ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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オルガの街に攻め寄せた帝国軍をパラベラム軍が一方的に叩きのめしているのと同時刻。オルガの街から30キロ離れた街道を1両のM1A2エイブラムスが走行していた。

 

「ヨセフ!!もっとスピードは出ないのか!?これでは戦闘に間に合わんぞ!!」

 

前日からのエンジンの不調により第1機甲大隊から取り残され単独でオルガの街に向かって移動中のエルンスト・バルクマン軍曹は操縦手のヨセフに檄を飛ばしていた。

 

「軍曹、さっきからこれ以上は無理だって言っているじゃないですか……。無理したらまた止まっちゃいますよ?」

 

「むうぅ……しかしこのままでは戦闘が終わってしまう」

 

ヨセフの答えにしかめっ面で返事を返した戦闘狂のバルクマン軍曹は自分達がオルガの街に到着する前に戦闘が終わってしまうことを危惧しオルガの街の方角をそわそわと落ち着かない様子で見つめていた。

 

そんな時、バルクマン軍曹に戦いの女神が微笑んだのか彼の元に朗報が舞い込む。

 

『HQよりハンマーヘッド2―5、バルクマン軍曹、応答せよ』

 

「こちらハンマーヘッド2―5、バルクマン軍曹。どうぞ」

 

『そちらの現在位置から西に約7キロの地点に魔導兵器15体と多数の歩兵を確認した。恐らくは帝国軍がオルガの街を背後から突くために――』

 

「了解!!これより戦闘行動に移る!!」

 

HQからの無線を最後まで聞かずに一方的に言葉を叩き付け無線を切るとバルクマン軍曹は嬉々として自分の手の届く範囲にやって来た獲物を仕留める為に進路を変更した。

 

「軍曹……いいんですか?無線切っちゃって」

 

「なにを言っているんだ。たった今、無線機は壊れてしまったぞ」

 

「「「……」」」

 

バルクマン軍曹の言葉に部下達は黙りこむ。

 

「……いいのかな?」

 

「まずいんじゃないか……?」

 

「知りませんよ、俺達は……」

 

部下達は不安げにそう言いながらもバルクマン軍曹の命令に逆らう訳にもいかず渋々と軍曹の命令に従っていた。

 

そうしてバルクマン軍曹は会敵予想地点――オルガの街へと続く街道が通る十字路に到着すると、そこから10メートルほど離れた街道脇の巨木の下にM1A2エイブラムスを隠し魔導兵器がやって来るのを静かに虎視眈々と待ち伏せていた。

 

「……っ、来たぞ!!敵だ!!」

 

15体の魔導兵器と200人程の歩兵が丘を越え姿を現した途端、バルクマン軍曹はまるで欲しがっていたオモチャを与えられた子供のようにガッツポーズし興奮した面持ちで部下達に指示を出した。

 

「ゴルズ!!安定翼付徹甲弾(APFSDS)装填、次弾も同じ!!フェルナンドはよく狙えよ!!」

 

「「了解」」

 

浮かれているバルクマン軍曹とは対照的に落ち着いた様子で装填手のゴルズと砲手のフェルナンドは答えた。

 

「まだだ、まだ引き付けろ………………発射!!」

 

「発射!!」

 

そして戦闘準備が終わり敵との距離が約2キロまで近付いた時、バルクマン軍曹が命令を下し砲手のフェルナンドが命令の復唱と同時に引き金を引くと主砲から爆煙と共に安定翼付徹甲弾が撃ち出された。

 

発射された安定翼付徹甲弾は飛翔中に弾体から装弾筒が風圧で分離しタングステン合金を矢状に加工した侵徹体だけが魔導兵器に向かっていき命中。

 

魔導兵器のど真ん中に命中した侵徹体は、なんと機体を貫きそのまま背後にいた魔導兵器まで破壊するという僥倖を巻き起こした。

 

「次弾装填急げ!!」

 

「装填完了!!」

 

「発射!!」

 

偶然にも1発で2体の魔導兵器を破壊したバルクマン軍曹は気を良くし、すぐさま次の砲弾を撃たせまた1体の魔導兵器を沈黙させることに成功した。

 

こんな場所に敵が待ち構えているとは思ってもいなかった帝国軍は虚をつかれ魔導兵器3体を失ったもののすぐに体制を立て直し反撃に転じた。

 

