ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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空調が効きちょうどいい気温に設定されているはずの自分の部屋の中でカズヤは千歳副総統とカレンに挟まれ冷や汗をダラダラと流していた。

 

「ロートレック公爵、なぜ貴女がご主人様の私室にいるのか聞いても?」

 

「あら、私がカズヤの部屋に居てはいけないのかしら?」

 

「えぇ、ご主人様は今プライベートな時間ですのでご遠慮して頂きたい」

 

カレンがパラベラムに滞在して今日で3日。パラベラムの使者と一緒にヘリで王都に送ったマリア達からの返事を待っている3日間の間にカズヤを巡ってこのような千歳副総統とカレンの争いが幾度も繰り広げられ、そのたびにカズヤの気力を奪っていた。

 

――コンコン

 

「失礼します。総統、この前言われていた総統専用機のYF-23の1号機スパイダーと2号機グレイゴーストの改造が終わりF-23としての配備が完了しました。それと王都に出向いた者から通信が入っています……が、お邪魔でしたか?」

 

「いや、そんなことはないぞ!!」

 

報告を伝えにきた兵士に助かったとばかりにそう言ってカズヤは依然として睨み合う2人を引き連れ通信室に向かった。

 

『――それでカレン様も王都に来るようにと陛下がおっしゃっておりました』

 

「そう分かった。ならカズヤ達と一緒に王都へ行くわ」

 

『畏まりました。では王都でお待ちしております』

 

マリアと通信機越しの会話を終えたカレンは改めて感心し呟いた。

 

 

「やはり通信機という物は便利な物ね。何百キロも離れている相手と会話が出来るのだから」

 

「そうだな」

 

王都に送った使者の報告によるとカナリア王国はカズヤの来訪を歓迎するとの事だった。その報告を受けたカズヤは機甲大隊を中核にその他、幾つかの部隊を率いて王都に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

それから6日後。カズヤ達が王都に到着する日、王都はこれまでにないほどに人で溢れ活気に満ちていた。

 

なぜなら城塞都市での戦闘を見ていた冒険者や商人達がエルザス魔法帝国の軍隊を鎧袖一触で蹴散らしカナリア王国を救ったカズヤ達の話を各地で広めていたため、その話を聞いて異世界の軍隊を一目見てみようと王都の住人は勿論、近隣の街や村、帝国と敵対関係にある各国の要人や間諜までもが続々とカナリア王国の王都に集まりカズヤ達の到着を今か今かと待っている。

 

そして王都で待ち構えていた観衆の前にカズヤ達が姿を現すと王都の壁の外にいた観衆からワッと歓声が上がり同時に王都の中でも悲鳴のような歓声が上がった。

 

城塞都市と同じように壁で3重に囲まれているはずの王都の中から、何故歓声が上がったかというとデモンストレーションの一環として王都の上空を低空でF-22やB-52ストラトフォートレスの大編隊が飛行しているからだ。

 

「全車停止、以後別命あるまで待機」

 

 

「「「「「了解」」」」」

 

王都の前まで来るとカズヤは率いて来た部隊に待機命令を出した。

 

カナリア王国の騎兵が先導役を務めるなかカズヤと千歳副総統それにカレンが乗ったキャデラック・プレジデンシャル・リムジンは2台のストライカー装甲車と4台のハンヴィーの護衛車両に前後を守られながら王都の城門をくぐり中に入った。

 

王都の大通りをゆっくりと進むリムジンの車内から外を見渡すと様々な種族の観衆達で溢れていた。観衆達は皆、馬や飼い慣らした魔物を使わずに動く車両を不思議そうにじっと眺めている。

 

そんな観衆の視線が注がれている車内では千歳副総統とカレンの静かな闘いが起きていた。

 

 

(何故貴様がこの車に乗っているんだ!?)

 

(あら、別に構わないでしょ?どうせ目的地は同じなのだから)

 

(一万歩譲って!!貴様がこの車内にいることを許したとしてだ。どうして貴様がご主人様にくっつく必要がある!!)

