ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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パラベラム軍が妖魔連合国内の帝国軍に対し掃討戦を繰り広げている最中、裏舞台ではとある人物が暗躍していた。

 

――コンコン

 

「……入れ」

 

――ガチャリ

 

「失礼します。例の調査結果が出ましたのでお持ち致しました」

 

カリカリとボールペンの動く音だけが、静かに響いていたその部屋の中に報告書を携えた兵士が入室する。

 

「……結果は?」

 

身も心も魂の一片にいたるまで、全てを捧げている主のために裏舞台で暗躍を繰り返しているその人物は机の上に積み上げられている書類を凄まじい速さで1つ1つ処理しながら部屋に入ってきた部下に対し一瞥もくれずに投げ遣りに言った。

 

「ハッ、結果ですが、やはり副総統の睨んでいた通り真っ黒でした。王国ではご禁制の魔法薬、薬物の流通・売買に始まり違法な人身売買、賄賂などなど叩けば叩くほど埃が出て来る始末です」

 

「そうか……。ならば、その調子で調査を続けろ。あの計画を実現させるためにもな」

 

「ハッ、了解しました」

 

部下の返事を聞き仄暗い笑みを浮かべ底冷えのするような声で、この部屋の主である彼女は――千歳は言う。

 

「全てはご主人様の為に」

 

「総統閣下の為に」

 

部下の兵士も千歳の言葉に合わせるようにそう言うと最後に背筋をピンと伸ばし敬礼をして部屋から出て行った。

 

「失礼します」

 

その言葉と共に先程の部下と入れ違いにまた新たな部下が千歳の部屋に入って来る。

 

「何の用だ?」

 

先程の部下の時と同じように書類から片時も目を離さずに千歳は言った。

 

そんな千歳の様子に部下はいつもの事だとばかりに気にした様子もなく、簡潔に報告するべき事柄だけをスラスラと述べた。

 

「ハッ、副総統閣下が以前調べておくようにと仰られていた、妖魔連合国内で帝国軍に囚われ連行された人々と妖魔族の行き先が判明しました」

 

「どこだ?」

 

「エルザス魔法帝国領の帰らずの森にある古城です。また未確認情報ではありますが、その古城で人体実験や兵器開発が行われているという情報があります」

 

「……この話は、もうご主人様に伝えたか?」

 

ここで初めて千歳は手を止めてゆっくりと顔を上げると部下の方を見る。

 

「いえ、まだお伝えしておりませんが……」

 

「ならこの件はご主人様に伝えるな」

 

「は、しかし……」

 

報告を上げるなと言われ戸惑う様子を見せる部下を前に千歳は断言するように言った。

 

「ご主人様にこの事を伝えれば嬉々として御身自ら現場に乗り込みかねん。私の方で処理しておく」

 

「……了解しました。ではこちらが現段階で分かっている情報が記載された報告書です」

 

納得したとばかりに頷いた部下が報告書を残し部屋から出て行ったあと千歳は書類に埋もれていた電話を掘り出し直属の特殊部隊に連絡を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

千歳から連絡を受け緊急召集が掛かった特殊部隊『ブラック・ファントム(黒い亡霊)』の面々は前哨基地の司令部の一室に集いブリーフィングを行っていた。

 

「よし皆、揃っているな。これより作戦概要を説明する」

 

ブラック・ファントムの隊長、グレン少佐はそう言ってプロジェクターのスイッチを押した。

 

「これが今回のターゲットだ。エルザス魔法帝国領の帰らずの森にある古城。未確認だがここで兵器開発や妖魔連合国内で囚われ連行された人間や妖魔族が人体実験を受けているらしい。敵の兵力・人員は城の規模から約2000〜3000人程度と推定される。それとこちらとしては幸いなことに魔導兵器や自動人形は配備されていないようだ」

 

デイルス基地にいる千歳から送られて来た極秘と銘打たれた報告書を手に、プロジェクターから次々と映し出されている衛星写真を指差しグレンは続けた。

 