部隊長が乗っているとみられる魔導兵器が周りの魔導兵器に指示を出すと残り12体となった魔導兵器の内、隊長機を含む4体が物陰に隠れながら援護射撃を行い残りの8体が歩兵と共に散開しM1A2エイブラムスに接近を試みる。

 

「んん?囲い込んで袋叩きにするつもりか?そうはいかんぞ!!ヨセフ移動だ」

 

制圧射撃のつもりなのか、次々と飛来し車体の周辺に着弾する魔力弾を気にも留めずに帝国軍の様子を眺めていたバルクマン軍曹が敵の意図に勘づき場所を変えようと命令を出した直後、問題が発生した。

 

「了解!!――ぁ……やばい……」

 

「どうしたヨセフ。早く移動しろ」

 

返事をしたにも関わらず一向にM1A2エイブラムスを動かそうとしないヨセフをバルクマン軍曹が急かす。

 

「軍曹……」

 

「なんだ!?」

 

「エンジン……また……故障したみたいです……」

 

「なっ!?なにぃ〜〜!!」

 

しかしヨセフから帰って来た言葉はバルクマン軍曹を慌てさせるのに十分な威力を持っていた。

 

「何とか出来んのか!?」

 

「今やってます!!」

 

慌てふためくバルクマン軍曹にヨセフが大声で返事を返した。しかし、2人が喋っている間にもエンジン音は弱まっていき遂にはエンジン音が完全に消えてしまった。そのことに気が付いたバルクマン軍曹が顔を真っ青にしながらヨセフに問い掛けた。

 

「そ、そうだ!!それよりも主砲は動くのか!?」

 

「補助動力装置から電力供給受けていますからしばらくは持ちます!!」

 

「よ、よし!!なら大丈夫だな。敵はこっちで何とかするからエンジンは頼んだぞ、ヨセフ」

 

「了解っ!!くっそ動け、このポンコツ!!」

 

バシバシと機器を殴るヨセフに若干の心配を感じつつもバルクマン軍曹は戦闘を再開した。

 

残り12体……。いくらエイブラムスとはいえ近距離で魔力弾の集中砲火を浴びたら無事では済まん。接近されるまでに突撃中の8体を食い切れるか……?いや、やるしかないかっ!!おもしろくなってきたぞ!!

 

ゴルズとフェルナンドに指示を出しながらもバルクマン軍曹はそんな事を考えていた。

 

「一番右の奴から殺るぞ!!多目的対戦車榴弾装填!!発射!!」

 

「発射!!」

 

迷いを振り払うように声を張り上げ始めたバルクマン軍曹に従うゴルズとフェルナンドは粛々と自分の職務をロボットのように正確に手早くこなしていた。

 

そうして120mm滑腔砲から放たれる砲弾は次々と魔導兵器に命中していき、最初にターゲットになった魔導兵器は1発目の砲弾で右足を吹き飛ばされ動けなくなったところに2発目が飛来、コックピットを撃ち抜ぬかれ沈黙。その後2、3、4、5体目まで同様に1撃もしくは2撃で仕留められていった。

 

しかしその間、帝国軍もやられっぱなしになっていた訳ではなかった。味方が1機また1機と数を減らしていくのを歯を食いしばりながら眺めつつも魔導兵器達はM1A2エイブラムスに計数十発の命中弾を与えていた。もっとも魔力を圧縮し撃ち出しているだけの貫通能力の乏しい魔力弾では複合装甲と均質圧延鋼板は貫くことが出来ず、唯一出来たことといえば魔力弾が着弾した際の爆発で装甲表面をうっすらと焦がすことだけだった。

 

 

「軍曹!!歩兵が来ます!!距離300!!」

 

接近中の魔導兵器を5体破壊した時だった。魔導兵器の対処に掛かりっきりになり放置していた歩兵達がいつの間にか近くにまで来ていたことにフェルナンドが気付いた。

 

「えぇい!!うっとおしいやつらだ!!キャニスター弾装填!!目標、前方より接近中の歩兵群!!」

 

「了解!!装填……完了!!」

 

「発射!!」

 

帝国軍の人海戦術対策の一環として搭載されていたキャニスター弾を使用したバルクマン軍曹だったが、その効果は抜群だった。

 

120mm滑腔砲の砲口先にいた歩兵達は比較的密集していたこともあり飛来したキャニスター弾の散弾の弾幕をまともに食らいバタバタと倒れ、たった1発のキャニスター弾により歩兵達はその数を半減させていた。

