ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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城塞都市バラードの門という門が全て無防備に開け放たれ、城壁や城の至るところに立てられた白旗がパタパタと風に揺られてたなびいている。

 

「白旗……降伏か」

 

森林迷彩の施された迷彩服3型を着て緑色や黒色のドーランを顔にこれでもかと塗りたくり、自身の傍らに相棒である89式小銃を横たえ、林の中にとけ込むパラベラム軍の兵士が降伏の意を示す間違えようのないサインを見てポツリと呟く。

 

「はぁ〜またまた無血開城ですか。何だか拍子抜けですね」

 

「バカ、拍子抜けだろうが何だろうが無駄に死人を増やさなくていいんだから降伏してもらった方がいいだろ。それにこっちの戦力を見てわざわざ戦おうとは思わんさ」

 

「そりゃまぁそうですけど……」

 

「……おい、青木。貴様が無線機を持っているんだろうが!!無駄話をする暇があったら、さっさとこの事を本隊に報告せんかァ!!」

 

「も、申し訳ありませんっ!!――第1偵察分隊よりHQへ、繰り返す第1偵察分隊よりHQへ、応答願う」

 

こめかみに青筋を浮かべた上官に鬼の形相で睨まれた通信兵は仲間との会話を打ち切り慌ててマンパック型の無線機に手を伸ばす。

 

『こちらHQ。どうぞ』

 

「目標の城塞都市は無数の白旗を掲げ全ての門を開け放っている模様。どうぞ」

 

『HQ、了解。監視を継続せよ』

 

「第1偵察分隊、了解。監視を継続する」

 

城塞都市から少し離れた林の中に潜み双眼鏡を覗き込んで侵攻ルート上にある城塞都市の城や城壁の上に大量に白旗が上がっているのを確認した偵察兵達はその情報をHQに報告した後も命令通り監視を継続していた。

 

「無血開城か。これで何度めだ?まぁいい……全隊移動の用意!!第4歩兵大隊は先行し入城、領主と話をつけてこい。あぁ、油断はするなよ降伏が欺瞞の可能性もあるからな」

 

「ハッ、心得ております」

 

先行した偵察兵からの情報を得て後方で戦闘態勢を維持したまま待機していたパラベラム軍の海兵隊第5師団及び陸軍第4師団は少数の即応部隊を除き戦闘態勢を解いて降伏した敵城塞都市へ入城するべく移動を開始した。

 

「それにしても、こう事が順調に進み過ぎると不安になるな」

 

「ハハッ、そりゃお前が気にし過ぎなだけだよ」

 

「そうか?」

 

「そうだよ、もう少し気楽にいこうぜ」

 

戦闘に備え構築した野戦陣地を引き払い車輌に乗り込んで移動している途中、パラベラム軍の兵士達は緊張感を微塵も感じさせず和気あいあいと会話を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

ヴァーミリオン作戦が開始されパラベラム軍による無慈悲で一方的な攻撃が行われるとエルザス魔法帝国は瞬く間に約半数の軍事拠点を叩き潰された。

 

加えて再侵攻のため国境近くの軍事拠点に部隊を集結させていたことが仇となり帝国は全兵力の5分1にあたる数の兵士達をたった1日で喪失。

 

そして多くの軍事拠点と兵士を失った帝国は雪崩を打って侵攻してくるパラベラム軍に対処することが出来なかった。

 

その結果、帝国は数個師団規模で幾つかの集団に別れ帝国の領内を破竹の勢いで進軍するパラベラム軍に数多の村や街、城塞都市を占領される事となる。

 

最も民間人を巻き込む――誤爆の危険性があるとして純粋な軍事拠点・施設以外には一切攻撃が行われていなかったため、侵攻ルート上にある街や城塞都市にはある程度の防衛戦力が無傷で残っていた。

 

そのためパラベラム軍は攻撃を見送った街や城塞都市での戦闘に備え、攻城戦及び市街戦の訓練を重点的に幾度も重ねて万全の態勢で本作戦に挑んだのであったが実際は大軍勢で迫り来るパラベラム軍に恐れをなし、いずれの領主もすぐさま降伏。

 

