ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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第4章 1

その日、パラベラムの本土にある司令部の薄暗い一室では続々と送られてくる各部隊の現状報告をオペレーター達がコンソールを操作して統括、整理していた。

 

「戦略爆撃隊、地上侵攻部隊の配置完了」

 

「低軌道上のケラウノス(神の杖)最終発射シークエンス完了しました」

 

「……ご主人様、ご命令を」

 

反攻作戦を開始するために必要な準備が全て整ったのを確認した千歳がカズヤに迫る。

 

「…………これより、ヴァーミリオン作戦を開始する!!」

 

椅子に座り腕を組み瞑目していたカズヤが、カッと目を見開き命令を口にした瞬間、作戦に参加している数十万人の兵士が一斉に動き出す。

 

「全軍に通達、作戦開始。繰り返す作戦開始、作戦行動を開始せよ」

 

「全ゲートオープン、1番発射口から順次、SRBM、IRBM、ICBMを発射」

 

作戦開始と同時にパラベラムにある地下サイロから通常弾頭か特殊弾頭のいずれかを搭載した数百発の弾道ミサイルが発射され大空に飛び上がって行く。

 

「全弾道ミサイルの発射を確認。目標着弾まで約10分」

 

無数の弾道ミサイルが一斉に地下から煙を噴き上げ空に舞い上がっていく光景は見るものにアルマゲドン(最終戦争)を連想させる。

 

「ケラウノスより質量弾の分離を確認、ロケットブースター点火」

 

「誤差修正、右0.2度」

 

「突入角及び突入速度異常なし」

 

「目標着弾まで20秒」

 

弾道ミサイルの発射に続き、低軌道上に浮かんでいるケラウノスから大型推進ロケットを取り付けた全長10メートル、直径50センチ、重量500キロのタングステンとチタンの合金で出来た金属棒――質量弾が分離。

 

帝国の要塞兵器に狙いを定め、勢いを増しつつ落下していく。

 

また大気圏突入に際し質量弾の先端が大気との摩擦で真っ赤に燃え上がるものの先端部をスペースシャトルで使われている物と同じ耐熱タイルでコーティングした質量弾は大気との摩擦熱で融解することなく落下を続ける。

 

「ん?……ありゃなんだ?」

 

「なんだ?どうし――」

 

空中要塞の見張りが空から降ってくる、その物体に偶然にも気が付いた時には全てが遅かった。

 

大型推進ロケットの推進力と惑星の引力に引かれてマッハ10に達した質量弾は帝国領内を移動中の空中要塞に命中。

 

空中要塞が常時展開していた魔法障壁を難なく貫通し、要塞本体に質量弾が着弾すると核爆発にも匹敵する凄まじい衝撃波が発生。空中要塞の上部構造物を一瞬にして破壊した。

 

そして上部構造物を一撃で破壊し空中要塞を半壊させた質量弾はそのまま空中要塞を貫き地上に突き刺ささると轟音や衝撃波を辺りに撒き散らし巨大なクレーターを地面に刻み込み、辺り一面を荒れ地へと変貌させた。

 

たった1発の質量弾により空中要塞としての機能を全て喪失し、ただの浮かぶ島と化した空中要塞だったが質量弾の命中から30秒後、要塞を支える基部に受けた致命的なダメージにより要塞自体が自重に耐えきれなくなり中央から真っ二つに裂け断裂、小規模な爆発と崩壊を続けながら地上に墜ちて行き地上に落着した瞬間、魔導炉が誘爆。

 

凄まじい大爆発を起こし空中要塞は跡形もなく消し飛び、同時に空中要塞に乗り込んでいた数千人の乗員達も一切の肉片を残さずこの世から消滅した。

 

「質量弾、目標に命中。目標の破壊を確認」

 

「ケラウノスより次弾、分離。ロケットブースター点火」

 

「命中まで残り15秒」

 

質量弾が空中要塞に命中し撃破したのを確認すると直ちに次弾が発射され新たな目標に向かって質量弾が落下していく。

 

そうして驚くほど脅威的な威力を誇る質量弾はその後も次々と帝国の要塞兵器を無慈悲なまでに破壊していく。

 

「弾頭の分離を確認、再突入体が大気圏内を通過中」

 

新兵器であるケラウノスが順調に戦果を上げるなか、ようやく空の旅を終え大気圏に再突入を開始した弾道ミサイル群の通常弾頭や特殊弾頭が帝国の各地で建造中の要塞兵器に降り注ぐ。