 

(それも私の勝手でしょ?それに貴女だってカズヤにくっついているじゃない)

 

(私はご主人様の所有物だからいいのだ)

 

(なんなのその幼稚な理由は?)

 

(幼稚な理由だと!?ふん!!他にも理由はあるぞ。貴様と違って私はご主人様に胸の感触を楽しんで頂いているんだ。貴様のような貧乳では無理だろうがな!!)

 

(……言ったわね!!そんな脂肪の塊があるからってなによ!!この牝犬!!)

 

 

(ハッ!!言い返せるもんなら言い返してみろ女狐!!)

 

カズヤを挟み視線だけで行われている2人の争いに薄々気が付いていたカズヤは巻き込まれることを恐れて黙っていたが、ずっとあることを考えていた。

 

美女2人にくっつかれてしかもその胸が当たってるのはすごく嬉しいんだけど、それを楽しんでいられないぐらい2人の纏うオーラが怖い……俺は喜べばいいのやら悲しめばいいのやら……。

 

そんな車内のことはさておき。いつの間にか車は王都の中心にある王城に着いて停車していた。

 

それに気が付いたカズヤ達が慌てて車から降りると音楽と共にカナリア王国の儀礼兵達の歓迎を受けた。

 

盛大な歓迎を受けたカズヤはイスラエルが開発したブルパップ方式のアサルトライフルIMIタボールAR21を携えた護衛達と上級将校、銀色のアタッシュケースを手錠で手首にくくりつけている伊吹少将、そして千歳副総統とカレンを合わせた数十人と共にイザベラ女王が待つ謁見室へ向かった。

 

謁見室の扉の前には屈強な兵士が2人槍を片手に立っていてカズヤ達が目の前まで来ると兵士は豪華な装飾が施された重厚な扉をソッと開く。

 

カズヤ達が開かれた扉から謁見室の中へと進むと部屋の中には大勢の人がカズヤ達のことを待っていた。

 

室内の両端には多くの貴族や騎士が控えており奥には段差の上に置かれた玉座にイザベラ女王が鎮座していた。玉座に座るイザベラ女王の両隣には第一王女とおぼしき少女と目をギラつかせ興奮した面持ちでカズヤを待っているイリスがいた。

 

……イリスの目が怖い。

 

突き刺さるような無数の視線に晒されながら謁見室の中を歩くカズヤはじっとこちらを見つめるイリスの視線に言い知れぬ恐怖を抱いていた。

 

カズヤ達が玉座の前まで進んで立ち止まりカレンが膝を着き頭を垂れるとイザベラ女王が口を開いた。

 

「お会いするのも助けて頂くのも今回で2回目ですね。ナガト総統。なんとお礼を言ったらよいか……」

 

「お気になさらず。我々は――」

 

そんな挨拶から始まったこの場は顔合わせのためだけの場だったため2人が2〜3言交わすとすぐに終わり本格的な話し合いは別の部屋で行われることになった。

 

そのためカズヤは挨拶を終えるとカレンを1人残し千歳副総統達を引き連れて謁見室を辞した。

 

「あー疲れた」

 

王国に滞在する間カズヤ達が宿泊するために用意された豪華な客室の中でカズヤは一息ついていた。

 

……しっかし国を作ってトップになったのはいいが、いろいろとめんどくさいことばかりだな。国を背負う指導者としてどういう感じにしゃべったらいいか全く分からん……。それに一言一言に気を使うから疲れた……。やっぱり元一般人のただの高校生には荷が重いなこれは

 

国を作り国家元首となったはいいが、国家運営の予想を上回る忙しさしかもこれからは他国との付き合いもしていかないといけないと思うと若干国を作ったことを後悔するカズヤだった。

 

「ご主人様、このあとイザベラ女王との会談が控えておりますが大丈夫ですか?」

 

「ん?あぁ。大丈夫だ」

 

細部まで細かな装飾が施され見るからに高そうなソファーにどっしりともたれ掛かり疲れた様子のカズヤの体を千歳副総統が気遣い飲み物をソッと机に置いた時だった。

 

