ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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目を覚ました後、安静期間である1ヶ月半という長い時間の中で体力の回復を待ち体調を整えながら、第33機甲師団を始めとした全部隊の戦闘報告書を読み漁っていたカズヤは最後の書類を読み終えると体を起こしベッドの脇にある机の上に書類をガサッと放り投げ小さくため息を吐いた。

 

「――……で、報復攻撃から2ヶ月半経った今の戦況は我々が圧倒的有利という訳か」

 

「はい。我が軍はありとあらゆる面で帝国軍を圧倒しており、この優勢は最早揺るぎないものとなっております。しかしながら我が軍の兵站能力や航空戦力の展開能力に不備が認められたため、今は拠点構築や占領地域のインフラ整備等に力を入れ攻勢には出ておりません。また攻勢に出ていない理由として通称リスポーン兵器の登場と時を同じくして各地で組織的に使用され始めた即席爆発装置――IEDの存在も関係しております」

 

カズヤの代わりにパラベラムの全指揮を取って多忙を極める千歳。

 

その千歳に代わってカズヤの側に控える伊吹が、カズヤの問い掛けに答えた。

 

「IED……また厄介なモノを」

 

……しかし、IEDを組織的に使うなんて発想を敵はどっから捻り出したんだ?火薬があるから手製爆弾を作ろうという発想なら分かるが。

 

地球の歴史上でさえIEDを初めて組織的に活用したのは第二次世界大戦中のベラルーシにいた反ナチスゲリラだったはず。

 

近代的な知識や考えが無いこの世界の者が考え付くのは厳しいだろう。

 

帝国に残る最後の渡り人、牟田口廉也もこの手のモノには詳しくないはずだし。

 

一体誰が。

 

規格化されて製造されているものではなく、ありあわせの爆発物と簡単な起爆装置から作られる簡易手製爆弾であるIEDを誰が考えたのかとカズヤは疑問を抱いた。

 

「あとカズヤ様、そのIEDについてなのですが」

 

「何だ?」

 

「諜報部隊が掴んだ情報では敵陣営に新たな渡り人が加わり、その渡り人がIEDの作製方法から運用方法までを帝国に教えたとあります。詳細はこれに」

 

伊吹はカズヤの疑問を先読みしたようにそう言って、これまでに判明している敵の情報が入ったタブレット端末をカズヤに手渡す。

 

「また渡り人……しかもよりにもよってミリタリー系の知識がある奴か」

 

タブレット端末を受け取り新たなる敵の情報に目を通しながらカズヤは幾度と無く障害として立ち塞がる渡り人の存在に対し、眉間に皺を寄せ険しい表情を浮かべた。

 

「もう1つ宜しいでしょうか、マスター」

 

カズヤの護衛としてメイド衆と共にずっと病室の中に控えていた千代田がそう言ってカズヤに発言の許可を求めた。

 

「ん?なんだ、千代田」

 

「敵が使うIEDについてなのですが、火薬を使用したモノは一例で中には魔法を仕込んだ特殊なIEDも確認されています」

 

量産態勢が整った事で既に100人近い生体端末がパラベラムで活動する中、24番目に誕生した生体端末である事を示すNo.24というワッペンを軍服の肩に張り付けた千代田、つまりは24人目の千代田がカズヤにそう告げる。

 

「魔法を仕込んだIEDだと?」

 

「はい。これまでに分かっているだけでも車両が氷漬けになったり、石柱によって貫かれたりなどの事例が報告されています」

 

「通常のIEDだけでも厄介なのに魔法まで組み合わせてきたか」

 

魔法を組み合わせる事で更に脅威度が増したIEDの存在を知り、カズヤは表情を曇らせる。

 

「現状の対応策は?」

 

「耐地雷耐伏撃防護車両であるMRAP(エムラップ)を各部隊に配備し、無人兵器による移動経路の監視網強化とIEDを敷設するゲリラの摘発を行っています」

 

「分かった……しかし、IEDが相手だと受け身の対応策しかとれないのが歯痒いな。他にも何か効果的な対応策があればすぐに実行してやってくれ」

 

