ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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登場人物の改訂に時間を取られたため、若干短めです(;´д`)


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来るべき最終決戦に備えエルザス魔法帝国の帝都フェニックスで着々と戦いの準備が進められている中、憎悪と殺意を胸に宿した男が動き出そうとしていた。

 

「――種が芽吹いた……頃合いか」

 

帝都の宮殿にある一室。

 

レンヤと利害関係の一致から共闘関係にある男は自身のために用意された豪華な部屋の中で重い腰を上げる。

 

特別に誂えられた左腕の義手を肩口に填め込み、魔力を通す事で実際の腕と大差の無くなったそれの動作を確認し、ドラゴンの固い表皮を重ね合わせて作られた特製のレザーアーマーを身に付け、フード付きの黒いマントを羽織り、そして自身の心に蓋をするかのように顔全体を覆う鋼鉄の黒い仮面を被る。

 

仮面に開けられた2つの穴からは男の昏い瞳が覗いていた。

 

「待っていろ、長門和也。貴様は俺が殺す」

 

準備を整えた男がドアに向かう途中、握り締められていた拳が不意に開かれる。

 

瞬きをするような僅かな間をおいて、男の手の内に武器が現れた。

 

それは西部開拓時代にガンマンやカウボーイ、アウトローがこぞって使用したレバーアクション式のM1873ウィンチェスターライフルであった。

 

彼の銃は帝国軍が主に使っている先込め式の滑腔式歩兵銃であるマスケット銃や最近になって部隊への配備が進められている新式歩兵銃――マスケット銃の銃身に改修を施しミニエー弾と呼ばれる独特の弾薬を使用する事で飛距離と命中精度、更には連射能力が飛躍的に向上したミニエー銃よりも一歩も二歩も先を行く性能を誇る。

 

また特筆すべき点が1つある。

 

それは内蔵されているチューブマガジン(管状弾倉)内に最大で14発の44-40センターファイヤ実包をあらかじめ装填しておく事で、発砲時には銃の機関部下側に突き出た用心鉄を兼ねたレバーを下方に引き下げ、それをまた定位置に戻すことで薬室から空薬莢を排莢すると同時に次弾を装填するという機構が備わっているという事。

 

つまり、1発1発の再装填に労力を費やさねばならなかった単発式のマスケット銃やミニエー銃とは違い、連射による高火力の投射が可能なのである。

 

「お待ちしておりました。大隊指揮官殿」

 

M1873ウィンチェスターライフルをスリング(肩ひも)で肩に吊り下げ宮殿を闊歩する男の前に銀髪の美女が現れた。

 

人よりも起伏が激しい体に黒い肌、そして銀髪から覗く尖った耳。

 

一見するとダークエルフである彼女だが実際はダークエルフと人間の間に生まれた混血児であった。

 

「……何をしている?モンタナ。貴様を招集した覚えはないぞ」

 

「確かに招集命令は受けていません。しかしながら、大隊指揮官殿が出陣なされるのであれば、我らもお供致します」

 

「“我ら”だと?」

 

1歩後ろを付いてくる美女――モンタナとぶっきらぼうに言葉を交わしながら男は宮殿の正門を開け放つ。

 

重厚な門が音を立てて開き、パッと広がった視界に入り込むのは宮殿前の広場に集まった馬とその手綱を握る兵士達の姿。

 

彼らは帝国の貴族がおもしろ半分で犯した妖魔や獣人の血を引くハーフ、クォーターであり帝国に於いては迫害の対象で塵程の価値も無い存在。

 

そんな価値も無い存在をかき集めて訓練と教育を施し部隊化したのが、他でもないこの男であった。

 

「ロスト・スコードロン。総員500名。フル装備で今すぐ出撃可能です」

 

「いらん、足手纏いだ」

 

「はい、我らは貴方様にとって足手纏いにしかなり得ません。ですから、どうぞ戦いの最中お使い潰し下さい」

 

男の突き放つ言葉にモンタナは何故か嬉々として答える。

 

「1つ聞く。クソ溜めの中から引き上げてまともな地位をくれてやったのに、何故死地へ向かおうとする」

 

「それが我らを人として扱って頂いた貴方様への恩返しになると考えているからです。この命、どうか貴方様の為に使わせて下さい」

 

