ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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つい先刻まで繰り広げられていた日常は悪意と暴力によって破壊されて見る影も無く、銃声と悲鳴が響き銃弾や矢が飛び交う戦場と化したアマゾネスの村では混沌とした状況の中で戦いが行われていた。

 

「こんなの……こんなの私が知っている戦いじゃないッ!!」

 

アマゾネスの村に突如として現れた帝国軍。

 

その帝国軍が持ち込んだ大砲の砲撃によって半ばからへし折られ地面に横たわる巨木の影で、幽霊に怯える幼子のようにガタガタと震えながら両手で頭を抱え込み癇癪を起こしたように喚くアレキサンドラ。

 

そんな情けない姿からはアマゾネスの族長としての矜持や誇りが、まるで感じ取る事が出来なかった。

 

「族長様!!ご指示を!!」

 

「我々はどうすればよろしいのですか!?」

 

「このままでは包囲されてしまいます!!」

 

「あんな武器知らないッ!!連射が出来る鉄砲なんて知らないッ!!」

 

時折矢で応戦しつつも指示を乞う配下の声にすら反応せず、アレキサンドラは恐慌状態のままブツブツと独り言を喚き続ける。

 

そんなアレキサンドラも敵が来襲した直後には配下を素早く纏めて戦う準備を整え、不埒な帝国軍を叩きのめしてやる。と息巻いていたのだが。

 

いざ、戦闘が開始され配下と共に突撃を敢行した際に帝国軍兵士達が装備していた連発可能な高火力のM1873ウィンチェスターライフルや台車に乗せられた人力式ガトリング砲で一方的にバタバタと配下のアマゾネスを薙ぎ倒された事が彼女の戦意を砕き、また撤退しようとした時に至近距離で炸裂した砲撃の凄まじさによって冷静さが完全に消し飛ばされていた。

 

そうして種族の絶対的な指揮官を欠いたアマゾネス達は浮き足立ち後退を重ねていたのだが、カズヤが派遣したレイナとライナの二個小隊の参戦によって、辛うじて防衛ラインの構築に成功し戦線を維持していた。

 

「――しっかりしなさい!!貴女が指揮官でしょう!!」

 

役に立たないアレキサンドラを叱責しつつ、レイナはACOG(高度戦闘光学照準器)とグリップポッドを装備したM27 IAR歩兵用自動小銃の空マガジンを交換する。

 

「チィ!!何故、帝国軍に妖魔や獣人で編成された部隊があるのですっ!?しかも、あんな近代化された武器を持って!!」

 

「分かりません!!奴ら奴隷なのではありませんか――……って、隷属の首輪も着けていないです!!」

 

「全くもって厄介な!!」

 

攻め寄せて来る帝国軍部隊の兵士が、帝国で弾圧の対象になっている妖魔や獣人で編成されている事に加えて帝国の技術力では未だに製造出来ないレベルの銃火器を装備している事実に悪態を吐きつつ、隣にいる吸血鬼――武装メイドのアレグラと言葉を交わしながらレイナは100発の5.56x45mm NATO弾が収められたベータCマグ――ドラムマガジンをM27 IARに装填し発砲を再開する。

 

レイナが使うM27 IARは分隊の誰もが使える“小銃型”支援火器として開発された銃でアサルトライフル、分隊支援火器、マークスマン・ライフルのいずれにも分類が可能な特殊な存在である。

 

また、分隊支援火器と言われて想像しやすいM249軽機関銃(ミニミ軽機関銃)とは違いM27 IARはベルトリンクシステムの給弾方式を取っていないため、装弾数が少なく連続した制圧射撃には向かないが、銃身を肉厚の重銃身(ヘビーバレル)にしている事で射撃精度に重きを置いた制圧射撃を可能としている。

 

「ライナ!!そっちの状況は!?」

 

300メートル程前方の障害物の影にチラチラと見え隠れする敵兵にフルオートで5.56x45mm NATO弾を浴びせ、目標の頭をぶち抜いた事を確認したレイナは射撃を中断し、休むことなく飛んでくる敵弾に眉をひそめながら妹のライナに連絡を取る。

 

『姉様、もうダメです!!右翼左翼共に戦線を維持出来ません!!脳筋のアマゾネス共はまるで使えませんし、武装メイドから負傷者が多数出ています!!』

 

「何とかもたせなさい!!こちらを押し返したら何人か送り――」

 

急造の防衛ラインの中央を守るレイナの隊に比べて、隊を半分に別け両翼に展開しているライナの部隊が窮地に陥りつつある状況を打破しようと、レイナが指示を出している時だった。

