ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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それは月の無い暗闇に閉ざされた夜の事だった。

 

辛く厳しい訓練を受け、多くの実戦経験を積み敵を倒す事に特化した男達が闇に同化し、ただひたすらにその時を待っている。

 

闇夜に紛れる彼らが持つ武器は従来の物より様々なアクセサリーを取り付ける事が出来るように各部にマウントレールが増設されているH&K M8アサルトライフルとその派生系(PDW型・狙撃銃型・SAW型)である。

 

「(3、2、1、0。……状況開始)」

 

時計の針が作戦開始時刻を刻んだ瞬間、漆黒の戦闘服に身を包み顔をガスマスクで覆ったパラベラムの特殊部隊ブラックアローズが行動を開始。

 

ターゲット(粛清対象)のいる屋敷に音もなく接近していく。

 

「(各小隊、散開し配置につけ)」

 

ターゲットのいる屋敷は王都から少し離れた山中にある贅の限りを尽くした豪華な屋敷であった。

 

『(こちら第2小隊、配置完了)』

 

『(第3小隊、同じく配置完了)』

 

山を切り開き建てられた屋敷の周りには見るものを楽しませる工夫が凝らされた美しい庭園が広がっている。

 

「(第1小隊より各隊、我々も配置についた。スリーカウントで3隊同時突――待て……メイドが出てきた)」

 

広い庭園の中を気配を消し垣根や花壇を避けつつも、素早く尚且つ慎重に横断した第1小隊が配置につき突入態勢を整え合図で3隊同時に屋敷の内部へ突入しようとした時だった。

 

屋敷の中から隷属の首輪を付けた獣人のメイドが1人、庭園に出てきた。

 

「(どうします?)」

 

「(……眠らせろ)」

 

「(了解)」

 

メイドがこちらの存在に気が付き悲鳴を上げては困るので、気が付かれる前に大人しく眠ってもらおうと隊員がメイドの背後からコッソリと近付く。

 

あと、少し……。

 

パラベラム軍特製の速効性のある眠り薬を染み込ませた布を手に隊員がメイドまであと一歩の所に近付いた時だった。

 

「――シッ!!」

 

――グサッ!!

 

メイドの間合いに隊員が入った瞬間、屋敷の中から溢れる光りを反射して鈍く輝く白刃が隊員の首に突き立てられた。

 

「っ!?……グッ……グボッ……」

 

……マジ……かよ……コイツ……手練れ……だ。

 

たかがメイドと見くびってはいなかったはずではあるが、まさか相手が侵入者を殺すために戦闘訓練を積まされた戦闘マシーンのようなメイドで、また先手を取られるとは思ってもみなかった隊員は自分の首に刺さるナイフの柄を握り締めたまま地面に崩れ落ちた。

 

「敵――ッ!?」

 

隊員を隠し持っていたナイフで殺害し大声を上げようとしたメイドの頭と胸に、サプレッサーでマズルフラッシュと発砲音を抑えつつ放たれた5.56mm NATO弾がめり込む。

 

急所に数発の5.56mm NATO弾を撃ち込まれたメイドは最後まで声を上げる事が出来ずに息絶えた。

 

『おい、なんだ今の声は!?』

 

『外からだ!!賊か!?』

 

クソッ!!気付かれたっ!!

 

しかしメイドを殺すのがほんの少し遅かったせいで敵が異常に気が付き動き出してしまう。

 

「突入!!」

 

もはや静かにやる意味もなくなったため各小隊はド派手に屋敷内へと突入する。

 

「第1小隊よりHQへ、奇襲は失敗した!!これよりターゲットの元に向かう!!」

 

『HQ了解。ターゲットは逃がすな、必ず始末せよ』

 

「そんなことは百も承知だ!!ミミン!!……遺体を頼む。――お前ら行くぞ!!」

 

「了解」

 

「「「「了解!!」」」」

 

屋敷の壁をC4爆薬で吹き飛ばし強引に入り口を作り、屋敷内へ催涙弾を次々と撃ち込む部下を尻目に第1小隊の隊長は現状をHQに報告していた。

 

そしてHQへの状況報告が終わると部下の1人に死亡した隊員の回収を命じ、残りの部下を引き連れて屋敷の内部に入った。

 

