ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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数分前まで辺り一帯を包んでいた強烈な砂嵐が嘘のように消え去り、晴れ渡る空からギラギラと輝く太陽の光がこれでもかと降り注ぐ中。

 

なんの前触れも無く突然目と鼻の先に現れた帝国軍に動揺し衝撃を受けつつも戦闘に備え第1、第4旅団戦闘団の兵士達は慌ただしく戦闘態勢に移行していた。

 

防衛の要である対戦車防御陣地では塹壕内に積もってしまった砂を砲兵や歩兵達が大慌てで掻き出し、設置しなおした対戦車砲や迫撃砲、機関銃の照準をマイナス川の対岸でズラリと布陣している帝国軍に合わせる。

 

またポンペイの街中では戦車や自走砲等の各種戦闘車輌や支援車輌への補給作業が急ピッチで進められ、燃料弾薬の補給が済んだ車輌から順次指定されている持ち場へと配置に付き、その時を待っていた。

 

「さっぱり分からん……奴らはどうやってあそこに布陣したんだ?……まさか、あの砂嵐の中を進んできたのか?」

 

「あり得ません、あの砂嵐の中を進むなど。妖魔や獣人でも無事では……ましてや人間など自殺と同意義です」

 

「それもそうだよな。本当にどうやって来たんだ?……まぁいい、この疑問は後回しだ。今は敵をどうやって叩き潰すか考えよう。……しかし、敵の情報が少なすぎるな……ロンメル中佐、飛行歩兵の連中に強行偵察に出るよう伝えてくれ」

 

「ハッ、直ちに」

 

砂嵐が止んだ直後、眼前に現れた帝国軍がどんなマジックを使ってやって来たのかという疑問を一先ず捨て置き、バール大佐は詳しい敵情を知るためにカーディガン攻略戦で活躍した飛行歩兵部隊の隊長であるアルベルト・ゲオルク中尉以下を帝国軍上空へと送り出す。

 

「こちらバール大佐。ゲオルク中尉、聞こえるか?送れ」

 

『こちらゲオルク。現在、対戦車防御陣地上空を飛行中。感度良好バッチリです。どうぞ』

 

「よし。ゲオルク中尉、敵がいつ動き出すか分からないから素早く頼むぞ?敵の戦力と敵本部の場所、そして敵後方に予備兵力がいないかを確認しろ。それが終わったらすぐに戻れ」

 

強行偵察の任を受け、帝国軍の上空に飛び込もうとしていたゲオルク中尉以下の飛行歩兵達にバール大佐から確認すべき偵察目標が伝えられる。

 

『了解、これより敵陣上空に侵入し強行偵察を行います!!』

 

竜騎士、場合によっては飛行型魔導兵器の妨害が考えられる中、ゲオルク中尉はバール大佐に返事を返すと部下達と共に帝国軍の上空へ果敢に突入していった。

 

「――やはり敵の主力は街や村から徴兵した民兵か。無理やり数を揃えたといった感じだな……ん?物資が足りないのか?防具を着けずに農具を持ってる奴もいるぞ。」

 

反撃には出てきたが、こりゃ敵さんも末期だな。……だが1つ気になる。何で民兵の顔に余裕があるんだ?

 

強行偵察に出たゲオルク中尉達からの通信が一時的に途絶えてしまい、やきもきしている間バール大佐は前線指揮所の覗き穴に双眼鏡を突っ込み敵陣の様子を窺っていた。

 

「本当ですね……全く奴等は何時になったら我々を数の暴力では倒せないと気付くのでしょうか」

 

バール大佐のすぐ横で同じ様に双眼鏡を覗くロンメル中佐がそう言った。

 

「少なくとも今その事実に気付かれるのは困るな。死んでからならいいが」

 

「それもそうですね。しかし、妙です。奴等は何故動かないのでしょうか?こちらが攻撃準備を整えたら最後、一方的に叩かれるのは分かりきっているはずですが……というか砂嵐が止んだ直後なら我々の隙を突けたでしょうに」

 

「分からん……まるで何かを待っているような……」

 

