ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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ちょっと間が開きました
(;´д`)

この時期の仕事は楽な筈なんですが……。

何故か、続々と増える業務に減る人員……。

今年一杯は忙しさが続きそうです
・゜・(つД`)・゜・



12

迫り来るその存在に一番早く気が付いたのはグローリア攻略を目論む遠征艦隊より100キロ離れた海域で哨戒任務にあたっていた第7潜水戦隊の3隻の潜水艦であった。

 

「うむ……つまらん、実につまらん。副長、何とかしろ」

 

日光が海水によって遮られ漆黒に包まれている水深150メートルを10ノットの速力で潜航中のバージニア級原子力潜水艦、1番艦SSN-77『バージニア』の艦内。

 

ホトニックマスト(光学電子式潜望鏡を装備しているため従来の潜水艦のようにセイル上部から発令所まで潜望鏡が貫通していない非貫通式マスト)を採用しているため場所を取る潜望鏡が無く、また操縦装置がジョイスティックになっていたり、ゴチャゴチャとした計器類が各種ディスプレイやコンソールに化けていたりと先進的な作りになっている発令所内でパラベラムに多数存在している女艦長の内の1人、フラン・メイフィールド中佐が座っている艦長席から顔だけを反らし背後に控える副長のアーサー・マクスウェル少佐に無茶ぶりを振った。

 

「つまらん、って……あの……今は任務中なのですが、艦長」

 

キリッとした凛々しい顔立ちに何の感情も浮かべず、思わずひれ伏したくなるようなドSの――女王様のようなオーラを纏い眉だけを少し歪め無表情で駄々っ子のような事をのたまったメイフィールド艦長にマクスウェル副長はヤレヤレと言わんばかりに首を横に振る。

 

「それは分かってはいるが……はぁ……こう何も起きないと暇だ」

 

「ッ……我慢して下さい。艦長」

 

短く切り揃えられた金髪をフワッと撫で上げたり、膝の上で組んでいた細く長い足をサッと組み替えたり、ブルンッと大きく膨らんだ胸元をパタパタと見せびらかせるように手で扇いだりと無駄に色気を振り撒くメイフィールド艦長から顔を反らしつつ呆れたようにマクスウェル副長が諌めの言葉を吐く。

 

「フフッ……どうした?何故、顔を反らす?」

 

「ッツ!!」

 

この人は!!

 

自分からそうなるように仕向けたにも関わらず、顔を背けたマクスウェル副長の頬が少し赤みを帯びた事を瞬時に見て取ったメイフィールド艦長はニヤニヤと愉しそうに意地の悪い笑みを浮かべる。

 

しかもメイフィールド艦長に同調するように発令所内に詰めている他の士官や兵達がマクスウェル副長の初心な反応を見てクスクスと小さく笑っていた。

 

ぐぬぬ……コイツら他人事だと思って。

 

例え小さなプライドを守るために抗議の声をあげたとしてもメイフィールド艦長はこれっぽっちも意に介さない事や、場合によっては更に弄られてしまう事を実体験として知っているマクスウェル副長は歯痒い思いを抱きつつ黙り込むしか手が無かった。

 

「黙りとはつれないな、副長。ハハッ、お前で暇が潰せないじゃないか」

 

「……はぁ〜。艦長、あまりそう言う事ばかりを仰られると本当に何か起きますよ?それも面倒極まりない事が」

 

暇だ、暇だと駄々を捏ねるメイフィールド艦長の口撃を防ごうとマクスウェル副長がそう言い放った時だった。

 

「――ッ!?艦長!!12時方向、距離3000、深度800より本艦に向け10ノットの速さで急速接近中の物体を確認しました!!」

 

パッシブソナー――水中聴音機で海中の音を聞きつつ周辺警戒にあたっていたソナー長が突如、大声を上げた。

 

「艦長……」

 

「「「「……」」」」

 

「そ、そんな目で私を見るな!!私のせいではない!!――えぇい、総員第1種戦闘配置!!さっさとせんか!!」

 

