ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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縦や横、斜めといった風に僅差はあるものの、真っ二つに両断され肉塊となった死体や持ち主が分からない体の一部が辺りに散乱し、途切れる事の無い悲鳴や絶叫、断末魔が響き渡る。

 

まさに地獄絵図と化したそこでは依然として一方的な殺戮が続いていた。

 

「う、うおおおおおおおっ!!――ギャア!?」

 

「くそったれぇええええっ!!――ガハッ!?」

 

「なんなんだ……なんなんだよ、この化物共は!?」

 

「こっちは魔武器を持った騎士が400人近くいるんだぞ!!それがなんで……たった2人の女に圧倒されているんだ!?」

 

「魔武器も効かないなんておかしいだろ!!」

 

自らに気合いを入れるように雄叫びを上げて勢い勇んで斬りかかるものの、一片の慈悲も無く次々と斬り伏せられていく仲間の姿に泣き言を漏らしつつ、本能的な恐怖心に促されてじりじりと後退るグルファレス魔法聖騎士団の騎士達。

 

彼らは仲間の命を易々と事務的に刈り取っていく死神の代行者――千歳と千代田の姿に完全に呑まれていた。

 

「チッ、面倒な武器に加えて数が多い。これでは埒が開かん」

 

「そうですね。……では、姉様だけでも先に行かれますか?この程度のクズ共なら私1人でも対処可能ですから」

 

散発的に斬りかかってくる騎士を会話の片手間に斬り捨て、飛んできた矢を叩き落としながら2人は近くのコンビニに買い出しでも行くかのような気軽さで歩を進める。

 

「……そうだな。そうするか」

 

「それでは私が道を斬り開きますから、姉様は――ッ!?」

 

目の前にいる者達はすべからく抹殺する対象ではあるものの、予定よりも時間が掛かりすぎている事に加えて、いい加減に大本命のターゲットであるマリー・メイデンの首を刈りたくなってきた千歳が、千代田に騎士団の掃討を任せてマリーの首を一足先に刈るために足を踏み出した瞬間だった。

 

「我々を甘く見てもらっては困るッ!!」

 

他の有象無象の騎士達とは一線を画している速さと力を宿した一撃が千歳と千代田を襲う。

 

「チッ、面倒な奴が出てきたようだ」

 

「確かに、多少は出来るようですね」

 

咄嗟に後方に飛びすさり、先程まで自分達が立っていた地面を砕いた一撃をかわした2人は得物を構え直すと、そう苛立たし気に声を漏らす。

 

「ムンッ!!――皇帝陛下の直轄部隊であるグルファレス魔法聖騎士団の名をこれ以上汚す事は出来んからな。俺がお前達の相手だ!!」

 

「だ、団長!?団長が直々に奴らの相手を!?」

 

「団長があの化物共を殺してくれるぞ!!」

 

「もう俺達は勝ったも同然だ!!」

 

「やっちまって下さい、団長!!」

 

地面を砕き、地中に深々とめり込んだ魔剣――カラドボルグを勢い良く引き抜き、大剣であるそれを担ぎ直したグルファレス魔法聖騎士団の団長ラインハルト・アーフェンは、先程までとは打って変わって手のひらを返したように強気になった部下達の声援を背に不敵な笑みを浮かばせながらそう言い放った。

 

「……どうする、千代田?」

 

「姉様はお先に。さっきも言いましたが、この程度なら私1人で大丈夫です」

 

2人で協力して殺るか?との問い掛けに千代田は迷う素振りも見せず、即答する。

 

だが、その問答の内容が気に入らない者がいた。

 

「ッ、身の程を弁えず恐れ多くも我が帝国に牙を剥く蛮人共がッ!!その慢心!!あの世で悔い改めるがいい!!」

 

千代田にこの程度扱いされ、頭に血が上ったラインハルトは身体強化の魔法を自身の体に重ね掛けすると共にカラドボルグに宿る能力までも引き出して跳躍。

 