「本作戦の主目標はこの古城で何が行われているのか確かめること、また開発中の新兵器があればそれを破壊することだ。なお、本作戦は千歳副総統閣下の独断で決行される極秘の作戦となっている。そのことを頭に入れておけ。以上、何か質問は?」

 

グレン少佐からの質問に幾人かの兵士がスッと手を上げた。

 

「どうやって古城に潜り込むんですか?」

 

「航空機を使用し空から空挺降下で侵入する」

 

「捕虜は取りますか?」

 

「取るとしても1人か2人だ。他は全て排除しろ。他には?無いなら3時間後に出撃だ。以上解散!!」

 

「「「「了解」」」」

 

グレン少佐の掛け声で部下達は立ち上がり敬礼すると部屋から出ていった。

 

 

 

高度4000メートル。

夜空にキラキラと輝く星々の下、衝突防止灯さえ消したMC-130Hコンバット・タロンII(C-130戦術輸送機の特殊部隊支援輸送機型)2機が闇夜に溶け込み飛行していた。

 

「降下10分前!!」

 

エンジン音がゴウゴウと響きガタガタと上下左右に揺れる機内の貨物室には白い骸骨の描かれた目出し帽を被り黒で統一された装備を身に付けたブラック・ファントムの隊員達がそれぞれの武器や装備品を携え着々と降下準備を整えていた。

 

「降下5分前!!」

 

隊員達が装備品の最終チェックを終えて待機していると後部ハッチ横にあった赤色灯の色が青に変わり後部ハッチが重々しい音と共に開きビュウビュウと風が貨物室の中に雪崩れ込む。

 

「降下ポイント上空に到着!!降下開始!!幸運を!!」

 

エンジン音と吹き荒れる暴風の音に負けぬよう大声で叫ぶMC-130Hの搭乗員の言葉に隊員達は黙って頷くと一斉に後部ハッチに向かって駆け出し次々と暗闇が支配する空の中へと飛び出す。

 

そして2機のMC-130Hから飛び出したブラック・ファントムの隊員、計60人のパラシュートは空中で無事に花開き、1人も欠けることなく敵勢力圏内への侵入を果たすこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

『――アァァァ!!』

 

「ヒッ!?」

 

「おいおい、いい加減慣れろよ。いつものだよ」

 

深夜、エルザス魔法帝国領の帰らずの森の中にある古城の見張り台の上では松明と魔法具のライトの光りに照らされているなか、古城の地下深くにあるはずの研究所から聞こえてくる身の毛のよだつような悲鳴に最近ここに配属されたばかりのロジャースという名の兵士がガタガタと身を震わせて怯えていた。

 

「しょ、しょうがねぇじゃあねぇかよ!!慣れねぇもんは慣れねぇんだよ!!」

 

「はぁ〜。慣れなくてもビビりすぎだろ」

 

ロジャースと同じ時期にここに配属されたアレスが隣で怯えている相棒のビビリっぷりに顔を背けため息混じりに呆れている時だった。

 

「大体――ヒッ!!あ……、あぁ、ぁ、グヘッ」

 

「ん? お、おい!!どうした!?大丈夫かよ!?」

 

ロジャースの奇妙な、まるでカエルが潰れたような声を聞きアレスがロジャースの方を振り返るとそこには泡を吹き股間を濡らして気絶しているロジャースが地面に倒れていた。

 

「おい!?一体どうしたんだ!?」

 

ロジャースに慌てて駆け寄ったアレスがロジャースの体を揺すったり頬を平手で殴って起こそうとしていると、ふと背後になにかの気配を感じた。

 

「………………。ムゴッ!?ム〜〜!?ッ!!」

 

アレスが恐る恐る背後を振り返ろうとした瞬間、アレスは口を塞がれ羽交い締めにされた。すぐにアレスは手足をばたつかせ、もがこうとしたがその瞬間、喉を声帯ごと切り裂かれた。

 

傷口からドプドプと血を流し静かに見張り台の上に横たえられたアレスはうめき声も出すことが出来ず、ただただ自分を襲った正体をジッと食い入るように見詰る。

 

「ッ!!ッ!!」

 

