ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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パラベラムの本土に奇襲を仕掛けカズヤの暗殺を試みた暗殺者集団ブラッディーファングや、暗殺の陽動を担い破壊活動と生物兵器の散布を行った皇帝直轄部隊のグルファレス魔法聖騎士団。

 

そして監獄島を襲撃したのはいいが騎士団の約半数と主力である7聖女の内6名を失い、更に予定の10分の1にも満たない僅かな捕虜しか救出する事が出来なかったローウェン教教会騎士団の3つの勢力からなる、その一団は殺伐とした空気を漂わせながら重い足取りでザイン山脈の麓を進んでいた。

 

本来であればカズヤの暗殺と捕虜達の救出という大手柄を携えて本国領内を巡り、民衆の歓声と脚光を浴びながら帝都に華々しく凱旋するはずだった彼彼女だったが、任務の失敗は元よりパラベラム空軍による熾烈な爆撃が始まっていたため、人里を避けねばならず逃避行さながらの寂しい帰路となっていた。

 

「ンフフ〜〜♪フフ〜〜♪」

 

しかし、そんな一団の中に1人だけ上機嫌な者がいた。

 

そう。今現在、千歳の熱く煮えたぎった想い(憎悪)を一身に集めている例の彼女である。

 

「……上機嫌ですね、姉御は」

 

「うん?分かるかしら?」

 

「いや、分かるかしら?って……そんだけ楽しそうに鼻歌歌ってたら誰でも分かりますよ」

 

「フフッ、それもそうね。ンフフ〜〜♪」

 

「……」

 

あ、ダメだ。この人完全に浮かれちゃってる。とマリー・メイデン率いる暗殺者集団ブラッディーファングの副長、ボルマー・マルチネスは意気揚々と鼻歌を歌う上司の姿にこっそりとため息を吐いた。

 

「姉御、敵国で理想の魂の持ち主を偶然見つけたからって浮かれすぎですよ、仲間殺られた上に依頼をミスった帰りなんですから……多少は自重して下さい。それでなくとも教会の連中もいるんですから」

 

「フン、あんな連中放っておきなさい。たかが元聖女1人に圧倒された挙げ句、裏切った捕虜達にボコボコにされたみっともない騎士達なんか……ね」

 

「ちょ!?姉御!?」

 

「なんだとっ!?」

 

「亜人風情が!!」

 

わざと聞こえるように喋ったマリーの言葉にボルマーが目を剥いた次の瞬間、侮辱されたローウェン教教会の騎士達がすかさずマリーに食って掛かる。

 

「あら、ごめんなさい。事実が聞こえちゃったかしら?」

 

「「貴様ァァ!!」」

 

「お止めなさい!!いくら亜人でも今は味方。手を出すことは許しませんよ」

 

ヤルなら相手になるぞ。といわんばかりの態度で挑発を続けるマリーに激昂し、得物を抜こうとした騎士達を止めたのは意外にも大司教のレベルク・アントノフだった。

 

「な、何故ですか!!大司教様!!亜人はすべからく根絶やしにせねば!!」

 

「そうです!!それに今まで黙っていましたが、元はと言えば何故亜人がここにいるのですか!?」

 

「……機密のため言えません。しかし、これは極めて高度な政治的問題を孕んでいるのです。ですから“ここで”問題は起こせません」

 

「だそうよ?残念だったわね。坊や達。フフフッ」

 

「「〜〜ッ!!」」

 

納得など出来るはずもないが、大司教の言葉を無視する訳にもいかず騎士達は歯を食い縛りマリーに殺気を放ちつつも、しぶしぶ得物の柄から手を放した。

 

「……」

 

そして、その光景を7聖女の唯一の生き残り、序列第1位のアレクシア・イスラシアが苦悶に満ちた表情を浮かべながらじっと見ていた。

 

「ふぅ、全く……教会の連中も困ったものね」

 

レベルクに諌められ去っていった騎士達の後ろ姿を眺めながら、自ら諍いの種を吹っ掛けたにも関わらず、さも相手側に問題があると言わんばかりの態度でマリーが声を漏らす。

 

「貴様が言えた義理ではないがな」

 

「あら、今度は貴方の番なの?困るわぁ……カズ――愛しき者が見付かった途端にこれなんだもの」

 

依頼を遂行している途中に敵国で見つけたと言って大騒ぎした運命の相手が、まさか今回の暗殺対象だったとは言えないマリーは寸前の所で誤魔化す事に成功した。

 

もしも運命の相手がカズヤだとバレれば意図的に殺すのを止めた事が発覚してしまうかもしれないからだ。

 

