ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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「――見つけましたよ、帝国に仇なす者達よ。そして主を裏切った唾棄すべき大罪人共よ」

 

孤立し窮地に立たされていた第21騎兵大隊と合流してから周辺の脅威を排除した後、残存兵員と共に後方へと下がろうとしていたセリシア達の前にそれは突然現れた。

 

「……アデル」

 

「分かっている」

 

まるで彫刻のような作り物染みた美貌を怒りで歪め、禍々しい敵意を放ちながら純白の翼を羽ばたかせつつ、30程の取り巻き達と共にゆっくりと空から地上付近へと舞い降りて来た異質な存在。

 

お伽噺や伝承に登場するような所謂天使の姿をした敵、それも対峙しただけで分かる程の隔絶した力と魔力量を誇る敵を前にセリシアとアデルは一筋の冷や汗を流しながら臨戦態勢を取り、7聖女や第21騎兵大隊の兵士達もそれに倣い各々の武器を敵に向けた。

 

「何者です」

 

「私の名はミカエル。レンヤ様の御業とローウェン教への飽くなき信仰によって脆弱な人の身を超越した存在――アンヘルの1人。そしてアンヘルで編成された天軍九隊を指揮する四大守護天使の1柱です」

 

緊張感に満ちたセリシアの問い掛けにミカエルと名乗りを上げたアンヘルは加虐的な笑みを浮かべながら答えた。

 

「そんな風に誇らしげに言われても……アンヘル?天軍九隊?四大守護天使?聞いた事がありませんね。それで?貴女は何をここへ何をしに来たのですか?」

 

「……知れたこと。愚かにも帝国を侵す異教徒共を滅し、ローウェン教に叛いたばかりか主を侮辱したお前達に神罰を下すためです」

 

バカにしたような挑発するようなセリシアの言葉に眉をピクリと動かしたミカエルは笑みを消し無表情で続ける。

 

「しかし、主は慈悲深い。故に異教徒共よ!!そして主を裏切ったお前達よ!!これまでの行いを悔い改め改心し、ナガトという愚人を討ち滅ぼす聖戦に尖兵として参加するというのであれば今一度ローウェン教の信徒として――」

 

「黙れ」

 

ピシャリと叩き付けるような断固としたセリシアの声が辺りに響いた。

 

「……今、何と言いましたか?」

 

「黙れと言ったんですよ、鳥モドキ。あぁ、鳥と同じで人語も理解出来ない程小さな頭しか持っていないのですね。嘆かわしい……」

 

「貴様ッ!!ミカエル様に対して何という暴言を!!」

 

「人間風情が調子に乗るな!!」

 

俯きながら肩を震わせるセリシアの言葉にミカエルの取り巻きが激昂し、剣や槍をその手に顕現させるとセリシアに迫る。

 

「三下は引っ込んでいろ!!」

 

「チィ!!」

 

「小癪な!!」

 

しかし、セリシアの前に立ちはだかったアデルの剣撃によって撃退され空へと引き下がる。

 

「我らがカズヤ様の事を侮辱したばかりか、裏切り討ち滅ぼせと?楽に死にたければ寝言は寝て言いなさい!!」

 

ゆっくりと顔を上げたセリシアの表情は悪鬼羅刹のように歪み、怒髪天の如く怒り狂う自身の内心をこれでもかと表していた。

 

「殺れるものなら殺ってみなさい。しかし、お前達も薄々分かっているのではありませんか?私に敵わぬ事は」

 

「戯れ言を。確かに貴女は脅威でしょう。しかし、あのお方を侮辱して生きていられると思わない事です。多少の力量差があろうとも我らはあのお方の――ッ!?」

 

怒りに満ちた宣誓をセリシアが口にしている途中、辺りが突然爆ぜた。

 

「……ラファエル。いきなり何をするのですか」

 

絨毯爆撃でも受けたように辺り一帯から粉塵を吹き上げる地上を無表情で見やりつつ、ミカエルは横槍を入れてきた同胞の名を口にする。

 

