ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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感想を頂いてようやく気が付きました。

投稿済みだと思っていた回が投稿していないことに(;´д`)

ご迷惑をお掛けしました
m(__)m


37

仮面の男に絞殺されかけている最中、自身を助けるため敵の一刀を浴び更には止めを刺されようとしているフィーネの危機にカズヤの感情は否応なしに昂っていた。

 

そしてその昂った感情が業火となって己の心の中で荒れ狂う。

 

「終わりだ!!長門和也ッ!!貴様はここで死ねッ!!」

 

「ガッ……ッ!!」

 

フィー……ネッ!!

 

自分の命の危機に瀕しながらもフィーネだけは助けたい。ただひたすらにその想いで占められた業火は、この窮地を脱する奇跡を呼び起こす。

 

 

[召喚能力の限定解除]

・『戦闘中』における武器兵器の召喚が可能になりました。

 

 

能力に掛けられていた制限の一部が、カズヤの想いに反応し解除された。

 

ッ!!

 

薄れ行く意識の中、反撃のチャンスが訪れた事を悟ったカズヤは咄嗟に思念で召喚能力を行使。

 

そして、酸欠により抵抗する力が無くなりぐったりと地面の上に投げ出されていた自分の右手の中に扱い慣れた存在――M1911コルト・ガバメントのずっしりと重く頼もしい実体があるのを知覚した瞬間、勘だけを頼りに無我夢中で引き金を引いていた。

 

「――えっ?」

 

「モン……タナ?」

 

パンッと1発の乾いた銃声が辺りに響き渡った直後、時が凍り付いたのではないかと錯覚するような間を経て、仮面の男とその部下であるモンタナの驚きに満ちた声が漏れる。

 

「隊……長……」

 

じわりじわりと自分の胸に広がる血染みを呆然と眺めていたモンタナは仮面の男に縋るような視線を向けた後、口から大量の血を吐き出し、ゆっくりと膝を折り地面に崩れ落ちる。

 

カズヤが放った弾丸――それは仮面の男ではなくフィーネに止めを刺そうとしていたモンタナの背中に命中。

 

モンタナが着こんでいたライトアーマーを軽々と貫通し、肉を引き裂き背骨を掠めながら心臓を穿っていた。

 

「モンタナァアアアアッ!!」

 

先程まで全身に漲らせていた憎悪と殺意を霧散させたばかりか、あれほどまでに執着していたカズヤの事すら忘れてしまったように、仮面の男は一目散にモンタナの元へと駆け寄る。

 

仮面の下に隠された素顔に深い後悔の色を滲ませながら。

 

「ゲホッゲホッ!!死ぬかと思った……」

 

フィーネの危機を救い、また結果的に仮面の男から逃れる事に成功したカズヤは涙目で深い深呼吸を繰り返しながら、モンタナを抱き上げ必死に声を掛ける仮面の男の姿を複雑な眼差しで眺めていた。

 

「隊…長?何故……早く…あ…の男を……隊長の…悲願を……」

 

「喋るな!!今治す!!」

 

モンタナの穴の開いた胸に手を翳し、何かをしている仮面の男を警戒しつつもカズヤはフィーネとアニエスの元に駆け寄る。

 

「フィーネ、大丈夫か?」

 

「え、えぇ。貴方が前線に出る前に召喚しておいてくれたこれのお陰で命拾いしたわ」

 

フィーネはそう言って着ていた上着を捲り上げる。

 

すると役目を全うし無惨に切り裂かれたケブラー繊維製の防弾・防刃チョッキと薄く斬られただけに留まるフィーネの柔肌がカズヤの視界に映り込んだ。

 

「これが無かったら死んでいたわね」

 

「はぁー……もう、あんな真似はしないでくれよ?」

 

仮面の男の動向に気を配りながら、安堵のため息を漏らしたカズヤはフィーネの傷を完全治癒能力で治しつつ、懇願するように言った。

 

「さぁ、どうかしら?あの時は咄嗟に動いてしまったから。また同じ様な事があれば動いてしまうかもしれないわ」

 

「勘弁してくれ」

 

まるで誰かさんのようにね。と続いたフィーネの言葉にカズヤはたじたじになるのであった。

 

「……仕切り直しか」

 

「いや、お前らの敗けだ」

 

この仮面野郎も治癒系の能力を持っているのか。

 

それも俺の完全治癒能力に近い能力を……。

 

心臓付近を弾丸が穿ったはずなのに、ピンピンしてるぞあのダークエルフ。

 

フィーネの傷を治し、頭部から血を流して倒れていたアニエスの回復も終えたカズヤは再び仮面の男と対峙していた。

 

だが、互いを取り巻く状況は先程までと大きく異なっていた。

 

「報告します!!死者負傷者多数!!部隊壊滅!!隊長、ご命令を!!」

 

「ご主人様!!ご無事でしたか!!」

 

集団戦の勝敗を決した双方の部下達が、それぞれの主の元に集結していた。

 

また、カズヤの側には部下だけでなくアマゾネスはもちろん、ルージュを筆頭にこの戦いの雌雄を決する重要な役割を果たした妖精達が戦列に加わっていた。

 

