ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~   作:人民の敵

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 今回は月夜の黒猫団の全滅をレイ目線で描きます。少し短いですが、この話は後々起きる事件の伏線です(ネタバレ)。
 では、お楽しみ下さい。


《第8話》第27層の悲劇

2023年6月21日第27層主街区《ロンバール》

sideレイ

 

「何だろうな?キリトの要件って」

 

 俺は歩きながら呟いた。今の最前線は32層で、決して低層フロアではないが、あまり苦労した記憶がないのと、薄暗い雰囲気から周りを歩くプレイヤーの姿は少ない。

 

「さぁ?でも気になるね、迷宮区で会おうだなんて、少し変な感じがするし」

 

 というユウキの言葉に俺は頷く。迷宮区で会おうとか、MPK(モンスタープレイヤーキル)の臭いしかしない。まぁキリトは親友だしそんなことしないとは思う……多分。

 

「ねぇ、レイ。ボク達じろじろ見られているよ……」

 

 ユウキの言葉に周りを見回すと、少なくないプレイヤーが「おい、《神銃》と《絶剣》だぜ……」・などと言っている。俺は苦笑した。2ヶ月前の第26層ボス攻略戦で俺とユウキがユニークスキルを公表すると、その情報は瞬く間にアインクラッド中に広まり、俺達は第2・第3のユニークスキル使い《神銃》《絶剣》として知られるようになった。同時に俺とユウキが一緒に行動していることも公開され、情報屋とユウキのファンに追っかけられ、一時攻略に参加できなくなったほどの逃亡生活を送っていた。

 

「確かにな。まぁでもあんまり気にしないほうがいいぞ」

 

「そうだね。……キリトの要件って、ギルドのことじゃない?」

 

「あぁ……確か《月夜の黒猫団》だったっけ?あいつ、ギルドに入ってから性格が良い意味で変わったからな。俺達もギルドに入った方がいいのかな……」

 

 キリトは少し前にソロの道を捨て、ダンジョンでたまたま助太刀したギルドに入っていた。「アットホームな雰囲気で温かくて心が落ち着く」そうなのでなによりだ。

 

「まぁそれはもう少ししてからで良くない?別にボク達2人でも十分最前線で戦えるしさ」

 

 ユウキの言う事は一理ある。俺もユウキもユニークスキルを持っているので、最前線のモンスターも問題なく瞬殺できる。現時点では慌ててギルドに入る(もしくは設立する)必要はないかもしれない。

 

 

――――――――――

 

 

「さて、キリトはどこなんだ?」

 

 俺とユウキは10分でフィールドを駆け抜け、迷宮区タワーの入口に辿り着き、中の安地部屋にいた。

 

「ホントだよね、集合場所も伝えないなんて、キリトは気の利かないなぁ」

 

 俺はユウキに悪口を言われているキリトに心の中で合掌しながら、言った。

 

「まぁそれはあいつと会ってから存分に言ってやれ。それよりあいつのことを探すぞ」

 

「分かったよ、レイ。じゃあボクが前衛するからレイは狙撃で援護してくれる?」

 

「了解」

 

 と言いながら俺は《ディスティニースロウターAR50》を背中から抜き、構えた。

 

「じゃあ行こ……」

 

(キャアアアアア!!)

 

「悲鳴っ!?どこからっ?」

 

 ユウキのその言葉に、俺は耳を澄ませた。悲鳴の他にかすかな剣の打ち付ける音、つまり戦闘音が聞こえる。しかも普通ならあり得ない数の音だ。さらに僅かに警報音まで聞こえる。

 

「レイ!まさかあの人達……」

 

 迷宮区で聞こえる警報音など1つしかない。

 

「……!アラームトラップか!」

 

 アラームトラップ。恐らく迷宮区で一番厄介なトラップ。宝箱に偽装されており、引っかかるとけたたましい警報音が鳴り響いて通常ではあり得ない数のモンスターが押し寄せる。

 

「音は左の方からだ!急ぐぞ、ユウキ!」

 

「分かった!」

 