「「ハッ、了解しました」」

 

移動するだけでも命の危険に曝される兵士達の事を憂い、更なる対応策を講じるよう2人に指示を出したカズヤは国外問題から国内問題へと話を変える。

 

「じゃあ次に……俺が動けずにいた間に国内で起きた問題を頼む」

 

「はい。ではまず食糧問題の方を。この問題はカズヤ様が以前より食糧自給率向上に力を入れて下さっていたお陰で予想されていたよりは支障が無かったのですが、帝国の難民等に食糧を分け与える必要があったためカズヤ様が事前に備蓄して下さっていた備蓄品に手を付ける必要があり、結果として総備蓄の70パーセントを放出せねばいけませんでした。以上の事を踏まえ予想外の事態に対処するには、やはり自給自足態勢の更なる向上が必要かと思われます」

 

話を変えたカズヤの質問に答えるため伊吹が報告書の束を漁り幾つかの書類を取り出してからそう言った。

 

「やっぱり俺の召喚能力に依存するのは危険だな。伊吹が言ったようにこれからはますます自給自足態勢を整えないと。食糧に限らずな」

 

予てより想定されていた事態であり対策も講じていたが、その対策――パラベラムに併合されたカナリア王国と妖魔連合国の領内で大規模に開拓した農地での食糧生産態勢だけでは十分な量の食糧が確保出来ない事が改めて分かったカズヤは自給自足態勢の強化を国家方針として定める事を決定した。

 

「次に……現在は完全に鎮圧したのですが……」

 

「鎮圧?」

 

何か嫌な予感が……。

 

主語を入れず口籠もる伊吹の不吉な前置きにカズヤは思わず身構える。

 

「カズヤ様が倒れられてから3週間後の事です。旧カナリア王国領で忠臣派を名乗るテロリストが武装蜂起し総督府を占拠、次いで旧妖魔連合国領で真魔王派を名乗るテロリストが武装蜂起し魔王城を占拠しました。またそれと時を同じくして各地で小規模な反乱が発生したため鎮圧部隊を派遣する事態にまで発展いたしました」

 

「武装蜂起に反乱……いつかは発生すると思っていたが、やはり発生してしまったか」

 

これまでいくつかの厚遇政策を実施し併合した両国の人心の掌握に努めて、このような事態が起きぬよう気を配っていたカズヤは伊吹の報告に肩を落とす。

 

「なお、この一連の騒動には帝国が関わっていた模様です。具体的にはテロリスト共に資金と武器の提供を行っていたものと思われます」

 

「おいおい、この騒動を引き起こした奴等は自分達を攻め滅ぼそうとしていた怨敵とも言える敵に力を借りたのか?……バカだろ」

 

千代田の補足説明にカズヤは思わず声を上げた。

 

「カズヤ様の言う通りテロリスト共は愚か者の集まりだった様でして、目先の事だけを考え後の事など何も考えてはいなかったようです」

 

カズヤの言葉に賛同した伊吹が呆れた表情を浮かべながら頷いた。

 

「呆れて何も言えんが……鎮圧はどの部隊が?」

 

「総督府と魔王城を占拠したテロリスト共には特殊部隊のアルファとヴィンぺルを派遣し各地の反乱に対しては憲兵隊を派遣しました」

 

「……アルファとヴィンぺルだと?……おい、まさか」

 

「ハッ、史実と同じような手段を用いてテロリスト共の鎮圧を実行しました」

 

元はロシアの特殊部隊であるアルファとヴィンぺルが派遣されたと聞いて、ある2つの事件が頭を過り頬を引き吊らせたカズヤに伊吹は冥い笑みで答えた。

 

「……詳しい説明を頼む」

 

「ハッ、ではまず総督府を占拠した忠臣派の対応に当たったアルファの方からご説明いたします。カナリア王国の再建と併合に対するパラベラムの謝罪及び賠償を要求してきた忠臣派にアルファは当初話し合いでの解決を目指していましたが、交渉の難航が続き膠着状態に陥った事で苛立った忠臣派が状況を打開するべく警備兵として派遣され人質となっていた我が軍の兵士を1名惨殺したため、アルファはその時点で話し合いでの解決が不可能だと判断し主犯格の息子を捕縛。息子の右手を切り落とし送り付けてから即時降伏せねば忠臣派の家族を皆殺しにすると通告しました」