「何をするだと?それはこちらのセリフだ、ミカエル。わざわざ敵と大罪人に情けをかけるなど時間の無駄ではないか」

 

魔力を込めて横凪ぎに腕を振るっただけで破壊をもたらし、横合いから思いっきりセリシア達を殴り付けた張本人――アンヘルの四大守護天使の1人であるラファエルは整った顔を酷薄に染め、呆れたようにミカエルに返事を返した。

 

「しかしですね……」

 

「ラファエルの言う通りですよ、ミカエル。我々はレンヤ様の為に一刻も早く害虫達を駆除しなければならないのですから」

 

「ウリエル。貴女まで」

 

ラファエルの責めるような言葉にミカエルがたじろいでいると四大守護天使の3人目――ウリエルが現れ、おっとりとした顔を引き締めながらラファエルの意見に賛同する。

 

「ふざけた真似を……」

 

そうして2対1となった事でミカエルが責め立てられている最中、収まり始めた粉塵の中から咄嗟に魔力障壁を展開し皆を守ったセリシアが薄汚れた姿で現れた。

 

「ほぅ。てっきり今ので全員死んだかと思いましたが……」

 

「うん?手加減が過ぎたか?害虫駆除とはいえ、これ以上辺りを破壊する訳にもいかんからな」

 

「全く。今ので死んでいれば楽だったのですが。やはり害虫とは厄介な存在ですね……あら?敵の頭を潰しに行ったガブリエルがこちらの呼び掛けに応答しませんね」

 

「なに?全く、世話が焼ける奴だ。こいつらをさっさと片付けてガブリエルと合流するぞ」

 

頭上で繰り広げられる嘲笑が混じった敵の会話にセリシアは額に浮かぶ青筋の数を増やし、ギリギリと屈辱に歯を噛み締める。

 

「……舐められたものですね。そんなに死にたいのであれば今すぐに殺してあげましょう」

 

「待て、セリシア」

 

「止めないで下さい。アデル」

 

「そういう訳にもいかない。冷静になるんだ」

 

殺意のまま敵に向かって行こうとするセリシアをアデルが慌てて引き留める。

 

「……分かりました。ここで使ってしまうのは少々想定外でしたが、切り札を使います」

 

「まさかアレを?ここでか?魔物の召喚は使わないのか?」

 

「えぇ、全くもって業腹ですが時間を掛けずに一気にケリを付けるためには魔物達ではなく切り札を使うしかないでしょう。それに……悔しいですが、今のままでは奴らに勝てそうにありませんし」

 

「まぁ、致し方なしか」

 

ミカエル単体だけでも現戦力を総動員して袋叩きにする事でようやく勝てるかどうかという状況であったのにミカエルと同等クラスが2人も現れた上、ミカエル達3人がそれぞれに引き連れる30程の取り巻きの存在がセリシアに切り札の使用を決断させた。

 

「では、詠唱している間の時間稼ぎは頼みますよ」

 

「心得た」

 

最後に杖と剣を軽く打ち合わせた後、セリシアとアデルは互いの配置に移動する。

 

「おっと、何をする気ですか?」

 

第21騎兵大隊の兵士達が散開しつつ両翼に展開しアデルが中央の最前線に立ち、その後ろで7聖女に守られるようにして杖を構えるセリシアにミカエルが問い掛けた。

 

「貴女達を纏めて始末する準備ですよ」

 

「……纏めて始末ですか」

 

「ハハッ、これは傑作だな」

 

「無駄な事を」

 

「……?バルム・セル――ッ!?」

 

ミカエル達が見せた反応に何とも言い難い違和感を感じつつも、セリシアは迷いを振り払うように詠唱を始めた。

 

しかし、詠唱を始めてすぐにセリシアは異常に気が付く事となった。

 

「ッ!?これは……まさか……」

 

「どうしたんだ、セリシア?」

 

「魔法が……魔法が使えなくなっています!!」

 

「何だと!?」

 

愕然としているセリシアの言葉に驚きアデルや7聖女が簡単な魔法を幾つか試してみるが、自身の体に宿る魔力を消費して行使される魔力障壁以外は何れも不発に終わってしまう。