 

「命中まで5、4、3、2、1、0。全弾目標に命中」

 

空を切り裂き真っ直ぐに伸びた光りの筋を引きながら各地に降り注ぐ再突入体の光景は一種の神々しささえ体現していた。

 

「か、神様っ!!」

 

「な、何なんだよ!!何なんだよ!!これは!?」

 

「んなこと知るか!!それより逃げろ!!死にたく無かったら逃げろ!!」

 

「逃げろたってどこ――」

 

いきなり攻撃を受けた帝国軍兵士達は頭上から降り注ぐ再突入体に対し逃げ惑う事しか出来ず、次々と爆発に巻き込まれその生涯を終えていく。

 

ちなみに帝国のほぼ全域に降り注いでいる弾道ミサイルが目標に命中し爆発すると時折、見慣れぬ光景が見受けられた。

 

「MA弾の炸裂を確認。現在異常は関知出来ず」

 

各種弾道ミサイルに搭載されている通常弾頭は目標の要塞兵器に命中するとただ爆発するだけであったが、パラベラムの科学者達が魔力暴走の理論を応用し手を加え一から作り上げた核に代わる新型爆弾――物質分解爆弾、通称MA弾は炸裂と同時にドス黒い閃光を放ち漆黒の火球を発生させると火球の中に呑み込んだありとあらゆる物質を分解、消滅させていく。

 

また火球の大きさ(加害範囲)は直径50メートルと少々小ぶりであったが、ありとあらゆる物質を分解し消滅させた上に火球そのものが消えた瞬間、真空(空気が消滅したため)となってしまった所に一気に空気が流れ込んだせいで凄まじい嵐のような暴風が吹き荒れ二次被害を辺りに与えた。

「MA弾の効果大!!」

 

「敵要塞兵器群の60パーセントを破壊」

 

「攻撃を続行します」

 

そうして新兵器の活躍のお陰か帝国内で確認が取れていた要塞兵器は、その後1日の内に全てが破壊された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ヴァーミリオン作戦の発令を確認。これより帝国に対し爆撃を開始する」

 

『『『ラジャー』』』

 

ヴァーミリオン作戦の発令を受け、帝国の領空に侵入していた戦略爆撃隊――B-52ストラトフォートレスにB-1ランサー、B-2スピリット、C-130Jスーパーハーキュリーズ、C-17グローブマスターIII、C-5 ギャラクシー、Tu-22M、Tu-95、Tu-160、An-124-100ルスラーン、An-225ムリーヤ等で構成された部隊がケラウノスや各種弾道ミサイルの攻撃に続く。

 

事前に冒険者や旅人、商人に扮したパラベラムの偵察部隊による入念な偵察により軍事拠点・施設の位置を完璧に把握している戦略爆撃隊は目標上空で満を持して爆弾倉を開き、爆弾倉内部に搭載している爆弾または主翼下部のパイロンに追加搭載している爆弾、貨物室内に搭載した大型爆弾を次々に投下していく。

 

そして爆弾投下から数十秒後、地上に蒔かれた死の種は地上で無事に花開き紅蓮の花を咲かせた。

 

地上で咲き誇る何本もの紅蓮の大輪はいつもと変わらない日常を送っていた帝国の兵士達を、その真っ赤に燃え盛る花びらで一瞬のうちに舐め尽くし死者を量産し続ける。

 

また無誘導爆弾や誘導爆弾(地上にいる偵察部隊の誘導を受けている)、ナパーム弾等の各種爆弾による絨毯爆撃を受けた軍事拠点・施設は瞬く間に壊滅。

 

加えて輸送機から投下された大型爆弾、戦術核兵器の爆発と見間違われるほどの威力を持つBLU-82/B――デイジーカッターや通常兵器としては史上最大の破壊力を持つとされる爆弾のGBU-43/B(MOAB・大規模爆風爆弾兵器。ニックネーム、全ての爆弾の母)にMOABの4倍の威力があるとされるロシアのサーモバリック爆弾ATBIP(ニックネーム、全ての爆弾の父)が敵施設を1発で粉微塵に吹き飛ばす。

 

「敵施設の完全破壊を確認。これより帰投する」

 

『HQ了解』

 

「ふぅ……無事に終わった。しかし数百機の爆撃機や輸送機からなる戦略爆撃隊の空爆を2週間の間ずっと受けるって言うんだから敵も大変だな」

 

敵施設への爆撃を終えたパイロットが、これから先受難の日々が続く敵に対して人知れず哀れみの言葉を掛けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

