王都の近くにある森の中に潜んでいた車両部隊と合流したカズヤは城塞都市ナシストに向け出撃する前に車両部隊と親衛隊の再編成を行った。
第1分隊
カズヤ・千歳、以下10名。
第2分隊
伊吹中佐、以下10名。
第3分隊
フレッチャー少佐、以下10名。
第4分隊。
舩坂軍曹、以下20名。
車両部隊
ハンヴィー。
(高機動多用途装輪車両)×5
M1130ストライカーCV装甲車。
(CV――指揮車型)×1
M1126ストライカーICV装甲車。
(ICV――兵員輸送車型)×4
M1128ストライカーMGS装甲車。
(MGS――機動砲システム搭載型)×4
73式大型トラック×5
「出発!!」
準備を終えたカズヤ達は意気揚々と出撃し、戦地である城塞都市ナシストに向かった。
城塞都市ナシスト。
カナリア王国がエルザス魔法帝国と帰らずの森からやってくる魔物の対策として建設した城塞都市。
円状に作られている城塞都市の中心には巨大な城がそびえ立ち、その周りを市街地と敵の侵入を阻む大きな城壁が取り囲んでいる。
城壁は城と市街地を外敵から守るため高さ15メートルを誇り堅固な作りとなっており、城、城壁、市街地、城壁、市街地、城壁の形で3重に設置されている。
また1つの城壁につき2つの城門しかないため交通の便は悪いが、少ない戦力でも防衛が容易となっている。
そして城塞都市は代々、カナリア王国に存在する3つの公爵家のうちの1つ、ロートレック公爵家に任されており今はロートレック家の現当主カレン・ロートレック公爵が城塞都市を運営している。
また城塞都市には王国軍1万5千人、公爵の私兵が約5千人、冒険者が数千人、市民が15万人ほど暮らしている。
そんな城塞都市を目指しカズヤ達が王都を出発してから丸一日。
休みなく走り続けた甲斐あって城塞都市ナシストまであと1時間の距離までカズヤ達が近付いた時だった。
斥候に放ったバイク部隊から報告が入る。
「ご主人様、斥候部隊から報告が入りました」
「内容は?」
「ハッ、城塞都市の3つの城壁の内1番外側の第3城壁が陥落した模様。市街地から火の手が上がり黒煙が舞い上がっているそうです。また帝国軍は休むことなく第2城壁に攻勢をかけていると」
「……第3城壁が突破されたか」
「どういたしますか?」
「……無線機を貸してくれ」
「どうぞ」
「皆、斥候部隊の報告は聞いたか?」
カズヤが無線機で各分隊長に連絡を取ると直ぐに返事が帰くる。
『はい』
『もちろんです』
『ハッ、聞きました』
「ならば分かっていると思うが作戦を変更する。第1分隊と第2分隊は第3城壁の内部に侵入した敵兵を排除し城塞都市の守備隊と合流。第3、第4分隊は第3城壁に2つある城門の制圧、確保。後は戦況に応じて指示を出す。以上だ」
『了解しました!!』
『了解!!』
『承知!!』
分隊長達の頼もしい返事を聞いたカズヤは通信を切り無線機を千歳に返した。
「無事でいてくれよ……」
そう小さく呟やいたカズヤは、とある人物に思いを馳せ武者震いで小刻みに震える手をギュッと握り締めながら、まだ見えない城塞都市の方角を見つめていた。
――――――――――――
木々の生い茂る丘に潜む斥候部隊とカズヤが合流し、のどかな平原の中に作られた城塞都市を双眼鏡で見てみるとそこでは激しい戦闘が繰り広げられていた。
「総司令、あちらです」
「ずいぶんとド派手にやってるな」
城塞都市の上空にはエルザス魔法帝国軍(以降、帝国軍)の竜騎士が縦横無尽に飛び回り魔法や弓で攻撃を行い、それを迎撃するべく城塞都市側からは城壁の上に設置されているバリスタや弓兵から無数の矢が放たれ、更には魔法使いが魔力弾を打ち上げていた。
また地上では帝国軍の歩兵や騎兵、マスケット銃を装備した銃兵や魔物を使役している魔物使い、そして帝国軍で最大規模を誇る魔法使いの部隊などを含んだ大軍勢が城塞都市の強固な守りを崩そうと攻勢をかけていた。
その後方ではカタパルトやトレビュシェット、先込め式のカノン砲を装備した工兵隊が城塞都市の第2城壁に向け盛んに岩を飛ばしたりカノン砲の砲弾を撃ち込んでいる。
それに応戦するように城塞都市側からも砲弾や岩が帝国軍に向け放たれていたが、帝国軍と比べるとその数は圧倒的に少なかった。