無論、全ての領主が素直に降伏した訳もなく一部の気概ある領主達は敵であるパラベラム軍に一泡吹かせようと自分達が寡兵にも関わらず蛮勇を抱き打って出たが、領主達の無駄な抵抗は一瞬で鎧袖一触に蹴散らされるという散々な結果に終わっていた。

 

「ここも歓迎ムードだな」

 

抵抗することを諦め無血開城した城塞都市に入ったパラベラム陸軍第4師団(元自衛隊員と自衛隊の武器兵器を主体とした師団)第7機械化歩兵大隊所属の霧島遥斗中尉は開け放たれた門から続々と入ってくるパラベラム軍に対し敵意を向けるどころか大通りの両側に詰めかけ大手を振って進駐を歓迎している人々に軽装甲機動車の車内から手を振り返していた。

 

「ありゃ小隊長知らなかったんですか?ここら一帯は10年前帝国に攻め滅ぼされた小国があった場所なんですよ。だからここらに住んでいる人達から見たら俺達はさしずめ帝国からの――圧政からの解放者といったところじゃないですかね。それに俺達の占領地政策の噂も聞いているでしょうし」

 

「解放者ねぇ……まぁ歓迎してくれるのはありがたいな。しかし……今まで通った村や街もそうだったようにここもあまり活気が無かったな。歓迎は別として」

 

市街地を通り過ぎ城塞都市の中心にある城の中庭に入り下車した遥斗はパラベラムの国旗である“緋の丸”が城の頂上に掲げられているのを眺めつつ話を続ける。

 

「それはしょうがないですよ、霧島小隊長。戦費調達の為に重税を課せられて、しかも男手をごっそり取られたらそりゃ活気もなくなって荒みますって」

 

「……そうか」

 

「失礼します。霧島中尉、大隊長がお呼びです。至急来て欲しいと」

 

「分かった、すぐに行く。……涼宮、後を頼む」

 

「ハッ、了解です。……またあの女からの呼び出し」

 

大隊長からの呼び出しを受けた遥斗は、苛立ち不機嫌な顔で眉を吊り上げている副官の涼宮明里小尉に指揮下にある第5小隊の事を任せ、呼びに来た兵士の後について行った。

 

「ありゃりゃ、まぁ〜た小隊長が大隊長に呼び出されてるよ。やっぱり小隊長は大隊長のお気に入りなんだな」

 

「ハハハッ、モテる男は辛いねぇ〜。羨ましいったらありゃしねぇよ」

 

「本当、本当。流石は『ハーレム製造機』の異名をとるだけある」

 

「自然と数多の美少女、美女を引き寄せ無意識のうちに墜す。それが俺達の隊長だからな。……見ていて飽きん」

 

「「「「アハハハハッ」」」」

 

「……貴様ら何がそんなに面白い」

 

遥斗の部下である第5小隊の兵士達が遥斗の事を話の種にして笑っていると、そこへ9mm拳銃の納められたホルスターに手を伸ばしている涼宮少尉が近づく。

 

「へっ!?あの、いや、ふ、副隊長?」

 

「……私の隊長があの女に呼び出されるのがそんなに面白いか?」

 

「いえ、あの……面白くないです……」

 

「……なら黙っていろ、癪に障る」

 

「「「「イエスマム!!」」」」

 

何を騒いでいるんだ、あいつらは。

 

大隊長の元に向かう遥斗の背後からは部下達の話し声が微かに聞こえていた。

 

「失礼します。大隊長殿、霧島中尉をお連れしました」

 

「ん、そうかご苦労。下がってよし」

 

「ハッ、では私はこれで」

 

大量の機材が運び込まれ徐々に司令部としての機能が働き始めている城塞都市の城に彼女は居た。

 

実年齢よりも一層幼く見える童顔の顔に黒髪のショートカット。

 

そしてどうやって兵士になったのかという疑問を抱く程、細く小さな体。

 

小学生高学年程度の身長しかなく、特殊な性癖を持つ一部の兵から熱狂的な支持を持ち『ロリ中佐』や『チビッコ大隊長』と影で呼ばれている古鷹五十鈴中佐は遥斗が来た事に気が付くと手に持っていた書類を側にいた兵士に手渡す。

 

「サインはしたから後は頼むぞ」

 

「了解です」

 

(((可愛いなぁ……)))

 

書類を兵士に手渡す際の姿がまるで父親のお手伝いをしている娘の様で、それを見た周りの兵士が和んでいることを古鷹中佐は知らない。

 