 

「ハハハハッ!!愚か者共よ、分からぬか!!我々は人の身を捨て御神に仕えるに相応しい存在へと進化した魔導生物のアンヘルだぞ?この世に満ちる魔力素の操作など雑作でもない!!」

 

「つまり我々の前では魔法が使えないために貴女達は無力な存在に成り下がったという事です」

 

魔法が使えないという現実に困惑するセリシア達に対しウリエルとラファエルが勝ち誇ったように声を上げた。

 

「チッ」

 

「これは参ったな……セリシア、どうする?」

 

事態の深刻さを理解しセリシアが大きな舌打ちを打ち、アデルが乾いた笑いを溢す。

 

「魔力障壁は辛うじて使えるようですが……切り札はもちろん、身体強化の魔法や魔力弾すら使えない現状では勝ち目がありません。耐え難い事ですが……ここは撤退するしか」

 

「……まぁ、しょうがな――」

 

「私達がそれを見逃すとでも?」

 

勝機が潰えてしまった事を悟ったセリシアが撤退を画策しているとミカエルが会話に割り込んでくる。

 

「……不味いですね」

 

「あぁ、全くだ」

 

セリシアとアデルが見上げた先ではミカエル達3人が致死魔法の術式を展開し、更には他のアンヘル達が魔力弾を撃つ準備を整えていた。

 

「お前達は我らが下す神罰を受けここで後悔と失意の内に死ぬのです」

 

そしてミカエルの死刑宣告と同時に魔法や魔力弾が放たれセリシア達の元へ殺到する。

 

「総員退避!!」

 

「セリシア!?何を!?」

 

「私が魔力障壁で時間を――えッ!?」

 

「うぉ!?何だ!?」

 

迫り来る死に対してセリシアが何とか抗うべく魔力障壁を展開しようとしたその瞬間、戦場に入り込んだ一団があった。

 

「新手!?――グッ!?」

 

「クソッ!?」

 

「また害虫!?」

 

その一団は魔力障壁で防がれたとはいえミカエル達に苛烈な銃弾の雨を浴びせて一時的に遠ざけたばかりか、辺りに煙幕弾をばらまき煙幕を張って敵を撹乱しつつ、放たれた魔法や魔力弾の加害範囲外にセリシア達を連れ出す事に成功する。

 

「あ、貴方達は誰ですか!?」

 

「何者だ、お前達!?」

 

突然担ぎ上げられ、わたわたと慌てるセリシアと不意討ちを受け怒りを露にするミカエルの問い掛けに2人の男が意気揚々と答える。

 

「舩坂弘少尉であります!!ご無礼の程、平にご容赦下さい」

 

「一木清直大佐以下一木支隊だ!!貴様らの相手は我々が務めさせてもらう!!」

 

戦場に殴り込みを掛けたのは生きている英霊こと舩坂少尉を臨時に部隊へと編入し帝都で暴れていた一木支隊であった。

 

「舩坂少尉に一木支隊!?どうやってここに!?貴方達が居た所からここまでの間には師団規模の魔物が居たはず……それをどうやって……」

 

他の兵の手で運ばれて来たアデルや7聖女と共に、連れて来られた瓦礫の影で伏せながらセリシアは場違いに明るい笑みを浮かべる舩坂少尉に問い掛けた。

 

「なぁに簡単な事です。我々の十八番である突撃を敢行し強行突破して参りました」

 

「突……撃?」

 

あっけらかんとした舩坂少尉の返答にセリシアは自身が戦場に居ることを数瞬忘れ、ポカンとした表情を浮かべていた。

 

「はい。と、それよりもここは我々にお任せ下さい。フィットローク殿達はお早く撤退を」

 

「なっ!?酷な事を言うようですが貴方達ではやつらには勝てません!!」

 

舩坂少尉に撤退を促されたセリシアは煙幕の向こうから聞こえてくる一木支隊とミカエル達の戦闘の音を気にしつつ彼の提案を却下する。

 

「それは魔法が封じられてしまった今のフィットローク殿達も同じ事では?」

 

