ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~   作:人民の敵

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 遅くなってスミマセン(:_:)
 今回レイの現実での正体が少しだけ明かされ……おっとこれ以上はネタバレだから言えませんよ(>_<)
 では第7話、お楽しみ下さい。


《第7話》《狙撃》と《紫憐剣》後編

2023年4月14日AM10:30 第11層フィールド

 

sideレイ

 

「ここか?キリト」

 

 俺達は第11層主街区《タフト》から南に約1kmほど外れたフィールドに来ていた。

 

「ああ。ここならまず誰も来ないはずだ」

 

「キリトはさっき誰も聞いてないからって叫んで、アルゴさんにボクら2人のユニークスキルの情報を知られた前科があるからボクとしてはあまり信用できないなぁ」

 

「右に同じく。じゃ誰かが来て俺達2人のユニークスキルのことがバレたら俺らに全財産の内2分の1を譲り渡す、っていう条件を飲んだら信用するよ」

 

 笑顔で言う俺達2人に対して、キリトは「嘘だろ……」と言いたげな表情をした。

 

「……拒否権h」

 

「「ない」」

 

「マジかよ………」

 

 ガクッと肩を落とすキリトを俺はポンポンと叩いた。

 

「安心しろ。さすがにそこまではしないさ。ただ相応の報い(金銭的に)はしてもらうけどな」

 

「うん、そうだよキリト。ボク達もそこまで鬼じゃないから」

 

「なら安心したよ。……ユウキはともかく、レイがそう言うと洒落に聞こえないからな」

 

 俺は自分に向けられた僅かな悪口を見逃さず、言った。

 

「うん?それはどう言う意味かなキリト君?何か不満があるなら剣か銃で受けて立つけど?」

 

「いえ、なんでもありません。……てかスキル取ったばっかだからロクに扱えないだろ」

 

「いや、現実(あっち)で訓練しているからなんとかなるはずだ」

 

 そうさらっとある意味トンデモ発言をした俺をユウキとキリトは「えぇ……」という表情をした。

 

「レイ、それは競技としての射撃か?」

 

「ま、そんなとこだ」

 

「そ、そうか。ていうかスキルの練習するんだろ?どうするんだ?」

 

 キリトのその言葉で俺(多分ユウキも)は気付いた。俺達がユニークスキルの練習をしにここに来たことを。

 

「そうだな、デュエルで練習するか。三人ローテで最初は俺とキリトでいいか?」

 

「了解」

 

「もちろんそれでいいよ!じゃあその次はボクとレイね♪」

 

 

――――――――――

 

 

「準備はいいか?レイ」

 

「ああ、送ってくれるか?」

 

 俺は背中から《ディスティニースロウターAR50》を抜いて応じた。するとすぐにキリトからデュエルメッセージが届いた。

 

【キリト から1vs1デュエルを申し込まれました。受諾しますか?】

 

 無表情に発光するそのメッセージの下に、Yes/Noのボタンといくつかのオプション。

もちろん俺はYesのボタンを押し、《半減決着モード》を選択する。

 

 これは相手の体力を半減させたほうが勝利するというルールで、相手の体力を全て削ったほうが勝利する《全損決着モード》とは違い、相手を死に至らせる危険はない。……一部の方法を除いて。

 

 俺の脳裏には、3層でデュエルによって俺を殺そうとした鎖頭巾(コイフ)を被った片手斧使いの顔が思い浮かんだ。

 

 と考えているとメッセージは【キリトからの1vs1デュエルを受諾しました】と変化し、その下で60秒のカウントダウンが始まり、俺は思考を切り替えた。

 

 キリトの得物は黒一色の片手直剣、俺のそれは対物狙撃銃《ディスティニースロウターAR50》だ。一応腰に24層ボスのラストアタックボーナスである碧色の片手直剣《エメラルド・クロスオーバー》を差し、ストレージには狙撃銃に勝るとも劣らない性能を持つ突撃銃《ライトディフェンサーM4CR》がある。

 

「最初から本気で行くぜ?レイ」

 

「もちろんこちらもそのつもりだ」

 

 と会話を交わしている間にもカウントは減り、一桁になった。5・4・3・2・1……

 

「はぁぁ!」

 

「せやぁぁ!」

 

 《DUEL!!》の文字が煌いた瞬間、俺とキリトは地面を蹴り、飛び出した。キリトの初撃は片手直剣三連撃技《シャープネイル》。俺は狙撃スキル基本技《ピンポイントショット》だ。

 

 俺は狙いを定め、キリトの頭を狙って銃撃した。

 

 パンッ!