 

「で、どうなった?」

 

「我々の本気が分かったのか忠臣派は降伏を選び、総督府を出てきた所でアルファによって全員銃殺されました」

 

「……ヴィンぺルの方は?」

 

「魔王城を占拠した真魔王派は忠臣派と同じ様に妖魔連合国の再建と併合に対するパラベラムの謝罪及び賠償に加えて、更に我々が手に入れた帝国の領土の割譲と我々が使用している兵器の譲渡という無茶苦茶な要求をしてきたため、ヴィンぺルは話し合いでの解決を諦め武力による解決を選択し魔王城に非致死性ガスを充填したのち突入。結果的に真魔王派の妖魔252名が射殺され336名が窒息死しました。なお幸いな事に人質の犠牲者は出ませんでした」

「……そうか」

 

テロリストには屈しないというのが大前提にあるとしてもだな、わざわざ史実の行動を真似しなくてもいいのに……まぁ、史実よりはいい結果を出しているが。

 

1985年9月にレバノンでヒズボラが引き起こしたソ連外交官4名の誘拐事件や2002年10月にロシア連邦内でチェチェン共和国の独立派武装勢力が起こした人質・占拠事件であるモスクワ劇場占拠事件の解決策を模倣したようなアルファとヴィンぺルの行動にカズヤは呆れたような顔でそう呟いた。

 

「それと言い忘れていましたが、本来であれば総督府や魔王城にいるはずのカレンやアミラ、フィーネ、リーネはカズヤ様の元に集まっていたため武装蜂起に巻き込まれ人質となる事はありませんでした」

 

「カレン達が大人しく人質となるとは思えんが、巻き込まれなくて何よりだ。他には何かあるか?」

 

ただ話を聞いているだけで疲れを感じていたカズヤは、話の終わりを感じ取ると軽い気持ちで伊吹に問い掛けた。

 

「では、最後に1つ。総督府を占拠した忠臣派の中にフィリス・ガーデニングの父親と兄が、更に弟がパラベラム本土の地図を作成し帝国に流していたためフィリスにもスパイの嫌疑がかけられ憲兵隊によって拘束されています」

 

「それを最初に言え、伊吹!!」

 

最後にとてつもない爆弾を放り込んで来た伊吹にカズヤはそう叫ぶと急いでフィリスが収監されている監獄島へと向かった。

 

 

7聖女とローウェン教教会騎士団によってもたらされた被害が跡形もなく修復された監獄島にカズヤが降り立つ。

 

「何故、フィリスの事を今まで黙っていた!!」

 

「カズヤ様にこの件を伝えれば、今のような行動に出ると分かっていたからです」

 

「だからと言って――」

 

「それにフィリスの家族がテロに加わり、手書きとは言え重要な機密にあたる本土の地図を帝国に流したのも事実なのです。故に彼女が裏切り者ではないという確証がありません」

 

「フィリスが俺達を裏切るはずがないだろうが!!」

 

「ですから、それを判断するために彼女を取り調べる必要があったのです」

 

「ぬっ……ぐぅ……この件について千歳は何と?」

 

「致し方なし。だそうです。またフィリス自身も憲兵隊による拘束を無抵抗で受け入れました」

 

「ご理解下さい、マスター。姉様も苦渋の決断だったのです」

 

「っ、分かっている」

 

伊吹と千代田の2人と言葉を交わしつつ、カズヤは強権を振りかざして次々と扉を開かせると、左腕の袖をたなびかせながら早足で奥へ奥へと進んで行く。

 

「……えっ?カズヤ様?……はぁぁぁ…………」

 

「あぁ、至高のお方をこんな至近距離で見詰める事が出来るなんて……」

 

「神様がいらっしゃったぞ!!」

 

「現人神様だ……」

 