マクスウェル副長や発令所にいる部下達に「あ〜あ、艦長のせいだ」と言わんばかりのジト目で睨まれたメイフィールド艦長は慌てた様子で第1種戦闘配置を命じた。

 

「「「「了解!!」」」」

 

マクスウェル副長達の返答の直後、戦闘配置を知らせる警報が鳴り響き艦内が通常の照明から赤色灯へと切り替わり、第1種戦闘配置が発令された事を知った兵士達が慌ただしく己の配置へと走る。

 

兵士達が配置に付いていくなか、メイフィールド艦長やマクスウェル副長も目標の動静解析を始めとしたあらゆる戦術情報を表示できるHLS-Dコンソールの前に集まり状況確認を始めた。

 

「で、接近中の物体は何だ?まさか敵の潜水艦という訳では無いのだろう?」

 

「ハッ、ヒレか尾のようなもので水を掻く音が聞こえますので恐らく海魔の類いだと思われます」

 

「海魔……海に棲まう魔物か。フッ、ちょうどいい暇潰しになる」

 

「艦長、無駄な争いを起こすのは……」

 

「何を言う。海魔がこちらに向かって来ているんだ。これは自衛戦闘の範疇に収まる」

 

「……」

 

建前を述べるメイフィールド艦長だったが、明らかに暇を潰す事が目的で接近中の海魔と一戦を交えようとしていた。

 

「さて、『くろしお』と『ヴィボルグ』にも協力を要請しろ、一気に叩くぞ」

 

「イエス、マム」

 

メイフィールド艦長の命令に少しだけ肩を落としながら答えたマクスウェル副長はすぐさま『バージニア』の後方に続航しているおやしお型潜水艦、7番艦SS-596『くろしお』と近代改装済みのキロ型潜水艦、3番艦B-227『ヴィボルグ』に水中音響通信で連絡を取り戦闘協力を取り付けた。

 

「1番から4番、全魚雷発射管に魚雷装填」

 

「了解、1番から4番発射管に魚雷装填!!」

 

「続いて1番、2番魚雷発射用意」

 

「1番、2番魚雷発射用意!!」

 

事前に決められていた手筈通りに『ヴィボルグ』が遠征艦隊に状況を報告するべく海面に向け浮上していき『くろしお』が『バージニア』の右舷側、距離800の位置に展開したのを確認した後、『バージニア』は全部で4基ある533mm水圧式魚雷発射管にそれぞれMk48大型誘導魚雷を装填し1番、2番管の発射口だけを開き攻撃態勢を整える。

攻撃態勢を整えた『バージニア』と同様に『くろしお』も6基ある533mm魚雷発射管に89式長魚雷を装填し1番、2番、3番、4番の魚雷発射管の発射口を開く。

 

「ピンガーを打て」

 

「了解」

 

そして両艦は魚雷を発射する前に目標の正確な位置を確かめるべく、艦首ソナーアレイよりピンガー――探信音を発射した。

 

「――こいつは……デ、デカイ……ッ!!目標の体長は推定で500メートルです!!本艦との距離は2500!!」

 

発射されたアクティブソナーの反響音によって目標のおおよその大きさを知ったソナー長が驚きに目を見開く。

 

「なにっ!?」

 

 

「狼狽えるな、副長。どうせ奴はすぐに死ぬんだ」

 

「ハッ、申し訳ありません。艦長」

 

ソナー長の報告に驚いたマクスウェル副長とは打って変わって、迫り来る海魔の大きさを知ってなおメイフィールド艦長は一切表情を変えずに余裕を崩さなかった。

 

「よし……1番、2番魚雷発射」

 

「1番、2番魚雷発射!!」

 

メイフィールド艦長の命令を水雷長が復唱したと同時に1番、2番魚雷発射管より2発のMk48大型誘導魚雷が海中に解き放たれる。

 

続いて『くろしお』から4発の89式長魚雷が発射された。

 

「目標の進路変わらず。12時方向、距離2000、深度300!!」

 

「魚雷命中まで残り30秒!!」

 

魚雷本体に搭載されたアクティブ・パッシブソナーの誘導により計6発の魚雷が巨大な海魔に向け接近していく。

 

「命中まで3、2、1、0」

 