無線機が黙り込んでから5分が経った頃、好機を逃した敵軍の行動に2人が頭を悩ましていると、ちらほらと敵情の報告が入り始め。

 

そして10分後。泡を食ったようなゲオルク中尉の声が前線指揮所に届けられる。

 

『ゲオルクよりCP!!敵の妨害は微弱なれど敵後方の予備兵力の有無を確認中、ポイント6ー2で奇妙なモノを発見した!!紫色で半透明、両先端が尖った細長い円柱形の結晶体の中に人間が入られ、それがまるで墓標のように地面に突き立てられている!!それも1つや2つじゃない、物凄い数だ!!正確な数は分からないが布陣している帝国軍と同じぐらいの数と思われる!!ッ、竜騎士共が押し寄せて来た!!これ以上の偵察は無理だ、これより帰還する!!オーバー』

 

無線機から発せられていた緊迫感溢れるゲオルク中尉の声が途切れると同時に前線指揮所の中は一瞬沈黙に包まれた。

 

「さっき入った報告では確か敵は15万程度の兵力ということだったが……15万もの人間入りの結晶体があるというのか?……何かの魔法か儀式の一種か?」

 

「仮に何かの魔法及び儀式だとしても、人間入りの結晶体を利用する魔法や儀式だなんて、そんな物は聞いた事がありません」

 

「ふむ……そう言えば他にもおかしな報告があったな。敵陣の中に黒い箱みたいな物が均等の間隔で置かれているとか」

 

「何だか……不気味ですね」

 

「バ、バール大佐!!大変です!!」

 

「何だ!?」

 

飛行歩兵達が命懸けで入手した奇妙な敵情にバール大佐とロンメル中佐が首を捻っていると血相を変えた蛇人族の兵士が前線指揮所の中に転がり込んで来た。

 

「そ、空に、空に何かいます!!」

 

「何かじゃ分からん!!正確に報告しろ!!」

 

「で、ですが!!あれは……ッ!!」

 

「チィ……一体何だって言うんだ」

 

「大佐!?危険ですから外に出ないで下さい!!」

 

要領を得ない蛇人族の兵士の報告に業を煮やしたバール大佐はロンメル中佐の制止を聞かず、半地下式の前線指揮所から塹壕へと進み出る。

 

「あれです」

 

「おいおい、嘘だろ……何であれがいるんだ……」

 

先端が二股に別れた舌をチロチロと出し入れする兵士が指差す空に目をやったバール大佐は空に浮かぶ何かの姿を捉えると、本日2度目になる衝撃を受けた。

 

それは透明の為に光加減で全体の輪郭がぼんやりと伺えるだけで詳細が一切分からなかったが、その巨大さから考えるに、かつてパラベラム軍が駆逐したはずの兵器――空中要塞に相違無かった。

 

「ロンメル中佐!!師団本部と総司令部に連絡を取って空中要塞と接敵した旨を伝え航空支援の要請を!!」

 

「了解です!!」

 

「た、大佐!!空にいる奴が透明化を解きます!!」

 

バール大佐が前線指揮所の室内にいるロンメル中佐に向け大声で指示を飛ばしていると、空に浮かぶ空中要塞に変化があった。

 

空中要塞は中心にそびえる城の天辺から徐々に透明化を解いていき、最後にはその全容を白日の下に晒し出す。

 

更に透明化を完全に解いた直後、空中要塞の半円状の土台部分が花の花弁のように幾つかのブロックに分かれてパックリと開き、中から3本の杭のようなモノが露出される。

 

それはまるで空中要塞の着陸用の足の様にも見えたが、実際はそんな生易しいモノでは無かった。

 

「何をするつもりかは知らんが……なんだかヤバそうだぞ!?」

 

何故かドッと溢れ出てきた冷や汗を流しながらそう呟いたバール大佐の視線の先では空中要塞の下部から突き出た3本の杭が徐々に強さを増していく稲光を纏っていた。

 

「全部隊、総員に通達しろ!!別命あるまで退避壕へ退避せよと!!急げ!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

