ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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アデルが不憫……


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本土となっている島を中心とした大小無数の島々で構成されている軍事国家パラベラム。

 

そのパラベラムを構成する島のうちの1つでパラベラム本土から20キロ離れた場所にある島には保安上の問題と増加の一途を辿る捕虜に対処するために新設された捕虜収用施設があった。

 

その島は『監獄島』と呼ばれ他の島々と同様に要塞化されていたが、使用目的上の理由により設置されている武器兵器のうち半数は内側に向けられていた。

 

そして難攻不落で脱出不可能な監獄島ではこれまでにパラベラムの捕虜となったエルザス魔法帝国の元兵士達が日夜パラベラムの為に汗水流して働いていた。

 

……一体どうなっているんだ、これは。

 

約13万人規模にまで増えた捕虜を効率的に管理するため監獄島での一括管理が決まりパラベラム本土と各基地にある捕虜収用施設の閉鎖が決定したことに伴い、この島に移送されて来たアデルは予想もしていなかった捕虜収用施設内の光景に思わずポカンと口を開き、独房への移動途中にも関わらず通路の真ん中で立ち止まってしまっていた。

 

元々、渡り人で勇者という肩書きの特異性から一般の捕虜とは違う特別な収用施設にいたアデルは他の捕虜の扱いについて目にする機会が無かったため、自分の常識と勝手な考えで捕虜達はすでに隷属の首輪で奴隷にされて自由を奪われ男は劣悪な環境下で朝から晩まで働かせられ、女は恥辱の日々を送っていると思っていた。

 

しかし、現実はアデルの予想と違い捕虜達は隷属の首輪を付けられ奴隷になっていたものの健康的な体つきで綺麗に洗濯された服を着て清々しいほどまでの笑顔で嬉々として労働に従事していのだった。

 

「……」

 

そんな目の前の光景が理解出来ないアデルはしばらくその場から動けなかった。

 

「おい、止まるな。何をしている進め」

 

先を行く看守の男の声でハッと我に返ったアデルは特別製の手錠と足枷から発生するじゃらじゃらという音を響かせつつ10人の親衛隊の兵士に銃口を常に突き付けられ、周りを取り囲まれながら歩みを再開させる。

 

「……なぁ、さっきの彼らは――」

 

「喋るな、黙って歩け」

 

「……」

 

先程見た捕虜達について親衛隊の兵士に質問しようとしたアデルだったが、兵士から有無を言わさぬ声でピシャリと言葉を叩き付けられ黙るしか無かった。

 

……一体何がどうなっているんだ?この世界や俺のいた世界では本来、戦で捕虜になったら男は殺されるか奴隷、女は慰み者にされてから殺されるか奴隷の2通りしかないはず。なのにコイツらはなぜ奴隷にした彼らをあんな風に厚遇しているんだ?

 

……まさかまだ奴隷にしていないのか?いや、隷属の首輪は付けられていたから奴隷のはず。

 

しかし……奴隷にしてはいい服を着せられていたし、痩せ干そってもいなかったぞ。

 

それにさっきの場所に女は1人も居なかったが、男だけがあのような扱いを受けているとも思えん……。

 

う〜ん……謎だ。

 

独房への長い道のり歩いている間、アデルは奴隷達の事を考えることに費やしていた。

 

「止まれ、ここだ」

 

アデルが奴隷達について考えを巡らせていると魔法の行使が不可能になる術式が刻まれた特別な独房の前にたどり着いた。

 

「入れ」

 

アデルは手錠だけを外されて独房に入れられ、そして独房での1人寂く静かな暮らしが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

監獄島の最下層にある独房に収用され誰とも顔を合わさず会話をしない日々が2ヵ月程経った頃、アデルの元を訪ねてきた人物がいた。

 

「……ぉ、俺に何のようだ?」

 

食べて寝る。そんな事しかしない生活の中で久し振りに声を出したために少し吃りながら喋るアデル。

 

「いや、少し様子見と……ちょっとな」

 

アデルの入る独房の前に立つのは手を封じる拘束衣を着せられたセリシアとずっと刀の柄に手を掛けている千歳を引き連れたカズヤだった。

 

「……ならもう見ただろ。さっさと帰れ」

 