アレスの急速にかすれていく視野に映っているのは相棒のロジャースの喉にもナイフを突き立て殺害した人型の何かだった。

 

ぼ、うれ……い、め

 

そしてアレスは自らとロジャースにナイフを突き立てた何かを亡霊と称し永久の眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

『デルタよりアルファへ。見張り台にいた敵兵士2名を排除。周囲に敵影なし、オールクリア』

 

「アルファ了解、前進する。行くぞ」

 

無事に古城への侵入を果たしたブラック・ファントムの隊員達は城の外部にいた見張りの兵士達を次々と音もなく一撃の下に殺害すると窓ガラスを特殊な機材で破り静かに流れる水のように城内に侵入した。

 

予想していたよりもザルな警備態勢のお陰で易々と城内に侵入したブラック・ファントムの各チームはすぐさま散開し城に存在している部屋を1つ1つくまなく調べ始める。

 

……おかしい、静かすぎる。

 

しかし、今回の作戦に参加したブラック・ファントムのアルファ・ブラボー・チャーリー・デルタの4チーム(1チーム15人)の総指揮官兼アルファチームの隊長の鳴瀬大尉は城内の耳の痛くなるような静けさに首を捻る。

 

首を捻りながらも慎重に物音1つ立てずに城内の捜索を続けていく鳴瀬大尉だったが、城内に侵入してからも誰とも遭遇していないことに疑念を抱き各チームに確認を取った。

 

「アルファより全チームへ。現在の状況を報告しろ」

 

『こちらブラボー、現在城の東にある塔内部を探索中。……敵影なし』

 

『こちらチャーリー、城2階部分を探索中、ブラボーと同じく敵影なし』

 

『デルタよりアルファへ。城の1階中央部で地下へ通じていると思われる物資搬入口のような物を発見した。なお、こちらも敵兵の姿は認められず。オーバー』

 

どういうことだ?人気がなさすぎる。少なくとも1000人以上の人間がこの城にはいる筈なのに我々が出くわしたのは城の外部で見張りをしていた10人の兵士のみ。……まさか、罠か?

 

「アルファ了解、ブラボーは塔内部の探索終了後、退路の確保。我々とチャーリーはデルタに合流し地下へ向かうぞ」

 

『『『了解』』』

 

各チームの報告を聞いて鳴瀬大尉は更に疑念を膨らませ、この城自体が罠であるという可能性を視野にいれながらも任務を果たすべく各チームに指示を出しデルタが見つけたという物資搬入口に向かって移動を開始する。

 

「ここか。……チッ、展開型の魔法障壁が張ってあるのか。レイズ、お前達も手伝ってやれ」

 

デルタチームと合流した鳴瀬大尉は木製の大きなエレベーターがある物資搬入口に張られていた展開型の魔法障壁に気付き小さく舌打ちをすると既に魔法障壁の解除作業に取り掛かっていたデルタチームの魔法使い達に手を貸すようにアルファチームの魔法使い達に言った。(ブラック・ファントムには千歳が各地から買ってきた魔法が使える奴隷達が1チームにつき5人ほど配置されている)

「後、どれくらいかかりそうだ?」

 

「3分程度掛かります」

 

「遅い、その半分でやれ」

 

「了解」

 

自分たちが来る前から魔法障壁の解除作業に取り掛かっていた魔法使いの隊員に声を掛けた鳴瀬大尉が発破をかける。

 

「解除完了しました」

 

そして丁度1分半後、物資搬入口に張られていた魔法障壁は消え去った。

 

「よくやった」

 

先程の隊員の肩を軽く叩いて労を労った鳴瀬大尉はデルタチームから5人ほど引き抜き、物資搬入口の確保に残すとデルタチームの残りの10人とアルファチーム、チャーリーチームの計40人で地下に向かった。

 

 

「アルファよりHQへ、これより城の地下に向かう」

 

『HQ了解』

 

通信を切り木製のエレベーターに乗り込んだ鳴瀬大尉達を逃げ場のない地下で何が待ち受けているのかはまだ誰も知らない。

 


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