 

 乾いた銃声がフィールドに木霊し、俺に斬り掛かろうとしたキリトを銃弾が貫き、キリトのHPバーが3割ほど減少する。

 

「ぐはっ……」

 

 クリティカルポイントを狙撃すると追加ダメージ+ノックバック+行動を強制的に終了させるという追加効果がある。だから俺はキリトの斬撃をモロに食らうリスクを冒してまで頭(つまりプレイヤーのクリティカルポイント)を狙いに行ったのだ。もしあそこで弾が外れていたらキリトの三連撃を綺麗に食らい、HPが相当量減っていたのは間違いない。

 

「えげつない威力だな……」

 

 キリトがポツリと呟く。レベル40に達しているキリトのHPをクリティカルとはいえ1発で3分の1削ったのだ。相当な攻撃力だろう。

 

俺はキリトがノックバックしてできた隙を狙って武器を素早く変える。片手直剣Mod《クイックチェンジ》。まさか剣を素早く持ち替えるためのこのスキルを銃を持ち替えるために使うとは取った当時は露ほどにも思わなかった。《ディスティニースロウターAR50》と入れ替えるように俺の手に装備されたのは突撃銃《ライトディフェンサーM4CR》。所々碧色が入ったその銃を指でくるくると回してから、手に持つ。

 

 キリトも剣を構え直し、次の攻撃に備える。

 

「はぁぁ!」

 

「やぁぁ!」

 

 キリトは片手直剣二連撃技《バーチカル・アーク》を繰り出す。俺は銃身でキリトの刃を受ける。

 

 キィィン!!

 

 キリトの刃と俺の銃がぶつかり、鋭い金属音を立てる。

 

「くっ……」

 

 相変わらずキリトのSTR(筋力パラメータ)は恐ろしく高い。スピード重視型のステータスでAGI(敏捷力パラメータ)を重点的に上げている俺やユウキに比べると攻撃が格段に重い。

 

 しかし、俺はキリトの剣とやりあう訳ではない。

 

「なっ……」

 

 キリトが驚愕の表情を浮かべる。そしてキリトの体が前に傾いた。

 

「もらったっ!」

 

 俺は銃口をキリトに向ける。俺はキリトの刃を一度だけ迎え撃ち、軌道をずらした上で受け流したのだ。軌道をずらしたままソードスキルを続ければ剣がシステムのせいでそのまま動き続け、相手に当たらず自分はそのまま倒れ込んでしまう。

 

 そんな状況を意図的に作り出す。力でかなわない相手にはテクニックを使ってその力を利用する。それが俺の好むスタイルだ。《攻撃流動(アタックウォード)》と呼ばれるスタイル。

 

「はぁぁ!」

 

「!!」

 

 技後の硬直(ディレイ)で動けないはずのキリトが、俺に刃を向けていた。

 

 グサァァ!!

 

「がっ……」

 

 すぐに反応することが出来なかった俺はその重い一撃をモロに食らい、HPバーが1割程減る。

 

「くっ……やっぱりキリトの一撃は重いな」

 

「STR上げてる俺をあまり舐めるなよ?」

 

 キリトはそう言いながら突っ込んで来る。片手直剣突撃技《ソニックリープ》。この技を食らえばHPを大幅に削られる。

 

「チッ!!」

 

 そう舌打ちしながら俺は突撃銃を一発だけ撃つと後ろに跳んだ。キリトの刃が顔を掠める。しかしなんとか攻撃をコンマ数センチの距離で避け切り、俺は反撃を始めた。

 

「これでも………食らえぇぇ!」

 

 突撃銃スキル基本技《集中砲火》。弾倉内の全弾丸がばら撒かれ、キリトに襲いかかる。

 

「くっ……」

 

 ソードスキル後のディレイで動けないキリトに銃弾は綺麗に命中し、キリトのHPバーは半分を下回った。瞬間、紫色のリザルト・ウィンドウが表示される。結果は俺の勝利。

 

「はっきり言って反則級のスキルだな、それ」

 

 リザルト・ウィンドウが消えてからキリトが言った。

 

「そうか?さっきみたいに接近戦に持ち込まれると一気に不利になるし、装填(リロード)をしなきゃならない。特に狙撃銃は装填数が5発しかないから外した時のリスクが大きい。デメリットも相当だと俺は思うけど」

 

「1対1の時ならひたすら後ろに下がりながら撃てば接近戦に持ち込まれる可能性は限りなく低いし、リロードに関しては現実よりだいぶ簡素に設定されてるんだろ?ボス攻略戦とかなら後方から狙撃で援護したらいいしな」

 

