ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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耳にした者に非常事態だということを知らせ、危機感を煽る甲高い警報がパラベラム本土やその他の島々に鳴り響く。

 

「状況を報告しろ!!」

 

千歳と千代田を引き連れ司令本部の作戦指令室に飛び込んだカズヤは開口一番にそう叫んだ。

 

「ハッ、5分程前に本土から250キロ東の空域に巨大な飛行生物が出現。またグローリアを攻略中の遠征艦隊から100キロ離れた海域で哨戒航行中の潜水艦部隊が未確認巨大生物を発見、交戦中との報告を送って来ていましたが現在潜水艦部隊とは通信が途絶しております。更に帝国の領内に進攻中の地上部隊からもコーラッド平原にて未確認巨大生物及び無数の魔物を確認したとの報告が入りました」

 

カズヤよりも先に作戦指令室に入り状況を把握していた伊吹が素早く答えた。

 

「3体の化物が同時に出現?……厄介なことになったな。――千歳、千代田。2人はこれをどう見る?ただの偶然だと思うか?」

 

「十中八九、帝国による攻撃だと私は思います」

 

「私も姉様と同じ意見です。マスター」

 

「そうか……。2人とも俺と同じ意見か」

 

「哨戒機より映像来ます」

 

「他からも映像が来ました」

 

この非常事態をただの偶然と捉えるには些か無理があるとカズヤ達が話し合っていると未確認飛行物体の近くを飛行していたP-1対潜哨戒機とE-2ホークアイ早期警戒機が未確認飛行物体を捕捉し搭載しているカメラで目標を撮影して中継映像を送ってきた。

 

そしてほぼ同時に残り2体の未確認巨大生物の映像が現地の偵察機から人工衛星を経由して司令本部に送られて来る。

 

「でかい……」

 

作戦指令室の巨大なディスプレイに映し出された3体の巨大生物を目にしたカズヤが思わず言葉を漏らした。

 

陸――無数の魔物を引き連れコーラッド平原を牛歩の歩みでノロノロと進むのは巨大なカメモドキ。

 

モウモウと噴煙を上げる火山を甲羅の上に背負い動く度に太い6つの足を踏み鳴らし大地を陥没させて巨大な足跡を残す。

 

海――海面付近を猛スピードで泳ぐ黒い海竜は長い首と縦3列に並んだ背ビレを海面に突き出し自身の存在を誇示している。

 

そして万物を噛み砕く強靭な顎と牙を備え、全身に強固な鱗を纏い長く伸びた尾を水中でユラユラと揺らしながら遠征艦隊の元へと吸い寄せられるように近付いて行く。

 

空――不自然にボコボコと膨らんでいる大きな腹を抱え背中に生えている8対の巨大な羽をバサバサとはためかせ大空を舞う昆虫のような生物。

 

ギョロギョロと蠢く単眼と赤く発光している複眼で辺りを警戒し時折、耳障りな奇声を発している。

 

「「「「……」」」」

 

作戦指令室に詰めている者全ての視線が3体の化物に釘付けになり重苦しい空気が立ち込める。

 

「遅れて申し訳――これは……」

 

「……セリシア。魔物に詳しいお前なら分かるだろ。この化物共はこの世界の化物か?」

 

一足遅れて作戦指令室にやって来たセリシアにカズヤが尋ねる。

 

「いえ、私の知る限りこの世界にこんな魔物はいません。恐らく異世界から召喚した魔物かと」

 

「ならコイツらを召喚するとして、それに必要な魔力は?」

 

「最低でも……1体につき1万人分の魔力(生け贄)が必要と思われます」

 

「そうか、そんな――ッ!?」

 

セリシアの答えを耳にしたカズヤはハッとあることを思い出し千歳に向き直る。

 

「千歳、少し前に帝国が兵士としては使えない奴隷――女子供を大量に買い漁っているという報告があったな?」

 

「はい。最終的には3万〜4万人ほど購入したと聞いております」

 

「その時は兵士の数だけでも揃えようと躍起になっているだけかと思っていたが」

 

「……その買い漁った奴隷を生け贄にしたというのですか?」

 

「恐らくな……」

 

まったく、セリシアの予想が正しいとして……敵さんもまた面倒なモノを召喚してくれたものだ。

 

しかし陸海空の化物とは、アレの名を付けるのにおあつらえ向きだな。

 

