートしている現場を、数々と目撃した事があります。
「ちょうど、一色さんに相談したい事もあるんだけど聞い貰えるかな?」
面識も無い私に、相談とか怪しすぎます。
ただ、ここで簡単に拒否してしまうと、最悪の結果になってしまう可能性があるんです。
彼が「一色さんに相談したんだけど、話も聞かずに拒否された。」と私の事を良く思ってない女子に話されてしまうと 、私は終わります。
その女子が尾ひれ羽ひれをつけて、彼の事を好きな女子に話したら、私の事を羨望し、嫉妬し、憎悪する事になるでしょう。
学校一番のイケメン君の彼を好きな女子は、そこら中にいるんです。
ヤバいです。ヤバいです。本当にヤバいんです!
「そ、相談って何かな?」
「ここで話すのはなんだから、近くに良い感じのカフェがあるんだ。そこで話をするってどうかな?」
「・・・・・」
良い感じのカフェに2人だけで居るところなんか見られたら、それだけで終わります。
もう、帰りたい・・・・・。
「一色さん、お菓子作りが趣味なんだよね。そこのカフェはパンケーキが有名なんだ、参考になるかもしれないよ」
~1時間後~
彼に乗せられてあげました。
別にパンケーキが食べたかったわけではありません。
まあ、パンケーキが有名なだけあって美味しくはあるんですが。
カフェに着いてからは、お菓子作りの話で盛り上がりました。
彼もお菓子作りが趣味なんだそうです。
最初は嘘だと思い、しっぽを掴んで恥をかかせてあげようと思ってたんですが、本当にお菓子作りが趣味みたいなんです。
そろそろ時間も時間なんで、本題に入ることにしました。
「ところで、相談したい事って何なのかな?」
少しの沈黙の後、彼は口を開きます。
「一色さんは、○○小学校の出身校なんだよね?」
ヤバいです。ヤバいです。本当にヤバいんです!
彼は私のこと、知りすぎています。
イケメンのストーカーとか、本当の本当の本当にヤバいんです!
私が恐怖に狼狽えていると、
「黒田録さんって、知ってるよね?」
私はお兄ちゃんの名前が彼の口から出たことによって、頭が真っ白になります。
「この前、剣道の全国大会があって僕も出場したんだ。まあ、僕は一回戦で負けてしまったんだけど、黒田さんはその全国大会で鬼の様な強さで優勝したんだよ」
えっ、・・・・・優勝?
「僕は黒田さんの強さに憧れたんだ、だから彼の事をもっと知りたい。それで一色さんに、黒田さんの事を教えてもらえないかなと思って」
彼は興奮している様で、顔を赤くしています。
お兄ちゃんが剣道の全国大会で優勝していた事を初めて知りました。
手紙のやり取りをしていますが、そのようなことは書いてありませんでした。
というか、お兄ちゃんは学校での事をあまり書いてくれません。
上手く馴染めてないのかなと、心配になります。
「そっか、お兄ちゃんは日本一の強さを手にしたんだね」
私も、負けてられません。
お兄ちゃんに置いてけぼりにされるわけには、いかないんです。
それから私は、お兄ちゃんの素晴らしさを脇屋君に教えてあげました。
食い付きかたが凄く、私も饒舌になってしまいます。
彼は"私のストーカー"などではなく、"お兄ちゃんのファン"だったようです。
「一色さんが羨ましいなあ、僕も黒田さんとお話してみたい」
そうでしょう、そうでしょう。あなたでは、お兄ちゃんの足元にも及びません。
「一色さんが羨ましいなあ、僕も黒田さんと手繋ぎ登校してみたい」
私の時間が止まりました。彼の言葉がうまく理解出来ません。
「一色さんが羨ましいなあ、僕も黒田さんの鍛え上げられた体で抱きしめてもらいたい」
店内の時間が止まりました。脇屋君のことをチラチラ見ていた周りの席の女の子達が、口を開けたまま固まっています。
彼は"お兄ちゃんのファン"などではなく"私の敵"でした。
「一色さんが羨ましいなあ」
次の話からは総武高校編です。
次もよろしくお願いします!