ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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カズヤがイリスと手を繋いで野営地に向かうと、なにやら騒がしい声が聞こえて来た。

 

「〜〜〜!!」

 

「〜〜〜!?」

 

「あれ?」

 

何かあったのかな。と思いつつカズヤとイリスが草むらをかき分け野営地に入るとその音に気が付いた第二近衛騎士団の騎士達がバッと一斉に2人の方を向く。

 

「えっ?」

 

いきなり大人数に凝視されたカズヤは戸惑いの声をあげる。

 

「イ……リス……姫殿下……」

 

そのまま時間が止まったように皆が固まっていると顔を真っ青にしたフィリスがヨロヨロとカズヤとイリスに歩み寄った。

 

「よ、良かった……。本当に良かった!!イリス姫殿下にもしものことがあればどうしようかと……ッ!!」

 

……ん?今、なんと?

 

心底良かったと云わんばかりの表情を浮かべたフィリスはカズヤと手を繋いでいるイリスの前で膝をつき喋り出した。

 

「イリス姫殿下、まずはご無事でなによりです。ですが!!一体何処に行っておられたのですか!?―――あれほど我々の側を離れないようにと申し上げたはずです。なのに――」

 

「お取り込み中申し訳ないんだが……。いい加減、俺にも状況を説明してくれないか?」

 

フィリスの説教が5分程続き終わりが見えなかったためカズヤが話を遮るとハッとした顔でフィリスが今の状況を思い出す。

 

「あ、あぁ、すまないカズヤ。ちょっと待ってくれ。――イリス姫殿下、夜も遅いのでお話はまた明日にでも。おい、誰かイリス姫殿下を馬車へお連れしろ」

 

フィリスが声をかけると馬車の側にいた二人のメイドが急いでイリスの元にやって来て声を掛けた。

 

「姫様、どうぞこちらへ」

 

「――くない」

 

「「「えっ?」」」

 

「お兄さんと離れたくない!!馬車になんか行かない!!」

 

「……」

 

唖然とした表情で固まっていたフィリスだったが少し間を置いてイリスの言った言葉の意味がようやく理解出来たのか、こめかみをひくつかせながら口を開く。

 

「イリス姫殿下!!そのような我が儘を――」

 

「ま、まぁまぁそんなに気をたてずに。馬車までは俺が連れていくから」

 

「ぬ、しかし……」

 

「なっ?」

 

「む、むぅ……カズヤがそういうなら」

 

また我を忘れて喋ろうとしたフィリスの言葉を遮るとカズヤはイリスの手を引いて馬車に向かう。

 

馬車に着くまでの短い間イリスはすがり付くようにカズヤの手を握りしめていた。

 

「ついたぞ。ほら」

 

カズヤは馬車の前に着くとイリスに中へ入るよう促す。

 

しかし、馬車の中に入る前にイリスは側に控える2人のメイドに聞こえぬよう声を潜めて喋り出した。

 

「(お兄さん、明日もお話を聞かせてくれますよね?)」

 

「ん?暇があればな」

 

「(絶対ですよ。約束ですよ)」

 

「約束はでき――」

 

「(や、約束ですよ)」

 

「……約束だ」

 

瞳に涙を僅かに浮かばせたイリスに半ば押しきられたカズヤがそう約束をするとイリスはカズヤの側からようやく離れた。

 

「……お休みなさい、お兄さん」

 

そして、メイドに促されたイリスが馬車に入ろうとした時、不意にカズヤの方に振り返りなにかを決意したような顔で微笑んでから馬車の中へ消えて行った。

 

さて、フィリスに事情を説明してもらわないとな。

 

カズヤはイリスを馬車に送り届けた後フィリスが待っているはずの天幕に急いだ。

 

 

 

「さて、何から話そうか……」

 

天幕の中でカズヤ、フィリス、ベレッタ、先程まで姿が見えなかったが、いつの間に現れた千歳の4人で机を囲み話が始まった。

 

「団長、イリス様のことを知られた以上、大まかなことはすべて話したほうがよろしいのでは?」

 

「うむ、そうだな。――だがカズヤ、チトセ殿。これから話すことは他言無用で頼む」

 

「あぁ、分かった」

 

「分かりました」

 

「それと少し話が分かりにくくなるが、重要な国家機密の部分はぼかさせてもらう」

 

「あぁ、是非そうしてくれ、国の秘密を知って口封じに殺されたら堪ったもんじゃない」

 

「ハハ、そうだな」

 

カズヤが冗談混じりにそう言うとフィリスは少し笑った後、顔を真面目なものになおすと話を始めた。

 

「ではまず、カズヤ達も気になっているだろうからイリス姫殿下のことから話すとするか……。改めて紹介するのは明日になるが、先程カズヤが見つけて来てくれたのが、我がカナリア王国の姫巫女で長女のアリア・ヴェルヘルム姫殿下の妹君のイリス・ヴェルヘルム姫殿下だ。……本来であればカズヤ達とイリス姫殿下を会わせるつもりはなかったのだがな」

