ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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色事以外では存外に初だったメルキアが羞恥心に耐えかね退室してしまった後、予定通りにやって来た古鷹五十鈴中佐と涼宮明里少尉、そして顔を包帯でグルグル巻きにした員数外の人物とカズヤは面会していた。

 

「いや〜それにしても……めでたい事だ。しかし、古鷹中佐と涼宮少尉、それにティナ・フェルメール一等兵に亡国のお姫様であるレミナス・コルトレーン・ジェライアスの4人同時とは。隅に置けない奴だな」

 

ニヤニヤと笑いながらカズヤは視線の先で気まずげに縮こまる包帯男を言葉で嬲る。

 

「総統閣下、あまり私の旦那を苛めないであげて下さい。例えそれが私以外に女を作っている女たらしでも」

 

表向きは庇うような姿勢を見せつつもカズヤの言葉に便乗した古鷹中佐が包帯男をチクチクと刺のある言葉で責める。

 

「そうです。押しに弱いヘタレだとしても“私の夫”なんですから」

 

カズヤと古鷹中佐に続いたように見せ掛けて包帯男の所有権を涼宮少尉が、しれっと主張する。

 

「……おい、少尉。間違えるなよ?私の旦那だ。百歩譲ったとしてもお前は妾だ」

 

その主張に引っ掛かるモノを覚えた古鷹中佐が言葉の矛先を包帯男から涼宮少尉へと変更する。

 

するとどうだろうか、カズヤが居る病室の空気が一瞬で殺伐としたモノに変貌した。

 

「中佐こそ間違えないで下さい。私の夫です」

 

殺伐とした病室の空気も何のその。

 

古鷹中佐の言葉に涼宮少尉は真っ正面から対峙し、対決の姿勢を取った。

 

「……」

 

「……」

 

「やるか?」

 

「やりますか?」

 

「はい、ストップ。妊婦のお2人さんは暴れるな。それと修羅場なら俺の居ない所で、尚且つ俺の視界にギリギリ入る場所でやってくれ」

 

無言で睨み合っていたかと思いきや、開戦の幕を下ろそうとしていた妊婦2人を寸前の所で止めたカズヤはジョークを交えつつも少し怒りながらそう言った。

 

「「ハッ、申し訳ありません!!」」

 

さすがに総統の怒りを無視してまでやり合うつもりはなかったのか、カズヤの言葉に2人はあっさりと矛を収める。

 

だが、お互いに火種が燻っているせいか横目で睨み合っていた。

 

その様子を鑑みて、もう一度声を掛けようかとも考えたカズヤだったが、後の対処は諸悪の根源に任せようと口を挟む事を止めた。

 

『お話し中失礼します、カズヤ様。セリシア様とアデル様がお越しになられました』

 

「しまった、長話が過ぎたな。サクッと本題を終わらせようか。えー古鷹中佐。並びに涼宮少尉。そして――……中尉。以上3名には少数種族である蛇人族に与えた入植地の警備と彼らの警護を命ずる」

 

「「「ハッ、慎んで拝命いたします」」」

 

「よし。では解散」

 

部屋の外に待たせていたメイド衆のルミナスからセリシアとアデルが面会に来た事を知らされ、予定よりも長く話し込んでいた事に今更ながら気が付いたカズヤは、本来の用件を手早く済ませると3人に退出を命じた。

 

「あぁっと、最後に中尉。拾ったその命、無駄にするなよ?これから4児のお父さんになるんだし、せっかく怪我も治して五体満足にしてやったんだから」

 

3人が退出する寸前、カズヤはこっそりと包帯男にだけ声を掛けた。

 

「分かっています。もう彼女達に泣き縋られるのは懲り懲りですから」

 

後悔と自責の念に満ちた言葉を返す包帯男。

 

包帯に覆われているせいで彼のその表情をカズヤが伺い知る事は出来なかったが、唯一露出している目が雄弁に彼の表情を物語っていた。

 

「ならいい。じゃあまたな」

 

「ハッ、では失礼いたします」

 

最後に敬礼をして部屋から退出して行った包帯男を見送ったカズヤは、セリシアとアデルに部屋へ入って来るように声を掛け2人を出迎えたのだった。

 

 

 

「で、今日は何なんだ?」

 

少し時が流れ。

 

移植した生体義手の動作不良や拒絶反応等もなく、経過観察の入院をつつがなく終え職務に復帰したカズヤだったが、過保護になった千歳や千代田、その他大勢に大半の仕事を持って行かれてしまい、実質的にお飾りの総統となってしまっていた。