しかし、何の知らせもなく突然カズヤが現れたためローウェン教から長門教に改宗した囚人達がカズヤの姿を目の当たりするなり騒ぎ出し終いには失神する者まで現れる等、かなりの騒動に発展してしまい辺りが悲惨な有り様になっていた。

 

「こっちか、伊吹!!」

 

「は、はい。そのまま真っ直ぐです」

 

スパイの嫌疑で憲兵隊に拘束されたのであれば、かなり厳しい“取り調べ”が行われる事を知っているカズヤは周りの騒動を無視しつつ、この世界で初めて出来た友人を一刻も早く助け出すべく急いでいた。

 

『ギャアアアアアァァァァーーー!!』

 

「ッ!!……えぇい、くそ!!」

 

「カズヤ様、そっちは違います!!」

 

「分かってる!!」

 

だが、フィリスが収監されている最下層の牢獄に向かう途中、下層エリアで聞こえて来た尋常ではない悲鳴を耳にしたカズヤは嫌な予感がしたため進路を変更し悲鳴の発生源を確認しに向かった。

 

「この悲鳴は何事だ!!」

 

「貴女達もそろそろ考え方が変わっ――カ、カズヤ様!?何故、このような場所に!?」

 

悲鳴が聞こえて来た部屋を突き止めたカズヤが部屋の中に押し入ると、そこには磔にされた7人の女を相手に鞭を振るうセリシアの姿があった。

 

「俺の事より、お前は何をしている。セリシア」

 

「っ……その、これは……」

 

「お前にはパラベラムにおける魔法研究の責任者と監獄島に収監されている囚人を慰問する慰問官の身分しか与えていなかったはずだが?いつの間に拷問官の資格を取得したんだ?それに今の状況を見ると、何らかの情報を得ようとしていた風にも見えないが?」

 

セリシアの個人的な目的のために行われていたとおぼしき暴力行為を目の当たりにしたカズヤは落ち着いた口調とは裏腹に怒気をみなぎらせていた。

 

「も、申し訳ありません。カズヤ様」

 

初めて浴びるカズヤの怒気にセリシアは顔を真っ青にして完全に萎縮し、血や糞尿にまみれた汚い床にひれ伏しながら謝罪の言葉を口にするだけで精一杯だった。

 

「はぁ……お前の俺に対する忠誠心は疑いようもないが、あまり勝手な事をするなら……分かっているな?」

 

「ハッ、承知しております」

 

以前から一言言っておかねばと常々思っていたカズヤは、今の状況をうまく利用しセリシアに釘を刺していた。

 

「分かっているならそれでいい。さぁ、立て。かなり汚れてしまったぞ」

 

「ありがとうございます、カズヤ様」

 

「あとはこっちか」

 

ひれ伏していたセリシアを立たせハンカチを手渡したカズヤは、護衛として付いて来ていた親衛隊によって磔から降ろされた7人の女に近付いた。

 

「全く、コイツらが誰なのかは知らんがやり過ぎだ」

 

そう言いつつ、カズヤは7人の女達に完全治癒能力を使い始める。

 

「ぁ……神…様?」

 

「……温かい」

 

「光が……見える……」

 

「……ローウェン様?……じゃない……違う……本当の……神?」

 

「あっ……あ、あ、あぁ……」

 

「綺麗な……光……」

 

「もっと……もっと、この温もりを……」

 

全身に傷を負い、悲惨な姿だった女達はカズヤの完全治癒能力で傷が癒えると、そんな言葉を残して皆意識を失った。

 

「これでよし。……今は急いでいるから後はセリシアに任せるぞ」

 

「ハッ、畏まりました」

 

……意図せず調――修正が終わってしまいましたね。

 

フィリスの元に急ぐカズヤを見送ったセリシアは、今まで何とか拷問に耐えていた7聖女がカズヤの完全治癒能力を受けた事で完全に堕ちた事を本能的に悟り小さくワラっていた。

 

 

「ここか……」

 

セリシアと別れた後、真っ直ぐフィリスの元に向かったカズヤは監獄島の最深部にあるAー5という牢獄の前にいた。

 

