ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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遂にパラベラム軍の直接的な侵攻を受け、悲惨な戦禍の渦に引きずり込まれたエルザス魔法帝国の帝都フェニックス。

 

繰り返される爆撃により帝国の歴史が詰まった街並みが悉く破壊されていく最中、皇帝のスレイブ・エルザス・バドワイザーを中心に名だたる大貴族や将軍達が宮殿の玉座の間に集まり軍議を開いていた。

 

「陛下!!恐れ多くも申し上げます!!帝都を守る魔力障壁が失われた以上、最早降伏しかありませぬ!!」

 

「宮殿は独立した魔力障壁で守られいるとは言え、それもいつまで持つか……。故にこのまま戦いを続ければ陛下のお命が危険に晒されてしまう可能性が!!」

 

「陛下のお命は何物にも代えられぬもの!!直ちに降伏の使者を出しましょう!!」

 

完全に包囲され退路も無く、最早挽回のしようがない戦況に恐れをなして顔を青くする大貴族や将軍達は皇帝の命を守るという大義名分を掲げ、保身に走っていた。

 

最悪、皇帝をパラベラムに売り渡し自分達の身の安全を確保する腹積もりで。

 

「まぁ、待て。そう慌てる必要は無い」

 

だが、そんな配下達の胸の内をよそに皇帝は穏やかな表情で安穏としていた。

 

「しかし!!」

 

「時期を見誤れば取り返しがつきませぬ!!」

 

「陛下、ご決断を!!」

 

「案ずるな。帝都が失われようと帝国という国家が無くなろうと構わぬ。余とここに居る者達さえ無事であればよいのだ。何せレンヤに任せている計画が成就した暁には今まで以上の繁栄が確約されているのだからな」

 

どっしりと玉座に腰掛けながら、一刻も早く降伏するべきと詰め寄る大貴族と将軍の面々を手で制しつつ、皇帝は歪な笑みを浮かべていた。

 

「ですが……その計画とやらが成就するまでの時間を稼ぐ者達が最早おりませぬ」

 

「帝国が誇る無敵艦隊は陛下の言う計画に駆り出され不在、そして帝国の空を守る帝都防空聖竜騎士団は先程全滅したのです」

 

「それに暗殺計画の失敗で帝国最強にして陛下の直轄部隊であったグルファレス魔法聖騎士団は全滅。いざという時の頼みの綱であったローウェン教教会騎士団の戦力も半減、教会の象徴であった7聖女達はあろうことか敵の手に堕ちてしまいました」

 

「我々に残されているのは魔導兵器や自動人形、不死兵、そして不死化が出来なかった一般兵や帝都の周辺から徴兵した民兵のみ。これでは敵の大軍勢を足止めする事は叶いません」

 

新参者のレンヤを異常なまでに重用している事や、いくら問うても明かされる事の無い謎の計画。

 

その2つの事象がこの窮地と合わさる事で大貴族と将軍達の猜疑心を高めていた。

 

「うむ、そなたらが言う事は最もである。しかし安心するがよい。我々にはレンヤが組織した天軍九隊がおるのだ」

 

「天軍……九隊?」

 

「陛下、それは一体……」

 

皇帝の口から語られた天軍九隊という言葉に居合わせた者達の意識が集まる。

 

「天軍九隊とはレンヤがこのような場合に備え、心血を注ぎ造り上げた究極の魔導生物――アンヘルで構成されている軍隊の事。この者達は恐ろしいまでの魔法適正があり、最上級の力を持つ者は神にも匹敵し最下級の力しか持たぬ者でも魔法使い100人分の力を持つという」

 

「おぉ!!」

 

「それならば少しは時間が……いや、勝機も見えますな」

 

またあの新参者か。そんな苛立ち抱きながらもそれを表に出す事はせず、大貴族と将軍の面々は皇帝の機嫌を損ねぬような虚栄の言葉を連ねていく。

 

「うむ。その通りである。故に心配する必要は微塵もありはせぬ。我々の未来は華々しく輝かしいものになるのだからな」

 