 

そんな中で暇を持て余していたこともありカズヤは以前の面会時にセリシアと結んだ約束事を守るため機上の人となっていた。

 

「はい、今日はカズヤ様に紹介したい者達と是非ともお見せしたいモノがありまして。貴重なお時間を割いて頂いた次第でございます」

 

「紹介したい者達に是非とも見せたいモノ……ねぇ」

 

まるで遠足に行く前の子供のように浮かれるセリシアに、何となく不安を抱きながらカズヤは乗り込んでいるVH-60Nプレジデントホークの進行方向に視線を向ける。

 

そこにはパラベラムが魔法の研究及び実験を行っている海上プラント群が存在していた。

 

「アーミー1よりプラントA1制御室。着陸許可願う」

 

『こちらプラントA1制御室、着陸を許可する。なお北西からの強風あり、注意されたし』

 

「アーミー1、了解。忠告感謝する」

 

プレジデントホークが海上プラントに接近すると以前あった墜落事件の一件で昇進を果たし、今ではカズヤの専属パイロットとして活躍するミーシャ・バラノフ少佐が着陸予定の海上プラントの制御室と無線の交信を始めた。

 

何気なしにそれを聞きつつカズヤが機内で大人しくしていると僅かな衝撃が走り、いつの間にか機体がヘリポートに着陸を果たしていた。

 

「機体の固定完了、エンジン停止を確認……着きましたよ、閣下」

 

特定の船舶に搭載されているヘリの着艦拘束装置――RASTが装備されているヘリポートに機体の固定を終えたミーシャが振り返ってカズヤに声を掛ける。

 

「ご苦労さん、また帰りも頼む」

 

「はい。お気をつけて行ってらっしゃいませ」

 

「それでは、カズヤ様。参りましょうか」

 

「あぁ」

 

……嵐が来そうだな。

 

ミーシャとの会話を終え、差し出されたセリシアの手を取って機外に出たカズヤはどんよりとした曇り空を一瞬見上げた後、メイド衆や千歳の指示で同行している過剰な護衛戦力を引き連れ海上プラントに入って行った。

 

「申し訳ございませんが、こちらの部屋で少々お待ちください。アデルがすぐに彼女らを連れて参りますので」

 

「……分かった」

 

案内されるまま海上プラントの一室に連れてこられたカズヤは辺りをキョロキョロと見渡しながら、セリシアの言葉に頷く。

 

セリシアが紹介したいって言うぐらいだから……なんか癖のある人物が来そうで怖いな。

 

っていうか……この部屋何だ?何で壇があってその上にポツンと椅子があるんだよ。

 

これじゃあまるで玉座の間とか謁見の間とか言われるような部屋じゃないか。

 

セリシアが紹介したいと言っている人物の予想図を脳裏に描きながらカズヤは部屋の作りがおかしい事に首を捻っていた。

 

「来たようです」

 

セリシアのその言葉と共に、カズヤが座る椅子の正面にある重厚な扉が開かれる。

 

……癖どころの話じゃなかったな。

 

思わず頭痛を堪えるように手を頭に添えたカズヤの視線では、アデルに続いて謎の7人組が部屋に入って来ていた。

 

その謎の7人組はセリシアが着ている真っ白な修道服と同じ物を纏い、そして手には何故か身の丈程もある大鎌を携えている。

 

顔は目深にフードを被っているせいで口元しか見えなかったが、皆一様に押さえきれぬ感情を発露するが如く口元を弧の形に歪めていた。

 

ある程度カズヤの前に近付いた所でアデルが足を止めると、アデルの後ろで横1列に並んでいた7人もそれに倣って足を止めた。

 

「で、誰なんだ?そいつらは」

 

大鎌を携えた謎の7人組の登場にメイド衆や護衛の兵士が警戒心を露にし殺気立つ中、今までカズヤの後ろに控えていたセリシアが壇から降りてアデルと合流し跪き頭を垂れる。

 

それと同時に2人の後に居る7人組が平伏す。

 

まるで如何わしい教団の教祖にでもなったような気分を味わいながらカズヤはセリシアに問い掛けた。

 

「ハッ、この者達はローウェン教の象徴にして絶対的な守護者として脈々と受け継がれてきた役職に就いていた存在――7聖女達です」

 

「7聖女?あぁ、監獄島を襲撃して捕虜になったとかいう……」

 

7人組の正体を聞かされたカズヤは、依然として平伏している7聖女達をまじまじと眺める。

 