「開けろ」

 

看守に命じて牢獄の鍵を開けさせたカズヤは、扉が開くと同時に室内に飛び込んだ。

 

「なん……だ?……騒々しい……今日の、取り調べは……終わったはずだぞ……それとも、なにか?死刑執行の日取りでも決まった……のか?」

 

「フィリス」

 

「ッ、カズヤ……なのか?」

 

「すまん、迎えに来るのが遅れてしまった」

 

胡座を組んで座っている状態で両手を鎖で吊るされグッタリとしているフィリスに駆け寄ったカズヤは、右手しかないために苦戦しつつもフィリスの拘束を解いていく。

 

「……」

 

「今、怪我を治す――」

 

「やめてくれ……私にはカズヤの治癒魔法を受ける権利など……ない」

 

最終的に伊吹や千代田、親衛隊の手を借りてフィリスの拘束を解いたカズヤがフィリスに完全治癒能力を施そうとすると、他の誰でもないフィリス自身によって完全治癒能力を使う事を阻まれた。

 

「フィリス、何を?」

 

「……存続の危機に貧していた我れらが王国を救ってもらい、併合によって国家が無くなれど陛下に平穏を、姫様に幸福を、民草に安寧を与えてくれた大恩人に弓を引き世の秩序を一層乱したばかりか、憎むべき帝国が目論んだ暗殺等という卑劣極まる行為に手を貸した者達が!!私の……家族なのだ……」

 

「いや、別にフィリスがテロ行為に加わっていた訳じゃないんだろ?」

 

「愚弟をパラベラム本土に招いたのは私だ」

 

「……それは観光のつもりで呼んだんだろ?」

 

「そうだ。しかし、しかしだ!!愚弟が帝国にパラベラム本土の地図を流した結果、カズヤは!!」

 

フィリスはボロボロと涙を流しながらカズヤの左袖を握り締める。

 

「左腕を失い、死にかけた!!」

 

「そして国家が無くなろうとも我々が忠義を尽くす相手である姫様も命の危機に貧し傷付いた!!」

 

「間接的であろうとそんな事態を引き起こした私には……本来であればこうしてカズヤと言葉を交わす事すら許されない!!」

 

深い後悔と恥ずべき行為を実行した家族への憎しみを溢れさせながら、フィリスの懺悔の言葉が牢獄に響く。

 

「だから、だから……私に優しくしないでくれ……家族が犯した罪を私に償わさせてくれ……」

 

フィリスの啜り泣く声だけが牢獄を満たす。

 

「……」

 

「グスッ……グスッ、ズズッ……」

 

暫しの間を置いてカズヤが口を開いた。

 

「いや、なんで?」

 

「グズッ……は?」

 

「いや、だから例え家族が罪を犯そうとも関係のないフィリスまで罰する必要はないだろ。悪いのは当人なんだし」

 

「え、あ、しかし……私の――」

 

「あぁ、もう!!いいか、俺は60万の軍勢に取り囲まれたカレンを助けにいく程のバカだぞ!!そんなバカがなんの罪もない友人を罰すると思うか!?」

 

「……思わない」

 

「なら、この話はお仕舞い!!」

 

「え、いや、お仕舞いって……――あっ!!」

 

「これでよし。さぁ、立ってくれ」

 

色々と台無しにしたカズヤがフィリスの隙を突いて完全治癒能力を発動させ、傷の癒えたフィリスに手を差し出した。

 

「全く……私が今まで死ぬほど悩んでいたのはなんだったんだ」

 

「悪いな、取り越し苦労をさせて」

 

強引な流れで話にケリを付けたカズヤは一件落着とばかりに笑みを溢した。

 

「――ようやく見つけた。ご主人様!!今日は手術を執り行うはずだったのですが?」

 

「あっ……忘れてた」

 

しかし、それで話は終わらない。

 

生体パーツを基本として、この世界に存在している固有の素材や魔法などの技術を組み合わせた義手をつける手術の事をすっかり忘れていたカズヤは呼びに来た千歳の姿を見るなり頬を引き吊らせたのだった。


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