城塞都市ナシストから一番近い場所にある帝国の砦では、再度の侵攻のための武器や糧秣、軍馬に魔導兵器が砦の内部に運び込まれ着々と戦の準備が進んでいた。

 

「なぁ、お前さん今度の戦の話……聞いたか?」

 

「あぁ、聞いたぜ。何でも皇帝陛下のお気に入りの渡り人……レンヤとか言う魔導師が作戦を考えたとか」

 

「そうらしいな。……しかしその作戦なんだがよ。呆れた事に気合いと数で押せとかいうふざけた作戦なんだと。しかも補給はほとんど無しで必要な物は全部、敵から奪えって話だ。酷くねぇか?」

 

「……確かに、戦で敵の物を略奪するのは当然だけどよ。それだけで全てを賄えってのは……ちょっとな。というか気合いと数で押せって作戦でもなんでもないよな?」

 

「まったくだ」

 

砦に詰める兵士達が暇を持て余し会話に興じていた時だった。

 

櫓の上に立つ見張りがあることに気が付いた。

 

「おい!!何か飛んで来るぞ!!」

 

「な、なに!?」

 

「何だ、何だ!!」

 

見張りの報告に砦にいた兵士達が皆一斉に空を見上げる。

 

「なんだありゃ……」

 

兵士達が視線を送る先には、砦に向かって飛んでくる巨大な物体が迫っていた。

 

「お、おい……不味くないかアレここに落ちるんじゃ……っ!!」

 

「に、逃げろーー!!」

 

砦に向かって真っ直ぐ一直線に飛んでくる巨大な物体に兵士達がようやく危機感を抱いた時には既に遅かった。

 

空気を引き裂きながら空を飛んでいた物体が砦に命中した瞬間。

 

轟音と共に砦が、集積されていた武器兵器が、兵士が木っ端微塵に吹き飛び爆発の衝撃で巻き上げられた土埃が天高く立ち上ぼり砦を覆い尽す。

そして風が吹き爆煙が晴れた後には巨大なクレーターが地面に刻まれ、砦が其処にあったという痕跡が全て塵となっていた。

 

「着弾観測機から入電。初弾命中。砲弾は目標のど真ん中に当たり砦は消滅したそうです」

 

「そうか、幸先がいいな。しかし気を抜くなよ?次弾の装填を急がせろ」

 

「ハッ!!了解です」

 

旧カナリア王国領にある城塞都市ナシスト周辺に設置された線路。

 

その線路上には耳をつんざく砲声を轟かせる列車砲の群れがいた。

 

そしてその中には先程、恐るべき威力の砲弾でもってして砦を一撃で粉砕した列車砲が存在している。

 

それは第二次世界大戦中にドイツ第三帝国が作り上げた世界最大の列車砲――80cm列車砲のドーラである。

 

ちなみにドーラの両隣には同型のグスタフと第一次世界大戦期にドイツ軍が使用した列車砲――パリ砲が存在し、更に線路から少し離れた場所には80cm列車砲と同型の砲を搭載したP1500モンスター超重戦車が鎮座していた。

 

「次弾装填急げ!!」

 

「次の目標と弾種は!?」

 

「次の目標は70キロ先にある要塞だ。弾種は誘導砲弾!!」

 

パラベラムの手によって多くの改造・改良点が加えられている80cm列車砲は発射速度が向上し以前は砲操作に約1400人、支援要員に4000人もの人員を必要としたが今では作業用アサルトアーマーやパワードスーツ、砲兵支援用無人兵器のお陰もあり全体で1000人程の人数で砲を操る事が出来るようになった。

 

またパラベラムの技術省が新開発したロケットモーター装備のGPS補正誘導型の誘導砲弾を使うことで射程距離が最大で250キロにまで伸びている。

 

80cm列車砲が使用する砲弾は主に3つ。

 

新開発の誘導砲弾と以前からある榴弾、ベトン弾である。

 

榴弾は重量が4.8トンもあり最大射程は48キロ、爆薬重量は700キロ、爆発した際のクレーターサイズは幅10メートル、深さ10メートルにおよぶ。

 

砦を一撃で爆砕したのはこの榴弾である。

 

そしてベトン弾は砲弾本体がニッケルクロム鋼で、ノーズコーンはアルミニウム合金で出来ており最大射程38キロ、爆薬重量は250キロあり7メートルのコンクリート壁を貫通する威力を誇る。

 