「……それで古鷹大隊長、何のご用でしょうか?」

 

いつ見てもちっちゃいな。

 

不遜な事を考えながら遥斗が古鷹中佐に問い掛けると古鷹中佐は何故かムッとして眉をしかめる。

 

「霧島。お前、今変なこと考えなかったか?……例えば私の身長の事とか」

 

「い、いえ。そんな事は……ありません」

 

不味い……このチビッコは勘が良すぎるのを忘れてた。

 

半目で首を傾げながら睨んでくる古鷹中佐に遥斗は冷や汗をかきながら自分の失敗を悔いていた。

 

「ふん……まぁいい。どうせお前も私のダイナマイトボディに見とれていたんだろう。このスケベ」

 

なんとかこの場を乗り切ろうと視線を前にグッと固定して直立不動で立ち尽くす遥斗に古鷹中佐は無い胸を張り、フフンっと勝ち誇った様に不敵に笑っていた。

 

……ダイナマイトボディ?ツルペタボディの間違いだろ?

 

「……ブフッ」

 

自分のツッコミがツボに入ってしまい思わず噴き出してしまった遥斗。

 

「ッ!!……おい霧島。貴様、今笑ったろ?」

 

「い、いえ!!笑ってなどおりません!!」

 

「嘘をつくな!!ちゃんと聞こえたんだぞ!!」

 

身体的な事をからかわれるとぶちギレて修羅と化し、笑った相手を必ずぶちのめす古鷹中佐が怒り始めたのに焦った遥斗は慌てて話を元に戻す。

 

「そ、それより!!古鷹中佐。私に何のご用でしょうか?」

 

「……チッ。今は誤魔化されといてやるが、この件は後でしっかり問い詰めてやるからな」

 

古鷹中佐は忌々しげにそう吐き捨てると遥斗に書類を手渡した。

 

「詳しい事は全部それに書いてある後で目を通せ」

 

「はぁ……任務ですか」

 

「あぁ、そうだ。簡単に言うとお前の小隊であの山の中腹にある村を見てこいということだ」

 

古鷹中佐は窓の外に見える山を指差し言った。

 

「では偵察任務ということでしょうか?」

 

「いや、偵察はついでだ。本命は村の奴等に物資を配って懐柔してこいという話だ」

 

「あぁ、方針通りにですか」

 

「うむ、そうだ」

 

パラベラム軍は支配下に置いた地域での反乱及び暴動を防ぎ、また民衆を味方に付けようと様々な策を講じていた。

その様々な策の中でも一番の目玉であるのが物資――すなわち食料の配給である。

 

今現在、帝国全土では幾度となく行われた侵攻作戦の影響を受け食料の価格が高騰していることもあり、パラベラム軍による食料の無償配給は民衆の心をグッと掴むことに成功していた。

 

「了解しました、古鷹中佐。では行ってまいります」

 

 

「……ちょ、ちょっと待て!!」

 

敬礼し、そそくさと立ち去ろうとした遥斗に古鷹中佐が待ったの声を掛け袖をギュッと掴む。

 

「い、いつも言っているだろう誰もいない時には私のことは呼び捨てにしろと……そ、それといつものを……いや、今日こそはちゃんとしていけ。こ、これは命令だぞ!!」

 

先程まで周囲にいた兵士が皆、姿を消しているのを確認した上で古鷹中佐は兵士という仮面を脱ぎ捨てて頬を赤らめモジモジと恥じらいながら遥斗を上目遣いで見つめそう言ってのけた。

 

「え、あ……ふ、古鷹中佐?いくら他の者がいないとはいえ、このような場では――」

 

「五十鈴!!」

 

「あの、だから……古鷹――」

 

「五十鈴だ!!」

 

呼び捨てにしようとしない遥斗を「うー」と唸りながら上目遣いで見上げている古鷹中佐の姿はまさに小学生が駄々を捏ねているようにしか見えなかった。

 

「ぅ……分かった、分かったよ。――……五十鈴」

 

「フン、最初からそうしろバカ者」

 

古鷹中佐のごり押しに負けた遥斗が項垂れながら呼び捨てにすると古鷹中佐は満足そうな顔で悪態を吐いていた。

 

