ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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第二近衛騎士団をバグの大群から救出した後、移動を開始したカズヤ達だったが最寄りの街まで残り20キロというところで日が暮れてしまい野営を余儀なくされていた。

 

「カズヤには何から何まで世話になっているな……」

 

「うん?」

 

食事を終えステンレス製のコップに入っている食後のお茶を手に、フィリスが影を背負い落ち込んだ様子で言葉を漏らす。

 

「本当にカズヤ達が来てくれてよかった」

 

フィリスの第二近衛騎士団はバグの襲撃の際に騎士が騎乗していた軍馬の半数以上とバグを足止めするために盾代わりに使用した荷馬車をすべて破壊され損失しており、また荷馬車に積まれていた食糧を初めとした各種物資も当然失っていた。

 

しかも、バグの死体処理(最終的にはカズヤ達の兵器で焼き払った)に手間取ったことや多くの軍馬を失ったため近衛騎士団の移動速度が低下していて日暮れまでに街に到着できなかったためバグの襲撃で失った食糧などをフィリス達は補充することが出来なくなっていたのだ。

 

そのためカズヤ達が持っていた食糧の一部を第二近衛騎士団に融通して貰ったことがフィリスの気にかかっていた。

 

そしてそれが、先の発言に繋がるのである。

 

「気にするな、困った時はお互い様だ」

 

「そう言って貰えると助かる。しかしカズヤにはまた1つ借りが出来てしまったな」

 

まだ暗いオーラを放つフィリスをどうにかしようとカズヤは話題を変えることにした。

 

「それより、飯は口に合ったか?」

 

「ん?あぁ、あのカレーという食べ物は今まで食べたことがなかったがとても美味しかったぞ。特に食後に出た、あのチョコレートと言ったか、チョコレートは病みつきになる味だったな」

 

「口に合ったんだったらよかった」

 

カズヤがフィリス達に分けた食糧はカレーとチョコレート。

 

どちらもフィリス達は食べたことがなかったらしくカレーは初め食べるのに躊躇していたが一口食べると皆、競いあうように口の中にカレーを掻き込んでいた。

 

そして食後にフィリス達の第二近衛騎士団は女性だけで編成されていると聞いたのでデザートにとチョコレートを出したのだがこちらもとても喜ばれた。

 

だがその際、第二近衛騎士団の副長のベレッタが「この食べ物はどこで手に入れたのです!?」と興奮気味にカズヤを問い詰めるという出来事があったのだが、入手ルートを正直に話す訳にも行かず、カズヤが言葉を濁して我々以外では入手出来ないと伝えるとガックリと肩を落としていた。

 

そんな和やかな一幕もあってか食事を終えた後、カズヤ達とフィリス達の第二近衛騎士団は和やかな雰囲気に包まれていた。

 

カズヤもフィリスやベレッタと親しくなりこの短時間で名前で呼びあう仲になっていた。(余談だがフィリスとベレッタが呼び捨てでいいとカズヤに告げた際、背筋に悪寒が走り不思議に思ったカズヤが隣を見ると千歳が暗い目でこちらをジットリと睨んでいた)

 

そうして一緒に焚き火を囲みながらカズヤはずっと気になっていたことをフィリスに聞くことにした。

 

「そういえばフィリス達は何であんな所にいたんだ?それにあの馬車には誰が乗っているんだ?」

 

カズヤは唯一残った馬車を見ながらそう言った。

 

「……詳しくは言えんが、とある任務でな。唯一教えることができるのはあの馬車に乗っている方は、高貴なお方だということだけだ」

 

「ふぅん、そうか……まぁフィリス達にもいろいろあるだろうからな」

 

なんだか込み入った事情がありそうだったのでカズヤはこれ以上詳しく詮索をするのはやめておいた。

 

「そうだ、カズヤこそ何故あの場に?カズヤ達が進んで来たあの方面には魔物の巣窟になっている帰らずの森しかなかろう?」

 

「いや、まぁ、いろいろあってな」

 

「?」

 

まさか、魔物の巣窟になっている帰らず森、引いてはカナリア王国内に勝手に基地を作ったとは言えないカズヤは言葉を濁す。

 

「そ、それじゃあ夜もふけてきた事だし寝るとするか」

 