「お待ちください!!姫様!!すぐに謁見室にお戻り下さい!!あぁ!?そこに勝手に入っては――」

 

そんな声が聞こえたかと思うとバタバタという足音と共に扉が荒々しく開かれ小さな影がカズヤに向かって突進した。

 

「お兄さんっ!!」

 

「うおっ!?」

 

部屋に押し入って来たのは満面の笑みを浮かべたイリスだった。カズヤが飛びついてきたイリスを抱き止めたのと同時にイリスを追って顔を真っ青にしたフィリスとベレッタが部屋の中に入って来る。

 

「「遅かった……」」

 

2人は顔面蒼白になって小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「「申し訳ありません……」」

 

フィリスとベレッタは2人揃ってイリスを止めることが出来なかったことをカズヤに謝罪した。

 

「カズ――ナガト総統閣下といくら顔見知りとはいえ、姫様がとんだご無礼をどうかお許しを」

 

 

「あーまぁなんだ俺は気にしていないから2人も気にするなよ。あと敬語とかはいらないから」

 

「……」

 

2人にそう言っているカズヤの隣では千歳副総統が、カズヤの胸に顔を埋めスーハースーハーと大きく深呼吸を繰りしカズヤの体臭を存分に堪能するイリスを修羅のような顔で睨み付けていた。

 

しかし当のイリスといえばカズヤから離れる様子もなく逆にもっと強くグリグリとカズヤの胸に顔を押し付け始めた。そんなイリスの頭をカズヤが撫でてやるとイリスは悦びで体を弛緩させブルブルと震わせている。

 

イリスの様子を見て千歳副総統の額の青筋が増えていくのに気が付いたベレッタが場の雰囲気を変えようと話を振った。

 

「あ、あのっ!!ナガト総――カズヤ殿にお礼を言いたいのですが……」

 

「ああ、妹さんのことか」

 

「えぇ、本当にありがとうございました。カズヤ殿のお陰で妹とまた会うことができました。お礼はこの後必ずいたしますから」

 

「いいよ。いいよ気にするな」

 

「いえ、そういう訳にはいきません」

 

「ご主人様。そろそろお時間です」

 

カズヤとベレッタが喋っていると千歳副総統が口を挟みイザベラ女王との会談の時間が迫っていることを知らせた。

 

「もうそんな時間か……。悪いが話の続きはまた後で」

 

「分かりました」

 

ベレッタが頷くとカズヤは視線を下に向けイリスに声をかけた

 

「イリス?イリス!!」

 

「……」

 

「ダメだこりゃ。聞こえていないな……。イリス!!」

 

「ほぇ〜?何ですか〜お兄さん〜」

 

カズヤに名を呼ばれ肩を揺すられてようやくイリスはカズヤに呼ばれていることに気が付く。

 

だがカズヤの胸から顔をあげたイリスは酒に酔ったように顔を朱に染め幸悦としていた。

 

「いや、これからイザベラ女王との会談があるから行かなくちゃいけないんだが……。というかイリスは俺に何か用が合ったんじゃないのか?」

 

「……何か用ってお兄さんに会いに来たんですよ!!お兄さんが私を騙して行っちゃうから!!でも許してあげます。だってこうやって私のことを迎えに来てくれたんですから!!」

 

「……ん?なんのことを言っているんだイリス?」

 

イリスの言った言葉の意味が分からずカズヤが疑問イリスにぶつけたが、その疑問にイリスは答えずに続ける。

 

「やっぱりお兄さんは私の白馬の王子様だったんですね!!」

 

「いや……あの、イリス?」

 

カズヤの言葉を無視して徐々にヒートアップしていくイリスは最後に驚くべきことを口にした。

 

「これでお兄さんと一緒になることにもう障害はありません。だから……早く結婚しましょうね?お兄さん!!」

 

「「「「はぁ!?」」」」

 

イリスの結婚しましょうという発言にイリスを除いた部屋にいた全員が驚きの声をあげた。

 


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