 俺達は敏捷力をフルにして安地から飛び出す。途中のモンスターを《ピンポイントショット》で粉砕しながら、目的の部屋を目指す。

 

「レイ!近いよ!」

 

 走りながらユウキが叫んだ。戦闘音は次第に大きくなる。

 

「あぁぁっ……」

 

 2つ先の部屋から呻き声が聞こえた。俺とユウキは跳び、その部屋に突入した。そこには————

 

「キリトっ……!」

 

 俺の親友、キリトがいた。

 

「レイ、助けてくれっ……」

 

 剣を振りながらキリトは掻き消されそうな声で叫んだ。

 

「分かった!ユウキっ!」

 

「分かってるよ!はぁぁ!」

 

 俺は対多数戦に有利な突撃銃《ライトディフェンサーM4CR》に武器を持ち替え、ユウキは腰から《マクアフィテル》を抜き、モンスターに攻撃を開始した。

 

 

――――――――――

 

 

「終わった……のか?」

 

 俺は部屋の壁にもたれかかり、喘ぐように呟いた。俺の射撃で宝箱を破壊できたからモンスターの湧出(ポップ)を止めることが出来たが、それが無ければ今頃凄惨なことになっていただろう。

 

「あぁ……終わったみたいだ」

 

 床にへたり込みながらキリトが答えた。

 

「どういうことなの……キリト?」

 

 ユウキがキリトに尋ねる。ここに至る経緯を聞かなければ、何も分からない。

 

「あぁ……」

 

 そう言ってキリトは話し始めた。

 

「始めは、ギルドメンバーが新しいホームに入れる家具類を買うためのコル稼ぎをしようと言ったことがきっかけだった……」

 

 話を要約すると、そのために迷宮区でモンスターを狩り、コルを十分に稼いでさあ帰ろうというところでギルドのシーフが宝箱を見つけた。キリトともう1人の女性プレイヤーはトラップだと反対したが、3対2で押し切られ、開けてしまった。それはキリトの予想通りアラームトラップで、モンスターの波に呑まれたキリト以外の全員が死亡。キリトが1人で戦ってた時に俺とユウキが駆けつけた、ということだ。

 

「話は分かった。でも、お前は攻略組のプレイヤーだ。俺がギルドメンバーなら人数的に少なかってもキリトの意見に従う」

 

 そこだけが引っかかった。攻略組というのは絶対的な信頼を寄せられている。余程のことがない限り中層プレイヤーは攻略組のプレイヤーの判断に従う。

 

「俺は、ギルドの皆に嘘のレベルを教えていたんだ。もちろん、攻略組であることも隠していた……」

 

「なっ、なんで!?」

 

 ユウキは声を裏返して聞いた。確かにレベルというのは重要な個人情報だ。おいそれと他人に言うことは出来ない。しかし、ギルドメンバーにも言わないというのは、あまりにも変だ。キリトは誰も信じないといった疑い深い性格ではない。なら別の理由があるはず……

 

「怖かったんだ……」

 

「えっ!?」

 

「仲間が、俺のことを《ビーター》と蔑むのが……」

 

パチン!!

 

 ユウキが、キリトの頬を叩いていた。

 

「もう《ビーター》なんて言葉をボクやレイの前で言わないでっ!レイはキリトが1人でベータテスターの罪を背負ったことを長い間悩んでいたんだよっ!」

 

「キリト、俺は今でもあの時黙ってお前が《ビーター》と呼ばれるのを見ていたのは正しかったのかと思ってるんだ」

 

「ごめん……」

 

 キリトが俯いた。彼の横顔は苦悩に満ちていた。

 

「分かってくれたならいいさ。それで、ギルドは全滅したのか?」

 

「いいや、リーダーはホームを買いに行ってここにはいない。……多分、俺以外の全員が死んだことも……」

 

「そうか……じゃあそのリーダーのもとに行こう」

 

「あぁ……」

 

 俺達は迷宮区の出口に向けて歩き出した。




 ちなみに、この後リーダーのケイタは原作通り自殺しました。合掌(•_•;)
 次回は新キャラ&ゲームキャラが登場します。お楽しみに!

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