 

ターンとやけに乾いた銃声が響いたかと思うと、レイナの横で射撃を行っていた武装メイドのアレグラがブシュー!!と首から霧状の血を吹き出しながら地面に崩れ落ちた。

 

「スナイパーッ!!全員、頭を下げなさい!!エミリア、プリマ!!煙幕を!!」

 

「「了解!!」」

 

咄嗟に指示を飛ばして敵の狙撃を妨害しつつ、首から血を流すアレグラに取り付いたレイナはすぐさま止血を試みる。

 

しかし、傷口から流れ出る血液の量は変動せず、アレグラのメイド服を流れ出た血が赤く染め上げていく。

 

止血の効果が見られないのはアレグラが受けた敵弾が首の動脈を撃ち抜き切断していたためであった。

 

つまり、即死を辛うじて免れた瀕死状態であり現場での応急処置のレベルでは彼女の命を救う事が出来ない事を意味していた。

 

「ゴプッ…ぅ…ぁ……レ、レイナ……様」

 

「黙っていなさい、アレグラ!!衛生兵!!衛生兵ッ!!早くこっちへ!!」

 

「今行きます!!負傷箇所は……!?」

 

そのためレイナの声で駆け付けた衛生兵はアレグラの容態を一瞥すると一瞬たじろぎ、それからレイナにだけ分かるよう首を横に振り、申し訳程度の治癒魔法と応急処置をアレグラに施していた。

 

「わ、わた、私は……ゲホッ!!……ハァ、ハァ……しぬ……死ぬのですか?」

 

ドパドパと急激に血を流した事で発生した体温の低下で体を震わせつつ、口から夥しい量の血を吐くアレグラは自身の死期を悟ったのか、レイナの手を必死で握りながら問いを投げ掛ける。

 

「……」

 

「ハァ、ハァ、そう…ですか……ゲホッ、私は……私は、か、閣下のお役に……ッ、立て、立てた、ゴフッ、のでしょう……か?」

 

レイナの無言の返答を受け取ったアレグラは、己が迎える死という現実に恐怖するよりも自身の働きがカズヤのためになったか否かを心配していた。

 

「えぇ、だから……だから安心して逝きなさい――ッ!!」

 

部下の死を看取っている最中、突如として吹き荒れた強風に思わず背後を振り返ったレイナは己の失策を悟った。

 

風の魔法……魔力の温存を図るために魔法で防壁を作らず煙幕に頼ったのは失敗でしたか。

 

そして、敵が行使した風の魔法によりM18発煙手榴弾で張った煙幕が消え去った事で自分の姿が高台に陣取る敵の狙撃手から丸見えになり、照準を定められている事を視認したレイナは覚悟を決めていた。

 

1、2、3、4。狙撃手は4人ですか。

 

しかし、4人全員が私を狙っているとは……流石に避けきる事は出来ませんね。

 

申し訳ありません、ご主人様。

 

貴方様のご命令に従う事が出来そうにありません。

 

狙撃手達が構えている銃がマズルフラッシュを瞬かせ銃弾を撃ち出した瞬間、レイナは諦めと共に目を閉じていた。

 

「……?ッ!?」

 

目を閉じてから5秒。

 

とっくの昔に着弾して自分の体を引き裂いているはずの銃弾が、いくら待っても来ない事に疑問を抱いたレイナは恐る恐る目を開く。

 

そして、ここに居るはずのない人物を、居てはいけない男の姿を目の当たりにして思わず叫んだ。

 

「ご主人様ッ!?何故ここに!!」

 

「部下だけを戦場に送るわけにはいかないだろ?」

 

膝を付きながら瀕死のアレグラに右手を翳して完全治癒能力で命を救い、左手の義手を敵に向かって突き出し発動させた重力魔法でレイナを撃ち抜かんとしていた銃弾を全て叩き落としたカズヤはそう言ってニヤリと笑った。

 

「ご主人……様?」

 

「お前はゆっくり寝てろ。衛生兵、こいつを頼んだ」

 

「りょ、了解!!」

 

死の縁からカズヤに引き戻されたアレグラは上半身を起こすと、どこか夢心地でカズヤの顔を見詰めていた。

 

そんなアレグラの面倒を衛生兵に任せたカズヤは、自身目掛けてひっきりなしに飛んで来る銃弾を重力魔法で悉く地面に落としながら立ち上がる。

 

「さて、レイナ。敵の規模と今の状況は?」

 

「……敵部隊の規模は一個中隊。奴隷では無い妖魔や獣人で編成されています」

 