本能的に危機を察知したバール大佐の命令が第1旅団戦闘団の兵士達の間を駆け巡っている時だった。

 

「何だありゃ!?」

 

3本の杭が纏う稲光は互いの丁度中心で1つの塊となり、強烈な光を放つ。

 

そしてその強烈な光は徐々に集束していき、まるでサーチライトが放つような光の筋になると第4旅団戦闘団が守る対戦車防御陣地の中心を煌々と照らし出した。

 

「ただのサーチライト……なのか?なんのつもりで――」

 

敵の行動の意味が理解出来ず、バール大佐がそう呟いた時だった。

 

空中要塞から伸びる光の筋の中を通って黒い閃光が迸る。

 

次いで一瞬の間を置いてから第4旅団戦闘団の兵士達がいる対戦車防御陣地が紅蓮の業火に包まれ、鼓膜を破らんばかりの轟音が辺りを満たし大地を激しく震わせる。

 

「嘘……うおっ!?」

 

「大佐ッ!!」

 

遅れてやって来た凄まじい衝撃波によって吹き飛ばされそうになったバール大佐をロンメル中佐が間一髪の所で捕まえ、塹壕から前線指揮所の中へと引き摺り込んだ。

 

「すまん。助かった」

 

「い、いえ、間に合って良かったです」

 

咄嗟の判断で手を引っ張って前線指揮所の中に引き摺り込んでから両手でしっかりと抱き締め床に倒れ込み、最後は覆い被さってバール大佐を衝撃波から守ったロンメル中佐は自分とバール大佐の体勢を改めて理解すると綺麗というより、イケメンと言われそうな顔を今さらながらにうっすらと赤らめる。

 

「中佐……?手を離してくれないと立てないんだが」

 

「あっ、す、すみません!!」

 

バール大佐にそう言われ、ロンメル中佐は慌てつつも惜しみげに両手をゆっくりと離すと先に立ち上がりバール大佐に手を貸す。

 

「出来れば俺も助けて欲しかったで――……いえ、なんでもないです。独り言です」

 

バール大佐と共に空中要塞を眺めていた蛇人族の兵士は誰にも助けてもらえなかったため塹壕内を襲った衝撃波と吹き荒れた爆風で、ものの見事に吹っ飛ばされていた。

 

そして、全身に小さな傷を無数に負い悲惨な姿になって前線指揮所の前に戻ってくるなりそう言ったが、ロンメル中佐の鋭い一睨みで前言を撤回しヨタヨタと覚束無い足取りで自分の配置へと戻って行ったのだった。

 

「そうだ……爆心地は!?第4旅団戦闘団の兵士はどうなった!?」

 

「待って下さい、大佐!!まだ外は危険です!!あぁ、もう大佐!!」

 

ロンメル中佐の手を借りて立ち上がったバール大佐は、ハッと思い出したようにそう言って、再度制止を振り切り前線指揮所から塹壕へと飛び出す。

 

「なんてこった……」

 

呆然とそう呟いたバール大佐の視線の先では次第に成長し巨大化していく黒いキノコ雲が形成されていた。

 

その光景はまるで核兵器の使用後を彷彿とさせ、バール大佐の背筋を凍らせる。

 

「あの有り様じゃあ跡形もないぞ……」

 

キノコ雲の根本――爆心地となった大地は今だ爆煙に覆われ、その姿を垣間見ることは出来ないが、ほぼ確実に惨憺たる光景が広がっている事が簡単に予想出来た。

 

そして、バール大佐の予想は正しく空中要塞が放った黒い閃光により爆心地となった大地は地表部分にあった第4旅団戦闘団の対戦車防御陣地ごと深々と抉られ隕石が落ちたようなクレーターが出来上がっていた。

 

つまり、それはそこにあった兵器や兵士が消し炭1つ残さず根こそぎ消滅したことを意味していた。

 

「敵、第2射来ます!!」

 

数多くの同胞が一瞬で消え失せてしまった事に戦慄していたバール大佐の耳にそんな言葉が飛び込んでくる。

直後、空中要塞の方を見やればまたあの光の筋が伸びていた。

 