「さて、それじゃあ……ん!!」

 

勘弁してくれ、俺はロリコンじゃないんだ……はぁ〜。

 

目を瞑りつま先立ちになりながら薄いピンク色の唇を突き出して来た古鷹中佐に遥斗は心の中で盛大にため息を漏らしていた。

 

「ん!!」

 

いつまでも経っても遥斗が望み通りの行為をしてこない事に焦れた古鷹中佐が催促の声をあげる。

 

……しょうがないか。

 

袖を掴まれ逃げる事が出来ない遥斗は覚悟を決めて身を屈めた。

 

「んっ……またおでこ……」

 

遥斗の唇が自身のおでこに触れた際に小さく色っぽい声を漏らした古鷹中佐は不満げな目で遥斗を睨む。

 

「これで勘弁してくれ」

 

「フン、まぁいいだろう。今日はこれで勘弁しといてやる。だが!!次はキチンと口にしてもらうからな、分かったか!!」

 

「ハハハッ……善処します……」

 

古鷹中佐の宣告に笑って誤魔化した遥斗は作戦書類を手に部下の元に歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

遥斗が部下達の所に戻った際、ツカツカと早足で歩み寄って来た副官の涼宮小尉に黒く澱んだ瞳で睨まれ体の匂いをスンスンと鼻を鳴らしながら嗅がれ「……あの女の匂いがする。何でですか?ねぇ何で?」と言われた一幕はさておき。

 

「道がっ、舗装されてっ、いないっ、のはっ、きついなっ」

 

目的地である村に向かう途中、追加装甲を取り付けた軽装甲機動車に乗りガタガタと上下に大きく揺れる車内で遥斗は頭に被っているケブラー製の88式鉄帽を押さえていた。

 

今回の偵察兼物資配給任務に動員されたのは82式指揮通信車が1台と遠隔操作式の無人銃架『RWS』を搭載した96式装輪装甲車が2台、軽装甲機動車が1台、食料や予備弾薬、燃料を満載した73式大型トラックが1台。

 

それと古鷹中佐が密かに手を回して他の部隊から強引に引っこ抜いた89式装甲戦闘車1両の計6台と遥斗の指揮下にある第5小隊35名の兵士である。

 

「小隊長、見えましたっ!!」

 

車列の先頭を行く軽装甲機動車の後部座席間に座りターレットハッチから顔を出していた機関銃手が天井をバンバンと叩きながら目的地が見えた事を知らせる。

 

「やっとか……」

 

ようやく目的地に到着し、悪路をひた走る苦行が終わることに遥斗は胸を撫で下ろした。

 

「全員降車、気を抜くなよ」

 

珍妙な乗り物に乗った遥斗達がやって来た事で村人は皆、怯えて家の中に隠れてしまったのか、より一層閑散としてしまった村に入り村の中心にある広場に車輌を停めた遥斗達は皆、89式小銃やミニミ軽機関銃を手にし警戒態勢を敷く。

 

「……あ、あの失礼ですが、あなた方はどなたでしょうか?我々に何かご用が?」

 

小さな小屋の様な家屋から、こちらを覗いている数十の視線に遥斗達が神経を尖らせていると家屋の中から1人の老人が恐る恐る進み出てきて遥斗達の顔色を伺いながら声を掛けた。

 

「我々はパラベラム軍の者だ。お前がここの村長か?」

 

「は、はい。私がこの村の村長ですが……」

 

突然やって来た見慣れぬ武装集団に村長は青ざめながらもどうにか言葉を紡いでいた。

 

「そうか。所で我々の事は知っているか?」

 

多分知らないだろうな。

 

自分で質問をしながらも遥斗は相手が自分達の事を知っていないだろうと思っていた。

 

「パラベラムとおっしゃいましたか。確か帝国と戦争をしている相手国だとか……」

 

しかし、意外にも村長はパラベラムの存在を知っていた。

 

……意外だな。こんな山の中なのに情報が伝わっているのか。

 

商人が定期的に来てるのか?

