ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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戦術目標を達成出来ず、ベヒモスとの前哨戦を判定負けのような形で終えたパラベラムは第2防衛線に展開していた全部隊をネラル川の後方にあるスプルート基地に撤退させ態勢の立て直しを図っていた。

 

そんな中、パラベラムの首脳陣は司令本部の一室に集まり今後の方針を決めるための会議を開き盛んに議論を交わしていた。

 

「現時点でスプルート基地に集結したのは陸軍第12師団、そして先の戦闘で少なくない被害を受けた海兵隊第5師団と陸軍第4師団。その他、新たに集結した分を含めアサルトアーマーが40、カノーネパンツァーが25、特殊機械化歩兵が52。そして基地の守備隊と陸上戦艦のラーテ。また基地の後方15キロにグスタフ、ドーラを含む列車砲13門が展開しております」

 

「うーん……そこそこ集まった方だが、この程度の戦力じゃあ、まだ勝てる気がしないな……」

 

「総統閣下。こうなればいっそのこと旧カナリア王国領からの全軍の撤退を視野に――」

 

「「「「……」」」」

 

「うっ……!?」

 

千歳が読み上げた報告書の内容に対しカズヤがやれやれと言わんばかりに首を横に振りつつ言葉を漏らした。

 

すると、それに反応してか会議室に詰めていた1人の将官が考え無しに迂闊な発言を行ってしまい、他の者達から一斉に鋭く冷たい視線の集中砲火を浴び冷や汗を滴ながら呻くハメになった。

 

「ん〜まぁ、撤退も1つの手であるが旧カナリア王国領にいる全ての民間人を逃がす手立てがない以上引くわけにもいかないだろ」

 

「そ、そうでありますな。はい」

 

カズヤから出された助け船に必死に抱き付いた男は引き吊った笑いを浮かべ首を何度も縦に降った後、会議が開かれている間は2度と口を開くことは無く、また千歳と千代田のいる方を見る事も無かった。

 

「さて、話を元に戻そう。我々はベヒモスや土竜がスプルート基地に来襲するまでの、残り3時間という限られた時間の中で起死回生の名案を捻り出さないと後がなくなってしまう訳だが……何かいい案はないか?」

 

「「「「……」」」」

 

まぁ、いきなり名案が出てくる訳もないか。

 

並み居る将官にカズヤが視線を巡らせるが、皆一様に口を閉じたままであった。

 

「――マスター、バーランスの総督府にいるカレンよりマスター宛に秘匿回線での映像通信が入りました」

 

「ん、分かった。向こうの部屋に繋いでくれ。皆、悪いが少し席を外すぞ」

 

暗く沈んだ雰囲気が会議室を包んでいる最中、旧カナリア王国領の王都バーランスに設置された総督府へ代官として派遣されているカレンからカズヤに秘匿回線を使った映像通信が入る。

 

カズヤはその映像通信に答えるべく、将官達に断りを入れてから席を立ち会議室の隣の誰も居ない別室に向かい通話ボタンをONに入れた。

 

『――もしもし?聞こえてる?』

 

「あぁ、映像も音声もしっかり届いてる。それでどうしたんだ?カレン」

 

『今の戦況が知りたくて連絡したのだけれど……どうなの?』

 

「……極めて困難な状況だな」

 

『そう』

 

ディスプレイの向こう側にいるカレンはカズヤの返答に気まずげに俯く。

 

「……それはそうと、カレン。今ベヒモスとは別件のちょっとした問題が発生していてな。で、その問題を解決するためにカナリア王国の土地勘がある者が必要なんだ。だから悪いけど迎えを寄越すから今すぐパラベラムの本土に戻って来てくれないか」

 

『…………………………はぁ〜〜全く、貴方って人は……その心遣いは妻として、何より女として嬉しいけれど、私的には愛しい旦那様が直接迎えに来てくれる方が嬉しいの。だから貴方が迎えに来てくれるまでここで待ってるわ』

 

あたかもそうだったかのようにカズヤは偽りの要件を口にし万が一の場合に備え危険なバーランスからカレンを先に避難させようとしたのだが、その目論みはカレンに見抜かれており苦笑混じりに断られてしまう。

 

「どうしてもか?」

 

『えぇ、どうしても。皆を置いて1人だけ逃げるのは性分に合わないのよ』

 