身体強化の魔法と使用者の速さと力を倍増させる事が出来るカラドボルグの能力のお陰により雷光のような速さで間合いを詰めると、大きく振りかぶった横凪ぎの一撃を繰り出した。

 

「あの世で悔い改めるのは貴様の方――だッ!!」

 

一瞬で目の前に斬り込んで来たラインハルトの速度に難なく対応し、振るわれたカラドボルグを薙刀で受け止めた千代田が一気に片を付けにかかる。

 

「チィッ!!」

 

だが、相手は腐っても帝国が誇る騎士団の団長。

 

千代田の目論みにいち早く気が付くと後方に逃れる。

 

そして次の瞬間、ラインハルトが先程まで立っていた場所がボコンッ!!と大きく凹み、土埃が盛大に舞い上がる。

 

「フン、不用意に近付き過ぎてしまうとあの奇妙な魔法ですぐに殺られてしまうという訳か。飛び道具も効かぬ様だし中々どうしてやるようだな。だがこの俺とカラドボルグがあれば……――クソ、1人逃がしてしまったか」

 

千代田の重力兵器の威力に冷や汗を流していたラインハルトは、少しずつ薄まってきた土埃の向こう側に人影が1つしかない事に気が付くと悪態を吐く。

 

「ん?今何か横を――ぁ?」

 

「ッ!?ハッ、ハハハハッ、嘘だろ?何で、何で動いていないのに体がズレ――ッ!!」

 

「な、何だ!!何が起こった!?何でお前ら斬られているんだ!!」

 

その直後、ラインハルトの背後で遠巻きに事の成り行きを見守っていた騎士の幾人かから突然血飛沫が噴き上がり死を迎える。

 

それを成したのはもちろん、マリーの首を刈るために千代田の陽動を隠れ蓑にして騎士達の間を疾風のように駆け抜けて行った千歳である。

 

「逃がした?それは大きな間違いだ。姉様はあの女の首を刈りに行っているだけなのだから」

 

ブォンと薙刀を一閃し土埃を斬り払い歩み出た千代田はラインハルトの間違った言葉を否定しながら準備運動でもしているかのように薙刀をクルクルと振り回し始める。

 

「フッ、フハハハッ!!これは傑作だ。この俺を相手にして本当に1人で勝てると思っていたとはな。それも女の身である貴様が!!思い上がりも甚だしいぞ!!」

 

「キャンキャン吠えるな、三下。器の大きさが知れるぞ?――それはそうと貴様らの技量は大体分かった。これ以上手間を掛けるのも面倒だから全員でかかってこい!!さすればその刃、我が身に突き立てることも出来るやも知れんぞ?」

 

これからが本番だとばかりに軽い準備運動を終え、薙刀を両手でしっかり握り直し刃をこちらに向けた千代田の挑発にラインハルトは何本もの太い青筋を額に浮かべる。

 

「全員……だと?先程まで有利に戦っていたからとはいえグルファレス魔法聖騎士団をたった1人で相手取ると?この俺を含めた騎士団を?……我々も随分と舐められたものだな。――良かろう!!その妄言死んでから後悔するがいい!!」

 

千代田の挑発に堪忍袋の尾が切れたラインハルトは自身を含めたグルファレス魔法聖騎士団の残存兵314名全員で千代田に戦いを挑む。

 

「総員、俺に続けぇええええっ!!」

 

「「「「うおおおおおおおっ!!」」」」

 

カラドボルグを掲げたラインハルトに先導され騎士達が雪崩をうって千代田に迫る。

 

だが、それは死に向かって突貫しているのと同意義だった。

 

「ウラアアアアアアアアッ!!」

 

「貴様は部下の憐れな死に様を目に焼き付けてから死ね」

 

「ッ!?ゲブッ!!」

 

先陣をきって来たラインハルトの一撃をあっさりとかわした千代田はラインハルトの頭を踏み台に跳躍。

 

無様にも頭から地面に突っ込んだラインハルトにそう言い残すと、ターゲットを後続の騎士達に定める。

 

