「それじゃあ、まず司令部と防御陣地を構築してから周辺の偵察に出てもらおうか」
「了解しました」
カズヤは千歳達にそう言うとメニュー画面を操作し必要な施設と設備を召喚を開始した。
まず司令部となるコンクリート製の頑強な施設と通信設備を召喚。
その周りを囲むように鉄骨とコンクリートでできている分厚い壁や有刺鉄線、塹壕、トーチカ、監視塔を設置。
堅固な防御陣地を作りあげ、ついでに火砲の陣地も構築した。
「よし、後は防衛用の兵器だな」
防衛用の兵器はアメリカ軍に1933年に正式採用され信頼性や完成度の高さから今なお世界各国で生産と配備が継続されている名銃ブローニングM2重機関銃を初めとしM20 75mm無反動砲や九八式臼砲、120mm迫撃砲PM-38、M4A3カリオペ(M4シャーマン戦車の車体に多連装ロケットランチャーを搭載したタイプ)を10両、BM-13カチューシャを5両、M115 203mm榴弾砲を5門、九六式十五糎加農砲を5門、その他大小様々な兵器を召喚し配置した。
よし、防御陣地も出来たことだし周辺の偵察に出てもらうか。
「第1中隊全員集合せよ!!」
後方支援要員の工兵部隊と共に兵器の設置や最後の細かな仕上げをやっていた中隊の隊員をカズヤが呼び寄せる。
するとすぐさまバタバタと足音を立てて中隊の隊員が集合した。
全員が集合したことを確認するとカズヤは中隊に任務を伝え始める。
「これより偵察任務の説明を行う。地図によると現在我々がいるのはカナリア王国領内にある『帰らずの森』と呼ばれている魔物の巣窟のような場所らしい。魔物が多く存在しているという点を除けば人気(ひとけ)がなく我々が拠点――基地を作るのには最適とも言える。問題がなければここに前哨基地を作るつもりだ。そこで中隊から一個分隊10人の分隊を12個分隊作り1時〜12時方向の12方位を現在位置から5キロ向こうまで偵察してきてくれ。だが東の方は3キロ進むと海になっているから東側に行く分隊は海まででいい。また偵察の最中に人間や人工物などを発見した場合は速やかに報告し指示を仰げ。緊急時は各兵士の判断で行動せよ」
「「「「ハッ」」」」
「残った兵士は引き続き周辺警戒と俺の護衛を頼む。それと偵察に行く行かないに関わらず第1中隊には追加の武器と必要な装備を渡すから受け取るように。後、偵察に行く分隊は後方支援要員の衛生兵も一緒に連れて行け、以上だ」
「「「「了解しました」」」」
命令を受けた中隊の兵士達は敬礼し声を揃えて返事をする。
さてと、兵士の武器設定をせずに召喚したから追加の兵器を出さないとな。
StG44だけだと火力不足だし……。機関銃はMG42、狙撃銃は九九式狙撃銃、補助兵器はパンツァーファウストでいいかな。
これだけあれば大体のことは対処できるだろ。
偵察に行く12個分隊に武器や後方支援要員を配置し、また砲兵部隊も何時でも支援砲撃ができるように準備を整えると分隊は周辺一帯の偵察に出撃していった。
ふぅー。とりあえずこれで一息つける。
「どうかしましたか、ご主人様?」
カズヤが肩の力を抜いていると千歳が声をかけてきた。
そういや千歳、俺のことご主人様って呼んでたな……。
今までご主人様などと呼ばれたことが当然、無かったカズヤは呼び方を変えるように千歳に提案する。
「なぁ、そのご主人様って呼び方はなんとかならないか?」
「いえ、ご主人様はご主人様です。私達に命令が出来る唯一絶対の主様ですから呼び方は変えることはできません。後、私のことは千歳と呼び捨てで構いませんので千歳と呼んで下さい」
「……そ、そうかじゃあこれからは千歳と呼ばせてもらうことにするよ」
いやに鼻息を荒くして熱弁を語られたカズヤは千歳に気圧されてご主人様という呼び方を認めるハメになった。
しかし唯一絶対の主って、ヤンデレみたいな事を言うな千歳は……。
そうだ、千歳のステータスとかは見れるのかな?