「ゲホッ!!ゲホッ!!な、なんだこりゃあ――ギャッ!!」

 

「ゴホッゴホッ!!クソッ!!目が痛い……っ!?何も見えな――グハッ!!」

 

突入に先立ち窓という窓や突入口から大量に撃ち込まれた催涙弾によって屋敷の中にいた警備兵やメイド達が、もがき苦しんでいた。

 

「メイドだろうと情けは掛けるな!!手を抜けばこちらが殺られるぞ!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

もがき苦しむ警備兵やメイド達に情け容赦なく5.56mm NATO弾を叩き込み、息の根を止めながら廊下を駆けていく第1小隊の兵士達。

 

「ここか」

 

ターゲットのいるであろう部屋の前に一番乗りで辿り着いた第1小隊は突入の態勢を整える。

 

「……」

 

「……」

 

小隊長が扉の横の壁に張り付きながら、銃身下部のマウントレールにM26 MASSを装備しているM8アサルトライフルを持つ部下に無言で視線をやり顎をしゃくると部下は小隊長の意図を理解し、小さく頷きスラッグショット(一粒弾)を装填してあるM26 MASSの銃口を扉の蝶番に向け引き金を引いた。

 

「GO、GO、GO!!」

 

ドンッドンッドンッとスラッグショットで蝶番を見るも無惨に破壊した直後、扉を蹴破り中に入った隊員達が見たものは、屋敷から逃げ出すためなのだろう、隠し金庫の中から白金貨や金貨を持ち出そうとしているレーベン丞相の姿だった。

 

「き、貴様ら!?パラベラムの手の者だな!!ワシを――な、なんだこれは――ギャ、ギャアアアアァァァーーー!!」

 

レーベン丞相はしゃべっている途中に突然ブラックアローズの隊員に投げ渡されたTH3焼夷手榴弾を思わず受け取ってしまう。

 

直後、安全ピンの抜かれていたTH3焼夷手榴弾が炸裂し華氏4000度の燃焼温度でレーベン丞相の体を焼いていく。

 

「……副総統からの密命でな。貴様は惨たらしい殺り方で殺せとのことだ。悪く思うな、それと伝言がある『ご主人様を愚弄したことは万死に値する。自らの犯した罪を悔いながら地獄に落ちろ。クソジジイ』だそうだ」

 

全身に重度の火傷を負い、皮膚が焼け爛れ息絶えるまで秒読みに入っているレーベン丞相に向けそう伝言を伝えた小隊長は作戦の完了をHQに報告した後、最後にレーベン丞相の頭に銃弾を撃ち込み完全に息の根を止めると屋敷内の制圧を終えた他の隊と共に帰還の途についた。

 

こうしてカナリア王国を裏から操っていた老害はあっさりとその生涯に幕を下ろし、また同時刻に行われていたカナリア王国に巣食う悪徳貴族達の殲滅作戦も無事終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

カナリア王国の王都バーランスは祝賀ムードに包まれていた。

 

何故ならばつい先日、カズヤの元にイリスとカレンが嫁ぐことやカナリア王国がパラベラムに“併合”されることが発布され、そして今日カズヤと2人の結婚式が執り行われたからである。

 

もっとも併合の件については愛国心のある国民や利権・特権を奪われることを恐れた貴族達から反発があったものの、パラベラム側からの追加の発表でカナリア王国を併合した際には、これまで納めていた税を3分の1程度にまで減税することが発表されると大多数の愛国者達は手のひらを返し併合に対し歓迎の声を上げた。

 

そして併合に反対していたカナリア王国の貴族達だが、彼らは千歳がこの時の為にコツコツと集めていた不正や腐敗を指し示す言い逃れの出来ない物証や証拠を付きつけられレーベン丞相のように粛清の嵐に呑まれるか、おとなしく御用となった。

 

その結果、カナリア王国内の併合に反対する勢力及び王国内の“膿”はほぼ完全に一掃されカズヤとイリス、カレンの結婚と時を同じくしてカナリア王国は正式にパラベラムに併合された。

 

ちなみに併合に際して、カズヤの意向でカナリア王国の国家システムを一部残しつつ、パラベラムの法律や国家システムを導入したこと、パラベラムが以前からカナリア王国の経済・物流を握っていた事が幸いし大した混乱は発生することが無かった。