そして、まさか団長が軽くいなされ、千代田の矛先がこちらに向くなど考えてもいなかった騎士達が顔面蒼白になる中、血脂にまみれた白刃が煌めいた。

 

「ゲホッ、あの女ァアアッ!!ふざけた真似を!!八つ裂きにしてくれ…………る……」

 

顔に付いた土を払い落とし、強打した鼻の痛みに顔をしかめながら振り返ったラインハルトは息を飲んだ。

 

何故なら、そこでは千代田により部下達が次々と屠殺されていたからだ。

 

果敢にも千代田に立ち向かう者は、その決意ごと体を断ち斬られ宙を舞い。

 

恐怖に耐えきれず、逃げようとしたものは重力兵器の餌食となって血染みへと変わり果てる。

 

既に数える程しか残っていない騎士は次々と討ち取られ凄まじい勢いで、その数を減らしていく。

 

「や、やめろぉおおおおッ!!」

 

一瞬の思考停止から我に返ったラインハルトが部下の救援に向かうも時既に遅し。

 

312人の騎士をあっという間に悉く斬り尽くした千代田が、最後に残った騎士――両腕を斬り落とされ膝立ちで、何かを悟ったような表情を浮かべている騎士の首をスパンッと刎ね飛ばした。

 

切断面から夥しい量の血を垂れ流しつつクルクルと回転しながら飛んだ首は地面に落ちてからも勢いが止まらず、狙いすましたようにラインハルトの足先まで転がって行くと、ようやくそこで止まった。

 

「……よくも……よくも俺の部下達をォオオオオッ!!」

 

幾つもの戦場を駆け抜け苦楽を共にした副官であった男の生首を拾い上げて、見開いたままであった目を閉じた後、ソッと地面の上に安置したラインハルトは刀身がバチバチと帯電しはじめたカラドボルグの柄を強く握り締めると骸の山を築き上げた千代田に向かって駆け出した。

 

「殺してやる……殺してやるぞ!!貴様の首は――部下達への手向けだァアアアアッ!!」

 

怒りのあまり冷静さを保つ事が出来ず、何も考えずに単調な動きで千代田に突っ込んでしまったことがラインハルトに取って最大の失態であった。

 

「軽いな」

 

刀身から発せられる稲光が一段と強さを増した瞬間、振り下ろされたカラドボルグを薙刀で軽々と受け止めた千代田はラインハルトの血走った瞳を真っ直ぐに睨み付けながらそう言った。

 

「なん……のッ!!事だッ!?」

 

渾身の力を込めているにも関わらず、一ミリたりとも押し込むことが出来ない事に戦慄しつつラインハルトが千代田に問う。

 

「何の事だと?決まっている、全てだ。貴様の想いもこの武器に宿る想いも何もかも軽い」

 

眉1つ動かさずカラドボルグを薙刀で受け止め続けている千代田は薙刀に少しずつ力を込め、ゆっくりとラインハルトを押し込んでいく。

 

そして、このままでは力負けすると悟ったラインハルトが鍔迫り合いを中断し千代田から距離を取り、再び攻撃を仕掛けようとした時だった。

 

「あの世で思い知れ、マスターを傷付けられ同胞達を失った私達の怒りは、部下を皆殺しにされた貴様のモノより何億倍も、何兆倍も熱く黒く激しく燃え滾り荒れ狂っていることをッ!!」

 

すぐそこ、間近な場所から聞こえた恐ろしい声に反応してラインハルトは声が聞こえてきた方向にカラドボルグを盾のように構える。

 

しかし、それも無駄な抵抗にしかならなかった。

 

「そんな……バカな……」

 

幾度となく使っても、折れず曲がらず欠けずであったカラドボルグをまるでバターを切るかのように容易く斬り裂き、更にはラインハルトが纏っていた白銀の重厚な鎧までも断ち斬り、最後にはラインハルトの肉体を横一文字に切断してみせた千代田と刀身が半分になったカラドボルグを握ったまま上半身だけで宙を舞うラインハルト。

 

2人を隔てている圧倒的な力の差を示すような終わり方で2人の戦いは決着がついたのだった。

 


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