ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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一触即発の空気から一転。

 

カズヤ達は何とも言えない空気に包まれていた。

 

何故なら、先程まで威勢よくカズヤにケンカを吹っ掛けていたアマゾネスが空中に浮かんでいる女の子、それも背中から半透明の翅を4枚生やした小学生ぐらいの少女に一方的な説教を受けているからであった。

 

「何をやっているんですか!!アレキサンドラ!!あの方々は床に伏せている姫様を救って頂くために招いた大事な客人なのですよ!?その方達に無礼を働いたばかりか、危害を加えようとするなんて!!それに、あちらの男性はあの帝国を攻め滅ぼそうとしているパラベラムの王!!ナガトカズヤ様なのですよ!?そんなお方にケンカを売ったら私達なんか、一瞬で攻め滅ぼされてしまいます!!あと、あちらの女性は暴虐の魔王として名を馳せたアミラ・ローザングル様のご令嬢であるフィーネ・ローザングル様なんです!!そんなお方達にケンカを売るなんて……貴女は私達を地獄に連れていくつもりなんですか!?」

 

「〜〜ッ……わ、悪かったよ……私が悪かったって……」

 

幼げな少女に説教を受け、たじたじになり首を竦めるアマゾネス。

 

2人の力関係がハッキリと垣間見える光景であった。

 

「……」

 

「あっ!?申し訳ありません。名乗るのが遅れましたが私は妖精王ルージュ様にお仕えさせて頂いている妖精のスチルと申します。どうぞ、気軽にスチルとお呼び下さいませ。また先程はこのアマゾネスの族長アレキサンドラが大変失礼を致しまして誠に申し訳ありませんでした。妖精族及びアマゾネスを代表してお詫び申し上げます」

 

無言のまま成り行きを見守っているカズヤの視線に気が付いたのか、妖精のスチルが慌てて腰を折り謝罪の言葉を口にする。

 

「おい、スチル。あんたが何でアマゾネスを代表して――」

 

「礼儀を弁える事が出来ない脳筋は黙っていて下さい」

 

「うっ……わ、分かったよ」

 

スチルの言葉に突っ込みを入れようとしたアマゾネスの族長――アレキサンドラだったが、笑顔に青筋を浮かべたスチルの一睨みでおずおずと引き下がり黙り込む。

 

何とも締まらない光景であった。

 

「ここからは私がご案内させて頂きます。ささっ、こちらへどうぞ」

 

「あぁ、分かった」

 

図らずも毒気を抜かれてしまったカズヤはスチルの言葉に従い、親の仇を睨むようにガンを飛ばしてくるアレキサンドラの眼前を通り歩を進める。

 

そうして、スチルが居るために悔しそうに歯を噛み締めるだけで何も言ってこないアレキサンドラや取り巻きをその場に残しカズヤ達はアマゾネスの村を通過した。

 

「……先程は本当に申し訳ありませんでした。なにぶん彼女達は男の方を目の敵にする性分がありまして……こちらからお願いして来て頂いたにも関わらず、あんなご無礼を」

 

アマゾネスの村を後にしてから少しして。

 

翅を羽ばたかせ空中を漂うように移動し道先案内を務めるスチルがくるりと振り返り、改めてカズヤ達に頭を下げる。

 

「いや、そちらの事情も把握しているし。何よりもう過ぎた事だ。気にしてもらわなくていい」

 

「本当に申し訳ありませんでした。そう言って頂けると助かります」

 

スチルの容姿が子供にしか見ないために、恐縮して謝られるといたいけな子供に謝罪を強要しているようで落ち着かなかったカズヤは軽く首を振って、先ほどの問題を不問にした。

 

しかし、その一方でメイド衆や武装メイド達は未だにアレキサンドラ以下のアマゾネス達の無礼を腹に据えかねているのか、怒りムードをそれとなく漂わせていた。

 

そして、シュシュリという名の全裸のアマゾネスから身を守ってもらったフィーネは、その時のシチュエーションやカズヤのセリフがツボに入ったのか未だ夢心地でポーッと空を見詰めていた。

 

「あ、世界樹が見えてまいりました」

 

「……おぉ、これは凄いな」

 

空中で停止したスチルの声に釣られて視線を前に向けたカズヤは感嘆の声を漏らす。

 

巨木の森を抜けた先に広がる草原の中心には、どこまでも天高く聳える世界樹が鎮座していた。

 

草原の地面からは世界樹の巨大な根が時折飛び出してミミズのように曲がりくねりながら地面を好き放題に穿ち。

 

