異界特異点 千年英霊戦争アイギス   作:アムリタ65536

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3.王子との邂逅(BATTLEなし)

「最初はぼくに行かせてくれないか」

 

 まず口火を切ったのは、露出の多いチャイナドレスじみたエキゾチックな衣装に身を包んだ少女だった。

 身体は小柄で、女性らしい起伏にも欠けている。だがその瞳には死の間際の老人じみた、永い年月を経た者だけが抱く疲れを浮かべていた。

 

「ダメよ。まだ早いわ」

 

 答えたのは、すらりと伸びた長い脚を組んで上座に座る白銀のツインテールの女。

 王冠を被り、漆黒のドレスを身にまとった姿は、気品がありつつも艶かしく、隠しようもない王者の風格を感じさせる。間違っても(プリンセス)とは呼べない、成熟した女王(クイーン)だった。

 

「……でも、あなたは先に挨拶したんでしょう? ずるいわ」

 

 次に口を開いた女は、女王に視線を向けられて、びくりと身をすくませた。

 女王が黒ならば、こちらは白。まばゆい金髪を長くたなびくポニーテールに結わえて、白い弓を抱えた射手だ。

 

「良いではありませんか。自ずから露払いを買って出るというのですから、好きになさったら?」

 

 どこか投げ遣りに言うのは、豪奢な空色の長い髪をいくつもドリルのように巻いた女性である。

 白に赤色が映える、胸元の大きく開いたドレスを身にまとう彼女は、まるで絵にかいたような高貴な姫君(プリンセス)であったが、まるで死神のように、異様な神気を振り撒く巨大な鎌を手にしていた。

 

「止めて止まるものではないでしょう。私も、貴方も、誰も彼も」

 

 静かにささやくのは、金と赤で飾られた豪奢な黒い着物を纏う、黒髪の女。目元に差した朱と、鮮血のように赤い唇が印象的だ。

 手にしたのは、杖というには短く、棒と呼ぶには長い白木。長ドス、と呼ばれる簡素な刃物であった。

 

「■■■■■■■……」

 

 声にならない獣のようなうなりには、肯定か否定か、それとも別の意味が込められているのか、判別することは出来ない。

 その獣は、一見して小柄な白髪の少女のようでもあった。だが、額から伸びる二本の角が彼女が鬼と呼ばれる異形であることを示している。

 門のような、灯籠のような、無骨で凶悪な武器にすがりつくように、鬼はうずくまっている。

 

 6人。いずれも劣らぬ魔人であった。

 

「……もう少し、待てないのかしら」

「もう少し? それはあと何日かな。何ヵ月かな、それとも何年かな?」

 

 憂うような女王の言葉に、老成した少女は嗤う。

 

「いいとも、そうさ、君達の命が尽きるまで待ったところで、ぼくにとってはどうということもない。人の命はいつも儚くて、ぼくは十年も百年も、千年も待ったんだ──」

 

 劫、と真っ赤な炎が散った。

 炎と風に包まれて、少女は宙に浮かぶ。

 その足下には、劫火と烈風を吹き出して高速で回転する金属の輪。

 その手には、赤い焔を噴き上げる槍。

 

「──これ以上、一秒たりとて待つものか!」

 

 カハ、と口から文字通りに気炎を吐く少女は、鬼神もおののく気迫を纏っていた。

 その気迫にあてられてか、鬼がうなり声と共に身を起こす。

 しかし、着物の女に抑えられて、危ういところで鬼が暴れだすことはなかった。

 

「たとえ君の手に()()があろうとも、邪魔をするなら容赦はしない。三昧真火の焔を受けて、塵とならんか試してみるか!」

「……………………」

 

 一触即発の燃え盛る敵意に、しかし女王は立ち上がることもなく、ただ静かに少女を見つめていた。

 

「……いいわ。貴方の千年に敬意を表しましょう。

 その焔で、何もかもを焼き尽くすといい」

「何もかもは焼き尽くさないさ。──ぼくの望みは、ひとつだけ」

 

 その言葉を残して、少女は身を翻した。

 すさまじいスピードで、ロケットのように飛び出していく。

 もしもそれを見上げる者がいるとしたら、炎の玉が天に上っていくように見えただろう。

 それは、地上から空へと流れる流星のようだった。

 

 

 

 

 

 馬車に揺られること数時間、いい加減にお尻と頭が痛くなってきた頃に立花達は王城へと辿り着いた。

 サスペンションもなければ、マリーのガラスの馬車のような英霊の持ち物でもないのだ。ガタガタ揺られて、降りる頃には立花はへろへろである。

 

 なお、牛若丸は周囲の偵察という名目で、馬車の何倍も乗り心地のいい太夫黒に乗って早々に離脱。たまたま遭遇したインプの群れの首を狩ってヒャッハーしていた。

 フィリスに至っては、慣れているのか全く堪えた様子もない。

 

 むしろ、マシュやダヴィンチちゃんら、通信の向こうのカルデアの方が大ダメージを受けていた。

 

『女神アイギス? 魔王の復活? 千年戦争? どこのラノベの設定だ、そんな神話があるものか! 再度この特異点の情報を観測したまえ、念入りにだ!』

『地球でも、聖杯によって作られた虚構でもない、異世界の存在なんて……これが本当なら魔術史的にも人類史的にも大発見ですよ、これがいわゆる第一種接近遭遇(ファーストコンタクト)……!』

 

 馬車の中でフィリスに聞いたこの世界のことが、よほど衝撃的だったらしい。

 立花としては、ファンタジーなチェイテ城だのぐだぐだな本能寺だのに何度も行ったので、異世界と聞いても「そういうこともあるかな」といった程度のものだった。

 