ディスプレイに映る3体の化物――エルザス魔法帝国が大規模な召喚儀式を行い呼び出した魔物を睨みながら気持ちを入れ換えるカズヤ。

 

「よし、現在確認されている3体の巨大生物を帝国が放った敵対生物と断定。総員第1種戦闘配置、これより撃滅行動に移る!!なお陸海空の敵対生物はそれぞれ『ベヒモス』『リヴァイアサン』『ジズ』と呼称する事とする!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

カズヤの号令の下、全軍が敵の撃滅に向けて動き出す。

 

「とりあえずリヴァイアサンの対処は遠征艦隊に一任するとして問題はベヒモスとジズだな」

 

それぞれの移動速度や現在位置が表示されている3Dマップを前にカズヤは思考を巡らせる。

 

「ご主人様、ベヒモスは移動速度が遅いため我が部隊との会敵は暫く先の事です。今は放置しておいてもよろしいのでは?」

 

「あぁ、だがベヒモスが引き連れている無数の魔物共が問題だ。衛星写真で見る限りコーラッド平原の周りにある街や村――我々の占領下に無いものまで無差別に襲っている所を見るとコイツらが先行し襲って来ないとも限らん。……ここは戦線を下げた上で戦力を集中し一気に叩いた方が良さそうだ。よし、第1防衛線は破棄。進攻中の全部隊を第2防衛線まで後退させろ」

 

現状で下手に手を出せば各個撃破されるのがオチだろうからな。

 

「分かりました。では進攻中の部隊には第2防衛線まで後退するよう命令を送ります」

 

「あぁ、そうしてくれ」

 

カズヤの判断で帝国領内に攻め込んでいる部隊を一度下げ、伸びている戦線を整理した上で戦力を集中しベヒモスを一気に片付けることになった。

 

「……マスター、各部隊の撤退に際し占領下にある街や村の敵国民はどうするのですか?」

 

「むっ……そうだな……」

 

千代田の鋭い質問にカズヤは直ぐに答えることが出来ず言葉に詰まる。

 

「……とりあえずベヒモスが近付いて来ている事を知らせた上で避難を希望する者だけを連れて後退させろ、避難を希望しない者は捨て置け。いくら会敵するまでに時間があると言っても時間は有限だ。避難をしないと言う奴等の面倒までは見ていられないからな」

 

「ハッ、了解しました」

 

こうして帝国の領内にいるパラベラム軍は一時的に戦線を縮小する事が決まった。

 

後退が決定した部隊によってベヒモスや魔物の大群が近付いている事を知らされた占領下の街や村の住人は全体の7割に当たる人々が避難を希望したため後退する部隊と共に秩序を保ちつつ避難を開始。

 

しかしパラベラム軍が避難を希望した住人と共に後退を開始した途端、一部の魔物達がカズヤの懸念通りに先行し、コーラッド平原の目と鼻の先にあった城塞都市バラードを襲撃。

 

バラードに駐屯していたパラベラム陸軍第4師団や民間人に少なくない被害が出てしまう。

 

しかし、それを除けば他に問題はなくパラベラム軍の後退も成功。

 

部隊と共に後退してきた住人達は後に最前線となる第2防衛線に到着すると更に後方へと移送されて行った。

……ちなみにパラベラム軍によるベヒモスの接近という知らせが虚偽であるとし避難を拒絶した3割の人々が、その後どうなったのかは神のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

ジズの接近に伴い、パラベラムの軍港や泊地からは数多の艦艇が錨を上げ、舫いを解き一斉に出港。

 

戦闘旗をメインマストに掲げ、対空戦闘の準備を着々と整えながら急いで洋上に進み出す。

 

一方、飛行場ではスクランブルに備え待機していたF-22ラプターの戦闘機部隊がジズを迎撃するべく滑走路を爆音と共に駆け抜け空に舞い上がり、その支援のためにE-3セントリー早期警戒管制機が後に続く。

 

 

そして飛行場に幾つも並び建つハンガーの中では駐機している戦闘機や爆撃機、攻撃機に弾薬と燃料の積載が整備兵により急ピッチで行われていた。

 

またパラベラムを守る最後の要である地上部隊はありとあらゆる対空兵器を兵器庫から持ち出しジズの本土上陸という最悪の事態に備えていた。

 

「さてと……とりあえず他の方面は置いといて。この気持ち悪い虫が目下の大問題だな」

 

各方面への指示を出し終えたカズヤは最大の問題であるジズの対応策を考え始め、現状の把握に移る。

 