「「「「皇帝陛下万歳」」」」

 

そうして訪れる事の無い未来を夢見ながら皇帝やその取り巻きの者達は自分達が断頭台へと上がる瞬間を待つのであった。

 

 

「何故、敵の攻撃を受けているんだ!!帝都を守る魔力障壁はどうした!?」

 

操り人形と化している皇帝や我欲に満ちた重鎮達が玉座の間で軍議という名の無意味な会話に時間を費やしている頃。

 

宮殿の広間では大勢の貴族達が不安な顔で騒ぎ立てていた。

 

「軍は何をやっておる!!」

 

「――おい、静かになったぞ?」

 

「誰ぞ、戦況を報告せんか!!」

 

「外の様子はどうなったんだ!!」

 

先程まで休むことなく続いていた砲撃の炸裂音や地面の振動が唐突に収まった事を気にして貴族達が衛兵に詰め寄る。

 

「我が軍が敵の撃退に成功したのではないか?」

 

「そうだ。きっとそうに違いない!!」

 

状況を確認するべく宮殿内を駆け回る衛兵達をよそに、有象無象の貴族達は自分達の願望を込めた言葉を漏らしていた。

 

「ほ、報告!!レイテ湾より敵が上陸を開始!!なおレイテ湾においては船が8分に海が2分!!レイテ湾は敵の艦艇で埋め尽くされています!!」

 

「申し上げます!!帝都外部の第1防衛線崩壊!!敵が、敵が帝都内部へ雪崩れ込んで来ます!!」

 

しかし、その願望が叶えられる筈もなく。

 

「なん……だと!?」

 

「帝都への侵入を許したというのか!?」

 

「もうダメだ!!ローウェン様は我々を見放した!!」

 

衛兵によってもたらされた報告は貴族達を絶望の淵に突き落とすモノであった。

 

「あーあーあー。みっともないったらありゃしねぇ。帝都に敵が入って来たぐらいで騒ぐなっての」

 

宮殿の上層階。

 

皇族や限られた者しか立ち入る事を許されていない区画からレンヤは眼下で騒ぐ貴族達の事を嘲笑っていた。

 

「あら、誰だって自分のお尻に火が付けば騒ぐモノよ」

 

「……いい加減いきなり背後に現れるのはやめろ。これで何度目だ?」

 

「さぁ?何度目かしら。フフフッ」

 

「もう好きにしてくれ」

 

マリーのからかうような言葉に肩を落とすとレンヤは貴族達を眺めるのを止め、とぼとぼと歩き出す。

 

「あら、どこへ行くの?」

 

「例の計画を実行する準備だよ。……言っておくが時間に遅れるんじゃないぞ。仮面のアイツみたいにここに残るって言うなら話は別だが」

 

「はいはい。分かってるわよ」

 

「本当に分かっているのか?まぁいい。――ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエル」

 

分かっているのかいないのか。今一判断に困るマリーの反応に呆れつつ、レンヤは自身の切り札であるアンヘルの名を口にする。

 

「「「「御前に」」」」

 

すると次の瞬間、神々しい光と共に現れた4人の美女――アンヘルの中でも特に強い力を持つ者達がレンヤの眼前で膝を着いていた。

 

「お前達は手筈通りに天軍九隊を率いて敵の足止めをしろ。適当に時間を稼いでくれればそれでいい」

 

「「「「御心のままに」」」」

 

頭の上に丸い環を浮かばせ白く輝く純白の翼を背中から生やしている彼女達はレンヤの言葉に恭しく答えた。

 

そして敬愛と忠誠に満ちた眼差しをレンヤに注ぐと、現れた時と同じように一瞬で姿を消した。

 

「なんともまぁ……その歳でお人形遊びなんていい趣味してるわね」

 

「ほっとけ!!」

 

マリーの心底見下した軽蔑の言葉にレンヤは真っ赤な顔で反論しつつ足早にその場を立ち去るのであった。


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