それもそのはずである王都に報告が来る前には既に城塞都市と帝国軍の戦端は開かれており城塞都市はもう4日もの間、孤軍奮闘の状態で帝国軍の猛烈な攻勢に耐えている状況だったからだ。
「こりゃあ、急がないと不味いな……」
完全に包囲されている城塞都市を眺めていたカズヤはそう呟き視線を敵本陣へと向ける。
しかし敵本陣は城塞都市の南側にありカズヤが今いる北側からは城塞都市を挟んで向こうにあるため、よく見えなかった。
そのためカズヤは敵本陣を見るのを諦め双眼鏡をしまうと丘を駆け降り部隊の元へと戻った。
「どうでしたか、ご主人様。戦況は?」
「最悪だな。激戦になりそうだ……」
武器弾薬、医療品を能力が使える今のうちに召喚しておくか……。
カズヤは戦闘に入る前に出来る限りの弾薬や物資を召喚すると73式大型トラックに詰め込んだ。
「よし、じゃあ行くぞ!!」
準備が整ったカズヤはそう言って命令を下す。
「これより作戦行動に入る!!総員、己の任務を全うせよ!!」
「「「「了解!!」」」」
命令と共にカズヤ達が乗る車両のエンジンが唸りを上げて進みだした。
「いいよな、先に行った奴らは今頃楽しんでいるんだろうな……」
「おいおい、まだ一番外側の城壁を越えたばかりだぞ、どうせ今行った所でありつけるのは戦闘中に前に出すぎて捕虜になった妖魔族や獣人族の亜人共の女ぐらいだろ……」
「いいんだよ。長いこと従軍しているせいで溜まっているんだから」
攻め落とした城門を確保しているよう命じられた帝国軍の兵士達が、思い思いに喋っていると1人の兵士が異変に気が付く。
「……なぁ、おい。騎兵部隊の増援が来るなんて聞いていたか?」
「そんな命令は聞いていない。それに攻城戦だぞ?今、騎兵部隊の増援が来ても意味がないだろ」
「……騎兵部隊じゃないならアレは何なんだ?砂埃でよく見えないが、だんだんこっちに向かって来ているぞ?」
「はぁ?」
仲間にそう言われた兵士がそちらを見ると、大量の砂埃を舞い上げ何かが城門に接近していた。
「……おいおい!?アレはなんだ!?見たことないぞ!!あんな物!!」
兵士がにわかにざわめき出した時だった。
突風が吹き、砂埃が一瞬はれると中から今まで見たことがない四角い箱のような物体が砂埃の中からその姿を現した。
「よく分からんが、アレは味方じゃない敵だ!!」
隊長の叫び声でやっと敵が接近していることに気が付いた兵士達は慌てて自分達の武器を手に取った。
「こちらに気が付いたようですね」
帝国軍の動きが活発化したのを見て千歳がそう呟いた。
「ここまで敵に気付かれずに接近できるとは予想外だったな」
こんなにも早く敵が来るとは思っていなかったのか、帝国軍の意識はすべて城塞都市に向けられており城塞都市を目指すカズヤ達に気が付くことはなかった。
そして、それを好機とばかりにカズヤ達を乗せた車両部隊はフルスピードで城門を目指しひた走っていた。
「それじゃあ……。盛大に暴れて殺ってやろうじゃないか!!」
憤怒に燃えるカズヤが気勢を上げて言い放った。
何故、カズヤが憤怒に燃えているかというと、城塞都市に向かう途中に城塞都市の近くに点在する幾つかの村、そのすべてで帝国軍の蛮行(村人が皆殺しにされ無惨な死体で吊し上げられていた。また暴行した形跡もあった)を目にしているためである。
「ストライカー06から09。城門付近に集結中の帝国軍の歩兵部隊に榴弾をブチ込め!!他の車両は包囲網を敷いている敵を攻撃しろ!!」
『『『『了解!!』』』』
命令とほぼ同時にM68A1E4 105mm砲を搭載している4両のM1128ストライカーMGS装甲車から目標の歩兵部隊に向け一斉に榴弾が打ち出される。
砲声を轟かせ発射された4発の砲弾が盾を前面に並べその後ろで剣や槍を持った歩兵達が陣形を組んで迎撃準備を整えている所に着弾。
帝国軍の歩兵部隊は爆煙に包まれて姿を消した。
風が吹き爆煙が晴れると先程まで綺麗に陣形を構築していた歩兵部隊の姿はもはやなく、そこにあったのは目を覆いたくなるような無惨な死体と数百人規模の負傷者達があげる悲痛なうめき声だけであった。
「なんだ!?地上部隊が襲われているぞ!?」
「なんだと!?」
「敵の増援か!?えぇい蹴散らすぞ!!かかれ!!」
地上部隊の異変にようやく気がついた竜騎士達が慌ててカズヤ達に襲い掛かるが。
「対空戦闘!!叩き落とせ!!」