カズヤが試しにメニュー画面を確認してみると“それ”はあった。
名前
片山 千歳
レベル
1
装備
ヘルメット・グローブ・M43野戦服・背嚢・軍用ブーツ
主兵装
StG 44
(7.92x33mm弾×30発入り箱形湾曲マガジン6個)
副兵装
ワルサーP38
(9mmパラベラム弾×8発入りマガジン2個)
補助兵装
24型柄付手榴弾×2
性格
狂信・狂愛・献身・依存
………………ヤバイ。
俺の副官の性格ヤバイ。
冷や汗を流しながらカズヤはメニュー画面から目を離しゆっくりと千歳の方を見た。
そこにはヘルメットを脱ぎ艶のある黒髪を腰の辺りまで伸ばし、スラリとしたスタイルで軍服を着こなしている大和撫子のような千歳が佇んでいる。
しかし、性格はヤバイけど凄い美人なんだよな。
カズヤがそんなことを考えているとは、つゆとも思ってもいない千歳はカズヤから向けられる視線に含まれている意味など分かっておらず、ただにこやかに微笑みながら?マークを頭に浮かべ小さく首を傾げていた。
そんな千歳の笑顔を見てカズヤは思わず、ドキッとしたが性格のことが頭をよぎり千歳には手を出さないようにしようと心に決めた。
そうしてしばらくの間、カズヤは千歳や偵察に出なかった居残り組の兵士達と喋ったりして交流を深めていた。
そうやってカズヤが時間を潰していると少しずつだが各偵察分隊から報告が入り始める。
『こちら第6分隊より、司令部へ。海に到達。人や生物は見受けられず。一帯の偵察を終えたため帰還します。どうぞ』
「こちら司令部、了解した帰還せよ」
第6分隊の報告から少し遅れて第4分隊〜第8分隊も海に出たため帰還するとの報告が入った。
その後も他の分隊からの報告を待っていると第9分隊から報告が入った。
『こちら第9分隊、司令部応答せよ』
「こちら司令部」
『司令部より3キロほど離れた地点で砦のような人工物を発見、指示を乞う』
「司令部了解、第10分隊をそちらに送る。第10分隊が合流しだい対象を探索せよ」
『第9分隊了解、第10分隊と合流後、対象を探索する』
通信兵は第9分隊との通信を切るとすぐに第10分隊に命令を伝える。
「こちら司令部、第10分隊応答せよ」
『こちら第10分隊』
「第10分隊は直ちに第9分隊に合流し、第9分隊が発見した人工物を探索せよ」
『了解。第10分隊は第9分隊と合流し人工物を探索する』
通信兵が第10分隊との通信を終え無線機をから手を離した時だった。
――ドガァァン!!!
突然、耳をつんざくような爆発音が辺りに響き渡り森の中から爆音に驚いた鳥達が一斉に空に飛び上がる。
「何が起きた!!」
「分かりません!!現在確認中です!!」
突然の爆発音により司令部の中がにわかに騒がしさを増し始めた。
その時、外で周辺警戒にあたっていた兵士が司令部の扉を開け中に飛び込んで来る。
「隊長!!西の方角に黒煙を確認しました!!」
鼻息荒く司令部の中に転がり込んで来た兵士は大声でそう行った。
「分かった!!――西方面の分隊からの報告はどうなっている?」
「――了解した。現在、該当方面を偵察中の第11・12分隊が黒煙が発生している地点に急行中とのことです」
通信機を睨みながら西方面の分隊と連絡を取り合っていた通信兵が通信を終え、振り返えりカズヤにそう報告する。
「分かった。千歳!!」
「ハッ、なんでしょうか」
「念のため、完全武装の一個小隊を編成して爆発地点に向かっている分隊の援護に向かわせろ」
「了解しました。直ちに部隊を編成し出撃させます!!」
命令を受けた千歳は敬礼をすると外に飛び出して行った。
その直後、第12分隊から通信が入る。
「隊長、第12分隊長から通信が入っています」
「分かった」
カズヤは通信兵から無線機を渡してもらい第12分隊長からの通信に出た。
「こちら長門、状況を報告せよ」
『こちら第12分隊、我々が爆発地点に急行したところ十代後半の金髪の男と三十代の黒髪の男が交戦しているのを発見。現在、両対象の交戦位置から距離を取り合流した第11分隊と共に2名を監視中、指示を乞う』
恐らく俺と同じような境遇の連中だな、しかし交戦中か……。
どうしよう仲間には……なってくれないだろうな。
ほぼ確実に特典と能力狙いで殺りに来るだろうし、特典狙いじゃなくても見ず知らずの人は信用出来ないしなぁ。
こちらの存在に気づいていない今のうちに始末するか。
不安要素は早めに潰しておこうついでに特典を頂いてしまおう。
非情だが合理的に、そう判断したカズヤは第12分隊長に対象の殺害命令を下す。
「現時点を持って監視中の男2名を敵と判断、始末せよ。増援として完全武装の一個小隊を向かわせた。こちらの存在を明かすことなく必ず仕留めろ。仕留めた後、死体を処理し帰還せよ。作戦は貴官に一任する。また万が一任務に失敗した場合は速やかに戦闘を中止して帰還せよ。以上だ」
『第12分隊了解。増援の小隊が合流しだい行動を開始し――!?報告!!両対象の戦いは黒髪の男が勝った模様。現在、目標は移動を始めました。追跡を開始します』
「了解した」
カズヤは第12分隊との通信を終えると無線機の周波数をオープンチャンネルに変更すると他の分隊に命令を下した。
「こちら長門。現時点で偵察任務についている分隊は直ちに司令部へ帰還せよ」
『『『『了解』』』』
無線で各分隊に命令を出し終えたカズヤはただ報告を待つだけになった。