「……分かった。だったら何が何でも必ず迎えに行く。だから待っててくれ」

 

『えぇ、待ってるわ。だけどあまり待たせないでね』

 

「了解した」

 

『では、また。――……あぁ、そうそう、言い忘れるとこだったわ。今度の事が落ち着いたら2人っきりでどこかに出掛けましょう?私達が出会った時のように』

 

「あぁ、そうしよう。楽しみだ」

 

『フフッ、私もよ。じゃあね――』

 

最後に楽しそうに笑いながらカレンは映像通信を切った。

 

「ッ、よし、戻るか」

 

カズヤはカレンとの映像通信を終えると無言で自身の頬を叩き気合いを入れ、会議室に舞い戻る。

 

 

 

「――ではご主人様、通常戦力での迎撃を継続するという案でよろしいでしょうか?」

 

「……」

 

結局は勝算の低いこの方法に頼るしかないのか……。

 

格好をつけてカレンを必ず迎えに行くと言い切ったカズヤだったが結果的には会議の中で名案が生まれず。

 

不安はあるが、これまで通りの手法である通常戦力での迎撃を継続するというベストではないがベターの方針が取られる事になった。

 

「あぁ、分かった。それで行こ――」

 

「あ、あの!!は、ははは、発言をしてもよろしいでしょうか!?」

 

カズヤが千歳の最終確認の言葉に頷きかけたその瞬間。

 

会議室の片隅に置かれた椅子に腰掛けていた人物が突然ガタンと椅子を揺らしながら立ち上がって大声を上げカズヤの言葉を遮り、皆の視線を一身に集める。

 

「……なんだ貴様、あまり見ない顔だが所属は?」

 

声を上げた人物を千歳が半目で訝しげに睨みながら問いただす。

 

「は、はい!!私は第2技術部所属のユニス・フローレンス技術少尉でありゃます!!」

 

「ちょ、ちょっとユニス!?止めなさいって!!不味いって!!」

 

フローレンス技術少尉と名乗った女性兵士は隣の椅子に座る同僚が諌めるのも聞かず、威圧感をタップリと振り撒く千歳の質問におっかなびっくり噛みながらではあったが、しっかりと返事を返す。

 

「ほ、本日は第2技術部の部長の代わりゅとして私とこのルミア・コンレイ技術少尉が共にゅ、ここへ参りましゅた!!」

 

「や、止めて、ユニス!!私の名前は出しちゃダメ!!」

 

しかも、何気に同僚であるコンレイ技術少尉を道連れにしながら。

 

「それで?発言の許可が欲しいとの事だったが。貴様は、この場がご主人様の総統閣下の御前だということを理解しているのか?」

 

「は、はい!!承知しております!!」

 

「ならばその上で、貴様ごときに発言許可が降りるとでも思ったのか?」

 

「えっ、あっ……いえ……そ、そのっ……私は!!」

 

「控えろ!!たかだか技術少尉の貴様が発言出来る程この場は軽くないのだ!!」

 

「っ!?……も、申し訳ありません……でした……」

 

千歳の一喝を受けたフローレンス技術少尉は今になって溢れ出して来た冷や汗を流しながら頭を下げる。

 

「……ふむ、フローレンス技術少尉と言ったな。発言を許す、言ってみろ」

 

「ご主人様?」

 

思わぬハプニングが起き、そのまま千歳によって収集が取られたかと思われたが、カズヤが不意にフローレンス技術少尉の発言許可を出した。

 

「よろしいのですか?あのような者に発言を許しても」

 

「何かしらの考えがあっての事だろう。それに言わせるのも聞くのもタダだ。まぁ、しょうもない事だったら……千歳に任せる」

 

「了解しました。――フローレンス技術少尉!!ご主人様の許可が下りた、言ってみろ」

 

「は、はい!!」

 

色々ともうダメだと諦めていたフローレンス技術少尉は発言許可が下りた途端、バッと頭を上げて必死に自分の考えを口に出した。

 

「わ、私が言いたいのは特型アサルトアーマーの魔導炉を疑似MA弾に転用してはどうかということです!!」

 

「……そんな事が出来るのか?」

 

「ひゃい!?と、特型アサルトアーマーの大型魔導炉の臨界点を意図的に突破させれば大規模な爆発を誘発させる事は可能であ、ありゅます!!」

 