 

……やっぱりか。もう察しはついていたがカナリア王国のお姫様か……どうしようお姫様の○○姿見ちまった。

 

不敬罪とかにならないよな。

 

カズヤは心の中で大量に冷や汗を流しつつもフィリスに先を促す。

 

「さて、次に夕食の後でカズヤに聞かれた質問『なぜあの場所にいたのか?』に答えるとしよう。この質問の答えが我々の目的でもあるしな……あの場所にいたのは渡り人――この世界とは異なる異世界からやって来た異能を持つ人物を我々は探しに来ていたのだ」

 

「渡り人?」

 

聞きなれない言葉を耳にしたカズヤはフィリスに聞き返した。

 

「渡り人を知らないのか?まぁいい。さっき言った通りだ異世界からやって来る異能の持ち主だ。我々の世界には時折異能を持った人間が現れることがあるんだが今回はこの辺りに渡り人が出現したという神託が姫巫女様に下ったため、辺りを探索していたのだ」

 

「ふむ……で、フィリス達はなぜ渡り人を探していたんだ?」

 

「それはだな。今カナリア王国は2つの国難に見舞われている1つは魔物の異常繁殖、もう1つは隣国エルザス魔法帝国との戦争だ。これらの国難を乗り切るため渡り人の協力が必要なのだ」

 

なんとも物騒な理由だな……。

 

「魔物の異常繁殖ってのは?」

 

「カズヤ達も耳にしたことがあると思うが」

 

いや、初耳ですが?

 

カズヤの内心を知ってか知らずかフィリスは話を続ける。

 

「主に2ヶ所で魔物が異常繁殖が発生していてな、それをどうにかしないと……このままではカナリア王国が魔物に滅ぼされてしまう。厄介なことに既に我々の戦力だけでは魔物の異常繁殖を止めることができない。だが強大な能力を持つ渡り人の手を借りることが出来れば止めることが出来る……はずだ」

 

「理由は分かった。だが1つ気になる、何でイリス姫殿下を連れているんだ?探すだけならフィリス達の近衛騎士団や普通の騎士、兵士だけで十分だろう」

 

カズヤがそう問い掛けるとフィリスは言いにくそうに口を開いた。

 

「イリス姫殿下本人には伝えられていないが、姫殿下は渡り人の協力に対する対価の1つになっている」

 

「……つまりは、貢ぎ物か」

 

「……あぁ、そうだ」

 

「で、フィリス達は渡り人を見つけられていないんだろ?魔物の異常繁殖はどう対処するんだ?」

 

「とりあえず早馬を出して代わりの捜索隊を要請してある。我々は王都まで戻り報告待ちだ。2ヶ月待っても発見の報告がない場合……イリス姫殿下が持つ膨大な魔力を使って大規模儀式魔法で魔物の異常繁殖に攻撃をすることになっている」

 

「止める方法はあるのか。じゃあ最初からイリス姫殿下の魔力を使わせてもらえばいいじゃないか……」

 

「大規模な儀式魔法は使用者の魔力だけではなく生命力まで使うことになる……」

 

「……」

 

フィリスの言葉に天幕の中は静まりかえった。

 

「……ということはつまりイリス姫殿下は生け贄ということですか?」

 

唐突に沈黙を破ったのは今まで黙っていた千歳だった。

 

「……あぁ、そうだ」

 

千歳の言葉をフィリスが肯定するとまた天幕の中は静かになる。

 

「他に何か手段はないのか?」

 

「残念ながらない。今の段階であればカナリア王国の全戦力を投入すれば魔物の異常繁殖は止められるのだが、そうすると国境の部隊も呼び戻さねばならん。そんなことをすれば小康状態になっているとはいえ戦争中のエルザス魔法帝国にカナリア王国は滅ぼされる。片方をどうにかすればもう片方のせいで王国は滅びてしまう」

 

「だから渡り人を探していたのか」

 

「あぁ、そうだ。他に同盟を結んでいる妖魔族の国、妖魔連合国や獣人族の国、ベラジラール、その他の小国にも援軍を要請したのだが……彼らもエルザス魔法帝国との戦いに備えているため援軍は出せないそうだ」

 

フィリスの言葉にあったようにカナリア王国はエルザス魔法帝国、妖魔連合国、ベラジラール、その他多数の国々と国境を接している。

 

エルザス魔法帝国はこの大陸一番の大国でありまた魔法至上主義、人間至上主義などを掲げているため、妖魔族が統治している妖魔連合国や獣人が統治しているベラジラール、人間が統治しているが妖魔族や獣人との共生を目指しているカナリア王国などの国とは仲が悪く昔から現在に至るまで戦争状態が続いている。

 

「……さて、夜ももう遅い。続きの話はまた明日にしよう」

 

フィリスが話の終わりを告げるとカズヤも同意し話は翌日に持ち越された。

 


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