「それはまた厄介だな」

 

「戦況についてはライナの分隊が両翼に散って敵の浸透を辛うじて食い止めています。戦線を押し返そうとしていた我々は敵本隊の攻勢と狙撃手による狙撃で身動きを封じられていました。狙撃手の位置は前方の高台に2人、1時と11時方向の木の上に1人ずつ。それとアマゾネスの戦士達がバラバラに散って戦っています」

 

「よし、高台の狙撃手は迫撃砲とM203グレネードランチャーで潰す。木の上にいる狙撃手はルミナス。お前に頼んだ」

 

『了解』

 

ジト目のレイナから報告を受けたカズヤは素知らぬ顔で後方に残してきたルミナスに無線で指示を送ると、次に増援として連れてきたエルやウィルヘルムに指示を下す。

 

「エルとウィルヘルムは部隊を率いて両翼に展開。ライナの部隊と合流後、遭遇する敵を全て殲滅し戦線を押し上げろ」

 

「「了解!!」」

 

「レイナ、お前は隊と共に俺に付いてこい。敵に肉薄して白兵戦でケリを付ける。それと、そこのアマゾネス達も付いてこい。お前達も白兵戦なら役に立てるだろ」

 

命令通りにエルとウィルヘルムが隊を率いて散っていくのを見送ったカズヤは敵との決着を早期につけようと白兵戦での決着を目論み、また数的不利を補うためアマゾネス達に自らの指揮下に入るよう告げた。

「ふざけるな!!誰が男になんぞ従うか!!」

 

「族長様、今のうちに態勢を立て直しましょう!!そして、もう一度突撃を!!」

 

しかし、女尊男卑の思想に染まるアマゾネス達が男の身であるカズヤの言葉に素直に従う訳が無く。

 

彼女達は放心状態で空中を見つめるアレキサンドラを強引に立たせながら、勝機の無い無謀な突撃を再び敢行しようとしていた。

 

「――黙れッ!!」

 

アマゾネスの反応を見てから大きく息を吸い込み、珍しく怒号を上げたカズヤは、今まで敵の銃弾を防ぐために使用していた重力魔法をアマゾネス達にも浴びせる。

 

「「「「ガッ!?」」」」

 

手加減が加えられているとはいえ、いきなりの襲い掛かってきた重力魔法にアマゾネス達は皆なすすべなく膝を折り無様にも地面へ頭を擦り付ける事になった。

 

「貴様らの事情や思想など、この状況で慮る余裕は無い!!ここで俺に潰されるか、俺の指示に従いアマゾネスの戦士として戦うか選べ!!」

 

つい先ほど自身の大事な部下の1人が死にかけていただけあって、カズヤは強引な手段を取ることについて躊躇は無かった。

 

「貴様なんぞに……ッ!!ぐぅ……」

 

「3つ数えるうちに決めろ。3、2――」

 

不様な姿で地面に伏せるアマゾネス達の反抗的な視線に対しカズヤは更に重圧を掛けつつ、決断を迫らせるカウントダウンを開始する。

 

「グッ……ぅ……分かった!!貴様に従う!!」

 

「他の者は!?」

 

「……従う」

 

「貴様の好きにしろ」

 

潰すというブラフがあったとは言え、カズヤが迫った選択にアマゾネスの1人が屈すると、他のアマゾネス達も続けざまにカズヤに従う事を受け入れた。

 

「ならいい。レイナ、準備は?」

 

「いつでもいけます」

 

カズヤがアマゾネスとの問答を行っていた間に、エルやウィルヘルムの部隊が残していったM224 60mm迫撃砲の砲撃準備やM203グレネードランチャーを装備する武装メイドに攻撃準備をさせていたレイナはカズヤの問いに素早く答えるとコクリと頷く。

 

「よし、殺れ」

 

カズヤの指示の直後、個人携行モードのM224 60mm迫撃砲から砲弾が放たれ、また同時にM203の40x46mmグレネード弾が敵の狙撃手を爆殺するべく発射された。

 

「お、ピンポイントで命中したぞ」

 

弧を描いて空を飛翔した砲弾とグレネード弾が狙い通りに着弾し、目標となった狙撃手達の体を爆風で引き裂き、クルクルと空中に舞い上げる様子をハッキリと確認したカズヤはニンマリと頬を歪めた。

 

「レイナ、右手前10メートルに続けて3発」

 

「了解!!」

 

その後も、カズヤの着弾修正の指示を受けて照準を少しずつ微調整しながら続けざまに放たれる迫撃砲弾が敵の頭上に降り注ぎ死者と負傷者を量産する。

 