探信音を放ちながら海中を進んでいくMk48大型誘導魚雷と89式長魚雷が、避ける素振りさえ見せず愚直なまでに真っ直ぐ泳いできていた海魔に命中。

 

薄暗い海中に一瞬だけ眩い閃光が瞬き、爆発の衝撃波が辺りを揺さぶる。

 

「全弾、目標に命中!!」

 

「フン、呆気なかったな。総員第2種警戒態勢に移行――」

 

片が付いたと判断したメイフィールド艦長が第1種戦闘配置を解こうとした時、耳に全神経を集中させていたソナー長が眉間に皺を寄せながら小さく言葉を漏らした。

 

「……艦長、少しだけ待ってください」

 

「うん?どうした?」

 

「……これは――……ッ!?目標健在!!本艦に向け接近中、距離1500、深度200、速力15ノット!!」

 

目標の殲滅を確認するために数秒間隔で打っていたアクティブソナーが依然として接近中の目標の姿を捉えた。

 

「何だと!?まだ生きているのか!?クソッ、3番、4番魚雷発射!!」

 

「3番、4番魚雷発射!!」

 

「次弾再装填急げ!!」

 

メイフィールド艦長とマクスウェル副長の命令が矢継ぎ早に飛び交い、接近中の海魔を仕留めるべく『バージニア』の乗員を動かしていく。

 

「『くろしお』より魚雷が2本発射されました!!」

 

「ッ!!後方より急速接近中の魚雷を確認、速い!!『ヴィボルグ』が発射したシクヴァルと思われます!!」

 

『バージニア』の魚雷発射に続き『くろしお』も追加の魚雷を撃ち出す。

 

更に遠征艦隊への状況報告を終え、戦闘に参加した『ヴィボルグ』が『バージニア』と『くろしお』の間を縫うように6発のVA-111シクヴァルを海魔に向けて発射した。

 

水中ミサイルとも揶揄されるシクヴァルは発射管から射出された直後は50ノットであったが、発射直後に搭載されている液体燃料ロケットが点火し瞬く間に最高速の200ノット(およそ370キロ)に達した。

 

この恐るべき雷速はシクヴァルが進む際に周囲に大量の小さな泡(スーパーキャビテーション)を作り出し抵抗力を大幅に減らしているために実現している速さである。

 

最も恐るべき雷速を誇るシクヴァルだったが、先行したMk48大型誘導魚雷と89式長魚雷が海魔に命中した後、続けざまに命中したもののやはり海魔を倒すまでには至らない。

 

「ぎょ、魚雷が効かない……だと?……マズイ……」

 

「艦長、ここは一時撤退を」

 

「……グッ、しょうがない。機関最大戦速!!面舵一杯!!」

 

自分達が持つ兵器が悉く効いていない事実にメイフィールド艦長が余裕を無くし狼狽えているとマクスウェル副長が撤退を進言。

 

現有戦力では太刀打ち出来ない事が分かったメイフィールド艦長はマクスウェル副長の意見を聞き入れ、撤退の道を選んだ。

 

「機関最大戦速!!面舵一杯!!」

 

メイフィールド艦長の撤退命令に操縦装置コンソールの前に座る2人の操舵手がジョイスティックを右に傾け船体を回頭させる。

 

「ぬっ!!」

 

「うおっ!?危ない!!」

 

撤退するために速力を増し勢いよく回頭したため、傾いた『バージニア』の発令所で足を滑らしたメイフィールド艦長をマクスウェル副長が慌てて抱き締めるように支えた。

 

「ッ、『くろしお』『ヴィボルグ』本艦と同様に回頭を開始!!」

 

『バージニア』の撤退の判断に『くろしお』と『ヴィボルグ』も追随し一斉に回頭を始める。

 

その事を艦長に報告するべくソナー長がグググッと傾く発令所の中で手摺に掴まりながら声をあげた。

 

「目標、更に増速!!速力20ノット、距離800、深度150!!尚も増速中!!駄目です、追い付かれます!!」

 

「クソッ!!総員衝撃に備えろ!!」

 

マクスウェル副長に抱き締められたままメイフィールド艦長が叫び。

 