カズヤから直接声を掛けられ更にテンパったフローレンス技術少尉は緊張のあまり、目を回し顔を真っ赤にしながらも言葉を紡ぐ。

 

「……フローレンス技術少尉、貴官に1つ聞きたい。いくら大型とは言え魔導炉の臨界点を突破させた程度で物質を消滅させる程の魔力暴走を引き起こせるのか?いや、そもそもMA弾は魔力暴走の理論を応用しているだけで魔力暴走その物が物質を消滅させているのではないのだぞ?」

 

「は、はい!!その問題点なのですが……それは実際に魔導炉の臨界点を突破させてみないと分かりません。……なにぶん前例が無いので」

 

「はぁ……話にならんな」

 

フローレンス技術少尉の提案に少しだけ沸いた会議室の室内だったが、千歳の質問にフローレンス技術少尉が明確な回答を出来なかったため急速に静まり返ってしまう。

 

「いや、物質を消滅させなくても大規模な爆発を引き起こせるならいけるかもしれない」

 

だが、会議室の中が静まり返っていたからこそカズヤがポツリと漏らした言葉に皆の視線が集まった。

 

「……ご主人様?」

 

「覚えてないか、千歳。スプルート基地を建設しようとした時の事を」

 

「スプルート基地の……建設ですか?」

 

「あぁ、スプルート基地の当初の建設予定地の地下には何があった?」

 

「スプルート基地……建設……地下……?っ!?地底湖!!」

 

カズヤの言葉によって記憶の彼方に忘れ去られていた出来事やモノを千歳が思い出し驚きに目を見開く。

 

「あぁ、そうだ。ドでかい地底湖があったからこそ、わざわざ地底湖を避けてスプルート基地を作ったんだろ?それを利用するんだ」

 

「まさか……魔導炉の爆発で基地を吹き飛ばしてベヒモスを地底湖に叩き落とすおつもりですか!?」

 

「その通り。地底湖があるのはスプルート基地の大体真横辺りの地下だろ?だからベヒモスが基地の真上に来た際、基地の地下施設を魔導炉の爆発で破壊してやればベヒモスは地下に落ち、更に地底湖の膨大な水がそこに流れ込むって寸法だ。そうすれば噴火も防げる。それに核を使う訳じゃないから地底湖や地下水脈を放射能で汚染する心配もない」

 

「し、しかし、その作戦が、そう上手くいくものでしょうか?」

 

「――千代田!!通常戦力での迎撃を続けるのと魔導炉の爆発でベヒモスを地底湖の水に沈めるのではどっちの勝算が高い!?」

 

「……僅かな差ですが、後者かと」

 

「ならばよし!!」

 

千歳の疑問を千代田の発言によって片付けたカズヤはバンっと机を叩くと声を張り上げた。

 

「皆、話は聞いていたな?これよりフローレンス技術少尉が提案した案と俺の案を混ぜた複合案を使ってベヒモスの撃滅に移る!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

カズヤの宣言で将官達は一斉に席を立ち敬礼。

 

各々が成すべき事を成すべく部屋を飛び出して行った。

 

「フローレンス技術少尉!!」

 

「えっ……あ、はい!!何でありましょうか!?」

 

そんな様子を呆けたように眺めていたフローレンス技術少尉にカズヤが声を掛ける。

 

「貴官には一時的に大佐の階級を与えるから提案者としての責任を持って特型アサルトアーマーの魔導炉をキッチリ爆弾に仕上げろ」

 

「えっ?私が……大佐?」

 

「ん?出来ないのか?」

 

「……え、あっ、や、やります!!やらせて頂きます!!」

 

「よし、伊吹!!」

 

「ハッ、何でしょうか?」

「彼女のバックアップを頼む」

 

「了解しました」

 

カズヤは会議室に残っていた伊吹にフローレンス技術少尉改め、フローレンス技術大佐のバックアップに付くように命じた。

 

そして自身は千歳と千代田を伴い全体の指揮を取るべく会議室を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

逃げてきた避難民や非戦闘員、更には集結した戦力のほとんどが退避し、最早僅かな人員しか残っていないスプルート基地では降り止まない火山灰のせいで真昼だというのにも関わらず夜のように暗いため煌々と灯りが灯されていた。

