ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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先を行くセリシアとアデルに続いてカズヤは海上プラントの廊下を歩いていた。

 

背後にはメイド衆や完全武装した一個小隊規模の護衛部隊、更には7聖女が続き整然と列を成している。

 

そのためカズヤの一行は端から見れば、まるで大名行列のような有り様だった。

 

加えて進路が被った科学者や警備員が廊下の端に寄り敬礼でカズヤを見送るため、より一層仰々しさが増していた。

 

……色々あった後だから護衛が多いのは分かるが、それにしてもちょっと人が多すぎるな。

 

列を成す程の人数に加えて些か物々し過ぎる護衛達をどうにかして減らす事が出来ないものかとカズヤが頭を悩ませていると不意に先を行くセリシアとアデルが足を止めた。

 

「それではカズヤ様、こちらをご覧下さい」

 

スモークガラスの大きな窓が両側にある廊下。

 

足を止め振り返ったセリシアがそう言って右手の窓を指し示す。

 

そして、アデルがいつの間にか手に持っていたリモコンでスモークガラスのスモークを解除する。

 

「ッ!?こいつは……」

 

言われた通りに視線を窓に向けていたカズヤは、スモークが解除された瞬間に視界に飛び込んできた予想外のモノに驚愕し、思わず窓に齧り付いた。

 

「あの海戦が終わった後、セリシアがこいつを軍事利用出来ないかと千歳に頼んで調査団を派遣していたんだ。そしてキロウス海の水深80メートルの場所で原型を留めて沈んでいたこいつを見つけると研究用検体回収の名目で150艇の潜水艇と2000人のダイバーを現地に送り込み、海中でこれを10分割にし3隻の大型クレーン船でサルベージして半潜水式の重量物運搬船10隻に積み込み、ここまで運ばせたんだ」

 

「そうしてキロウス海からわざわざ運んで来たまでは良かったのですが、4基の海上プラントと大量のメガフロートを組み合わせて構成されたこの巨大水槽にこれを入れるだけでも大変な作業となりました。なにせ全長423メートル、総重量90000トンの巨体でしたから。それに、ここに運び込んでからも解析やデータ収集、更には兵器転用するために必要な肉体の再生など随分と手が掛かりました。爆破解体で10分割されていた体の断裂面にスライムを寄生させて無理矢理体を繋ぎ合わせ砲撃で欠損した臓器を機械で代用し操るための機器を脳みそに埋め込み身体中のいたるところに兵装を施し、そこでようやく兵器として一応の目処が立ったのです」

 

アデルとセリシアの説明を右から左へと聞き流しつつ、カズヤは遠征艦隊、引いては第1独立遊撃艦隊が止めを刺したはずの怪物――長い首と縦3列に並んだ背ビレ、6つの大きなヒレを持つリヴァイアサンをじっと眺める。

 

眼下に広がる巨大な水槽の中で薄ピンク色の特殊な液体に体を浸されたリヴァイアサンは過去に生中継の映像で見た姿とは違い全身に分厚い装甲と各種兵装が施され、まさに生体兵器と言って差し支えのない姿になっていた。

 

「よくもまぁ……こんな“兵器”を作ったものだ」

 

「カズヤ様も知っての通り、リヴァイアサンが放つ魔力光線や魔力弾は強力です。それを何とか利用出来ないかと試行錯誤を重ねた結果がこちらになります。それに奴等が召喚した怪物で奴等が滅ぶなんて痛快ではないですか?」

 

「確かにな……それで、こいつはもう動くのか?」

 

「いえ、最後の作業が残っています?」

 

「最後の作業?」

 

「はい、こちらをリヴァイアサンの体内に移植する事で全作業工程が完了します」

 

セリシアが廊下の左手にある窓を指し示し、またアデルがリモコンで窓の不可視設定を解除する。

 

「何だこれ……」

 

窓の向こうで無数のホースに繋がれドクンッ、ドクンッと脈打つ巨大な肉塊。

 

リヴァイアサンと同じように薄ピンク色の液体に浸されたそれは何かの心臓だった。

 

「これはスプルート基地ごと木っ端微塵に吹き飛んだと思われていたベヒモスの心臓です」

 

「なに!?あの爆発の中でこんなモノが残っていたのか!?しかも生きているだと!!」

 

「にわかには信じられませんが、爆発で体が四散した後もこの心臓だけは生命活動を継続し、なおかつ肉体の再生を始めていました」

 

「凄まじい生命力だな……心臓だけになっても生きているなんて。しかも再生まで行うとは」

 

「はい。ですが、この恐るべき生命力は我々にとって好都合なのです」

 

「……どういう事だ?」

 

「簡単にご説明いたしますと、あちらにいるリヴァイアサンはあくまでも応急処置的な肉体の再生を済ませただけに過ぎません。つまりは中身が無いただの脱け殻です。そのためリヴァイアサンを動かすための強力な原動力が必要となってきます」