 

「我々の事を知っているのであれば話は早い。城塞都市バラード及びその周辺は我々パラベラム軍が占領した。今日はその事の周知と……まぁ仕事だ」

 

「仕事……でございますか……」

 

「あぁ、そうだ。仕事だ。涼宮、時間もちょうどいいし準備しろ」

 

「了解です。お前ら手を貸せ」

 

「「「「ハッ!!」」」」

 

遥斗から指示を受けた涼宮少尉は部下と共にテキパキと73式大型トラックから箱詰めされた食料を下ろしていく。

 

「あ、あの……大変申し上げにくいのですが、つい先日帝国の徴税官に追加の徴税を行われたばかりで……そ、その……もう村には何も残っておりませぬ」

 

「そうか」

 

「で、ですから……その……あの……」

 

涼宮少尉達がトラックから次々と箱を下ろしていくのは村から税(食料)を取るためだと勘違いしている村長は、悲壮な表情を浮かべモゴモゴと言い淀む。

 

「何か勘違いをしているようだが……」

 

「へっ?」

 

「我々はこの村に税の徴収に来たのではない」

「……で、では何を」

 

状況がよく理解出来ていない村長が狼狽えているのを尻目に遥斗はニヤッと笑い村人にとって吉報となる知らせを告げた。

 

「食料を渡しに来たんだ」

 

「………………それは……一体どういうことなのでしょうか?」

 

遥斗の言葉にポカンと口を開き疑問を口にする村長に遥斗は笑って答える。

 

「ハハハッ、なに言葉通りだ。食料の配給に来たんだ。我々は」

 

「……なぜ……その様な事を?」

 

「総統閣下直々のご命令だ。お優しい閣下はお前達の様な者が日々の暮らしに困窮している事を知り食料の配給を命じられたのだ。占領下にある全ての者達に」

 

「で、では!!あの箱は何なのですか!?税を入れる箱ではないのですか!?」

 

「あれか?あれはお前達の昼飯だ。ちょうど昼だしな」

 

遥斗の視線の先には涼宮少尉達が下ろした箱――UGR-E(ユニット式グループ配給食)の空箱が積み上がっていた。

 

そして食塩水を使った化学反応を利用し作動したヒーターによって温められたトレイパックがズラリと並んでいる。

 

「そうだ。まだ聞いていなかったが村人は全部で何人いる?」

 

「……150人程度おります」

 

……思っていたよりも村人が多いな。まぁ食料は大量に持って来たから十分にあるが。

 

「じゃあ今すぐ全員呼んでやれ、せっかくの料理が冷めたら勿体ないだろ?」

 

「は、はい!!直ちに!!」

 

やっと状況が飲み込めた村長は遥斗の言葉を聞いて喜色満面で村人を集めるために脱兎の如く駆け出して行った。

 

「量は十分あるからな」

 

「真っ直ぐ一列に並んでくれよ」

 

村長に呼び集められた村人達は当初、食料を無償で配るという遥斗達に疑いの目を向けていたものの本当に食料の配給が開始されると慌てて自分の家から木製の食器を取って来て配給の列に並んでいた。

 

「今回はこんな簡単な物しか用意出来なかったが、ここに来るまでの道が整備出来たらもう少しマシな物が用意できるから期待してくれ」

 

村人達が喜んで配給を受けているのを眺めつつ遥斗は隣でニコニコと笑っている村長にそう告げた。

 

「そんな、とんでも御座いません。我々にしてみればご馳走です」

 

「そうか?」

 

「はい、それはもう。生きている内にこのようなご馳走が食べられるなど夢にも思ってもおりませんでした。本当にありがとうございます」

 

「気に入った様で安心した……所で1つ聞いてもいいか?」

 

「何でしょうか?」

 

「何で村人達はわざわざ家の中に戻ってから飯を食べるんだ?おかわりもあるのだからそこらで食べた方が楽だろ。さっきから何往復もしている者もいるし」

 

料理を受け取った村人達がわざわざ家の中に戻ってから料理を食べ、料理が無くなるとまた外に出てきて配給の列に並んでいる姿を疑問に思った遥斗がそう村長に聞くと村長はドキッとした顔で吃りながら答えた。

 

「そ、そ、そ、それはですね……あの……そ、そう!!村の昔からの風習で食事を摂る光景を他者に見せるのは、はしたないという習わしなのです。だから皆、家の中に入ってから料理を頂いているのです」

 

「そうか」

 

村長のあまりにも怪しい様子に引っ掛かる物を覚えた遥斗は表面上は納得したように振る舞っていたが、内心では疑念を深めていた。

 