「どうやら……そのようだな」

 

メイド衆や武装メイドの練度にアマゾネスの物量、そしてルージュ達だけが、妖精だけが扱える精霊魔法という強力な力に叩きのめされ敗残兵の様相を晒す部下達の姿を一瞥した仮面の男はあっさりと素直に負けを認めた。

 

「やけに素直だな?」

 

「この状況で起死回生の機会を伺う気は無い。それに貴様を殺す機会はまだあるからな」

 

どうにも、こいつの執念は厄介そうだな。

 

というか、ここまで恨まれるとは……一体俺はこいつに何をしたんだか。

 

苦し紛れとも取れる仮面の男の言葉だったが、妙に自信に満ちた物言いにカズヤは警戒を更に強める。

 

「次は確実に殺してやる」

 

しかし、カズヤの警戒をよそに仮面の男は懐から取り出した札のようなモノを破ると白い光に包まれ部下達と共に一瞬でカズヤ達の前から姿を消したのだった。

 

 

 

「お嬢さんの呪いが解けた?」

「はい。戦いの後、部屋に様子を見に行ったら何故か元気になっていたのです……」

 

仮面の男とその配下である帝国軍部隊が撤退した後、負傷者の手当てや死者の弔い瓦礫の撤去などの事後処理を手伝っていたカズヤはスチルを伴いやって来たルージュの言葉に首を傾げた。

 

「……一度、お嬢さんにお会いさせて頂いても?」

 

「えぇ、構いません。どうぞ、こちらに」

 

困惑しつつも娘の容態が良くなった事に喜びを隠しきれていないルージュに対し、ルクスとの面会を申し込んだカズヤは護衛として側を離れようとしないレイナとライナを連れたまま2人の後に続いた。

 

「ルクス、入りますよ?……あら?居ない?」

 

「……姫様?姫様!?どこにいらっしゃるのですか!!」

 

目的の部屋の中に先に入ったルージュとスチルは、当のルクスの姿が見えない事に慌て始める。

 

「窓が……」

 

ここから出たのか?

 

2人に続いて部屋に入ったカズヤは、これ見よがしに開け放たれた窓からルクスがどこかへ行ったのでは無いかと勘ぐり窓の外を覗き込んだ。

 

「――何これ何これ何これッ!!」

 

「うぉ!?」

 

「「ご主人様!?」」

 

瞬間、窓の外から飛び込んで来た小さい影の突撃を受け、カズヤは部屋の床に押し倒された。

 

「何これ!!初めて見る物ばっかり!!ねぇねぇ、これって何?何に使うの?」

 

「イテテ……何が起きた?」

 

「ルクス!!そのお方から離れなさい!!」

 

「っ!!は〜い……」

 

突然の出来事に目を回すカズヤの体に馬乗りになって装備品を興味津々で弄り回していたルクスは、ルージュの一喝にビクッと身を竦ませると、渋々といった感じにカズヤの上から身を引いた。

 

「もう元気一杯のようですね」

 

「も、申し訳ありません……」

 

ルクスに怒りが籠ったガンを飛ばすレイナとライナの手を借りて立ち上がったカズヤはルージュの謝罪に苦笑で返したのだった。

 

「カズヤ?ちょっと聞きたい事が――」

 

「全く!!貴女という子は!!」

 

「ごべんなざいぃいい〜〜」

 

「……これは……どういう状況なの?カズヤ」

 

「いや、それがな……」

 

ふらりとやって来たフィーネの問い掛けに対し、カズヤはどこかバツが悪そうに頭を掻きながら言葉を濁した後、ポツリポツリと事の次第を語り出す。

 

「あのお姫様が結界の抜け道を作っていた?」

 

カズヤの口から語られた話を聞き終えたフィーネは呆れ果てた表情を浮かべた。

 

「あぁ、敵が引いた途端に呪いが解けたらしいから、これは何か関係があるんじゃないかと思ってカマを掛けてみたら……」

 

「外の世界を見るためにお姫様が結界の綻びに穴を開けて、時折外に出ていたのね。それで今回の件はお姫様が作った結界の抜け道を利用されたというわけ」

 

「ま、そういう事。しかも、仮面の男に以前会っていたらしい。それで、これが――この水晶が呪いの正体。持ち主に病に似た症状を患わせるけど、それは一時的なモノで、こうやって割れてしまうと効力が失われるそうだ」

 

「じゃあ、お姫様に掛けられていた呪いは……」

 

「仮面の男が仕組んだ事だったみたいだな。俺を殺すために」

 

カズヤとフィーネは、ルージュの説教を受けて大泣きしているルクスの姿をチラリと見てから、深いため息を吐いたのだった。

 

「この度は我が娘の行いのせいでで多大なるご迷惑をお掛けし、誠に申し訳ありません。ナガト様や身重のフィーネ様にまで戦って頂き――」

 

「「え?」」

 

ルクスへの説教を途中で切り上げたルージュが深々と頭を下げ謝罪している最中に発した言葉に、カズヤとフィーネは思わず声を漏らした。

 

