ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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少し時を遡り、ポプラフスキー大佐達の混成連隊が魔物を相手に奮戦していた頃。

 

カズヤから任された任を果たすために、たった9人という寡兵で危地に満ちた帝都の中を行く決断を下したセリシアとそれに付き従うアデルやアレクシア達は目を覆いたくなるような惨状を作り出していた。

 

「……ふぅ。雑魚とは言えこうも数が多いと鬱陶しい事この上ないですね、アデル」

 

「あぁ、全くだ」

 

ブシュブシュと真っ赤な血飛沫が噴水のように吹き荒れ、生命の灯火が次々と消えていくその真っ只中でコボルトの頭部を魔力弾で消し飛ばしたセリシアがため息混じりに愚痴を溢し、アデルが5〜6体のゴブリンの体を纏めて撫で斬りにしつつそれに答える。

 

雑談を交わす2人の周りではアレクシア達が剣舞でも舞っているかのような優雅さで大鎌を振り回し、しかして魔物の命をさながら死神のように刈り取り骸の山をうず高く積み上げていた。

 

「というか、そもそもこれだけの魔物をどうやって召喚しているのか気になります」

 

「またレンヤの奴が何か変な道具でも作ったんじゃないのか?よし、こいつでラスト!!ふぅ……周辺の敵は一掃したし先を急ご――」

 

「残念ながら敵の増援がまた来ました」

 

「……なぁ、セリシア。我々がこうして敵を引き付ければ引き付けるほど第21騎兵大隊の元へ向かう魔物の数は減るし、後続の味方は有利になるしで文句は言えないんだが、些か派手に引き付け過ぎたんじゃないのか?」

 

周囲の敵を駆逐したかと思えば、間を置く事なく大挙してやって来る魔物の群れを見やりながらアデルが言った。

 

「そうかもしれませんね」

 

「そうかもって……はぁ、まぁいい。カズヤの頼みの一環なんだ、何千何万程度の魔物ぐらい斬り捨ててやるさ」

 

「その意気ですよ、アデル。――イルミナ、HQに砲撃支援を要請なさい」

 

小さく笑いながらアデルの肩を労るようにポンポンと軽く叩いた後、表情を引き締めたセリシアは無線機を担ぐイルミナに声を掛ける。

 

「ハッ、了解です。――クラリック01よりHQへ。ポイントJ―5に砲撃を要請する。繰り返す、ポイントJ―5に砲撃を要請する」

 

『こちらHQ、了解した。直ちに砲撃支援を開始する。至近弾に注意せよ』

 

イルミナとHQのやり取りを聞きつつ、そして直後に降り注いだPzH2000自走榴弾砲の155mm榴弾の雨を眺めながら戦闘準備を整えたセリシア達は再び殺戮兵器と化した。

 

撃って斬って殴って蹴って。

 

武器をそれから四肢を使い、セリシア達は狂信に満ちた目を輝かせながら殺戮を繰り返し続ける。

 

故に魔物から流れ出た血は川となり積み重なった肉塊は山となり、辺りはすぐに阿鼻叫喚の地獄絵図と化していった。

 

「さて、これぐらいでいいでしょう。先に進みましょう」

 

「分かった」

 

「では、ちょっと大きめの魔力弾で突破口を開きます。魔力弾が炸裂した後アデル、アレクシア、ゾーラ、ジルは進路の開拓を頼みます。ゼノヴィア、キセル、イルミナは私の援護を」

 

「任せろ」

 

「「「了解」」」

 

「「「承知しました」」」

 

乱戦に持ち込み、接敵した敵を半数ほど殺した頃合いを見てセリシアがアデル達に指示を出しながら魔力を貯め始める。

 

そして魔力が貯まると機銃掃射のように無数の魔力弾を向かってくる魔物の群れに叩き込んだ。

 

炸裂した魔力弾が地面や瓦礫ごと魔物を粉微塵に吹き飛ばし、群れをズタズタに引き裂く。

 

それを見届けてから打ち合わせ通りにアデル達が突貫し、進路の開拓を開始した。

 

「――セリシア様、少々問題が」

 

消耗した魔力を少しでも回復しようとゼノヴィア、キセル、イルミナの3人に守られながらセリシアがアデル達によって斬り開かれた道を歩いていると、光学迷彩で姿を消しつつ単身で偵察に出ていたティルダがさながら幽霊のように突然姿を現した。

 

「問題?どんな問題ですか、ティルダ?」

 

「この先の曲がり角で帝国軍及び帝都の市民の一団が魔物と戦闘中です」

 

「目的地まで後少しだというのに……また面倒な。迂回は可能ですか?」

 

「可能ですが迂回した場合、第21騎兵大隊の元に到着する時間が15分程延びるかと」

 

「それはダメですね、許容出来ません。しかし、このまま進むと面倒事に巻き込まれる可能性が高い……」

 

「じゃあ、どうする?」

 

ティルダの報告を受けて頭を悩ませるセリシアに、進路上の魔物を殺し尽くして戻って来たアデルが問い掛けた。

 

「それは愚問というモノですよ。アデル」」

 

「ま、そうだな」

 

ニタリと口を三日月の形に歪め悪鬼のように笑ってみせたセリシアに対し、アデルは苦笑する。

 

「このまま進みます。道中の障害は無視で構わないでしょう。仮に道中の障害が我々の行く手を阻むのなら、それが何であれ――排除するだけです」

 

「分かった」

 

「では、参りましょうか。願わくば異教徒達が大人しく道を譲るよう……」

 

感情が込もっていないセリシアの言葉を聞きつつアデルや7聖女は進み出す。

 