カズヤの命令でハンヴィーやストライカー装甲車に搭載されていたM2重機関銃や12.7mm弾を使用するガトリング式重機関銃GAU-19の濃密な弾幕が張られた。
「ブベッ!!」
「グゲッ!!」
そんな中に突っ込んでしまった竜騎士達は次々と空に真っ赤な花を咲かせ、バタバタと地上へ落ちて行く。
「これより城塞都市に突入する!!第2分隊は俺に続け!!第3分隊は北門の制圧、確保!!第4分隊は反対側にある南門の制圧、確保!!」
上空の敵を一掃したのを見てカズヤは各分隊に命令を伝える。
『『了解!!』』
『承知!!』
分隊長達から返事が帰って来るとカズヤは第4分隊の分隊長、舩坂軍曹だけに無線を繋ぐ。
「こちらカズヤ。舩坂軍曹応答せよ」
『? どうされました総司令殿』
「今のうちに言っておきたいことがあってな」
『なんでしょうか?』
「……正直、第4分隊に命じた南門の制圧、確保は厳しいものになるだろう。そちらの城門――南門から10キロの位置には敵本陣が存在しているし俺達は反対側にいる。軍曹が援軍を要請してすぐに行ってやることは出来ない……。それに――」
カズヤがストライカーCV装甲車の上部ハッチから体を乗りだし無線機を通し第4分隊の分隊長、舩坂軍曹に語り掛けているとそれを遮り返事が帰ってきた。
『失礼ながら、それは百も承知であります。ですから総司令も我が分隊に他の分隊よりも多く兵員や車両を振り分けられたのでしょう?総司令殿にそこまで配慮して頂いたのであれば是非はありません。それに我々は総司令の部下であり兵士――軍人です。総司令である貴方にやれと言われれば命令通りにやるのが我々の務め。どうぞお気になさらず』
カズヤの心情を読み取ったような言葉にカズヤは心の中で礼を言ってから舩坂軍曹に返事を返した。
「……そうか。では頼んだぞ」
『承知。ご武運を総司令殿』
「あぁ、軍曹もな」
カズヤの乗るストライカーCV装甲車の横を並走しているハンヴィーに乗っている舩坂軍曹がカズヤに向け敬礼をすると第4分隊に配属された車両がカズヤ達から分離し、城塞都市の反対側にある城門を目指して走って行った。
それを見送りカズヤ達は真正面に見えている城門に突入した。
「GO!!GO!!GO!!突っ込め突っ込め!!」
突然の襲撃により混乱した敵兵で溢れている城塞都市内部に突入すると第1・第2分隊はスピードを緩めることなく城塞都市の大通りを敵兵を轢き殺し、撃ち殺しつつ前進。
城門の確保を命じられている第3分隊は城門近くで停車、戦闘を開始する。
「オラオラ、これでもくらいやがれ!!」
「ご主人様、危険です!!中に入っていて下さい!!」
千歳の言葉も聞かず、カズヤは自身が乗るストライカーCV装甲車に搭載されているM2重機関銃を使い12.7mm弾を帝国軍兵士に向け乱射していた。
そうこうしている間にカズヤ達は第2城壁の城門前に辿り着く。
そして車両が停車すると車内にいた兵士達が降車し敵兵を掃討し始めた。
「な、なんだコイツら!?」
「どっから沸いて出たんだ!?」
「に、逃げろ!!」
突然、背後から襲撃を受けた敵兵達は混乱し逃げ惑うばかりである。
「ま、待てお前ら!!戦え!!」
「反撃するぞ!!」
一部の勇敢な魔法使いや歩兵がカズヤ達に反撃しようと試みたが、瞬く間に親衛隊員が装備しているM4A1カービンやMK48 Mod0(M249ミニミ軽機関銃の7.62mm NATO弾仕様)の集中射撃を受け、全員蜂の巣にされ無惨にも自分の血の池に沈むことになった。
そしてカズヤ達の攻撃を受けた敵兵達が混乱しつつも体制を立て直し反撃をしようとした時だった。
「「突撃ィィーー!!」」
「「「「うおおおおぉぉぉぉーーーー!!」」」」
突然、城門が開かれ中から城塞都市の守備兵達が雪崩を打って飛び出し今までの鬱憤を晴らすように帝国軍兵士に襲い掛かり始める。
これが決定打となり、帝国軍は総崩れで雪崩を打って逃げ始めた。
そして敵部隊が逃げて行った後には多数の攻城塔や屋根がついた破城槌が城門前に放棄されていた。
「第2分隊はこの場を確保し残敵の掃討にあたれ。第1分隊、城塞都市の指揮官に会いに行くぞ」
「「了解」」
戦いに勝利したことに喜び、大声で勝鬨をあげている城塞都市の兵士で埋め尽くされた城門前に第2分隊を残し、第1分隊を引き連れカレン・ロートレック公爵に会うべくカズヤは城塞都市の中心にある城へ向かった。