そんな根に支えられながら天へと伸びる世界樹の幹の太さは軽く見積もっても数百メートルはあり、下手をすればキロの単位に届くレベルであった。

 

また、そんな太い幹から別れ四方八方に伸びた枝々は、まるでキノコの傘のように広がり地面に濃い影を落としていた。

 

「あれが我々妖精族の家であり故郷でもある世界樹。……そして、この世界で唯一無二となってしまった世界樹です」

 

大自然が育んだ驚異的な存在にカズヤ達が圧倒され声を失っていると、どこか悲しげな声色でスチルが言葉を紡いだ。

 

「――さて。ではそろそろ参りましょうか。ルージュ様がお待ちしているでしょうし」

 

暫しの間、荘厳な世界樹に視線を奪われていたカズヤ達の意識を現実へ呼び戻すように声を上げたスチルは、時折寄ってくる妖精達を追い散らしながら前へと進んで行く。

 

「あ、スチルだー」

 

「なんか、変なの連れてるー」

 

「ねぇねぇ、スチルーあれが人間?」

 

「おっきいねー」

 

「あっちへ行っていなさい!!貴女達!!あのお方はルージュ様の大事なお客様なんです!!」

 

「あ、人間が笑ったー」

 

「男も笑うんだー」

 

「コラー!!失礼ですよ!!貴女達!!」

 

スチルが小さい体を精一杯広げて野次馬の妖精を追い払うが、閉ざされた世界で暮らしていると言っても過言では無い妖精達は外界やって来たカズヤ達に興味を抱いて次々と飛来する。

 

そして、そうこうしている内に妖精の数は増し、遂にはスチルの防空能力(対応能力)を越えてしまった。

 

その結果、どうなるかというと。

 

「目が黒いー」

 

「髪も黒いー」

 

「でも肌は黒くないー」

 

「「「何でー?」」」

 

「ハハハハッ」

 

「すみません、すみません、すみません!!」

 

純真無垢で精神年齢が幼い妖精達に集られ玩具のように好き勝手に弄ばれるカズヤは下手な抵抗が出来ずやけくそ気味に笑うしかなく、スチルはスチルでカズヤに謝り倒していたのであった。

 

 

 

「遠路遥々ようこそ世界樹へお越しいただきました。私が妖精王ルージュと申します。そして……我が子らとアマゾネスの者達が大変なご無礼を致しまして、申し訳ありません」

 

好奇心に駆られ興味津々で寄ってくる妖精達をかき分けながら、何とか世界樹へと辿り着いたカズヤは世界樹の内部にある妖精達の居住区へと案内され、そこでフィーネと共に妖精王と面会していた。

 

「いや、まぁ……ハハハッ」

 

大変は大変だったけど、こうも畏まられると文句が言えんな。

 

なんか苦労感が漂ってるし、この人。

 

スチルから事の次第を聞いたらしい妖精王に頭を下げられ、苦笑で返したカズヤは改めて妖精王に視線を注ぐ。

 

妖精王はスチルや他の妖精とは違って幼げな風貌では無く。

 

母性溢れる妙齢の女性といった言葉が似合う人物であった。

 

また、これまでカズヤが見た中ではほぼ全ての妖精の翅が2翅であり、スチルや一部の妖精が4翅であったのに対しルージュだけ6翅であった事も目を引いた。

 

ちなみに余談ではあるがアマゾネス同様、妖精族に男は居ない。

 

「長旅でお疲れでしょう。今日1日はごゆっくりして下さいませ。夜には歓迎の席を――」

 

「いえ、先にお嬢さんの病気を診ましょう。休むのはそれからで十分です」

 

母親として一刻も早く病床の娘を治してもらいたいであろうにも関わらず、王としての配慮を優先したルージュの言葉を遮り、カズヤは席を立つ。

 

「――……お気遣い、感謝致します。娘はこちらに」

カズヤの行動に深々と頭を下げたルージュは、やはり本音では少しでも早く苦しむ娘を助けて欲しかったのか、足早にカズヤを案内する。

 

「どうぞ。お入り下さい。娘のルクスはこの部屋に」

 

妖精達の居住区の最深部へと案内されたカズヤの前に現れたのは両開きの大きな扉であった。

 

そして、その大きな扉を開いた先。

 

広々とした部屋の中に置かれたベッドの上で妖精王ルージュの娘、ルクスが横になっていた。

 

 

何故か部屋中に飾られているガラクタに視線を奪われつつもカズヤがベッドに歩み寄ると、ベッドの上ではルージュと瓜二つのルクスが脂汗を流し苦悶の表情を浮かべていた。

 

「では、始めます」

 

「お願いします」

 

さてと、やりますか。

 

気合いを入れ右手をルクスに翳したカズヤはルージュとフィーネが見守る中、完全治癒能力を発動する。

 

そして能力が発動している左証でもある光がカズヤの右腕から発せられると、みるみるうちに苦しむルクスの表情が穏やかに――ならなかった。

 

「……」

 

……どういう事だ?