「……千歳、各部隊の配置状況は?」

 

「ハッ、現在8割方の部隊が配置完了。残りの2割も5分以内には戦闘配置につきます」

 

「千代田、本土防衛用対空迎撃システムに異常はあるか?」

 

「ありません、マスター。全てオールグリーンです」

 

「……迎撃準備は万端だな」

 

とりあえず所定の迎撃を行って様子を見るか。

 

自分が命じるまでもなく、訓練や実戦を重ねた熟練の兵士達が成すべきことを成していることにカズヤは満足気に頷く。

 

「スクランブル発進した第27戦闘飛行隊より入電。目標を確認、これより攻撃を開始する」

 

ジズの迎撃に向かった戦闘機部隊が寄越した報告により戦いの火蓋が切って落される。

 

「バロメリーダー、エンゲージ!!フォックス3、フォックス3!!」

 

『バロメ02、フォックス3!!』

 

『バロメ03、フォックス3!!』

 

パラベラム本土の飛行場からスクランブル発進した第27戦闘飛行隊のF-22がレーダーでジズを捉えAIM-120D AMRAAM(アムラーム)を一斉に発射。

 

固体燃料を燃焼させ白煙を引きながらアムラームの群れがマッハ4の速さで目標であるジズに向け飛んでいく。

 

「第27戦闘飛行隊がミサイルを発射、命中までおよそ20秒」

 

F-22がアムラームを発射したのと同時に作戦指令室のディスプレイに表示されたミサイルを示す光点がジズを示す光点に接近していくのを作戦指令室に詰めている者達が息を呑んで静かに見守る。

 

「命中まで3、2、1、0ッ!!目標に全弾命中!!」

 

ジズから付かず離れずの距離を取るP-1から送られて来ている映像では百発以上のアムラームがジズの体にしっかりと命中する様子が映っていた。

 

「……やったか?」

 

爆煙に覆われたジズを見て1人のオペレーターが無意識の内に思わず口を滑らせてしまった。

 

「「「「……」」」」

 

「はぁ……」

 

フラグを立てるな……このバカ。

 

瞬間、他のオペレーター達が口を滑らしたオペレーターをギョッとした表情で見つめ、カズヤは重々しいため息をついた。

 

「え、あ……っ!?」

 

自分が皆の視線を集めていることに気が付き、そして自分が何を言ったのかを理解したオペレーターは一瞬で真っ青になる。

 

「あのマヌケをこの部屋からつまみ出せ」

 

滝のような汗を流し顔面蒼白になっているオペレーターを鬼の形相で睨む千歳が後ろに控えている部下に声を掛け顎をしゃくった。

 

「「了解」」

 

「え、ちょ、あの……も、申し訳――」

 

口を滑らしたオペレーターは親衛隊の隊員に両脇を抱えられ、謝罪の言葉を口にする間もなく作戦指令室から追放された。

 

「……減俸1ヵ月」

 

「分かりました、マスター。そのように――……完了しました」

 

カズヤがポツリと漏らした言葉に答えた千代田は早速パラベラムのメインサーバーを介して目的のシステムを弄り、件のオペレーターの給与額を減額した。

 

「もう分かっているが目標は?」

 

グッタリと疲れた様子で俯くカズヤが目の前のオペレーターに問う。

 

「目標健在です」

 

「やっぱりか」

 

「――……ッ!?た、大変です!!ジズの体内から大量の飛行生物が出現!!か、数は……百……せ、千……万……け、計測不能です!!」

 

「なんだと!?」

 

オペレーターの泡を食った報告にカズヤは目を剥きジズの姿が映るディスプレイを凝視。

 

そこにはアムラームの攻撃で不自然に膨らんでいた腹が破れ、破れた腹から濁流の如く勢いで飛び出す見たこともない魔物の姿が映っていた。

 

「これは……不味いぞ」

 

体長が2〜3メートルでバッタとカマキリ、そしてトンボを混ぜたような姿をしている魔物は黒い雲となりジズの周りを飛び交う。

 

「早くP-1とE-2を退避させろ!!」

 

「りょ、了解!!HQより――」

 

カズヤの命令でジズを監視していたP-1とE-2がすぐさま退避行動を取り空域を離脱する。

 

しかし離脱する2機と入れ替わりに別空域を飛行していた無人偵察機のRQ-4グローバルホークがタイミングよく当該空域に到着。

 