「……貴様らがそう行動する事を見越して俺が目を掛けていたとしてもか?」

 

「貴方様の崇高なお考えは我らには計りきれません。故に我らと共に過ごして頂いた日々が我らに取っての事実。ただその事実だけが重要なのです」

 

暗に計算尽くの行動だったと聞かされてもモンタナの態度は変わらず、男に絶対の忠誠を捧げ続ける。

 

「そうか。そこまで分かっているのであれば情け容赦なく使い潰させてもらおう」

 

モンタナを引き連れ整列する兵士達の眼前へと進んだ男は仮面の下で口を歪ませた。

 

その歪んだ笑みが意味するのは果たして喜びだったのか、真相は定かではない。

 

用意されていた馬の背に騎乗した男は兵士達を見渡しながら口を開く。

 

「……総員傾注!!これより我がロスト・スコードロンはパラベラムが総統、長門和也の首を取りに行く!!これが成功すれば貴様らは真の意味で人として扱われるであろう!!総統殺しの英雄として歴史に名を残せ!!クソ溜めの中で生きていた貴様らの存在を世間に知らしめろ!!」

 

「「「「オオオオオォォォォーーーッ!!」」」」

 

失ってもよい、又は元から居ないものとしての意味でロスト・スコードロンと名付けられた部隊に所属する彼、彼女らは主と定めた男の檄に割れんばかりの声で答える。

 

「総員騎乗!!大隊指揮官殿に続け!!」

 

モンタナの威厳に満ちた美声が響渡ると兵士達が馬に騎乗し、隊列の先頭を行く男の後に続く。

 

慣例通りであれば、宮殿から部隊が出陣する際には帝国市民の見送りがあるはずなのだが、この出陣が急な事であった事と部隊がロスト・スコードロンであったことが関係し、見送る者は誰一人として居なかった。

 

そんな見送る者の居ない悲しき出陣は、その勇猛なる活躍と悲劇に満ちた散り様の始まりとして後世に長く語り継がれる事になる。

 

 

「ん?ゲッ!?あいつは勝手に何をやっているんだ!?」

 

宮殿の廊下を歩いていたレンヤはチラリと窓の外を見て、偶然目撃した出陣の光景に驚愕の声を漏らした。

 

「あの野郎……この前は『今はその時では無い』とか言っていたくせに……!!つーか、出るなら俺に一言ぐらい掛けてから行けよ!!」

 

この差し迫った時期に勝手が過ぎる、と続けながら好き勝手に動き回る同僚に憤るレンヤ。

 

「……ま、いいか。あいつが敵をかき回してくれれば、研究に使える俺の時間が増えるし」

 

しかし、すぐに気を取り直すと自身が行っている目下の研究の事にに意識を向けた。

 

出陣の光景から視線を外したレンヤは廊下を出て宮殿の裏手にある建物に入る。

 

中には何も無く、だだ広い室内が広がっているだけであったが、部屋の中央にポツンとあった台座にレンヤが手を当てて魔力を流し込むと床から無色透明の液体に満たされた無数のフラスコが現れる。

 

「フフフッ、順調だな」

 

人一人がすっぽり入る程の大きさのフラスコの中には、年若い女性達が管に繋がれて入っている。

 

皆一様に容姿が優れており、どこか神々しさを感じさせた。

 

また、この場にいる半数程の女性は背中から純白の羽が生えていた。

 

「あぁ、俺の愛しい天使達。早く目覚めてくれよ?俺の最終目的の為にも。そして……敵を殺すためにも」

 

帝都に迫っている異教徒を討ち滅ぼすため等と適当なお題目を並べてローウェン教教会から敬虔な女性信徒を集めて人体の強化実験を行ったレンヤは、実験に成功し人ならざる者へと変質した彼女達を我欲に満ちた視線で舐め回しつつ不敵な笑みを浮かべた。

 

「例の計画もうまくいっているし。クククッ、このまま行けば奴らの驚く顔が見えるな」

 

強化実験の結果、人としての枠組みを外れ新たなる種族――『天使』として生まれ変わった女性達。

 

その恐ろしいまでの美貌を公衆の面前に晒し、満ち満ちた魔力を使い破壊を撒き散らす日は刻一刻と迫っていた。


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