 

そして、そんな灯りに惹き付けられたようにベヒモスがスプルート基地の前に姿を現す。

 

「ッ!!ベヒモスが第1次迎撃ラインに侵入!!列車砲及びラーテの射程圏内に入りました!!」

 

作戦指令室の室内にベヒモスの来襲を知らせるオペレーターの声が響く。

 

「来たか。……土竜や、その他の魔物はどうした?」

 

「現時点では、その存在を確認出来きません」

 

「居ないだと?どこに消えたんだ?……まぁいい。居ないなら居ないで好都合なだけだ。しかし、警戒だけは怠るなよ――攻撃開始」

 

先の戦闘で散々パラベラム軍を翻弄した土竜の群れが出てこない事を訝しみつつもカズヤは攻撃許可を下す。

 

瞬間、13門の列車砲とラーテの主砲が同時に火を吹いた。

 

轟音と共に火山灰の舞う空へと撃ち出された2発ずつの80cm砲弾と28cm砲弾、そして11発の大口径砲弾は数十秒間の飛翔の後、6〜7発が目標であるベヒモスの頭部に命中する。

 

だが、火山の噴火を誘発しないようにとベヒモスの頭を狙い撃ちしたパラベラム軍の目論みは正しかったが、砲撃によるベヒモスのダメージは皆無であり、また炸裂した砲弾が生み出した爆煙が晴れたあとには心なしかベヒモスの目が怒っているように見えた。

 

――ギャオオオオォォォォンン!!

 

いや、完全に怒っていた。

 

「怒りで我を忘れてくれたら楽なんだが。――伊吹、フローレンス技術大佐の方はどうなっている?」

 

怒りの咆哮を上げ、僅かに歩くスピードを増したベヒモスの姿が映るディスプレイに目をやりつつカズヤが伊吹に問い掛けた。

 

「ハッ、幸いな事に特型アサルトアーマーの魔導炉は本土ではなくかつての前哨基地――現在のダブリング基地に収用されていたため既にスプルート基地の地下に搬入済みです。またフローレンス技術大佐や、他の技術者達も現地入りしています。ですから後はタイミングを見計らって魔導炉の臨界を突破させるだけとなっております」

 

「分かった。千歳、バックアッププランの方はどうなっている?」

 

「ハッ、現時点で地下施設の約50パーセントに爆薬の設置を完了。ベヒモスが基地に来るまでには必ず完了させます」

 

「よし。ならば後は待つのみだな」

 

作戦指令室で戦場の様子を眺めながらカズヤ達は全ての準備が整う、その時を静かに待つ事になった。

 

「……ッ!?ベヒモスの火山から土竜の群れが出現しました!!」

 

「土竜の個体数、およそ2万!!え、えっ!?ど、土竜が数十体単位の集団に別れ各個にスプルート基地に向かっています!!」

 

スプルート基地とベヒモスの距離が5キロを切った直後、ベヒモスの背中の火山から土竜の群れが出現。

 

しかも、先の戦闘による教訓を生かしたのかどうなのかは分からないが、土竜達は小さな集団を作りお互いの集団の距離を一定に取った状態でスプルート基地に迫りつつあった。

 

魔物にしてはヤケに知能があるな。

 

不自然な程、統率の取れた土竜の行動に違和感を覚えた一方で少しだけ感心しつつカズヤは口を開く。

 

「……潮時だな。フローレンス技術大佐達や工兵を撤退させろ」

 

「ハッ、了解しました」

 

ベヒモスと土竜の接近に伴いスプルート基地の地下で最後まで各々の任務に従事していたフローレンス技術大佐達や工兵達に撤退命令が下る。

 

「さてと……野郎共、覚悟はいいか?」

 

『『『『応!!』』』』

 

そして、撤退命令が出た味方の援護についたのが、僅か3時間の教習を受けただけで基地守備隊が保有していたStrv.103Dに乗らされた反逆者達――霧島遥斗元中尉とその部下達である。

 

殿を務める(ほぼ強制的に)事になった遥斗が乗り込んでいるStrv.103Dはスウェーデン軍が装備していた第2世代型主力戦車に相当する戦車で楔形の車体に105mmライフル砲を直接固定し車高と前面投影面積を抑えており、また自動装填装置を装備することで車内スペースの高さを最小限としているため敵を迎え撃つということに対しては最適な戦車である。