そうなれば色々と不都合が出てくるため、マリーは理想の魂の持ち主がカズヤであるという事は部下を含め誰にも言っていなかった。

 

「ハハッ、冗談でも――斬るぞ?」

 

不敵に笑いながら、もてる女は辛いわねと声を漏らしたマリーに対し、エルザス魔法帝国の皇帝直轄部隊、グルファレス魔法聖騎士団の団長ラインハルト・アーフェンは背中に背負う大剣の柄に手を伸ばす。

 

「ストップ!!ストーーープ!!仲間割れは止めましょうよ、ね!?ね!!」

 

何で俺がこんな役を……と内心で嘆きながら仲裁に入ったボルマーはマリーとラインハルトの間に割り込み、諍いを中断させる。

 

「フン、部下に感謝しておけ」

 

ボルマーがマリーとの間に割り込んだ事で気勢が削がれたラインハルトは腕を下ろすとスタスタと歩き出す。

 

「ちょっと何で邪魔するのよ、ボルマー」

 

「何でって……ここで殺りあっても何にもならないじゃないですか。それに目的地もすぐそこなんですから」

 

「はいはい……分かったわよ」

 

「本当に分かってるのかなぁ……」

 

上司の言葉を信頼出来ないボルマーの猜疑心で出来た言葉は風に乗って空に溶けていった。

 

 

 

「そう言えば、ボルマー。先に行かせた連中は帰って来たの?」

 

「いえ、まだですけど……大方先に酒でも飲んでいるんでしょう」

 

「本当にしょうがない連中ね。お使いすらまともに出来ないなんて、また躾ないとダメかしら?」

 

ザイン山脈の中で一番大きいザメイル山という山にあった巨大な洞窟と地下空洞を拡張し建造された隠れ里――暗殺者ギルドの本部がある場所を前にしてマリーは先に帰還の旨を伝えに行かせた部下達が帰ってきていない事に不満の声を漏らした。

 

だが、その不満の声は本部に近付く程に違和感へと変貌する。

 

「……おかしいわね」

 

本部がある隠れ里に続く洞窟の中を歩いていたマリーは決定的な事に気が付いた。

 

「えぇ……誰もいませんね」

 

必ずいるはずの見張りが1人もいないのだ。

 

「皆、注意しなさい」

 

「「「「了解」」」」

 

小声で部下にだけ注意を促したマリーは、初めて暗殺者ギルドの本部に来たため異変に全く気が付いていないグルファレス魔法聖騎士団と教会騎士団を盾に出来る立ち位置へと密かに移動する。

 

「あらら……そういうこと」

 

そして、異変を感知しながらも奥へ進んだマリーは隠れ里へ踏み込んだ途端、視界に入って来た光景を見て見張りが居なかった事や先に隠れ里に行かせたはずの部下が帰って来なかった理由を理解したのだった。

 

「なんという……」

 

「なんだ、これは!!」

 

「どうなっている!?」

 

「そんな……嘘……だろ」

 

「みんなは……みんなは何処だ!?」

 

洞窟を抜けた先、地下ゆえに日の光が入って来ず松明と魔法による人工的な光だけで照らし出されている隠れ里は無惨にも半壊。

 

そこかしこで岩や土で出来た家屋が崩壊し瓦礫となって散乱しており、しかも正面に見える隠れ里の大通りのいたるところには血糊がべったりと付着し地面の上には血の池ができ、更には瓦礫に混じって赤黒い肉片がゴロゴロと転がっていた。

 

「フフフッ、おもしろくなってきたじゃない」

 

常軌を逸したスプラッターな光景を目の当たりにして情けなく狼狽える騎士達や取り乱し悲嘆に暮れるブラッディーファングのメンバーを他所に、仮とは言え自らの帰る場所が破壊されたはずのマリーは目を輝かせていた。

 

「さぁ、行きましょうか」

 

どこか愉しそうに口元を大きく歪めたマリーは、部下は元より隠れ里の惨状を前に及び腰になっているグルファレス魔法聖騎士団や教会騎士団の面々に声を掛ける。

 

「行くだと!?どこへ?」

 

「それはもちろんこの先へよ。私の予想だと……怒り狂った化物が待ってるわ。それを倒せば此処から無事に出られるんじゃないかしら?」

 

「暗殺者ギルドの本部がある隠れ里を壊滅させる力を持つ化物が待っているかも知れない場所に行くなんて、ふざけている!!それは丸腰でオークの巣に突っ込むバカと一緒だ!!」

 

「そうですよ、姉御!!ここは一旦引いて支部の連中を――」

 