それもポンペイの街に向かって。

 

「逃げろおおおぉぉぉッ!!」

 

「大佐、伏せて!!」

 

思わずポンペイの街に向かって、そう叫んだバール大佐を横合いから押し倒すロンメル中佐。

 

2人が塹壕の底、硬い地面の上に倒れ込んだのと同時に黒い閃光が走り爆音が轟く。

 

そして微小な地面の揺れが起こってから津波のように押し寄せた土埃が塹壕内へ流れ込みボフッと降り注ぐ。

 

「ゲホッゲホッ、大佐……?ご無事で?」

 

「ゲフッ、なんとか……な……」

 

土埃にまみれた2人は咳き込みながら互いの無事を確認しあう。

 

「……街は……どうなった?」

 

「キノコ雲は出来ていますが、街は……あります……敵の攻撃は先程より威力が小さかったようです」

 

度肝を抜かれた最初の一撃が戦術核を使用した程度のキノコ雲を作り出していたのに対し今度は総重量約6800キロの内、炸薬重量だけで約5700キロを占めるBLU-82/B――地表の構造物を薙払うように吹き飛ばす通称デイジーカッターを使用した程度のキノコ雲が出来ていたもののポンペイの街は辛うじて健在だった。

 

「……よかった」

 

今の攻撃で、てっきり消えてしまったものと思っていたポンペイの街が残っていた事に一先ず胸を撫で下ろした2人だったが、すぐに絶望のドン底に突き落とされることになる。

 

「た、大佐!!旅団本部からの通信が途絶えました!!」

 

無線機を握り締めた通信兵が泣きそうな顔でバール大佐の元に駆け寄ると、そう叫んだ。

 

「なんだと!?――まさか、今の攻撃で!?」

 

「恐らくは……」

 

「クソッタレが!!」

 

2射目の威力が弱かったのはポンペイの街に置かれていた第1、第4旅団戦闘団の合同本部だけを撃ち抜くためであった事に気が付き、歯を食い縛るバール大佐。

 

「空中要塞が後退していきます!!あっ、姿が消えて……く、空中要塞を目視出来ません!!再び透明化したものと思われます!!」

 

「敵軍が魔法障壁を展開!!前進を開始!!」

 

だが、バール大佐には歯を食い縛っている時間すら無かった。

 

空中要塞は3射目を放つことなく矛を収めて悠々と後退していったものの、マイナス川の対岸に布陣する帝国軍が満を持して進軍を開始した為だ。

 

「野戦砲兵大隊に通達しろ、全火力を敵正面に集中し敵に川を渡らせるな!!」

 

「了解!!」

 

「それと師団本部に繋げ」

 

「繋ぎました、どうぞ」

 

「こちらは第1旅団戦闘団のバール大佐だ。我々は敵の攻撃により第4旅団戦闘団の大半と両旅団戦闘団の本部を失った。至急航空支援と救援を頼む」

 

『こちら師団本部。現在、全戦域で帝国軍の反撃が開始されているため航空支援も救援もすぐには出せない、独力で対処せよ』

 

「独力でだと!?それは無理だ、だったら撤退許可を」

 

『駄目だ、撤退は許可出来ない。貴官らが防衛しているポンペイの街が抜かれれば、敵軍が我が方の防衛線の後方へ浸透してしまい、防衛線自体が破綻する危険性がある。なんとしても街を守りきれ。部隊の編成が終わり次第救援部隊を送る、以上だ』

 

「くそっ……じゃあどうしろってんだ!!」

 

師団本部よりもたらされた無情な通達に、バール大佐は目の前にあった机に拳を降り下ろす。

 

「大佐……」

 

前線指揮所に詰める兵士の顔に暗い影が落ち、重い空気に包つまれる中、ロンメル中佐の声だけが小さく響いた。

 

そして、誰もが絶望に呑まれようとしていた時だった。

 