 

しかし、れっきとした戦車でありながら砲塔を持たない独特の形状のため駆逐戦車や自走砲、突撃砲等に誤解されがちな戦車でもある。

 

「全車、撃ち方用意――撃てえぇーー!!」

 

そんなStrv.103Dで殿を務めさせられている遥斗は双眼照準器越しに迫り来る土竜達を睨みL74 105mmライフル砲の照準を合わせると揮下にある全10両のStrv.103Dに対し攻撃命令を下した。

 

「全車、後退!!撃ちながら引け!!」

 

『『『『了解!!』』』』

 

10門のL74 105mmライフル砲から榴弾が放たれ土竜を吹き飛ばすなり、2丁のKsp.58 7.62mm機関銃で牽制射撃を行いつつ遥斗達は前進するのとほぼ同じ速度で後進することができるStrv.103Dの特性を利用しながら全速力で後退を開始。

 

ちなみに後退時に車体の操縦を行うのは車体後方に備えられた後ろ向きの操縦手席に座る通信手兼副操縦手の仕事である。

 

「装填完了、涼宮!!停車しろ!!」

 

「了解!!」

 

自動装填装置での砲弾の装填が完了すると遥斗は後部操縦手席に座る涼宮小尉に停止命令を飛ばす。

 

「これでも喰らえ!!」

 

そして停車したStrv.103Dの車体の揺れが収まると、遥斗は再び双眼照準器を覗き込み砲撃を行い土竜を吹き飛ばした。

 

「なかなか上手いな」

 

作戦指令室から遥斗達の奮闘を眺めるカズヤが不意に言葉を漏らした。

 

「……全くです」

 

あわよくば、この戦闘で遥斗達を処分しようと目論んでいた千歳は自分の目論見が外れた事に少しだけ苛立っていた。

 

「スプルート基地より全部隊の退避を確認」

 

「ベヒモスがスプルート基地の直上に来ます」

 

遥斗達が殿の役目を何とか果たし、土竜の追撃も振り切り無事に戦場を離脱してから15分後。

 

遂にベヒモスがスプルート基地の真上にやって来た。

 

しかし、この時点では件の魔導炉はまだ臨界点を迎えてはいなかった。

 

「ご主人様、バックアッププランに移行してもよろしいですか?」

 

「いや、待て。魔導炉の臨界まで後何分だ?」

 

「およそ、5分です!!」

 

「なら、大丈夫だ。もう少し様子を見るぞ」

 

「了解しました」

 

オペレーターの返答を聞きカズヤは万全を期すために千歳に待機を命じ、もどかしい程ゆっくりと流れる時間を耐えることにした。

 

だが、その待機している時間はスプルート基地がベヒモスによって蹂躙させる様をまざまざと見せつけられる事になり、カズヤ達を大いに苛立たせることになる。

 

「魔導炉の臨界点まで3……2……1……0」

 

そして、5分後。カズヤ達が待ちに待った瞬間がやって来る。

 

特型アサルトアーマーの魔導炉の臨界点が突破し、スプルート基地の地下で核爆発に匹敵する大爆発が発生したのだ。

 

それにより周辺の土地では巨大地震が発生したような揺れに襲われた。

 

また爆心地であるスプルート基地の地下施設が完全に消し飛んでしまったことで地上部分が崩落を開始。

 

基地を完膚無きまでに破壊し、悠然とその場を後にしようとしていたベヒモスは崩落の魔の手に捕まり巨大な縦穴へと引きずり込まれる。

 

しかも、不運なことにベヒモスは後ろ足からひっくり返ったように縦穴へ落ちたため2度と起き上がる事が出来なくなっていた。

 

そのため、この時点で既にベヒモスは戦闘不能の状態に陥っていたのだが、止めとばかりに地底湖の冷たい水が濁流となって縦穴に流れ込んで来たのだから堪らない。

 

ベヒモスは自身の武器であった火山から流れ出した溶岩と地底湖の水が触れた結果、生じた大規模な水蒸気爆発により木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

「……終わったな」

 

苦戦させられた相手の呆気ない最後を看取ったカズヤが静かに目を閉じため息を吐いたのだった。

 


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