そのため、ジズの監視態勢に問題は発生しなかった。

 

「目標群の再計測完了!!推定個数10万体!!」

 

「目標群、本土に向かって急速接近中!!」

 

「なっ!?ジズの飛行速度が上昇しています!!」

 

「後続の航空隊が戦闘空域に到着、攻撃を開始!!」

 

急激に慌ただしくなった作戦指令室の中ではオペレーター達の声が次々と上がり、ディスプレイにはスクランブル発進したF-22の後に出撃した様々な戦闘機、攻撃機、爆撃機が高度2万フィートを飛行中のE-3の情報支援を受けて各種ミサイルを発射する様子が映し出される。

 

「焼け石に水だな……」

 

圧倒的な物量を誇る魔物に対し航空隊のミサイル攻撃が続けられるものの、魔物の数は一向に減る様子が無かった。

 

またミサイルを使い果たしてしまった戦闘機のパイロット達は果敢にも機銃のみで魔物にドックファイトを挑み、多数の魔物を撃墜することに成功するが終いには魔物に包囲され被撃墜される機体が相次ぐ。

 

「……閣下、ジズが第2次防衛ラインを突破しました」

 

「そうか……。なら予定通り全航空戦力を戦闘空域から離脱させろ」

 

「了解しました」

 

しかし、そうした航空隊の奮戦も虚しく出現時の時点で既に防空識別圏の奥深く――第1防衛ラインを突破していたジズや魔物がパラベラムの第2次防衛ラインを突破。

 

これにより航空戦力によるジズの迎撃任務は失敗したと見なされ撤退を余儀なくされた。

 

「全航空戦力が空域を離脱」

 

「第1艦隊より入電、対空及び対水上戦闘を開始せり」

 

遠距離からの攻撃に終始していた攻撃機や爆撃機が機首を翻し、また近距離での戦闘を行っていた戦闘機部隊がアフターバーナーを吹かして一気に推進力を増し、追い縋る魔物を一瞬で引き離しつつ一目散に空域から離脱すると遠征艦隊の編成から外れ居残っていた編成待ちの艦艇を吸収し規模を拡大。そして急造の輪形陣を組んだパラベラム防衛艦隊である第1艦隊のイージス艦やミニイージス艦、ミサイル駆逐艦、ミサイル巡洋艦より艦対空ミサイル――RIM-66 SM-2MRスタンダードミサイルがMk13、Mk26連装発射機またはMk41 VLS(垂直発射装置)から魔物に向け連続発射された。

 

加えて艦対艦ミサイルのハープーンやトマホーク、超音速対艦ミサイルのP-800オーニクス、90式艦対艦誘導弾、エグゾセ、RBS-15等がジズに向け放たれた。

 

発射された無数のスタンダードミサイルはイージス艦に搭載されているイージス戦闘システムを介し、指示された優先度の高い目標に向かい飛翔し艦対艦ミサイルや巡航ミサイルの群れはジズを一直線に目指す。

 

「敵損耗率、約20パーセント!!」

 

「敵、依然として当艦隊に接近中」

 

「全艦、全砲門開け。近接対空戦闘用意!!」

 

途切れることなく発射されるスタンダードミサイルが魔物を次々と爆砕、ジズに対しても大型ミサイルが次々と命中していくが魔物とジズの侵攻は止まる様子が無く第1艦隊との距離をドンドン詰めてくる。

 

対空及び対水上戦闘を開始してから間もなく、あっという間に距離を詰められた第1艦隊はスタンダードミサイル等の艦隊防空(フリートエリアディフェンス)ミサイルからESSMやCAMMといった個艦防空(ポイントディフェンス)ミサイルの発射に切り替え、更に近接防空(クロースエアディフェンス)ミサイルであるRIM-116 RAM等の発射準備を整え主砲以下の各種対空砲やCIWS(ファランクス)の砲門を開く。

 

また、この頃になるとパラベラムの外縁部に位置する島々や海上石油プラントを利用し作られた海上要塞に設置されたミサイルランチャーから地対空ミサイルのMIM-23(改良)ホークや03式中距離地対空誘導弾、地対艦ミサイルの88式地対艦誘導弾、12式地対艦誘導弾、(地対艦仕様の)P-800オーニクス、ハープーン、トマホークが放たれ敵に対する攻撃がより一層激化した。

 

「――ッ!!12時の方角に目標を視認!!」

 

「目標群との距離、2万を切りました!!」

 