「全く本当に情けない男共ねぇ……あぁ、それとこれは助言だけれど今さっき通ってきた後ろの洞窟から外へ逃げようとするのはオススメしないわよ?」

 

すごくいっぱいいるみたいだから。とラインハルトの問い掛けやボルマーの提案に落胆した表情から一変、いやらしい笑みを浮かばせながらマリーは言葉をわざと濁し答える。

 

意味深なマリーの言葉に誘導されラインハルトやボルマー、その他の者達が背後の洞窟に視線をやると、薄暗がりの中に何かが大量に蠢いていた。

 

「「「「……」」」」

 

洞窟を埋め尽くす何かの群れ、そんな光景を見てしまったラインハルト達は背後からの撤退を早々に諦め、不本意ながらもマリーの言葉に従う事にした。

 

「密集陣形を組め!!」

 

「盾と槍は前、剣は中央、弓は後ろだ!!」

 

「よし!!――ぜんたーい、前へ!!」

 

「さて。鬼が出るか蛇が出るか、はたまた竜が出るか。何にしろ楽しめそうだわ。ウフフ」

 

沸き上がる恐怖心を振り払うように声を張り上げて密集陣形を整え、ガシャガシャと鎧が擦れる金属音を響かせながら隠れ里の奥に進み出す両騎士団。

 

その後に軽やかなステップで続きながら、マリーは行く手に待ち受けているであろう相手の事を考えていた。

 

「ッ、前方に誰か居ます!!数は2、武器を所持しています!!そ、それと死体の山が!!」

 

「敵か。一時散開し、陣形を半包囲陣に組み直せ!!」

 

陣形を組みつつ隠れ里の大通りを進んでいく騎士団が、大通りの先にあった広場に積み上げられている死体の山と、その中心でこちらに背を向けて佇んでいる2人組を発見し戦闘態勢を取る。

 

「待ちかねたぞ」

 

「待ちくたびれたぞ」

 

組んでいた密集陣形を崩してから再度陣形を整え、半包囲陣を敷き終えた2つの騎士団や、前に出てきたマリー達に向き直った2人組の正体。

 

それは暗殺者ギルドの本部や隠れ里にいた人、妖魔、獣人を全て老若男女一切の区別なく斬り殺し骸の山と血の川を幾つも作り上げ、屍山血河を実現してみせた千歳と千代田の2人。

 

返り血1つ浴びてはいない2人だが、手に握る日本刀や薙刀の刃の部分にはべったりと血脂がこびりつき、夥しい数の敵を斬り殺した動かぬ証拠となっていた。

 

「なっ!?アンタはパラベラムの副総統!?何でアンタがここに!?ここの場所は部外秘になっているのに、どうやってここを知った!?」

 

「ボルマー、そんな事をわざわざ聞かなくても、あいつのせいに決まっているでしょう?少しは考えなさい」

 

そう言いつつ、マリーが部下に目配せをすると部下が何かをズルズルと引き摺ってくる。

 

「ほら、こいつでしょ?貴方達がここに辿り着けた理由は」

 

「……う……ぁ……」

 

マリーが部下に持って来させたモノ――それは目を潰され、膝から下が無くなっている霧島遥斗だった。

 

「「……」」

 

だが、変わり果てた遥斗の姿を前にしても、千歳と千代田は眉一つ動かさない。

 

冷めた目で遥斗を見ているだけだった。

 

「このままだと死刑にされるから、パラベラムを裏切って帝国に付きたい。理由としては最もだけれど……死を恐れ生を渇望する男が“これ”を持っているのはおかしいわよね?」

 

片手で遥斗の頭を鷲掴みにして宙に吊り上げたマリーが、無言を貫く千歳と千代田を前に懐から取り出したのは一粒の錠剤――自決用の毒薬だった。

 

「フフッ、それで……どうしようかしら?この男。返して欲し――」

 

「殺せ」

 

「……聞き間違いかしら?今、殺せと言ったの?」

 

「そうだ」

 

元より返すつもりは無かったが、まさか相手側から遥斗を殺せと言われるとは思っていなかったマリーや、その他の者は面を食らう。

 

「罪人と言えど、そいつも元は親衛隊の一員。滅私奉公の考えぐらい持っている。最後の最後に、ご主人様のお役に立てたのなら本望だろう」

 

「……ぃ……」

 

千歳の言葉が正しい事を示すように、遥斗が最後の力を振り絞り口元を大きく歪めニヤリと壮絶な笑みを浮かべる。

 

「……そう。なら、こいつは用済ね。お望み通り殺してあげる」

 

「うごっ!?――ガハッ!!」

 