『――こちら第4旅団戦闘団所属の第3機械化歩兵大隊!!指揮官が戦死した!!繰り返す指揮官が戦死した!!本部とも連絡がつかない、誰か指示を!!』

 

『こちら第2機甲中隊。第1機甲中隊が殺られた!!我々は補給中で難を逃れたが、これからどうしたらいい!?』

 

『こちらは第4旅団戦闘団の野戦砲兵大隊だ!!砲撃準備は万端だが、観測員が戦死したため敵座標が分からない、誰か敵座標の指示を頼む!!』

 

第4旅団戦闘団の生き残りの声が無線機から流れ出す。

 

「……いいだろう。どうせ、もう面倒臭いなんか言っていられない状況なんだ。とことんやれるだけやってやる!!徹底抗戦だ!!」

 

半数以上の戦力を失い、大半の仲間が殺られたにも関わらず撤退を考えるどころか指示を求め敵との戦闘に備えようとする第4旅団戦闘団の兵士の声がバール大佐の闘争心に火を付けた。

 

自棄になったとも言うが。

 

「ロンメル中佐、第4旅団戦闘団の残存兵を吸収して敵を叩くぞ!!」

 

「了解!!」

 

「通信兵、総員に通達しろ!!現刻より第1、第4旅団戦闘団の全指揮を俺が取るとな!!」

 

「了解しました!!」

 

バール大佐の命令で兵士達が活気を取り戻し慌ただしく動き出す。

 

「野戦砲兵大隊より報告!!ロケット弾による面制圧射撃を開始!!」

 

「よし、これで時間が稼げる。今のうちに部隊を纏めるぞ」

 

先に出しておいた命令通りに野戦砲兵大隊が砲撃を開始し、まずは多数のロケット弾が帝国軍を襲う。

 

パラベラム側の初撃を担ったのは第二次世界大戦でドイツ軍が使用し映画などでもお馴染みのSd Kfz 251半装軌車の側面に枠構造を取り付け、そこに多砲身ロケット発射器を3基ずつ装着したヴルフラーメン40である。

 

高性能ロケット榴弾である30cmネーベルヴェルファー42や28cmロケット榴弾および32cmロケット焼夷弾である28/32cmネーベルヴェルファー41等を装備したヴルフラーメン40は、ロケット弾発射に伴う噴煙に包まれながらも全弾を撃ち尽くすと直ちに補給へと急ぐ。

 

これらのロケット弾は従来の大砲を用いた砲撃よりも正確さに欠けるため数を必要とし、またロケット弾の重量が重く再装填には多くの時間を割かねばならないからだ。

 

ちなみにヴルフラーメン40は史実において機動力のある戦車部隊の支援兵器として、特に市街地において運用に成功している。

 

「弾着……今!!」

 

多数のロケット弾が風切り音を唸らせ、一斉に着弾しマイナス川の渡河に取り掛かろうとしていた帝国軍を爆煙で包み込む。

 

更に帝国軍の座標を通達された第4旅団戦闘団の野戦砲兵大隊――臨時に第1旅団戦闘団に組み込まれ第2野戦砲兵大隊と呼称される事となった部隊からは第二次世界大戦においてソ連軍が開発し使用した世界最初の自走式多連装ロケット砲、82mm BM-8や132mm BM-13――通称カチューシャが追い討ちをかけるようにロケット弾の斉射を開始。

 

敵の前進を防ぐべく安価で大量生産が可能なM-8ロケット弾(口径82mm)やM-13ロケット弾(口径132mm)の火力を集中させる。

 

と言っても黒色火薬またはダブルベース火薬(ニトログリセリンとニトロセルロースの混合薬)が燃料として使用されている固体燃料式のロケット弾は尾翼式無誘導のシンプルな構造のため、使用するロケット弾の重量や射程距離から射角を算出し、おおよその方角に向けて発射するしか方法が無く、またカチューシャは1基あたり8本のレールの上下にロケット弾を装着し計16発を連続して撃つことが出来たが、ヴルフラーメン40同様命中精度に期待が出来ないため、やはり目標に対し大量のロケット弾を集中的に撃ち込むことでその欠点を補うしか無かった。