「貴様ッ!!ご主人様になんだその態度は!!」

 

「アデル、カズヤ様にそのような言葉使いはいけませんよ」

 

アデルの態度に千歳は苛つきセリシアは眉を潜める。

 

「あー。帰るのは帰るんだが……帰る前に少し話があるんだ」

 

「話?」

 

カズヤは苦笑を浮かべ困ったように頬を掻きながらアデルにそう告げた。

 

 

場所を独房から別の部屋へと移したカズヤはセリシアと千歳を後ろに控えさせ話を始めた。

 

「なに?お前達の研究に協力しろと?」

 

「あぁ、そうだ。魔法や魔力についての研究が上手く進まなくてな、膨大な魔力を持っていて魔法についても詳しいお前(の協力)が必要になった」

 

「なっ!?お、お前が必要だなんてっ!!な、何を恥ずかしいこと言っているんだ!!」

 

カズヤの言葉にアデルは顔をリンゴのように赤く染め上げる。

 

「………………あれ?お前、俺の完全治癒能力の副作用の影響は受けていなかったよな?」

 

「っ!?あぁ、そうだ。お前のちゃちな洗脳魔法なんて俺には効いていない!!」

 

不味い!!俺がこの感情を抱いていることがバレたら……っ!!

 

完全治癒能力の副作用でカズヤに恋心を抱いたはずのアデルが最重要注意人物として監獄島に収用された理由……それは勇者であることとカズヤの完全治癒能力の副作用の影響を受けていなかったことによる。

 

だがしかし、話はそれで終わらない。

 

これはアデルだけの秘密であるが、カズヤの完全治癒能力の副作用の影響を受けていなかったのは治癒を受けてから約1ヵ月程度の間の事で、今では治癒の際にカズヤから流れ込んだ魔力が凶悪な病原菌のようにアデルの心や魂を蝕んでいたのである。

 

「……だよな?お前が完全治癒能力の副作用の影響を受けていなかったから、魔力を多く持っている人物には副作用の影響が出にくいって仮説が立てられたんだが」

 

「本当だと言っているだろう!!」

 

未だに真っ赤な顔のアデルは、秘めたる想いを隠すように語気を強めて言い切った。

 

「そうか……どれ」

 

カズヤはアデルの言葉が本当かどうか確かめるために椅子から腰を浮かせるとアデルの頬に両手を添え顔を近付け、その蒼く澄んだ瞳を覗き込んだ。

 

「っ!?くぁwせdrftgyふじこlp!?!?」

 

その瞬間、アデルはボフッ!!と茹で蛸のように赤くなり、まるで恥じらう乙女のような反応を示した。

 

「なぁ…………まさかとは思うが、アデル……お前……」

 

「う、う、うるさいうるさいうるさーーい!!お、お前なんて好きでも何でもない!!本当だぞ!!お前を見るとドキドキしたり、お前の事を考えると胸が苦しくなったりなんか絶対してないんだからな!!」

 

……いや、まだ好きかなんて聞いていないんだが。

 

後、自爆してる。

 

暴れる事の出来ない拘束椅子の上で真っ赤になりながもカズヤの視線から逃れようとするアデルは焦りのあまり自爆していた。

 

「フフッ、ようやくアデルもカズヤ様の素晴らしさを理解出来たのですね」

 

羞恥に悶えるアデルの姿にセリシアは妖しげに微笑む。

 

コイツ……何かに……利用……出来るか?

 

千歳はカズヤに対し明らかに恋心を抱いているアデルを何かに有効利用出来ないかと頭の中で考えを巡らせていた。

 

「ゴホン、まぁこの話は置いといて本題の話を進めよう」

 

「………………さっさと終わらせろ」

 

カズヤの気遣いや自分が自爆した事や気が付き、もういっそ殺してくれと言わんばかりに項垂れたアデルが話の先を促す。

 

「了解。……それでだ、お前がこの件を受けてくれるのであれば――」

 

カズヤの提示した条件にアデルは頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

カズヤが提示した条件の為に素直に協力するアデルのお陰でパラベラムの魔法及び魔力についての研究は飛躍的に進み停滞は解消された。

 

 

「……俺の約束は果たしたぞ。今度はそちらが約束を果たす番だ」

 