だが安穏としているカズヤとは違い、カズヤの警護を担うメイド衆や護衛達は心穏やかでは無かった。

 

「貴様、武装した捕虜を総統閣下に引き合わせるとは何事だ!!」

7人組の正体を明かしたセリシアの言葉と同時に控えていたメイド衆がカズヤの前に進み出て得物を構え、また部屋の隅に控えていた護衛の兵士達がカズヤを中心にして防御陣形を展開した。

 

そうして万全の態勢を整えた護衛部隊の隊長は、閉所や市街での戦闘を容易くする為に全長を短くしつつも野戦に対応し得る射程や威力を残し、外装にはセンサテック(合成樹脂)を内部パーツにはセンサテックとアルミニウム合金を多用する事で軽量化を実現し副次的な利点として腐食にも強いブルパップ方式アサルトライフル――IMIタボールTAR-21を構え身の竦むような怒鳴り声を上げる。

 

「ご心配なく。この者達は既にカズヤ様の忠実な僕となっていますので」

 

「口では何とでも言える!!」

 

「この者達はカズヤ様の完全治癒能力を受けています。その事実が何を意味するのかは……そちらのメイドの方々が身をもってよく知っているはずです」

 

隊長の迫力ある怒鳴り声を浴び、しかも薬室に5.56x45mm NATO弾が装填済みでセーフティが解除され即時発砲が可能なタボールTAR-21の銃口を向けられているにも関わらず、セリシアは口元に余裕の笑みを浮かばせていた。

 

一歩間違えば有無を言わさず銃殺されていてもおかしくない状況下で。

 

「ふむ……お前達、下がってくれ」

 

今まで傍観するに留まっていたカズヤはこれ以上の状況の悪化を懸念し、親衛隊の兵士のみで編成された護衛部隊に下がるよう命じる。

 

「ハッ、しかし……」

 

「お前達が言いたい事も分かるが、このままだと話が進まんだろ」

 

「……了解しました」

 

渋々といった様子で護衛部隊の兵士達が引き下がる。

 

些細な切っ掛けで戦闘が始まりそうな一触即発の状況を唯一打開できるカズヤの鶴の一声で場は一先ずの危機を乗り越えた。

 

「さて、セリシア。お前は俺が7聖女に完全治癒能力を施したと言ったが……俺は7聖女に初めて会うはずなんだが?」

 

「恐れながら、この者達の顔をご覧に頂きましたらご理解頂けるかと」

 

セリシアの発言に疑問を抱き追及の声を上げたカズヤ。

 

それに対し彼女は意味ありげに微笑んだ後、アデルに視線を飛ばす。

 

「皆、顔を上げフードを脱げ」

 

セリシアの一瞥を受けてアデルが7聖女に指示を出す。

 

すると7聖女が立ち上がり、一斉にフードを脱ぎ去った。

 

「……お前達は。そうか、あの時の」

 

美人揃いの7聖女の顔を見たカズヤは彼女らがスパイの容疑をかけられ投獄されたフィリスを助けに行く途中に自身が救いの手を差しのべた者達だという事に気が付いた。

 

「思い出して頂けたでしょうか?」

 

「あぁ、思い出した。確かに彼女らには完全治癒能力を使ったな」

 

7対の熱い眼差しを受けながらカズヤはセリシアの言葉に頷く。

 

「では、紹介の方をさせて頂きます。右からアレクシア・イスラシア、ゾーラ・ウラヌス、ジル・キエフ、ゼノヴィア・ケーニヒスベルク、ティルダ・ハギリ、キセル・オデッサ、イルミナ・レノンと言います。皆、それなりの戦力としてカズヤ様のお役に立てるかと。さ、貴女達も自分の口から言うことがあるでしょう?」

 

いそいそとカズヤの側に戻ったセリシアが、まるで便利な道具の説明でもするような語調で7聖女の名を口に出す。

 

「「「「「「「主よ。我らの赦されざる愚行と穢れた過去を御許し下さい。そして叶うならば貴方様の為にこの下賤な命を使う機会をお与え下さい」」」」」」」

 

7人の口から発せられた許しと贖罪の機会を乞う言葉が部屋中に響き渡る。

 

「いかがでしょうか、カズヤ様。これまでの愚行と過去の大罪の数々を悔い改め、貴方様に忠誠を捧げるこの者達は“元”7聖女。帝国との戦い、引いてはローウェン教との戦いにおいて有効な手札となり得るかと」

 

「……あーっと、うん。そうだな。いいんじゃない?」

 