 

しかし、それ故にヴルフラーメン40やカチューシャは短時間での面制圧には長けており、精度より数を求められる今に限っては各種野砲よりもその存在価値が高くなっていた。

 

ちなみに発射するロケット弾と同様に兵器自体の構造が非常にシンプルなカチューシャは自走用の台車とロケット弾を搭載する鉄レールを平行に並べ柵状にした発射機、それを支え方向と射角を調整する支持架で構成されているのだが、第4旅団戦闘団に配備されたカチューシャの台車には旧来のZiS-151多目的トラックではなく、高い最低地上高を誇り四輪駆動方式を採用し副変速機と逆転機を装備して超低速や悪路での作業にも適し多数の軍用車輌の元にもなっている多目的作業用自動車――ウニモグが使用されていたため、踏破性や機動性が格段に向上しており陣地転換の時間が大幅に省略されている。

 

「――戦車部隊には機動防御を行いつつ、あの陣地跡から突破を目論む敵を叩かせろ」

 

「ハッ!!」

 

「大佐、爆煙が晴れます」

 

ロケット弾の炸裂音をBGMにして各部隊への命令を出していたバール大佐は、その報告を聞くと双眼鏡を手に取った。

 

「……よし、今の砲撃でかなりの戦力が削れたな」

 

「その様です」

 

空高くまで舞い上がっていた爆煙が風に吹かれて視界がクリアになると、そこはロケット弾の着弾によって月面のような有り様になっており、また帝国軍兵士の骸が大量に転がっていた。

 

しかし、砲撃により跡形もなく消し飛んだ兵士も多く正確な戦果は確認出来なかった。

 

それでも帝国軍の進軍の出鼻を挫いた事だけは確かであった。

 

「この隙を逃すな、野戦砲兵大隊の野砲で――」

 

「大佐!!敵に変化があります!!」

 

「なに?」

 

帝国軍に更なる打撃を与え攻勢を断念させようとしていたバール大佐は、ロンメル中佐の悲鳴染みた声に驚き振り返ると双眼鏡を覗き込む。

 

「死体が光っている?ッ、消えた!?どうなって――」

 

バール大佐は転がっている死体が発光し、白い光の粒子となって消えていく光景に思わず双眼鏡を握り締め目を驚きに見開く。

 

「大佐!!敵が、敵が!!」

 

「何なんだこれは……敵が甦ったとでもいうのか?」

 

顔面蒼白になったロンメル中佐に言われて双眼鏡の向きを変えてみれば、帝国軍が最初に布陣していた場所に死んだはずの敵兵達が再び布陣していた。

 

そして、死んだはずの兵士達は何事も無かったかのように再び進軍を開始する。

 

「……第1野戦砲兵大隊に伝えろ。接近中の敵に砲弾を1発ぶちこめと」

 

「りょ、了解」

 

進軍を開始した帝国軍を亡霊でも見るかのような引き吊った顔で眺めていたバール大佐の命令で1発の砲弾が敵に向け放たれる。

 

「弾着まで3、2、1……今ッ!!」

 

フンメル自走砲が放った15cm榴弾がシュンッと鋭い風切り音を残して頭上を通り過ぎて行き、敵のど真ん中に命中。

 

閃光がピカッと瞬き、火柱が上がり爆煙が空を汚す。

 

そして炸裂した15cm榴弾は多数の敵兵を薙ぎ倒し組まれていた陣形を乱した。

 

「……最悪だ」

 

一連の光景を瞬き1つせず、食い入るように見ていたバール大佐は外れて欲しかった予想が、ドンピシャで的中してしまい頭を抱えた。

 

「不死身の軍隊かよ、クソッ!!」

 

バール大佐の視線の先では15cm榴弾によって吹き飛ばされ木っ端微塵にされたはずの兵士達の死体が白い光の粒子となった後、その死んだはずの兵士達が最初の立ち位置で復活を果たしていた。

 

それはまるでゲームでキャラクターが死亡しリスポーンした時と同じ光景であった。

 


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