 意外なのは、フィリスが平然と異世界の存在を受け入れたことだ。

 

「っていうか、時々あるよ、そういうこと。

 異世界から来て帰れなくなった魔法使いもいるし、お城の化身を率いて戦う『殿』って人は王子のご友人だし、ついこの前はものすごく強い異世界の戦士も来たよ」

 

 この発言にまたもカルデアは騒然となり、通りすがりのダレイオス三世も「■■■■──!」と唸ったのだが、立花としては「異世界っていっぱいあるんだなー」程度のものであった。

 

 ちなみに、ダレイオスとは彼の宿敵アレキサンダーの国に伝わったギリシャ語の読み方であり、彼の治めたペルシアの言葉では「ダリューン」となるという。

 

 閑話休題。

 さて、通信の向こうのカルデアは喧々諤々、異世界渡航が確立できれば第六魔法に、いや第四魔法の正体がそれなのでは、などと騒然としていたが、その間に立花達は王城の中へと招かれていた。

 

 フィリスと別れ、応接室に案内される。

 内装は中世ヨーロッパ風で、センスのいい落ち着いた雰囲気でまとめられていた。

 

 義経と二人並んで紅茶に口をつける。義経は別に霊体化してもいいのだが、立花の護衛のために実体化を続けていた。

 そのわりには移動中に側を離れてヒャッハーしていたことに言及すると、露骨に目をそらして茶菓子を口に放り込んでいたが。

 

 しばらく待たされた後、応接室に三人の男女が現れた。

 一人は白銀の髪の少女。筆頭政務官のアンナだ。

 そして、黒衣の少女リンネ。

 最後に、鎧を脱いで簡素な服に着替えた王子である。

 

 無口な二人に代わってアンナがリンネと王子を紹介し、立花が義経を紹介した。

 

「フィリスさんからは、あと二人いると聞いていますが……?」

『あ、はい、通信越しに失礼します。マシュ・キリエライトです』

『そして私がダヴィンチちゃんだ。異世界からこんにちは……ということに、なるのかな』

 

 カルデア側の騒動も収まったのか、幾分落ち着いた様子で二人のホログラフが浮かび上がる。

 それを見てアンナは驚きに大きく目を見開いたが、リンネはまるで無反応で、王子に至っては長い前髪のせいで表情が隠れてよくわからなかった。

 

『こちらも、フィリスちゃんから大まかな現状は聞いているよ。閉ざされた王国、低級デーモンの出現、そして消えた人々……』

「はい。あなた方は王国の外……異世界より、この異変を解決しに来られたのだとか」

 

 当初、遠くから訪れた旅人……というカバーを通そうとした立花達だったが、農民や一般の兵士達はまだしも、王子とも近しいフィリスを騙すことはできなかった。

 彼女は、この王国が閉ざされていて、外とは行き来できないことを知っていたからだ。

 

 そこで、早々に身分と目的を明かし、情報収集に努めた。

 ……その結果、異世界なんて単語が出てきて一騒ぎすることになったわけだが。

 

『その通り。むしろ、私達の想像通りなら、これは私達のすべき()()()だ。事件解決のため協力して欲しいし、協力させて欲しい』

「わかりました。……では、我々のわかっていることをお教えします」

 

 アンナがちらりと王子と目くばせする、それだけで王子が何も言わなくても意思の疎通ができていた。

 彼女が語った内容はフィリスの語った内容ほぼそのままだったが、より詳しく、わかりやすくまとめられている。

 その上で、フィリスの知らなかったことがあった。

 

 一月前の、シビラとの戦闘である。




TIPS

【王子】
多くの国が魔物の襲撃によって滅ぼされ、女神アイギスの加護を受けて人類の反抗の旗印となった「最後の王子」。
ほとんどの文献で王子とのみ呼ばれ、その本名は定かではないが、一説によると「ログレス王国のアーサー王子」ではないかとされている。
王城を取り戻して父王の仇を討った後も戴冠しないでいるため、王子と呼ばれ続けている。
それはおそらく、人の世を取り戻す戦いがまだ終わってはいないことを示すためだったのではないか、と後世の歴史家は語る。



【マリーのガラスの馬車】
ライダーのサーヴァント、マリー・アントワネットの宝具。
おそらく、宮殿内に設置したメリーゴーランドや、革命時に馬車に乗って逃げようとした、などのエピソードが複合されたものではないか、と思われる。いくらでも(少なくとも3トン以上)中に入る魔法の馬車。
なぜガラスなのかというと……宝塚の影響? あるいはフランス革命によって破壊される権力という儚さと煌びやかさを表したものか。



【第一種接近遭遇】
本来、未確認飛行物体に対して使用される用語。
なお、本来の意味では「至近距離で空飛ぶ円盤を目撃すること」であり、今回のケースにおいては誤用。
「空飛ぶ円盤の搭乗員(この場合は異世界の人間)と接触すること」を意味する第三種接近遭遇が適切であろう。



【通りすがりのダレイオス三世】
2017年7月上旬、「千年戦争アイギス」と「アルスラーン戦記」のコラボイベントが開催された。
コラボクエストを攻略することで、ブラックのユニット「ダリューン」が配布されるイベントになっていた他、コラボガチャで王太子アルスラーン、軍師ナルサス、神官ファランギースといったキャラクターを入手できた。
コラボクエストは大討伐と呼ばれる大量の敵を撃破する形式だったのだが、通常の大討伐では500体の敵が出てくるところが、このクエストでは最大でも300体。
残る200体は、ストーリー上で敵に突入して無双していたダリューンが一人で倒したのではないかと思われる。
ちなみに、コラボキャラはR18版では使用できないため、ファランギースのHシーンは存在しない。


k n o w l e d g e i s p o w e r .

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