 

これまで幾多の者を癒した完全治癒能力の効力がまるで無い状況にカズヤは唖然とするしか無かった。

 

「ど、どうですか?娘は治ったのですか?」

 

「カズヤ?」

 

状況を聞いてくるルージュや異変を感じたフィーネの言葉を聞き流しながら、カズヤはもう1度完全治癒能力を発動するが、結果は同じであった。

 

どうなっている……完全治癒能力はどんな怪我や病気でも治せるはずだ。

 

何で、この子の病気に効果が――まさか……。

 

「……残念ですが、私の力でもお嬢さんの体を癒す事が出来ないようです」

 

「そ、そんな……!?」

 

最後の望みであったカズヤからお手上げだと言われ床に崩れ落ちるルージュ。

 

「しかし、1つだけ分かった事があります」

 

カズヤは崩れ落ちてしまったルージュの肩を支えながら、1つだけ得た成果がある事を報告する。

 

「それは……なんでしょうか?」

 

「恐らく、お嬢さんは病気ではありません。呪(まじな)いの類いで苦しんでいるものだと。私の能力で癒せるのは怪我と病気だけですから」

 

「そ、それでは娘は!?」

 

「えぇ、悪意を持った誰かに呪いをかけられ苦しんでいるものかと」

 

そうして、カズヤによってルクスが苦しむ理由が解き明かされた時だった。

 

カズヤ達にとっては聞き慣れ、ルージュ達にとっては聞き慣れない音が連続して遠くからこだましてきた。

 

「あの音は何です?」

 

「カズヤ……あの音って……」

 

「――銃声……だとッ!?」

 

「ル、ルージュ様ッ!!」

 

音の正体に気が付いたカズヤが驚愕の声を漏らすのと同時に、血相を変えたアマゾネスが現れる。

 

「大変です!!帝国が帝国軍が襲ってきました!!」

 

「なっ!?どうしてこの場所が!?それに結界はどうしたのです!?」

 

「分かりません!!ですが、帝国軍が攻めて来たのは事実です!!今は我々アマゾネスが食い止めていますが、押されています!!ですから、どうか今のうちにお逃げ下さい、ルージュ様!!」

 

「逃げる?どこへです?逃げる場所などもう我々にはありません。妖精は世界樹と一緒でないと生きていけないのですから」

 

諦めと悲壮感に満ちたルージュの言葉に伝令のアマゾネスが言葉を失い、何を思ったかカズヤに救いを求める視線を送る。

 

だが、アマゾネスの視線を受けるより前に敵襲の報を耳にした時点でカズヤは動いていた。

 

「ルミナス、千代田達と連絡は取れたか?」

 

『ダメです。応答なし。長距離無線も衛星電話も使えません。使えるのは部隊間を繋ぐ短波無線だけです』

 

予想はしていたが、やはりか。

 

無線のオープンチャンネルでルミナスとの通信を行い、ここへ来るまでの道中で街に残して来た千代田達との連絡が取れない事を確認したカズヤは僅かに眉をしかめる。

 

「チッ、なら今いる戦力で対処するしかないな。レイナとライナの隊は先行し、敵戦力の確認と敵の足止めを行いつつアマゾネスを援護してやれ。エルとウィルヘルムの隊は世界樹の防御及び非戦闘員の保護。ルミナスの隊は待機。あと準備が出来次第予備隊を率いて俺もすぐにレイナ達と――」

 

『ご主人様は絶対に前線へ出向かないよう、お願い致します』

 

「……了解した」

 

当然のように自らも前線へ赴こうとしていたカズヤはルミナスから釘を刺され、傷心気味に返事を返す。

 

「よし、状況開始。全員死ぬなよ」

 

『『『『『了解っ!!』』』』』

 

気を取り直してメイド衆への命令を出すカズヤ。

 

こうして、突如として現れた帝国軍との戦いが幕を開いた。


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