お互いに秘密を抱えているが故に会話が途切れ、なんとも言えない空気になったためカズヤは半ば無理矢理に会話を打ち切り寝ることにした。

 

「……あぁ、そうだな、そうしようか。おやすみカズヤ」

 

「お休みなさい、カズヤ殿」

 

カズヤの意図を正しく見抜いたフィリスとベレッタは別れの言葉を残して立ち去った。

 

「さて、俺も寝るか」

 

「はい、ご主人様」

 

フィリスとベレッタの姿が見えなくなった後、カズヤと千歳も眠りに就くことにした。

 

 

「……うぅぅ……ん、…………………………………………寝れん!!」

 

体を休めようと床に就いたカズヤだったが、無性に目が冴えてしまい眠れなかったためテントを出て何か飲むことにした。

 

「ちょっと肌寒いな……ん?」

 

テントから出たカズヤが、ふと何気なしに馬車の方を見ると小さな影が馬車の扉をソッと開け馬車から降り草むらに入って行くのが見えた。

 

今のは誰だ……?

 

小さな影を不審に思ったカズヤは腰のホルスターからワルサーP38を抜き、影の後をつける事にした。

 

草の擦れあう音が近いな、おっ……いた。

 

カズヤは数十メートルほど草むらの中を静かに進み、影の正体を見つけ声をかける。

 

「おい、どこに行くにしても見張りに声をかけないと危ないぞ」

 

「ふぇ!?」

 

馬車から降りて何をしているのかと思ってカズヤは声をかけたのだが、そこにいたのは白いワンピースのような服を着たまだ幼さが残る少女だった。

 

……のだがカズヤの現れたタイミングが悪かった。

 

――チョロロ。

 

「み、見ないで下さい!!」

 

「わ、悪い!!」

 

「うぅぅぅ……止まらないよぉ……」

 

ずっと馬車の中で我慢していたのか何かの音がしばらくの間、止まることはなかった。

 

……どうすりゃいいんだ。

 

すぐにでもこの場を離れたかったカズヤだったがいくら辺りを部下や近衛騎士団の隊員が巡回しているとはいえ万が一の事を考えると彼女から離れる訳にはいかず、体ごと顔を背けながらそれが終わるのを待った。

 

そして時間が経つのが長く感じたが、ようやく終わったのか音が消える。

 

「こ、これを……」

 

カズヤは少女の方を見ないようにして持っていたポケットティッシュを2〜3枚抜き取ってから渡した。

 

「……」

 

赤ら顔の少女は無言で恐る恐るカズヤからティッシュを受け取りガサガサと音を立てて後始末をしていた。

 

「……も、もうこっちを向いてもいいですよ」

 

その言葉に従いカズヤがゆっくりと少女の方を向くと、そこにいたのは顔を真っ赤に染めた美少女だった。

 

「も、申し訳ない。まさかト○レだったとは……」

 

「い、いいんです私も声をかけずに馬車を降りたのが悪かったんです……」

 

いまだに顔が真っ赤な少女はそう言いながら、まるで宝石のような緑と碧眼のオッドアイでカズヤをチラチラと見ている。

 

「そう言ってもらえると助かる」

 

その後、お互いに暫し無言が続く。

 

こ、こういうときはどう声をかけたらいいんだ!?

 

無言が続いている間、カズヤはパニック状態になっていた。

 

だが、長い沈黙に耐えきれなくなったのか少女の方が先に口を開く。

 

「あ、あの……貴方は……私が怖くないのですか?」

 

「えっ、何で?」

 

「……だって私は忌み子ですから」

 

「……悪いが、その話を詳しく聞かせてくれるか?」

 

悲痛な顔でそう言った少女を見てカズヤは放っておくことが出来ず少女から詳しく話を聞くことにした。

 

「――という事なんです」

 

「……」

 

少女から聞いたことを纏めるとこの国ではオッドアイは穢れの象徴とされ、またオッドアイの人は生まれつき膨大な量の魔力を内包しているがその魔力を使いこなすことが出来ず魔力を暴走させてしまうことがあり、結果周りに被害をもたらすため忌み嫌われ迫害されているらしい。

 

「ふぅーん、そうなのか」

 

「そうなのかって……」

 

少女から理由を聞いたカズヤがあっけらかんとしていると少女が逆に面を食らっていた。

 