「来たか」

 

本土防衛を任とする第1艦隊の旗艦、長門型戦艦1番艦『長門』の艦橋で第1艦隊司令長官の北見攻中将が空を真っ黒に染め上げる魔物の大群とその後ろに続く巨大なジズを見て頭の帽子をしっかりと被り直す。

 

「主砲三式弾、撃ち方用意!!」

 

「主砲三式弾、撃ち方用意」

 

僚艦が搭載しているRIM-116 RAMからAIM-9サイドワインダーに手を加えられた空対空ミサイルが次々と飛び出す中、『長門』の艦長の砲撃指示が飛び砲雷長の復唱が続く。

 

「撃ち方始め!!」

 

「撃ち方始め」

 

砲撃許可が降りると同時に『長門』の前部主砲である41cm連装砲2基4門が一斉に火を噴いた。

 

また『長門』の主砲発射に続き『陸奥』からも同様に主砲弾が発射される。

 

数十秒の後、8発の三式弾は魔物の群れの中で炸裂し燃え盛る子弾が魔物を襲い魔物を悉く焼き払う。

 

「敵、損耗率が50パーセントを超過!!」

 

これまで続けてきた攻撃や先程の三式弾による攻撃で魔物の損耗率が50パーセントに到達したが、それでもなお敵の数は膨大だった。

 

「目標群、更に接近!!」

 

『長門』や『陸奥』の主砲が再装填を急ぐなか両艦の副砲や重巡洋艦、軽巡洋艦の主砲、高角砲、ミサイル巡洋艦やミサイル駆逐艦等の速射砲が砲火を迸らせ弾幕を形成する。

 

しかし、それでも敵の勢いは止まらず遂にファランクスや比較的小口径の対空火器までもが対空戦闘に参加し始めた。

 

「目標右40度、高角40度!!」

 

「撃って撃って撃ちまくれ!!」

 

「左から来るぞ!!撃て撃て撃て撃てッ!!」

 

世界各国の新旧の艦艇が入り乱れる第1艦隊の上空は魔物と弾幕によって真っ黒に染め上がる。

 

時限信管やVT信管、近接信管を搭載した主砲、高角砲、速射砲の砲弾が紅蓮の花を空に咲かせ。

 

40mm、30mm、25mm、20mm、13mm、12.7mmといった様々な口径の対空火器が砲弾を空に撃ち上げ魔物をバタバタと撃ち落とす。

 

「敵目標群、直上に飛来!!――……も、目標群当艦隊を無視し本土へ向かいます!!」

 

「行かせるな!!ここで全て叩き落とせ!!」

 

ありとあらゆる対空火器が砲身を真っ赤にさせながら火を噴く中、遂に第1艦隊の直上に飛来した魔物の群れは第1艦隊を完全に無視。

 

パラベラムに向かい飛行を続ける。

 

「ジズが来ます!!」

 

「チッ!!全艦に通達、ジズを最優先攻撃目標とする!!」

 

「了解!!」

 

雲霞の如き魔物の群れが第1艦隊の上空を通り過ぎて行くと、今度は大和型戦艦3隻分の体長を誇るジズが第1艦隊の上空へと差し掛かる。

 

「デ、デカイ……」

 

「正真正銘の化物だ……」

 

「いいから撃ちまくれッ!!」

 

「「りょ、了解!!」」

 

各艦の船外に出ている兵士達がジズの巨大さに惚ける間もなく、第1艦隊の総力を上げてジズに対空砲弾を叩き込むが、ジズの体を覆う強固な外骨格に阻まれ有効弾を与えることが出来ない。

 

「こいつなら……ッ!!」

 

「墜ちろっ!!」

 

第1艦隊にいる唯一の戦艦である『長門』や『陸奥』の後部主砲の砲手達が第1艦隊の上空を過ぎ去ろうとしているジズに三式弾を叩き込むが、貫通性の乏しい三式弾ではジズの外骨格を貫くのは不可能だった。

 

「……硬すぎだろ、あの化物。羽すら燃えねぇ」

 

「戦艦が積んでいる対艦用の徹甲弾かバンカーバスター、もしくは大型爆弾クラスじゃないと効果が無さそうだな……」

 

離れ行くジズや魔物に対しミサイル攻撃が再開される中、役目を終えてしまった第1艦隊の対空火器の砲手達は上空を過ぎ去って行ったジズを眺めながらそうボヤいていた。


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