 

「こいつもくれてやるよ!!くそ野郎共!!」

 

死屍累々となった歩兵達に追い撃ちをかけるように主砲と同軸に据え付けられているM240機関銃がタタタタッという軽快なリズムで弾をばらまき更に砲塔上の銃架に備え付けてある車長用のM2重機関銃、装填手用のM240機関銃をバルクマン軍曹やゴルズが飛んでくる魔力弾に臆した様子もなく砲塔から身を乗り出して使い歩兵達を悉く撃ち殺ろすとすぐさま砲塔内に戻り魔導兵器に対して攻撃を再開した。

 

 

 

「さて、突撃してきた魔導兵器7体と援護していた2体、それと歩兵は殺ったが……残りの魔導兵器3体はどうするかな」

 

歩兵を殲滅した後、生き残っていた魔導兵器も大多数は撃ち取ったがその代償として砲弾をほとんど使い果たしてしまったバルクマン軍曹はこれからどう動こうか悩んでいた。

 

「9時、12時、3時方向に各一体ずつ。で残弾は安定翼付徹甲弾が2発、多目的対戦車榴弾が2発。後機関銃の弾が少々……う〜む。エンジンが動けばなぁ……。ヨセフ、どうだ動きそうか?」

 

「まだっ、しばらくっ、かかりそうっ、ですっ、軍曹っ。……えぇいクソ!!いい加減動けこの野郎!!」

 

相変わらず機器をバシバシと殴りつけるヨセフを見てバルクマン軍曹はため息をつき天を仰いだ。

 

「はぁー。この状態でやるしかないか……。(走り回りながらも戦ってみたかったなぁ……)敵さんも引くに引けない状況だから、そろそろ仕掛けて来るだろうしな」

 

バルクマン軍曹が覚悟を決めその瞬間を待っているとその瞬間はすぐに訪れた。

 

辺りを支配していたつかの間の静寂を切り裂いて12時方向の物影に潜んでいる隊長機から魔力弾が空高く撃ち上げられるとそれを合図に魔導兵器3体が同時に姿を現しバルクマン軍曹達の乗るM1A2エイブラムスを仕留めるために一か八かの賭けに出て一気に距離を詰め始めた。

 

「来たぞ!!最初は正面の隊長機からだ!!撃て!!」

 

撃ち出された安定翼付徹甲弾は吸い込まれるように隊長機に飛んでいき命中、着弾した際の衝撃で隊長機は5メートル程後ろに吹き飛んで爆発した。

 

「まず1体!!」

 

隊長機を撃破するとバルクマン軍曹は砲塔を右に90度、旋回させ3時方向から接近していた魔導兵器を攻撃させた。1発目の砲弾は魔導兵器を外れ地面を抉るだけに終わったが、2発目は見事に魔導兵器の胴体部分を捉え撃破。

 

「2体目!!」

 

そしてバルクマン軍曹は砲塔を左に180度、旋回させ距離にして40メートルの地点にまで接近していた魔導兵器を最後の1発で撃ち取った。

 

「これでぇえ!!ラストッ!!」

 

そんな掛け声と同時に帝国軍の最後の生き残りを始末し戦いに勝利したバルクマン軍曹だったが、勝利の余韻に浸っていることは出来なかった。

 

なぜなら最後まで生き残っていた魔導兵器が撃破される寸前に放った魔力弾でM1A2エイブラムスの履帯を破壊していたからだった。

 

「……こりゃあ、大目玉だな」

 

エンジンは破壊されたのではなく故障だが、左の履帯は完全に破壊され装甲も傷だらけ、またいくつかのシステムにも異常が発生しているM1A2エイブラムスの惨状を外から眺めていたバルクマン軍曹が声を漏らした。

 

「始末書程度で済めばいいですけど……」

 

「独断専行で勝手に敵を叩きに行って最終的には相討ちみたいな結末ですからねぇ……」

 

「軍曹……。司令部にM88戦車回収車の要請、終わりました」

 

バルクマン軍曹のやってしまったといわんばかりの言葉にゴルズとフェルナンドが合いの手を入れていると司令部に連絡を取っていたヨセフが肩を落として車内から顔を出した。

 

「……司令部はなんか言ってたか?」

 

「覚悟しろと……」

 

「「「はぁ……」」」

 

戦いには勝利したもののバルクマン軍曹達の背中は煤けていた。


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