「アデル……まだそんな事を……」

 

行動や思想に難はあるものの、その(魔法使いとしての)有能さとカズヤに対しての忠誠心からパラベラムにおける魔法研究の総責任者になっているセリシアが呆れたようにアデルに視線を送る。

 

「セリシアは黙っていてくれ」

 

最初はやはり刺された事についてセリシアに対し隔意を持っていたアデルだったが、顔を合わせ話を重ねる毎に隔意も消えていったのか、今では以前のようにセリシアと接していた。

 

「分かっている、千歳」

 

「……ご主人様、本当によろしいので?」

 

カズヤがアデルとの約束を果たそうとすると千歳が念のため確認を取る。

 

「約束は約束だ」

 

「畏まりました」

 

カズヤの意が変わらない事を確認した千歳はカズヤの命を実行するべく行動する。

 

そして30分後。監獄島にある多目的ホールに女性の捕虜が全員集められると、カズヤは千歳から渡されたマイクに向かって言葉を送る。

 

「……さてと。『長門和也の名の元にここにいる奴隷達を奴隷から解放する!!』」

 

マイクを通し多目的ホールに響いたカズヤの言葉により女性の捕虜の首に付けられていた隷属の首輪の効力が失われ、それにより魔法の効果で繋ぎ止められていた繋ぎ目部分が自然と外れ首輪はポトリと地面に落ちた。

 

そうカズヤがアデルに提示した条件とはパラベラムが捕虜にしている女性、全員の解放である。

 

「約束は果たしたぞ」

 

「……あぁ」

 

隷属の首輪が無くなり自由の身となった女性達を見てアデルはしっかりと頷いた。

 

「…………どうしたんだ?」

 

ふと、アデルがあることに気が付く。

 

「「「「「「……」」」」」」

 

それは奴隷から解放され喜びに浸るはずの女性達から歓声の声が聞こえない事である。

 

……なんだ?どうしたっていうんだ?

 

いや歓声どころか女性達は身動ぎ1つせず、ただある一点を、壇上に立つカズヤだけを見つめていた。

 

「「なっ!?」」

 

「どういう……ことだ?」

 

「うふふふ」

 

奴隷から解放されたというのにも関わらず、カズヤを見つめていた女性達が突如、膝を折りカズヤに向かって深々と頭を垂れた事にアデルやカズヤ、千歳は困惑しセリシアは意味深に笑っていた。

 

「「「「「「我らの主よ、我らの神よ。我らの血の一滴、魂の一片まで自らの意思でもって貴方様に捧げ、この命、この魂、散り果てるまで貴方様をお守りし貴方様だけに隷属し従属し服従することをここに誓います!!」」」」」」

 

声を揃え、まるで神に祈りを捧げる敬虔な信徒のように女性達は誓約の言葉を口にして、自らが口にした言葉が決して消えないように心の内に、魂に刻み込む。

 

「「……」」

 

狂気と忠誠心に満ちた宣誓にカズヤとアデルは絶句。

 

「ほぅ」

 

「ふふふ……」

 

千歳は彼女達の宣誓にすこし感心したような声を上げ、セリシアは目を細め女性達によくやったといわんばかりに笑みを送っていた。

 

「おい!!これは一体どういうことだ!?」

 

「いや……俺にも何がなんだか……」

 

「アデル、カズヤ様は何もしていませんよ」

 

「セリ……シア?」

 

「ふふっ、実は彼女達はね、皆私の話を聞いて考えを改めカズヤ様を神と崇める信徒となったのです」

 

「「「……」」」

 

衝撃の事実がセリシアの口から語られる。

 

「皆、ローウェン教の教えを捨て私が説いたカズヤ様への教えを唯一絶対のモノとして崇めているのです。そして彼女達は云わばカズヤ様を神と崇拝し身も心も魂も捧げカズヤ様の意にのみ従い行動する神兵達です」

 

「そんな……じゃあ……俺は一体何のために……協力を……っ」

 

カルト教団……いつの間に作った……。

 

セリシアが朗々と語る話を聞きながらカズヤは唖然としていた。

 

女性の捕虜の大半は城塞都市での戦闘の際に捕らえられた修道女が占めており、元々信仰深い彼女達が自分達の上官――神官長であるセリシアによって改宗させられローウェン教の教えに従っていたときより信仰の度合いを強めているのはご愛嬌である。