 

「だから生命力が強いベヒモスの心臓をリヴァイアサンに移植して復活させるという事か」

 

「その通りです。数多ある諸々の問題を解決するこの心臓であればリヴァイアサンは復活し、カズヤ様の覇道を妨げる愚か者共を駆逐する駒として十二分に使えるかと」

 

「話は分かった。だが、こいつを完全に制御出来るのか?万が一暴れでもしたら大変だぞ」

 

カズヤは最も懸念すべき不安要素を口に出した。

 

「ご心配には及びません。万が一に備えて55通りの安全装置と30の強制停止装置を講じてありますので。それにいざとなれば私とアデル、そして7聖女で仕留めます」

 

「どうやって仕留めるん――」

 

ニッコリと笑って自信満々でリヴァイアサンを仕留めてみせると大言を吐いたセリシアにカズヤが呆れ顔でツッコミを入れようとした時だった。

 

「うおっ!?」

 

「ッ!?」

 

まるで地震が発生したかのように海上プラントが凄まじい横揺れに襲われる。

 

立っている事すら困難な揺れのせいで廊下の照明も落ち一瞬辺りが真っ暗になったが、揺れが収まるのと同時に非常灯が点灯し薄暗いながらも視界が確保された。

 

そして非常灯の点灯から僅かな間を置いて緊急事態を知らせる警報が鳴り響き、壁から突き出た赤色灯がクルクルと回り出すに至って、先の揺れがただ事では無いことを否が応にもカズヤ達に知らしめた。

 

「今の揺れは……一体……」

 

「ご無事ですか、カズヤ様!?」

 

「あぁ、何とも無い。大丈夫だ」

 

「制御室!!今の揺れは何だ!?」

 

予期せぬ出来事に血相を変えたセリシアがカズヤの安否と怪我の有無を気遣う一方、アデルがすぐ側の壁に設置されていたテレビ電話で制御室へ連絡を取り状況の確認を急ぐ。

 

『こちら制御室!!下層第3ブロックのB−1フロアにて爆発事故が発生!!原因は不明!!火災の発生も報告されています!!現在、消火班が現場に急行中!!』

 

「「B、B−1フロア!?」」

 

テレビ電話の映像に映る所員の報告にセリシアとアデルが顔色を変えた。

 

「おい!!隣接するA−1フロアはどうなった!?」

 

『爆発事故の影響で送電網に不具合が生じ下層第3ブロック全体が停電しているため状況不明!!通信も10分前の定時連絡以降途絶しています!!取り残された人員を救助するために保安要員を向かわせましたが、恐らくはッ……』

 

アデルの問い掛けに対し画面の向こう側にいる所員は悲壮感を漂わせながら血を吐くような声で答えた。

 

「……厄介な事になった」

 

現状報告を聞き終えたアデルは愕然とし、肩を落として力なく天井を仰ぎ見る。

 

「セリシア、下層第3ブロックのA−1フロアでは何をしていた」

事情を知る者達の絶望した姿に嫌な胸騒ぎがしたカズヤはここの総責任者であるセリシアを問い質す。

 

「不味い、あそこには……早く対処しないと……手遅れに……いえ、まずはカズヤ様の安全を第1に考えて……」

 

しかし、肝心のセリシアは真っ青な顔で独り言をブツブツと繰り返すばかりでカズヤの質問に答えなかった。

 

「セリシア!!」

 

「え、あ、はい!!何でしょうか」

 

カズヤが強い語調でセリシアの名を呼んで彼女の肩を揺さぶると、ようやくセリシアが思考の海から現実へと帰還した。

 

「だから、下層第3ブロックのA−1フロアでは何をしていたんだ?何か不味い物でも置いてあるのか?」

 

「その……A−1フロアは様々な投薬実験を行う実験室と実験に使用した魔物の保管庫になっておりまして、恐らく今の爆発事故で保管されていた魔物が逃げ出した可能性が高く……」

 

「何だ……実験に使った魔物が逃げ出した程度なのか、俺はてっきり細菌やウィルスみたいなヤバイモノが流出したのかと思ったぞ」

 

「……被検体保管庫に居た魔物は3000体を越えます。しかも実験を経た事で戦闘能力や知能が通常個体より3〜5倍ほど向上したものばかりなのです」

 

状況を軽く考えたカズヤにセリシアが非常な現実を突き付けた。

 

「そりゃ不味いな……。おい、制御室。俺の声が聞こえるか」

 

『ハッ、聞こえております。総統閣下』

 

「直ちに当施設の全隔壁を閉鎖しろ、魔物の拡散を何としても防ぐんだ。隔壁の開閉は各個の要請があった場合にのみ限定。あと、無線封鎖を実施しこの状況を外に漏らすな」

 

『し、しかし……それでは本土からの援軍が……それに警報装置が作動した時点で外部には異常があった事がバレています』

 