「ゴミを返すわ」

 

思った通りの展開にならず、興醒めしたマリーは手に持っていた毒薬を無理矢理遥斗に飲ませ、遥斗が吐血し息絶えると千歳に向かって遥斗を投げ捨てた。

 

「……ご苦労だったな、霧島遥斗“中尉”」

 

飛んできた遥斗を軽々と受け止めると、千歳は遥斗に労いの言葉を掛けてから、そっと地面の上に横たえた。

 

「――なんて勝手なマネを!!奴からはまだ何も情報を聞き出せていないというのに!!」

 

「うるさいわねぇ……このまま拷問していても奴は何も吐かないわよ。それにどうせ最後は殺すのだからいいじゃない」

 

「貴様ら、今は仲間割れをしている時では無いのだぞ!!場ぐらい弁えろ!!」

 

貴重な情報源を失った事で内輪揉めを始めたレベルクとマリーを一喝したラインハルトは場を仕切り直すように、改めて大剣を構えると千歳に問うた。

 

「それで……貴様の目的はなんだ?貴様らの捕虜になっていた者達を取り戻しにでも来たか?」

 

斬り刻まれ、うず高く積み上げられた死体の山を背に、千歳はラインハルトの間抜けな疑問に嘲笑で答える。

 

「目的……だと?アハハハッ!!そんなことも分からないのか。それはもちろん――貴様らを殺しに来たに決まっているだろうがッ!!」

 

千歳の体から身震いするような、禍々しい殺気がブワッと放たれたのと同時に物陰から何十、何百という兵士が現れマリー達を包囲する。

 

「囲まれているだと!?」

 

「なんだ、この数は!?」

 

「どこから沸いて出た!?」

 

黒い目出し帽と黒い戦闘服を身に纏い全身を黒一色で統一し、手には大型のククリナイフを携えた不気味な兵士の群れに騎士達が気圧され一歩後ろに下がる。

 

「あらあら……知っていて黙っているのかと思いきや気付いてすらいなかったの?呆れたものね」

 

ただ1人、伏兵の存在に気が付いていたマリーは見るに堪えない騎士達の醜態を目の当たりにして呆れ果てていた。

 

「近接戦闘にだけ特化させたグルカ兵の特殊部隊だ、逃げれると思うな。だが、安心しろ。コイツらには手を出させん。貴様らは全員、私が斬り刻んで細切れにして殺す!!」

 

「姉様、私の事をお忘れなく」

 

「――それと私の事もです。カズヤ様を傷付けられてはらわたが煮えくり返っているのが自分だけだと思わないで下さい」

 

目の前にいる怨敵共を自分だけで1人残らず抹殺してしまいそうな勢いの千歳に千代田が待ったをかけ、更にマリー達の背後から現れたセリシアが千代田の言葉に便乗する。

 

「クッ、臆するな皆の者!!包囲されてしまっているが……こやつら3人を殺してしまえば、他は烏合の衆と化す!!数で押すぞ!!」

 

「そ、そうだ!!団長の言う通りだ!!それにこやつら程度レンヤ殿から魔武器を与えられた我らの敵ではない!!」

 

「「「「お、応!!」」」」

 

怒りで鬼神と化した3人を前に、その圧倒的な力の差すら感じ取る事が出来ない哀れな騎士達は鼓舞する声に無駄な勇気を奮い立たせ、よりにもよって自ら死線の境界線を越えてしまう。

 

「かかれぇーー!!」

 

「「「「オオオオォォォォーー!!」」」」

 

そして、自らの武を磨かず騎士としての義務も忘れ権力の上で胡座を組み、ぬるま湯に浸かり過ぎていた事。

 

加えて帝国に与する渡り人――レンヤが地球の神話や伝説に登場する武器を模して作成した魔武器を与えられていたことが、慢心に慢心を重ねる原因となり彼らを死地へと誘う事となった。

 

「貴様らによって異形の化物にされ、苦しみ死んでいった1352名の怨み」

 

「武運拙く貴様らの手にかかり戦死した同胞の無念」

 

「そして、私達の唯一無二のお方を傷付け汚した怒り」

 

「「「ここで晴らすッ!!」」」

 

臨海点を越え無尽蔵に溢れ出す怒りを糧に、3人はそれぞれの得物を構え怨敵を屠殺するべく猛然と駆け出したのだった。

 




次回は、みんな大好き蹂躙劇です
(´∀`)


ちなみに宣伝になりますが、『現代兵器チートの異世界戦記』――改め、『ミリタリーズ』も同時に更新しております。

宜しければ是非に。
m(__)m

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