他にも改良を加えられた旧世代の遺物であるはずの列車砲が帝国の防衛線である砦や要塞に向け盛んに砲弾を撃ち込んでいた。

 

そうして大口径の大砲の砲弾で、特に3門もある80cm砲により帝国の要塞群や砦は次々と簡単に吹き飛ばされていく。

 

「第2指揮所よりHQへ。既に半数程の部隊が国境ラインを通過、残りの半数も予定通りに進行中」

 

「ほらほら、モタモタするな!!急げ!!日が暮れるまでには予定ポイントに到達するんだ!!」

 

砲撃を繰り返す列車砲のいる場所から20キロほど前進した帝国との国境線間際ではM110 203mm自走榴弾砲や2S5ギアツィント152mm自走カノン砲、406mmカノン砲を搭載する2A3コンデンサトール2P自走砲、2S7ピオン203mm自走カノン砲、更にはカール自走臼砲が砲列を組んで列車砲と同じように砲撃を行い、その脇を帝国領土内に侵攻する地上部隊が次々と走り抜けていき空には兵士や武器弾薬を満載した輸送ヘリ、地上部隊の支援を行う戦闘・攻撃ヘリが編隊を組んで飛行していた。

 

何処までも続く長い隊列を組んで侵攻ルートに指定された街道に轍を刻んでいく地上部隊は戦車や装甲車、自走砲等を含む各種軍用車を1万2000輌(カズヤの能力に頼らずパラベラムで生産された車輌を含む)も擁し総兵力は30万に及ぶ。またパラベラム軍の30万とは別に旧カナリア王国軍の兵士、騎士等が3万人程従軍している。

 

「デ、デケェ……」

 

「スゲェ……」

 

順調に進軍していく大部隊の中に一際目立つ車輌が走行している。

 

「そこの貴様らっ!!邪魔だ、早く退け!!轢き潰されたいのか!!」

 

「は、はいっ!!」

 

「申し訳ありません!!」

 

兵士達の視線を一身に集めている、その車輌は重量900トン、全長40メートル、全幅15メートル、高さ14メートルという桁違いの大きさに『陸上戦艦』の異名を付けられ、主兵装に28cm2連装砲塔を搭載、副兵装にボフォース57mm砲を2基2門、近接防御火器システムのCIWS(ファランクス)に近接防空用艦対空ミサイルとして開発されたRIM-116 RAMを組み込んだMk.15 mod.31 SeaRAMを3基搭載したラーテである。

 

此度の反攻作戦の前線指揮所としての役割も与えられているラーテは全身にM1エイブラムスと同じ複合装甲を使用。

 

正面及び側面装甲の厚さは300ミリに達し、車体上面装甲さえ170ミリという分厚い装甲を持つ。

 

また、そんな分厚い装甲に覆われているラーテは大口径の重砲による直接照準射撃や航空機による空爆などの攻撃にさえに耐えうる事が出来き史上最強の防御力を誇る。

 

最も、その大きさと重さ故に移動速度は遅くラーテ専用の支援アサルトアーマーの補助無しにはまともに移動する事さえ出来ないというデメリットも抱えているのだが。

 

多くの兵士からは頼もしい兵器だと、戦場での働きに期待を寄せられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「ご主人様、戦果報告書が出来上がりました」

 

「見せてくれ」

 

ヴァーミリオン作戦の初日を無事に終え、ホッと胸を撫で下ろしていたカズヤの元に千歳が戦果報告書を携えてやって来た。

 

えぇっと、こちらの被害は皆無……敵は大損害か……。

 

初日は俺達の完全勝利だな。

 

カズヤが視線を落とした戦果報告書には思わず笑みが溢れる程の戦果が書かれていた。

 

帝国全土を対象とし、同時多発的に行われたパラベラムの先制攻撃により帝国軍はたった1日で甚大な被害を被った。

 

再侵攻の要となるべき空中要塞やその他の要塞兵器は天空から降り注いだ質量弾によって完膚無きまでに悉く破壊され、魔導兵器や自動人形の生産施設も弾道ミサイルの雨と戦略爆撃隊の空爆により全生産施設の内、約60パーセントを喪失。また(旧カナリア王国との)国境付近に造られていた要塞群や砦も列車砲及び自走砲による砲撃によって壊滅、同時に各要塞や砦に集積されていた武器、兵器、物資も塵と消え人的被害は最終的に死者10万人、行方不明者30万人、重軽傷者30万人を記録したのであった。

 


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