「身重?私が?」

 

「えぇ。あら……気が付いていらっしゃらなかったのですか?」

 

「それは……本当の事ですよね?」

 

皆が驚きに包まれる中、フィーネだけが鬼気迫る顔でルージュに問い掛ける。

 

「はい、本当です。貴女の体には魔力の反応が2つありますから。貴女とお子様の物が。今はまだ微弱過ぎて分からないかも知れませんが、もう少ししたら貴女も感じ取る事が出来ると思います」

 

フィーネの確認の言葉にルージュは優しく微笑みながら頷いた。

 

「……カズヤ」

 

「あぁ、良かったな。フィーネ」

 

「カズヤッ!!」

 

感極まったように抱き付いてきたフィーネの頭を撫でつつ、カズヤはルージュから送られる祝福の眼差しに苦笑で返すのであった。

 

 

 

 

「またか」

 

「……カズヤ、どうするの?これ以上ここに滞在していたら街で待機している千代田はもちろん、本土にいる千歳やカレンまで殴り込んで来るわよ?」

 

妖精の里を訪れてから既に1週間もの時間が経過し、ルクスの治療を行うという当初の目的もなし崩し的に果たしたというのに、何故かカズヤ達はまだ妖精の里に滞在していた。

 

「だよなぁ……どうするか……」

 

その理由、それはカズヤの帰りを阻むアマゾネス達にあった。

 

「族長様!!その格好は何なのですか!!まさか、またここを出ていこう等というのですか!?」

 

「我々を見捨てるおつもりか!?」

 

帰り支度を整え後はアマゾネスの村を通過するだけだというのに、5度目になるアマゾネス達の妨害を前にカズヤは深いため息を吐き出した。

 

「だから、俺は族長なんかじゃ……」

 

「我らを従え、あの戦(いくさ)を戦い抜いた貴方様が族長でなければ誰が族長だというのですか!!」

 

「そうです!!」

 

厄介な事になったなぁ……。

 

緊急事態に対処するためだったとは言え、アマゾネス達を強引に従え戦った事が今になってカズヤの首を絞めていた。

 

「アレキサンドラが居るじゃないか」

 

「あの者はあろうことか戦場(いくさば)で臆した臆病者です!!あのような者が族長などと!!」

 

「……ねぇ、カズヤ。これはもうあの条件を飲むしかないんじゃないの?」

 

どこまでも平行線を辿る話し合いに加えて、徐々にヒートアップしていくアマゾネス達の姿を眺めていたフィーネがカズヤに小さく耳打ちをした。

 

「出ていくなら供を連れていけというあれか?」

 

「えぇ、そうよ」

 

「あのなぁ……フィーネは妊娠の事が分かったからいいだろうけど。ここでアマゾネスを連れ帰ってみろ、俺はカレンに何をされるか……」

 

「……そ、そう言えばそうだったわね。すっかり忘れていたわ」

 

そもそも今回の一件が、母と妹に先を行かれ落ち込んでいたフィーネを元気付けるものであり、また修羅と化したカレンからカズヤが距離を置くために認可された特別な事案であった事を忘れていたフィーネはカズヤの言葉に視線を逸らす。

 

「他人事だと思って。それに供を連れていけば、族長という立場を認めた事にもなる」

 

「……でも、そうなると他に手段が無いわよ?どうするつもり?」

 

「だよなぁ。はぁ……しょうがない覚悟を決めるか」

 

「ま、結局……そうなるわよね。で、誰を連れていくの?」

 

「アイツでいいだろ」

 

出来うるならば取りたくなかった手段に頼るしか無くなったカズヤは、意を決する

 

「アレキサンドラァアアッ!!」

 

「――は、はいぃいい!!」

 

カズヤがアニエスの背中に乗りながら叫ぶと、慌てふためいた様子でアレキサンドラが姿を現す。

 

こちらの顔色を伺うように卑屈な笑みを浮かべたアレキサンドラは、初めて会った時に上から目線で喧嘩を吹っ掛けて来た人物と同じ人物だとは到底思えなかった。

 

「わ、私に何かご用でしょうか?」

 

「俺の供として付いてきてもらう」

 

「え?」

 

豪華な衣服も威厳に満ちた態度も消え失せ、権力を失った者の末路という言葉がピッタリなアレキサンドラを強引にアニエスの背に乗せたカズヤは行く手を遮るアマゾネス達に声を掛ける。

 

「お前達もこれで文句は無いだろう?」

 

「アレキサンドラを供に?そんな者よりも、もっと良い供が居ます!!シュシュリ等は如何でしょう?戦闘能力についてはお墨付きです。必ずや族長様のお役に立つかと」

 

「あんな裸族を連れていけるか!!」

 

「でしたらシューリなどは――」

 

「いらん。全隊、前へ!!これより帰投する!!」

 

「「「「了解」」」」

 

アマゾネス達との会話を強引に打ち切ったカズヤはフィーネや護衛達、そして余分なオマケを引き連れようやく帰路についたのだった。


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