「陣形を崩すな!!援軍の到着まで何としても持ちこたえるんだ!!」

 

「クソッ!!何で帝都にこんなにも魔物が居るんだ!!誰が召喚しやがった!!」

 

遭遇する魔物を片手間に排除しつつセリシア達が曲がり角を曲がるとティルダの報告通りに帝国軍や帝都の市民達の集団と鉢合わせる事となった。

 

「……広がりすぎです。あれでは隙間をすり抜ける事も出来ませんね。という訳でアレクシア、ゾーラ、ジル、ゼノヴィア、ティルダ、キセル、イルミナ。ちょうどいい機会ですし貴女達のカズヤ様への忠誠心をここで示しなさい」

 

「「「「「「「了解!!」」」」」」」

 

完全に道を塞いでしまっている帝国軍や市民に対して白々しいセリフを吐いたセリシアはアレクシア達をけしかける。

 

「ッ!!7聖女様だ!!」

 

「なに!?」

 

「助かったぞ!!」

 

間合いに入った魔物を葬りながら駆けるアレクシア達の姿を見て、帝国の軍民の集団は喜びに沸き立つ。

 

「何だ、奴らアレクシア達がどうなったのか知らないのか?」

 

「恐らくは情報管制ですね。ローウェン教の象徴にもなっている7聖女が全員真理に目覚めた等という一大事は秘匿して当然でしょう」

 

「それもそうか」

 

「まぁ、流石に私やアデルがカズヤ様のモノになった事はバレているでしょうけど」

 

とうの昔にカズヤの配下となったアレクシア達の姿に喜ぶ軍民の集団の反応を目の当たりにして、アデルとセリシアは帝国の情報管制によって事情を何も知らない者達へ僅かながらの哀れみを心に抱いていた。

 

これから彼彼女達が辿る絶望的な悲運を知るだけに。

 

「邪魔だ」

 

窮地の際に現れたアレクシア達を歓声をもって歓迎しようとした帝国軍兵士の首が擦れ違いざまにアレクシアの大鎌によって切断され、鮮血が吹き出る。

 

瞬間、場が凍り付く。

 

「……は?」

 

「どういう事だ……何故聖女様が我々を――」

 

「だから、邪魔だと言っている」

 

人々が受け入れがたい現実を受け入れる前に次の犠牲者が生み出され、再び血の飛沫が辺りを汚す。

 

しかも、アレクシアに続いて他の聖女達が集団に飛び込んだため、一気に死人の数が増す始末であった。

 

「イヤァアアアアッ!!」

 

「せ、聖女様!!何故このような――」

 

遅れて上がった市民の悲鳴で帝国軍兵士達が再起動を果たし、一番近くにいたアレクシアを止めようとに詰め寄るが彼らは大鎌の一閃で体を真っ二つに切断され驚愕の表情を浮かべたまま息絶える事となった。

 

「異教徒達に告げる!!道をあけよ!!我らの前に立つ者は一切の慈悲無く処断する!!」

 

「は?我々が異教徒?」

 

「聖女様は一体どうされてしまったんだ!?」

 

「……斉射用意!!」

 

アレクシアの勧告に戸惑い状況を未だ把握しきれず、動けない帝国の者達に7聖女が大鎌の銃口を向ける。

 

そして、14.5mmの大口径弾の一斉射が兵士や市民を襲う。

 

銃声が響く度に肉の弾ける音がこだまし、弾丸をまともに受けた者が体を粉砕され、四肢の何れかに弾丸がすっただけの者も手足を吹き飛ばされる。

 

「排除完了」

 

射線上に立っていた者達が無惨な死体を残して黄泉路へと旅立った事を確認してからようやくアレクシア達の射撃は止んだ。

 

「セリシア様、終わりました」

 

「ご苦労様。では先を急ぎましょうか」

 

カズヤへの忠誠心を示すため、かつて味方であった者達の大量虐殺を平気でやってみせたアレクシア達にセリシアは満足気な笑みを溢した。

 

そして、セリシア達は運よく射線上に居らず助かった人々が肉塊と化した同胞の亡骸を呆然と眺める前を悠々と横切り目的地へ向け歩を進める。

 

「何故です!!貴女様が何故このような事を!!」

 

しかし、その途中若い帝国軍の兵士がアレクシアに掴み掛かった。

 

「貴様ッ!!」

 

「ガッ!?」

 

「何て事を!!貴様らのような異教徒と言葉を交わすだけでもおぞましいと言うのに……!!あまつさえ……あまつさえあのお方の体に手を触れるなどッ!!」

 

直接では無いとは言え、いきなり帝国軍兵士に肩を触れられたアレクシアは激昂し鬼の形相で兵士を蹴り飛ばすと、触れられた肩を無我夢中でひたすらに掻きむしる。

 

「ア、アレクシア様……貴女はこんな事をするような方では……そうか!!裏切り者の貴様が――」

 

セリシアに何か言おうとした兵士が言葉を言い切る前にアレクシアの大鎌が煌めき兵士の首を撥ね飛ばす。

 

「こんな事だと?我らが主の御意向こそが天命!!それに逆らう愚か者共は排除して当然。それが異教徒ともなれば殺して何が悪い!!」

 

「フフッ、そうです。それでいいのです。全くもって上出来です。さぁ、目的地は目と鼻の先ですから早く行きますよ」

 

狂気に満ちた瞳を爛々と輝かせ、言い切ってみせたアレクシアにセリシアが拍手を送る。

 

そして、状況を受け入れられずに呆然とする市民達をその場に残し、セリシア達は第21騎兵大隊と合流を果たすのであった。


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