 

「……つ、疲れた」

 

新婦が2人もいるため長々と長時間(当然の如く1人ずつ個別に執り行ったため余計に)続いた結婚式がようやく終わりクタクタに疲れ果てたカズヤは待合室になっている部屋の中で椅子に深く腰掛け体を休めていた。

 

「お疲れ様でした。ご主人様」

 

そこへ出産を終え無事、第一子となる女の子――長門明日香を授かりカズヤとの結婚式も既に(一番最初に)終えた“長門”千歳が左手の薬指に着けた結婚指輪をキラリと光らせながら現れる。

 

「あぁ、本当に疲れた。……そうだ、アミラ達の方はどうなっている?」

 

「ハッ、今のところは千代田が上手くやっているのか問題はない様です」

 

病院を退院し、千代田の存在と騒動があった事を知った千歳がクロッツ技術大佐とその部下達に死に装束と自決用の刀を送り付けるという事件?があったものの、現在では千代田と上手く付き合っている千歳が、そう言って手に持っているタブレット端末を見ながらカズヤに報告する。

 

「そうか……。まぁ、あちらの事は千代田とアミラに任せておけば大丈夫だろう。さてと、んん〜〜〜んっ!!」

 

カズヤとアミラ達3人の結婚式に併合を控え、必ず出てくるであろう過激な反対派を鎮圧するために憲兵隊と共に妖魔連合国へ派遣された千代田の情報を耳に入れたカズヤは席を立ち、思いっきり背を伸ばす。

 

「さてと……イリスとカレンのご機嫌伺いをしにいくか」

 

新たに自分の妻となった2人の様子を見に行こうとカズヤが待合室の扉へ向かう。

 

――コンコン。

 

「ん?」

 

「失礼します」

 

「失礼するわ」

 

カズヤが扉を開こうとドアノブに手を伸ばした瞬間、扉が外からノックされ花嫁衣装に身を包んだイリスとカレンが部屋の中に入って来た。

 

イリスは純白の飾りっ気のないシンプルなウエディングドレスを纏い、カレンはイリスと対照的に真っ黒で装飾過多なゴスロリ風のウエディングドレスを纏っている。

 

「あれ?どうしたんですか、お兄さん?」

 

「あら?カズヤ、貴方何処かへ行く所だったの?」

 

「いや、2人の様子を見に行こうとしたんだが……ちょうど良かった」

 

「そうだったんですか、行き違いにならなくて良かったです」

 

「そう。ならいいのだけれど」

 

待合室にやって来た2人を歓迎したカズヤは2人を席に誘い、休憩がてらに暫し歓談に興じることとなった。

 

「――ま、それはしょうがない」

 

「そうかしら?」

 

「やっぱりお兄さんもそう思いますよね?」

 

「まぁ……な」

 

「――あの、ご主人様。お話の途中に申し訳ありません。今夜のパーティーの事なのですが……」

 

待合室の中でカズヤがイリスとカレンの2人と話をしていた時、タイミングを見計らっていた千歳が話に割り込む。

 

「ん?あぁー。……そんなのもあったな……それがどうかしたか?」

 

カナリア王国の貴族で不正をやらず腐敗もしていなかった数少ない真っ当な貴族達に対する顔見せと披露宴を兼ねたパーティーの存在を思い出したカズヤが気だるそうに千歳に答える。

 

「ハッ、ご主人様もお疲れの様ですので、もし宜しければ終了時間を前倒しして早めに終わるように手配しておきますが……いかが致しますか?」

 

「……そうだな。悪いがそうしておいてくれるか?」

 

「……っ!!……そ、そうですね、そうした方がいいと思いますよ。お兄さん」

 

「……っ!!え、えぇ、そうね。私もそうした方がいいと思うわ」

 

とある事に気が付き頬を赤らめたイリスとカレンがヤケにパーティーの終了時間を早めようとする。

 

……2人共どうした?