迫撃砲の攻撃を免れようと右往左往し始めた敵の様子を目の当たりにしつつ、カズヤは残りの狙撃手2人がルミナスの手によって始末されるのを待っていた。

 

 

 

「全く……いくら諌めようとも我が身の危険を顧みず、我々のような下々の者を助けに行ってしまうのですから。ご主人様には困ったものです」

 

巨木の太い枝の上で伏射の体勢を取り、20mmという大口径の弾丸を使用するボルトアクション式アンチマテリアルライフルのダネルNTW-20を構え、取り付けられている10×42高倍率スコープを覗き込むルミナスはスポッターを務める部下にぼやいた。

 

「ルミナス様、そうぼやいているわりには口元が嬉しそうに弛んでいますよ?――ターゲット確認。1時方向、木の枝の上。距離950」

 

「マズルカ。無粋な事を言わないで。――こちらも確認した」

 

ルミナスは部下の言葉に憮然とした表情を浮かべつつ、スコープのレティクルに写り込んだ敵の狙撃手に照準を合わせ定めると、その瞬間だけ息を止めダネルNTW-20の引き金を引いた。

 

直後、大口径の弾丸を発射した代償である強烈なリコイルが発生したが、ストックの内部に備えられたスプリングと2つの大型油圧式サスペンションからなるショック・アブソーバーがルミナスの体に与える衝撃を軽減する。

 

「ターゲット、ロスト。文字通り消し飛びました」

 

大砲のような銃声を響かせ、山なりに飛んでいった20mmx82炸裂弾が目標の体をズタズタに引き裂きミンチにした。

 

「次」

 

自身も確認し、またスポッターの口からも伝えられた事実に何の感慨も見せず淡々と応じながら、ルミナスはガシャンとダネルNTW-20のボルトを引いて次弾を装填する。

 

「了解……ターゲット確認。11時方向、木の枝の上。距離1300……ターゲットがカウンタースナイプに気が付いたようです。木の後ろに隠れてしまいました」

 

「ならば使用弾薬を20mmから14.5mmに変更します。貴女は敵の監視を続行なさい」

 

「了解」

 

敵の狙撃手がカウンタースナイプに気が付き姿を隠してしまったため、ルミナスは障害物ごと敵の狙撃手を始末しようと、ダネルNTW-20のコンバージョンキットを使って使用弾薬をより貫通力のある14.5mmx114へ変更するため射撃体勢を解いた。

 

弾丸を工具として使用することで専用工具無しで交換作業が可能なダネルNTW-20のバレルとボルトをあらかじめ準備してあった14.5mm用の物に交換しスコープも同じく交換。

 

そして、最後に3発の弾丸を装填出来る箱型弾倉を機関部の左側面に水平に装着すると、ルミナスは再び伏射の体勢に戻った。

 

「ターゲットは?」

 

「依然そのまま。我々の位置を探ろうと時折頭を出してはいますが、それも一瞬だけです」

 

「構いません。このまま始末します」

 

自身の手で弾倉から薬室に装填した14.5mmx114半徹甲弾を敵に叩き込むべく、ルミナスは姿の見えない狙撃手に対し慎重に照準を定める。

 

そして、敵がいるであろう場所目掛けて貫通力と射程距離に秀でた14.5mmx114半徹甲弾を叩き込んだ。

 

「――ターゲット、クリア!!敵は腹部に大穴を空けて木から落ちていきました」

 

14.5mmx114半徹甲弾が巨木を貫通し狙撃手の体をぶち抜いた事を確認したスポッターが興奮気味に声を上げる。

 

「ふぅ。これでご主人様の障害が1つ減りましたね。しかし、このまま支援を続けますよ」

 

「分かりました」

 

カウンタースナイプの任務を遂行したルミナスは安堵の息を吐いた後、突撃を開始したカズヤ達を援護するべく再びスコープを覗き込んだ。

 

そうして、先陣を切って突撃を敢行したカズヤの働きや武装メイド達の奮戦、更には妙に素直にカズヤの指示を聞くようになったアマゾネス達の協力もあり、戦況がかなり有利な状態になった時だった。

 

「ッ、ルミナス様!!敵の増援です!!およそ二個中隊規模!!」

 

「チッ、まだそんなにも予備兵力を温存していたなんて!!指揮官を潰します。指示を!!」

 

「は、はい!!」

 

劣勢だった戦いに勝機を見出だし勢いに乗ろうとしていたカズヤ達にとっては最悪のタイミングで敵の増援が現れ、戦況が再びひっくり返ったのであった。


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