「目標と接触する寸前に出来るだけ後方に向けて最大出力でピンガーを打て!!」

 

マクスウェル副長がメイフィールド艦長の命令とは別の命令をソナー長に命じた。

 

「了解しました!!本艦と目標の距離700…………500…………300…………200…………100…………50…………10、ピンガー打ちました!!0ッ!!」

 

ソナー長のカウントダウンが10になると『バージニア』から最大出力でピンガーが打たれた。

 

そしてカウントダウンが0になった次の瞬間、『バージニア』の船体を凄まじい衝撃が襲う。

 

「ぐぅぅぅッ!?」

 

「くうっ!!」

 

「「「「ウワアアアアァァァァーー!!」」」」

 

船体が粉々になってしまいそうな衝撃に『バージニア』の船員は皆、例外無く悲鳴のような声をあげた。

 

「ウッ――……被害報告急げ!!」

 

一緒に倒れていたマクスウェル副長の腕の中から這い出し、非常電源に切り替わったせいか薄暗い発令所の中を見渡したメイフィールド艦長が声を張り上げる。

 

「……ッ、船体後部に目標が接触した模様!!被害甚大!!」

 

「後部第7、第8ブロックに浸水!!機関室にもです!!」

 

「スクリューが船体より脱落した模様、現在の推力0!!」

 

「本艦の速力は現在4ノット!!更に速力低下、深度は170!!尚も沈降中!!」

 

「マズイッ!!原子炉に浸水が迫っています!!」

 

「クッ、現刻を持って船体後部は破棄する!!隔壁閉鎖急げ!!なんとしても原子炉への浸水は防ぐのだ!!それとメインバラストタンクブロー!!これ以上、艦を沈ませるな!!」

 

「「了解!!」」

 

マクスウェル副長の機転が幸を奏し『バージニア』を押し潰さんと迫って来ていた海魔は最大出力で放たれたピンガーの音に驚き衝突の寸前に僅かに身を逸らした。

 

そのお陰で『バージニア』は撃沈を免れ船体後部を深く抉られるだけで済んだのだが、被害は大きくシュラウドリング付き推進機が完全に破壊され、後部の軽量型広開口ハイドロフォンアレイも破損し各所で浸水が始まり、また船体は艦尾からゆっくりと海底に向け沈んでいた。

 

「……『くろしお』『ヴィボルグ』との通信途絶」

 

「――……鉄の軋む音、それに空気が大量に放出されている音が聞こえます」

 

「……クソ」

 

事実上の『くろしお』『ヴィボルグ』の撃沈報告に発令所内の空気は更に沈み込み、メイフィールド艦長の悔しげな言葉だけが辺りに響いた。

 

「――……ッ、イテテ……。艦長はご無事ですか?」

 

メイフィールド艦長を庇って、コンソールの角に頭をぶつけ額から血を流すマクスウェル副長がようやく意識を取り戻した。

 

「気が付いたか副長――大丈夫か?血が……」

 

「えぇ、なんとか」

 

マクスウェル副長の怪我に気が付いたメイフィールド艦長が慌てて駆け寄り親身になって怪我の具合を確かめる。

 

「それより艦長は大丈夫でしたか?」

 

「あぁ、お前のお陰でな。礼を言う――ムッ」

 

2人が言葉を交わしていると船体にドンという衝撃が走った。

 

「海底に着底しました。深度は230」

 

メインバラストタンクから海水を排出し、代わりに空気を充填して浮上を試みた『バージニア』だったが浸水の量が多すぎ海底に着底するハメになった。

 

「……救助が来るまで待機だな」

 

「……そうですね」

 

「……というか救助は来るのか?」

 

「連絡が取れなくなった以上、捜索には来るはずです」

 

「そう……だな」

 

「……しかし我々が救助されるまで酸素がもつかどうかが問題です」

 

「……もつように祈るしかないな」

 

「えぇ」

 

戦闘不能に陥り、しかも動力を失い身動きの取れなくなった『バージニア』は暗闇に包まれた水深230メートルで救助を待つ事しか出来なくなった。

 


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