「うっ……し、しかし!!ここに残れば確実に死にますよ!!」

 

舩坂少尉にあっさりと論破されてしまい言葉に困る事となったセリシアは恥ずかしさを誤魔化すように体を起こして居住まいを正す。

 

「承知の上です。なに、強大な敵に立ち向かい、そして味方を救うための名誉ある死です。軍人としては恵まれた死に方でありましょう」

 

「だからと言って――」

 

「僭越ながら!!……飢えも病も無く体は健康で武器と弾は十分にあります。そんな状況で戦って死ねるのであれば本望!!ここが我らの死に場所かと!!」

 

「し、しかし……」

 

説得の言葉に承知の上だと返され、更に煙幕の中から突然現れた一木大佐の万感が込められた言葉にセリシアは二の句が継げなくなり困り果てる。

「我々もその話に噛ませてもらう!!」

 

「なっ!?リーフィールド中佐までどうして!?」

 

舩坂少尉と一木大佐の相手だけでも困っていたというのに、そもそも救援に来た対象である第21騎兵大隊の指揮官であるリーフィールド中佐までもが殿に志願したためセリシアは頭痛を覚えながら声を漏らした。

 

「我々は海兵隊です。撤退はクソ食らえ――出来ませんし、陸軍ばかりにいい格好はさせておけません。何より今回の失態は自分で拭わねば。……それに貴女は魔法が使えさえすればあのくそったれな野郎共を始末出来るのでしょう?ならば貴女にはここから撤退して頂いて態勢を立て直した後、魔法を使ってやつらの殲滅をお願います」

 

「〜〜ッ……はぁ、分かりました。私達は負傷者と共に下がります」

 

既に死を受け入れ、覚悟を決めた男達の説得は無理だと判断したセリシアは問答を切り上げる。

 

「えぇ、後は我々にお任せを」

 

「敵討ちは頼みます」

 

「部下達をお願いします」

 

「……ではご武――グッ!?」

 

「セリシア!?」

 

舩坂少尉達に後を任せ、負傷者と共に撤退する事を決めセリシアが立ち上がった瞬間、細い光の矢がセリシアの肩を貫いた。

 

「害虫共が!!いい気になるなよ!!」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

ウリエルの怒声にハッとして見れば、いつの間にか辺りを包んでいた煙幕は消え去り、先程まで戦っていたはずの一木支隊や第21騎兵大隊の兵士達がセリシアと同じように光の矢に撃ち抜かれ地面の上で苦悶に悶えていた。

 

「1匹残らずここで串刺しにしてやる!!」

 

「そこに居たか。ウリエル。こちらは任せた」

 

「私達はあっちの害虫を駆除するわ」

 

再び大量の光の矢を作り出し憤怒に燃えるウリエルを放置してミカエルやラファエルはより重要度が高いセリシア達の元へ接近する。

 

「セリシア、立てるか?」

 

「えぇ……何のこれしき。しかしもう撤退する所の話ではありませんね」

 

「……そうだな、ならば死中に活を求めるとしようか。お前達はセリシアを頼む」

 

「分かりました」

 

手傷を負ったセリシアを7聖女に任せ、アデルは1人前へと進み出る。

 

「……アデル?」

 

「大丈夫。……2度もセリシアを失うつもりはない。何が何でもやつらを倒す」

 

セリシアの心配するような声に笑って答えた後、アデルは自身に言い聞かせるように小さな声でそう言い決死の覚悟を決め舩坂少尉達と共に徹底抗戦の構えを取る。

 

「さぁ、来い!!俺達が相手だ!!」

 

しかし、数で劣り力で劣るアデルに万に1つの勝ち目さえないのは明白であった。

 

「主の慈悲があらんことを」

 

「さっさとくたばれクソ共が!!」

 

「害虫は消えなさい」

 

そうして圧倒的な力の差のままにミカエル達の一方的な蹂躙が始まろうとしたその時。

 

「――遅い」

 

味方には希望を敵には絶望をもたらす凛とした美声が戦場に響き渡った。


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