また信仰心が低かった女兵士や女騎士、女魔法使い達もいたが、次々とセリシアの甘言に取り込まれ結果、女性の捕虜全員が狂信的にカズヤへ忠誠を誓っていた。

 

「そう落ち込まないで下さいアデル。――……そうです。この際だから貴女も彼女達のようにカズヤ様に忠誠を誓い隷属しましょう?貴女だって本当はそう望んでいるはず」

 

「っ……断る」

 

様々な思いが胸に去来し混乱しているものの、越えてはならない一線を越えてしまえば、もう元の自分に戻る事が出来ない事を十分理解しているアデルはセリシアから差し出された手を取るのを拒否した。

 

「アデル……はぁ……ならしょうがないですね」

 

アデルの心が揺らいでいるのを見て取り、あと一押しあれば堕ちると確信したセリシアはアデルをこちら側に引きずり込むために奥の手を使う。

 

「あくまでもカズヤ様の物にならないと言うのであれば、これをみんなに見せます」

 

セリシアはおもむろに懐からビデオカメラを取り出し、再生ボタンを押した。

 

するとビデオカメラの横についている小型の液晶画面にアデルの姿が映し出された。

 

「「?」」

 

「……なんだそれは?」

 

映像から察するにアデルがカズヤの条件を受け入れ、独房から魔法の研究施設にある一室に移された頃だろうか。

 

カズヤと千歳、アデルが画面を見つめるなか映像は進んでいく。

 

「………………っ!?わああああああぁぁぁぁーーー!!や、止めろセリシア!!」

 

映像の中の自分がこのあとすることを思い出したアデルが慌ててセリシアに飛び掛かり、ビデオカメラを奪おうとする。

 

「ふふふっ、ダメです。カズヤ様にたっぷりと見てもらわないと貴女の素直で恥ずかしい姿を」

 

アデルの突進をヒョイと避け、姿勢を崩したアデルを押さえ込んだセリシアはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。

 

「ち、誓う!!コイツに忠誠を誓うから!!それを見せるのだけはやめてえぇーー!!」

 

半泣きになったアデルの絶叫がこだましたのと同時に映像の中のアデルも大声を出していた。

 

『カズヤ、カズヤ、カズヤカズヤ、カズヤ!!っ、んんん〜〜〜〜!!』

 

「……あ……ぁ……あぁ……」

 

カズヤの名を呼びながら自家発電に没頭するあられもない自身の姿をよりにもよってカズヤに見られたアデルは光りの失われた虚ろな瞳で口を震わせながら呻いていた。

 

「「……」」

 

アデルの心境を慮ってか、カズヤと千歳は知らん顔でそっぽを向いていた。

 

「……終わった……あははっ……見られた……」

 

カズヤと千歳にバッチリと映像を見られたアデルは茫然自失となっていた。

 

「ふふっ」

 

そこにセリシアが漬け込む。

 

「アデルは……ですよね?――だから……そう、でも……そうすれば……貴女に……忠誠……雌奴隷……奉仕……夜伽……仕込ん……神……だから……」

 

精神的ダメージを受け弱っていることをいいことに、アデルに次々と言葉を吹き込んでいくセリシア。

 

「……いいですか?」

 

「わカっ……た」

 

「セリシア?……アデルに何を吹き込んだ?」

 

何やら恐ろしげな単語を耳にしたカズヤが引きつった顔でセリシアに尋ねる。

 

「うふふっ」

 

セリシアはカズヤの問い掛けに答えず、意味深に笑うだけだった。

 

……怖っ。

 

そんなセリシアの態度に恐怖を抱いたカズヤが身震いしていると、すこし前までの透き通った瞳ではなく淀みきった暗い瞳になってしまったアデルがカズヤの前に膝をつき頭を垂れる。

 

「ワタ……しはカズヤ様のメスドレイです……アナたサマに身もココロも捧げ、マス……イツいかなる時も、御心を慰め……御身をマモリ、このミ朽ち果てるまで貴方様のオソバに」

 

「……」

 

セリシアの洗の――ゲフンゲフン、教育を受けたアデルを前にカズヤはただ固まっていた。


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