コイツら目がヤバイ……。

 

瞳に光が全くないんだけど。

 

「主よ!!寛大なお心に感謝致します!!」

 

「今まで私が生きていた理由が分かった……それはこの瞬間のためだったんだ」

 

「あぁ……私は神様の許しを得たのね」

 

「寛大なお言葉感謝致します」

 

「神命に従い、この身を散らす機会を心待ちにしています」

 

「このお方の為に死ねる……なんて幸せなんだ、私は」

 

「貴方様のご期待に添えるよう全力を尽くします!!」

 

狂気に磨きがかかった7聖女――喜びの言葉を口にする狂信者達を前にしてカズヤは振り子のように頷きながらセリシアの言葉に返事を返した。

 

さもなくば、何が起きるか予想が出来なかったからである。

 

もしも否を口にしていたら……この場で彼女達が自害していた可能性もあった。

 

それを本能的に察知していたからこそ、カズヤは棒読みで台詞を吐きながら頷くしか無かったのである。

 

「じゃ、じゃあ、顔合わせも済んだ事だし次に――」

 

「お待ちください、カズヤ様。彼女達に類する報告すべき事があと1つあります」

 

許しを得た事が余程嬉しかったのか涙を流し時折嘔吐きながらも悦びに体をうち震わせる7聖女の姿に得体の知れない恐怖を感じ逃げようとしたカズヤはセリシアに待ったをかけられてしまった。

 

「なんの報告だ?」

 

クソ、まだ何かあるのかよ。

 

内心で悪態を吐きつつカズヤは浮かせた腰を再び下ろした。

 

「ティルダ・ハギリ、前へ」

 

セリシアの指名を受け、黄色人種のような淡黄白色の肌を持ち姫カットの黒髪に黒眼というどこか日本人を匂わせる顔立ちのティルダがカズヤの前に進み出る。

 

「彼女がどうかしたか?」

 

何気に好みの髪型をしているティルダに若干の興味を抱きつつ、カズヤはセリシアに問い掛けた。

 

「ハッ、もう死んでいるのですが彼女の父親は渡り人でした」

 

「何!?」

 

衝撃の事実を耳にしてカズヤは思わず立ち上がった。

 

「ちなみに彼女のハギリという姓はこのような――『葉切』――文字だそうです」

 

セリシアが魔法で空中に投影した文字を一瞥したカズヤは改めてティルダの日本人染みた顔を見詰め思考を巡らせる。

 

アジア系、特に日本人みたいな顔立ちだなとは思っていたが……そうか、そういう理由があったのか。

 

いや、よくよく考えてみれば俺がこの世界に来る前にも渡り人は何人もいたんだから子供や孫、子孫が居てもおかしくないな。

 

国土がデカイ分、帝国には多くの渡り人がいたみたいだし。

 

つまりはこの先……最悪の場合は親や祖先の能力を引き継いだ渡り人2世や3世が出てくるかもしれないという可能性があるのか。

 

厄介だな。

 

「ティルダと言ったな」

 

「ハッ!!」

 

カズヤの呼び掛けに熱の籠った返事を返すティルダ。

 

カズヤの熱い眼差し(ティルダ視点)を浴び、惚けたように顔を蕩けさせていたティルダはカズヤの呼び掛け――特に名を呼んでもらった事に至上の悦びを感じ、また人も殺せそうな恨みがましい視線を背後から飛ばして来る同僚に対し優越感を抱いていた。

 

「お前の父親は何か特殊な能力を持っていたか?そして、お前には父親と似たような能力はあるか?」

 

「恐れながら申し上げます。私の父親には特筆するような特殊な能力はありませんでした。強いて言えば類い稀な魔力量があったぐらいでしょうか。また私の魔力量は平均よりも少し上程度で父親程の魔力量はありません」

 

「……分かった」

 

能力は遺伝しないのか?

 

いや、この場合は能力じゃないから遺伝以前の問題か。

 

うーむ。安易な判断はすべきではないし……念のため渡り人について調べさせるか。

 

ティルダの返答に安堵や落胆の感情を抱きつつ、カズヤはティルダから視線を逸らす。

 

「セリシア、他に報告事項は?」

 

「ありません」

 

「そうか……なら、次はお前が見せたいと言っていたモノを見せてもらおうか」

 

「ハッ、承知いたしました。ではこちらにどうぞ」

 

こうして7聖女との顔合わせを終えたカズヤは、再びセリシアに案内され海上プラントの内部を進み始めた。

 


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