「なら、異常については俺が抜き打ちの戦闘訓練を実施したと誤魔化しておけ」

 

「閣下、一体何をなさるおつもりなのですか!!貴方様は一刻も早くこの場から避難を――」

 

「ちょっと静かにしろ。で、分かったか」

 

護衛部隊の隊長がカズヤの看過出来ない言葉に意を唱えたが、他ならぬカズヤによって黙らされる。

 

『よ、よろしいのですか?異常事態の内容を偽り無線封鎖を実施すれば外部からの援軍は一切来ない事になりますが』

 

「構わん、全責任は俺が取る。それに援軍の事だったら代案はある」

 

『……了解です。ではご命令通りに致します』

 

それを最後に制御室との通信は終了し、テレビ電話の画面は暗転した。

 

「あの……カズヤ様?」

 

「ん?なんだセリシア」

 

「まさかとは思いますが……このまま魔物を殺しにいく等とは仰りませんよね?」

 

カズヤがとった行動から、その先に待ち受ける未来を予想したセリシアが恐る恐る伺うように言った。

 

「ハハハッ。もち――」

 

「いけません!!カズヤ様!!御身に万が一の事があったらどうするのですか!!」

 

「閣下、先に言っておきますが絶対に駄目です。貴方様には直ちにこの場より避難して頂きます」

 

カズヤの不穏な前置きを遮ってセリシアが声を荒げ、続いて護衛部隊の隊長が否を唱えた。

 

「……腕が鳴るなぁ、久し振りの戦働きだ。ハッハッハッ」

 

だが、カズヤは2人の抗議を華麗にスルーし迷彩服や装備品、そして護衛部隊の大多数が装備しているタボールTAR-21――その派生型を召喚する。

 

召喚されたのはタボール・シリーズから派生し従来のタボールの設計を元にサブマシンガン並みの全長を実現したアサルトカービン・モデルのMTAR-21。

 

所詮マイクロ・タボールと呼ばれ5.56x45mm NATO弾を使用する銃であった。

 

「「「「……」」」」

 

「そ、そんな目で俺を見るな!!良いじゃないか、たまには俺だって暴れたいんだよ。それに俺にはお前達がいるから身の危険も無いし、ちょっと位いいだろう」

 

その場にいた全員の危惧を現実のモノにしたカズヤは呆れと煩悶が入り交じった視線を浴びつつ弁明を口にする。

 

「……身に余る信頼や過分なお言葉を頂いたのは有難いのですが、それとこれとは話が違いますよ。閣下」

 

「どうしても駄目か?」

 

「……」

 

「……」

 

「………………はぁ、分かりました。と言うかもう何を言っても意見を変えるつもりはないのでしょう閣下?」

 

懇願の視線の中に宿る確たる意思の光を見て護衛部隊の隊長は折れた。

 

そして自身の身命を賭すに値するカズヤを何が何でも護りきるという覚悟を決める。

 

「よく分かっているじゃないか」

 

護衛部隊の隊長が渋々頭を縦に降ったのを見てカズヤは破顔した。

 

「……カズヤ様」

 

「セリシアも諦めてくれ。それに考えようによってはちょうどいい機会じゃないか。お前が推した7聖女の力、存分に見せてもらうぞ」

 

「っ、分かりました。そういう事であれば全身全霊を以てカズヤ様のご期待に応えさせて頂きます」

 

最後までカズヤの無茶な行動を諌めようとしていたセリシアは、カズヤの試すような言葉に表情を一変させ自身の進退を左右する一大決心を下した。

 

成功すれば自身の目指す理想に一歩近付き、失敗すれば文字通り全てを失う危険を省みず。

 

ただ、カズヤの期待に応えるために。

 

「それじゃあ魔物共を駆逐しに行きますか。今以上の人的被害が出る前に一匹残らず全部片付けるぞ」

 

「「「「了解!!」」」」

 

カズヤの命に従う護衛部隊は全員が銃のセーフティを解除し、ジャキンッとコッキングレバーを引いて戦闘態勢を整える。

 

「この一戦が我らの行く末を決めると言っても過言ではありません。死ぬ気でやりなさい」

 

「「「「御意」」」」

 

「アデルにも力を貸してもらいますよ」

 

「当然だ」

 

セリシアは鬼気迫る顔でアデルや7聖女に発破をかけ、尋常ではない戦気を纏う。

 

「さてと皆、準備はいいな?……目的地は下層第3ブロックのA−1フロアにある被検体保管庫。目標は取り残された人員の救出、そして保管庫から脱走した魔物群の殲滅だ。我々の眼前を遮る化生は一切の慈悲無く悉く排除せよ――各員、存分に吼えようじゃないか」

 

全員が戦いの準備を終えたのを確認したカズヤはやる気満々でそう声を上げたのだった。

 


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