 

突然そわそわと落ち着きを無くした2人をカズヤが訝しんでいるとイリスとカレンの2人が何故、落ち着きを無くしたのかを見抜いた千歳が2人に死刑宣告を叩き付ける。

 

「……お前達2人が結婚初夜を期待しているようだから先に言っておく。ご主人様はパーティーが終わり次第パラベラム本土にお帰りになる」

 

「…………えっ?」

 

「なんっ……ですって……っ!?」

 

千歳の宣告にイリスとカレンは幸せの絶頂期から一気に地獄に叩き落とされたような顔をする。

 

「…………そ、そんな嘘……ですよね、お兄さん?」

 

「カ、カズヤ……一体どういうつもりなのっ!!」

 

2人ともカズヤとの熱い夜を期待していただけにカズヤを問い詰める言葉にも熱が入る。

 

「い、いや……まぁ……もうじき発令される大規模な作戦の準備が立て込んでいてな……」

 

2人の剣幕に押されたカズヤがタジタジになって答える。

 

「「そ、そんなぁ……」」

 

悪い。本当に悪い。と何度も頭を下げるカズヤにイリスとカレンが落胆を隠しきれずグッタリと椅子に身を任せる。

 

とその時、千歳が小さく笑っているのを見て2人はあることを悟った。

 

「「…………っ!?」」

 

……この人。

 

……この女。

 

千歳が2人のカズヤとの時間を奪うべくわざと予定を入れた事に。

 

……役目が終わったお前達に、そうやすやすと私がご主人様を渡すとでも?

 

ハンッ、バカめ!!主人様は私のモノだ。

 

勝ち誇った表情を浮かべ見下すような目で2人を見つめる千歳の態度が、2人の考えが的を得ている事の何よりの証拠だった。

 

「フフッ、フフフフッ!!」

 

いいでしょう。そっちがその気ならっ!!

 

「アハッ、アハハハッ!!」

 

私にも考えがあるわっ!!

 

千歳の行いによってスイッチが入った2人は壊れたように笑い出す。

 

……怖っ!!

 

壊れたお喋り人形のように笑い出したイリスとカレンの2人にカズヤは恐怖を感じていた。

 

「えっ!?なに、なにっ!?」

 

「なっ!?貴様らご主人様に何を!!」

 

突如、席を立った2人に腕を掴まれズルズルと引き摺られ始めたカズヤは慌てふためき、千歳はイリスとカレンに怒りの混じった声で問い質す。

 

「お兄さん、パーティーが始まるまで」

 

「まだ時間があるわよね?」

 

瞳をドブ川のヘドロのように濁らせて黒い笑みを浮かべた2人は千歳の言葉を無視してカズヤにそう問い掛る。

 

「え、あ、あぁ、パーティーが始まるまで後3時間ぐらいあるが……」

 

2人にパーティーまでの空き時間を問い掛けられたカズヤは嫌な予感をビンビンに感じながらも正直に答えた。

 

「それだけあれば」

 

「十分ね」

 

……まさか。

 

カズヤの額から冷や汗がタラリと落ちる。

 

「「お兄さん(カズヤ)時間一杯までタップリと楽しみましょう」」

 

アハハッ、やっぱり?

 

色欲に染まり艶やかで淫らな笑みを浮かべた2人にカズヤは自分が予想した通りの展開になったと肩を落とす。

 

「行かせると思うか?」

 

しかしカズヤを連れて部屋を出ようとしていた2人の前に千歳が立ちはだかる。

 

「……早くそこを退いて下さい。時間がもったいないです」

 

「さっさと退きなさい、カズヤと愛し合う時間が減るじゃない」

 

「……いい度胸だ」

 

あくまでもカズヤと愛し合うつもりの2人に千歳が得物――日本刀を抜く。

 

「私からご主人様を奪えると思うなよ?」

 

「もう……時間が無いのに……」

 

「いい機会ね。この際だから、どちらがカズヤの妻として相応しいか、その身に叩き込んであげるわ」

 

千歳が得物を抜いた事に呼応してイリスは杖を抜き、カレンは隠し持っていた短刀を手に握る。

 

「「「フンッ!!」」」

 

そして待合室の中でカズヤを巡る女達の物騒な戦いが始まってしまった。

 

……この先の夫婦生活が思いやられる。

 

カズヤは戦いを始めてしまった3人を部屋の隅から呆れたように見つめ、コッソリとため息を吐いていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

カズヤが千歳達の物騒なキャットファイトを眺めながら、ため息をついていた頃。

妖魔連合国の首都では併合に反対する暴動が発生していた。

 

