001
『そこは負荷逆といってほしいかな、暦ちゃん』
吹けば飛ぶような軽い口調で、球磨川禊は括弧つける。
『僕はエリートじゃない、そんな
『悪魔で
002
『やあおはよう! えーっと、阿良々木暦くん?』
「うおおおおっ!?!?」
突如目の前に現れた学ランの男を轢きかけて、僕は思わず急ブレーキをかけた。それだけでは間に合わないと判断したので、愛車のクロスバイクを無理矢理倒す。ハンドルと地面が接触し、ガガガ、と致命的な接触音を立てて跳ねる。勢いはそのままに数メートルほど進んだところで、クロスバイクは停止した。幸いハンドルが曲がった程度で、本体にはあまりダメージがない。それは僕自身にも言えることで、多少擦過傷は出来たが、昨日忍に血を与えているし、すぐに治るだろう。法的手段に訴える必要はなさそうだが、いずれ起きそうな事故を防ぐためにも、飛び出しは危ないということを教えてあげるべきだろう。起き上がって彼を見る。
『急に倒れてどうしたの? スピードの出し過ぎは危ないから気をつけた方がいいぜ?』
「いや誰のせいだと思ってるんだよ!?」
思わず突っ込んだ。学ランの男は小馬鹿にしたように笑っている。中学生にしか見えないほど幼い顔立ちだった。身長は僕とあまり変わらない。だが、その制服に見覚えがあった。
「ん、それは水槽学園の……?」
『よく知ってるね、阿良々木暦くん』
「丁度昨日、ニュースで見たからな……『廃校になった』ってニュースを。で、何で僕の名前を知ってるんだ」
『ちょっと知り合いの人外に聞いて、ね』
「知り合いの人外……?」
僕も相当、人外の知り合いが増えてしまっているので、その中の誰かにでも聞いたのだろうかと訝しむ。しかしいずれも、彼みたいな男に僕のことを話すとは思えなかった。
『ああ、別に
「急に呼び方が馴れ馴れしくなったな!」
『まあまあ。僕のことも禊ちゃんって呼んでいいから、それでおあいこってことで』
「いや、先にフルネームを名乗れよ」
『球磨川禊、高校三年生。つまり
「わかったよ、球磨川くん」
『つれないなあ』と芝居がかったようなハンドジェスチャーをして、球磨川禊はシニカルに笑った。
「それで、その球磨川くんが一体僕に何の用なんだよ?」
『よくぞ聞いてくれたね、暦ちゃん。普段の僕なら、用がなければ君みたいなやつには話しかけないんだけど』
「おい」
『とはいえ、やむにやまれず事情で君に助けを求めなきゃいけなくなったんだ。暦ちゃん、僕を助けてくれるかい?』
「それはできないな」
否定の言葉に、球磨川の動きが固まった。
「助けるんじゃない。お前が一人で勝手に助かるだけ、だ」