「うーん、オッドアイが穢れの象徴とか言われてもピンと来ないし……。君みたいな可愛いお嬢さんを迫害するっていうのもなぁ……」

 

「……そんなことを言う人は貴方が初めてです」

 

生まれて初めて可愛いと言われました……。

 

少女はカズヤの言葉を聞き、先程とは別の意味で頬を赤らめ笑みを浮かべていた。

 

「そ、そう言えば貴方のお名前は?」

 

「あぁ、これは失礼した。俺は長門和也。パラベラムという冒険者のパーティーの隊長を務めている」

 

「ナガト……カズヤ?珍しいお名前ですね」

 

「そうか?っと知らない間に結構時間が経っているな、そろそろ馬車に戻ろうか?誰が乗っているのか聞いていないが侍女の君がいなくなっているのがバレると騒ぎになるかもしれないし」

 

馬車に乗っているのは高貴なお方としか聞いていなかったカズヤは馬車から降りた目の前の少女のことをフィリスが言っていた高貴なお方の侍女だろうと当たりをつける。

 

「えっ?私、侍――」

 

少女は何かを言おうとしてハッと口を押さえた。

 

「ん?なにか言ったか?」

 

「い、いえ何も。それよりあの馬車に乗っている方は一度眠るとなかなか起きないので大丈夫です。だからもう少し外に居てはいけませんか?」

 

「うーん」

 

……まぁ、この侍女の子も馬車の中にいる人の相手でずっと馬車の中にいただろうし気分転換に少しなら外にいてもいいだろう。

 

そう思いカズヤは少女の申し出を許可することにした。

 

 

 

カズヤは少女と先程の所から場所を変え野営地から少し離れている小さな湖の畔に移動した。

 

湖の水面には夜空に光輝く満月が反射しており幻想的な雰囲気が辺りを満たしている。

 

「……綺麗……」

 

まるで1枚の絵画のような風景を前に少女は目を輝かせていた。

 

「ここでいいか」

 

「はい」

 

湖の畔には丁度いい切り株が2つあったのでそこに座ることにした。

 

「……そういえば、君の名前を聞いていなかったな。名前は?」

 

「え、あの、えーと、その……ですね」

 

「どうした?」

 

カズヤが少女に名前を尋ねると何故か少女があたふたと慌て出す。

 

「わ、私の名前は……。イ、イリスです。イリスって呼んで下さい」

 

「了解、イリス」

 

カズヤが教えられた通りにそう少女の名前を呼ぶと何故かイリスは感極まったように笑顔を浮かべた。

 

「それでは気分転換にお話をいくつか」

 

「お願いします」

 

その後、カズヤが湖の畔でイリスの気分転換のために前の世界でのおとぎ話を幾つか読み聞かせるとイリスは物語に夢中になっていた。

 

「お兄さんが教えてくれるお話は面白いですね」

 

そう言って少女の筈なのにカズヤを思わずドキッとさせる笑顔でイリスは笑う。

 

「……それじゃあそろそろ戻ろうか?」

 

「もう少しだけ、ここにいては駄目ですか?」

 

「そろそろ体も冷えてきただろ?これ以上は風邪をひくぞ」

 

「……だったら……こうすれば大丈夫です」

 

そういうとイリスは座っていた切り株から降りると、大胆なことにカズヤの膝の上で抱き合うようにちょこんと座った。

 

……なんと言うか、無防備過ぎるだろこの子は。

 

イリスの突然の行動に驚いたカズヤはただただ硬直していた。

 

「えへへ……温かい……です」

 

グリグリと頬をカズヤの胸に押し付けているイリスが幸悦とした表情で言った。

 

「それは良かったです。お嬢様」

 

硬直が解けたカズヤは冗談混じりにそう言ってイリスのサラサラの金髪を撫でる。

 

「むふぅ……」

 

するとイリスは目を細め嬉しそうな顔でそれを受け入れていた。

 

んー、妙になつかれたな。まぁいいか、好きにさせておこう。

 

そのまま、穏やかな時間がゆっくりと過ぎる

 

「……」

 

「クチュン」

 

「……そろそろ帰ろうか」

 

「……はい」

 

 

イリスの可愛らしいくしゃみを合図にカズヤは野営地に戻ることにした。

 


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