……試してみるか。

 

「霧島様?……どちらへ?」

 

「いや、ちょっとな」

 

遥斗は村長の言葉が本当かどうか確かめる為に行動に移った。

 

「涼宮」

 

「はい、何ですか?隊長」

 

「持って来た食料の中に確かリンゴが幾つかあっただろ。1つくれ」

 

「? はぁ……分かりました。どうぞ」

 

訝しげに首を捻る涼宮少尉から手渡されたリンゴを片手に遥斗は配給の列に並ぼうとしている少女に近付き声を掛けた。

 

「お嬢ちゃん」

 

「なぁに?」

 

「これも食べるかい?」

 

遥斗は笑みを浮かべながらそう言って手に持っているリンゴを少女に差し出した。

 

「……いいの?」

 

「あぁ、もちろん。だけどここで食べてくれるかい?」

 

「? 分かった。ここで食べる」

 

やはり、さっきの取って付けたような説明は嘘か。

 

遥斗の言葉に対し何の躊躇いもない少女の返答を聞いて遥斗は村長の説明が嘘だったことに確証を得た。

 

そして遥斗が村長になぜ嘘をつく必要があったのかと問いただしに行こうとした時、遥斗は信じられない物を見た。

 

「あ〜ん」

 

――ゴックン!!

 

「けふっ、美味しかった。ありがとうお兄ちゃん」

 

「……」

 

嘘……だろ!?

 

先ほどリンゴを渡した少女が人間では絶対不可能なレベルで、まるで蛇のように口を大きく開きリンゴを丸々1個丸呑みにしたのだ。

 

「「「「「……」」」」」

 

少女がリンゴを丸呑みにした際の大きな嚥下音を耳にして何が起きたのか気が付いた第5小隊の兵士達は固まり村人達は皆、一様に顔を青ざめさせていた。

 

「お、お嬢ちゃん?大丈夫――」

 

「ア、アニス!!大丈夫かい!?早く家で吐き出さないと!!」

 

「あんなに大きな物を飲んでしまうなんて!!」

 

「は、早く家に連れていきなさい!!」

 

リンゴを丸呑みにした割にはケロッとしている少女に遥斗が問い掛けようとした瞬間、真っ青な顔で慌ててすっ飛んで来た村長と少女の両親とおぼしき男女が少女を抱き抱え有無を言わさず、何かを誤魔化すかの様にすぐさま立ち去ろうとする。

 

「ちょ、ちょっと待て!!」

 

しかし、それを遥斗が黙って見逃すはずも訳もなく。

 

遥斗は少女を抱き上げた女性に制止の声を掛け手を伸ばした。

 

だが、その遥斗の咄嗟の行動が男を刺激してしまう。

 

「ッ!!サナ!!アニスを連れて逃げろ!!こうなったらしょうがない!!全員生きて帰すな!!」

 

愛しい娘と妻に遥斗が害を加えると思ったのか、父親が2人を、村の秘密を守ろうと村の男衆に発破を掛けた。

 

「「「「おうっ!!」」」」

 

すると声を掛けられた男衆が第5小隊の兵士に突如、牙を剥く。

 

「や、やめろお前たち!!」

 

サァーと血の気が引き真っ青になった村長の呼び止める声さえも発破を掛けられ頭に血が上った男衆の耳には届かない。

 

――バンッ!!

 

「ッ!!イ、イテテエエェェェェ!!」

 

「「「「なっ!!」」」」

 

「……隊長……」

 

だが、遥斗が涼宮少尉に襲い掛かろうとしていた若者の足を撃ち抜いた銃声と撃たれた若者の絶叫に他の男達はビクッと身をすくませ驚きに目を見開き動きを止めた。

 

「全員、そのまま動くな。勝手に動いた者の安全は保障しない」

 

硝煙がゆらゆらと立ち上る9mm拳銃を構える遥斗や89式小銃、9mm機関拳銃の銃口を向けてくる第5小隊の兵士達に村の男達は完全に戦意を喪失していた。

 

「さてと……事情を聞こうか?もちろん説明してくれるな」

 

「……はい」

 

9mm拳銃を構えたまま拒否権はないといわんばかりにそう言い切った遥斗に観念したように村長は小さく頷いた。

 


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