「魔王の勝手を許すなー!!」

 

「売国奴のアミラ・ローザングルを王座から引き摺り落とせー!!」

 

「誇り高き妖魔が人間風情に屈するとは何事だ!!」

 

「なぜ妖魔である我々が下等種族(人間)の下に付かねばならんのだ!!」

 

 

妖魔という自分達の種族に誇りを抱き、力こそ全てという考えに染まっている妖魔の若者や荒くれ者達がパラベラムに併合されることを認めたアミラを糾弾するために魔王城の正門前にぞくぞくと集結している。

 

「まったく……国が滅ぶかも知れない瀬戸際の時に軍の参集要請を拒否した臆病者共の集まりのクセして文句を言うことだけは一丁前なんだから困ったもんだよ。……というかウチがパラベラムに併合されるのは族長会議でも全会一致で賛成されたことを知らないのかい、あんのバカ共」

 

妖魔連合国が帝国軍の2度に渡る侵略を受け、存亡の危機に瀕した際に妖魔軍の参集要請を拒否したが故に帝国との戦争で死なず、今声を上げている群衆(若い男達)を魔王城の上層にあるテラスから見下ろしつつアミラが呆れたように呟く。

 

「母様、準備が整いました」

 

「お母さん準備出来たよぉー」

 

暴動の激しさが徐々に増し市民が暴徒化し始めた時。

 

アミラの背後から戦装束を纏い完全武装したフィーネとリーネが現れた。

 

「そうかい、なら私達もそろそろいこうか。千代田やカズヤの部下達に全部任せる訳にもいかないしね」

 

最早、話を聞く耳も持たず手の付けられない暴徒と化した群衆を最後に一睨みした後アミラはフィーネとリーネ、近衛兵達を連れて魔王城の正門に向かった。

 

 

「全部隊、配置完了しました。いつでもいけます」

 

「よし、開門用意。魔王がこちらに到着次第暴徒を制圧する」

 

マスターから任せられたこの任務、失敗する訳にはいかない。

 

パラベラムから派遣された千代田と憲兵隊は魔王場の正門の内側に集結し、その時が来るのを待っていた。

 

固く閉じられた正門の前にはアクティブ・ディナイアル・システム――ADS(指向性エネルギー兵器)を搭載したハンヴィーや放水砲が付いた放水車が待機し、その周りには盾や警棒、ゴム弾を装填したレミントンM870や催涙弾を装填したダネルMGL、テイザー銃を持つ憲兵がひしめきあう。

 

「待たせたね、千代田」

 

「来たか。そちらの準備は?」

 

「万全だよ」

 

「そうか、ならばさっさと片付けるぞ」

 

「あぁ、そうしよう」

 

やって来たアミラ達の準備が整っていることを確認した千代田は右手をサッと空に掲げ、部下達に合図を出す。

 

「総員、突撃用意!!」

 

千代田の右手が降り下ろされるのと同時に魔王城の正門が開かれる。

 

「おい!!も、門が開くぞ!!」

 

「ヘッ!!好都合だ!!俺がアミラをぶっ飛ばしてやる――あぢぢぢぢっ!!」

 

「ギャアアアアァァァァーー!!熱い熱い熱い!!」

 

正門が開かれると暴徒達は魔王城の内部へ侵入しようとしたが、待ち構えていたADSから最大出力で照射されるミリ波の電磁波を浴び、誘電加熱によって皮膚の表面温度が上昇、火傷を負った様な錯覚を味い悶え苦しむ。

 

「行くぞ!!私に続け!!」

 

「「「了解!!」」」

 

「いくよ!!お前達!!」

 

「はい、母様!!」

 

「うん!!」

 

「「「ハッ!!」」」

 

ADSの照射が終わると千代田とアミラが先頭に立ち放水車やその周りにいたフィーネやリーネ、憲兵、近衛兵を引き連れて城外へ打って出た。

 

「に、逃げろーー――ゲブッ!!」

 

「アワワワっ!!――グヘッ!!」

 

「さっきまでの威勢はどうした!!」

 

「雑魚共が!!粋がってるんじゃないよ!!」

 

先頭を行く2強に暴徒達は蹴散らされ

 

「バ、バケモンだ!!こんな奴に勝てる――グエッ!!」

 

「ウ、ウオオォォーー――ブフッ!!」

 

そして後ろに続く憲兵達にある者は憲兵の盾や警棒でボコボコに撲り据えられ、

 

「や、やめっ!!グッ!!た、頼む!!助けっ、ガハッ!!」

 

レミントンM870から撃ち出されるゴム弾に全身を撃ち据えられ

 

「グッ、ダッ、ブッ、も、もうやめ……」

 

そして最後に

 

「アババババッ!!」

 

テイザー銃を食らい全身を痙攣させながら捕縛されていく。

 

「邪魔だ!!」

 

「えいっ!!」

 

「「「オオォォーーッ!!」」」

 

加えてアミラの後ろに控えるフィーネやリーネ、近衛兵達も暴徒の意識を情け容赦なく刈り取り地面に沈めていった。

 

 

「なんだい、情けない奴らだね」

 

暴徒の制圧を開始してから5分後、魔王城の正門前には暴徒と化していたはずの妖魔達が死屍累々と転がっていた。

 

「ウゥ……」

 

「……イテェ」

 

死体の様に地面に倒れ伏す妖魔の口からは痛みを堪える呻き声が上がり、少なくとも死んでいない事が確認出来た。

 

「……つまらんな。力に優れた妖魔と言えどこの程度の強さしかないのか。いや、ただ単にコイツらが弱いだけか?」

 

戦闘モードから通常モードに移行し腕や足の中に武器を格納した千代田が妖魔の強さについて考えていた。

 

こうして予想よりもアッサリと暴徒は鎮圧されてしまい、カズヤから任された任務に意気込んでいた千代田や暴れられることを密かに楽しみにしていたアミラに肩透かしを食らわせる結果となったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

アミラ達との結婚式やカナリア王国、妖魔連合国の両国を併合し諸事を終え、各地に降り積もった雪が溶け始め春の到来が目前に迫った頃。

 

帝国の奥深くにまで潜り込んだ諜報員の報告で帝国の侵攻作戦が4週間後に開始されるという報告を受け、3週間後に発令される事となったヴァーミリオン作戦の為にパラベラムの軍港から次々と出港し艦隊や船団を組みつつ一路、目的地へ向け進んで行く戦船達の見送りを終えたカズヤは自分の執務室で作戦計画書に目を通していた。

 

[ヴァーミリオン作戦]

 

・ヴァーミリオン作戦とは。

エルザス魔法帝国に与する渡り人の殲滅及び帝国解体を目的とした大規模反攻作戦。

 

※本作戦は帝国が保有する広大な領土や豊富な地下資源、金銀財宝等を目的とした物にあらず。

 

作戦概要

 

・現在までに確認されている敵の各種要塞兵器に対し通常弾頭及び特殊弾頭を搭載した弾道ミサイルや宇宙兵器ケラウノス(神の杖)による攻撃。

 

・戦略爆撃隊による敵軍事拠点・施設への空爆。

 

・三海(ゼウロ海、キロウス海、テール海の3つで構成された海。地球で言う地中海のような場所)に派遣された遠征艦隊によるグローリア(帝国の副都市)攻略。

 

・旧カナリア王国領の城塞都市ナシスト周辺に集結したパラベラム軍・旧カナリア軍の混成部隊による帝国侵攻。

(※なお、帝国に侵攻する混成部隊はあくまで敵の注意を分散させるための囮であるため、混成部隊は国境からおよそ100〜150キロ程度前進した所で進軍を止め敵の反撃に備え防戦態勢に移行し帝都攻略後、または渡り人殲滅後には速やかに占領地域から撤退)

 

・足掛かり(グローリア)を得た遠征艦隊による帝都攻略、渡り人殲滅。

 

 

既に何十回と目を通した作戦計画書を見直しながらカズヤは1人黙って考えていた。

 

ウチ(パラベラム)の保有している戦力をほとんどを投入した乾坤一擲の大作戦だ。上手くいってくれればいいが……。

 

敵さんも新式の銃を始めとした新兵器を準備しているらしいし……。

 

一筋縄ではいかないだろう。

 

……成功を祈るしかないか。

 

反攻作戦ヴァーミリオンが開始されるまで残り3週間。

 

カズヤの心配は尽きる事が無かった。

 


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