「そもそも《必中の遠隔攻撃》がレイの《狙撃》スキルしか存在しないってことは、極論相手にバレずに1000m先とかから狙撃して一方的に倒すってこともできるんでしょ?それは完全にチートなスキルだとボクは思うけれど」

 

 今まで俺とキリトのデュエルを見ていたユウキが言った。確かにこの《ディスティニースロウターAR50》のモデルになっている(と俺は推測している)アーマライトAR-50対物狙撃銃は1500mからの狙撃で対地攻撃ヘリを破壊することができる。この銃もオリジナルの性能を引き継いでいるなら俺の狙撃能力次第でそんな芸当ができるだろう。超極端な話をするとフロアボスは《守護する部屋から出ない》ため遠隔攻撃を持たないボスなら部屋の外から俺が狙撃し続けてダメージ0で一方的に倒す、なんてセコイ攻略法も可能になるのだ。正直いって遠隔攻撃を持たないボスは結構多いのでその攻略法が通用するようになったらヌルゲー化&俺のチート化というとんでもない(特に後者)ことになりかねない。

 

「レイ、今ボスを一方的に倒せるかもって思ったでしょ」

 

「なっ……」

 

 ユウキに心の中を完全に読まれ、俺は絶句する。

 

「レイの考えていることはボクにはお見通しだよ。伊達にボク達は半年近く一緒にいるわけじゃないよ」

 

「あぁ、その通りだ。って次はユウキとデュエルしなくちゃな」

 

 そういって俺は手早くデュエル申請をユウキに送る。これをユウキが受諾し、再び60秒のカウントダウンが始まる。俺は腰から《エメラルド・クロスオーバー》を抜き、正中線で構える。それと呼応するようにユウキは《マクアフィテル》を抜き、不思議そうに首を傾げる。

 

「銃は使わないの、レイ?」

 

「あぁ、だってこれはユウキの《紫憐剣》を練習するためだろ?銃を使ったら練習できないだろ」

 

 ユウキは納得したように頷いた。

 

 カウントが1桁になり、俺とユウキはお互いの眼を見据え、初動を読もうと努める。

 

 5・4・3・2・1……

 

《DUEL!!》の文字が光ると、俺とユウキは剣を振り、交錯する軌道で剣はぶつかり、金属音を立てる。挨拶代わりのその一撃はダメージに至らず、俺はディレイが解けると、片手直剣三連撃《シャープネイル》を前に跳びながらユウキに放つ。かすかに緑色の光を帯びながら《エメラルド・クロスオーバー》の剣閃がユウキに襲い掛かる。

 

「せやぁ!!」

 

 しかし、ユウキはその三連撃をソードスキルを使わずに迎撃する。

 

キン、キン、キン!!

 

「……さすがだな、ユウキ」

 

 初めて会った時から薄々感じていたが、ユウキの剣技と反射速度には常人離れした物がある。自分でいうのはアレだが俺は攻略組の中で十指に入るほど攻撃速度が速い。そんな俺のソードスキルを通常の攻撃だけで全部迎え撃ち、かすり傷一つ負うことなく防ぐのだ。

 

「それほどでもないよー。じゃ、今度はボクからいくよっ!」

 

 ユウキが反撃に移る。彼女の《マクアフィテル》が紫色に煌き、ソードスキルを放つ。

 

「やぁっ!!」

 

 見た事がないソードスキルだ。恐らく《紫憐剣》専用のスキルだろう、しかもかなり位の。

 

「くっ……はぁ!」

 

 俺は片手直剣四連撃技《ホリゾンタル・スクエア》を放ち、ユウキの剣技を迎え撃つ。

 

 カンカンキンキン!!

 

 四回の攻撃をほぼ無傷で受け流すことに成功したが、まだユウキの剣の煌きは失われてない。つまり、まだ続きがある。

 

「嘘だろ……」

 

 通常攻撃で五・六・七とユウキの斬撃を捌きつつ俺は呟いた。

 

「っ!!しまっ……」

 

 八撃目で完全に剣が弾かれる。がら開きになった俺の胴を、ユウキの剣が貫いた。

 

「せやぁっ!!」

 

 グサァ!!

 

「ぐはっ……」

 

 ユウキの渾身の突きをモロに喰らい、俺のHPが2割程減少する。たが、これで終わりのはず。そう考えて俺はソードスキルのモーションを起こそうとするが、ユウキの剣を見てそれを止めた。

 

――まだ煌きが残っている。

 

 これで終わり、ではない。嘘のようなその事実を理解した時には、ユウキの最後の二連撃が、俺のHPバーをイエローにしていた。

 

 大きく吹っ飛ばされた俺の目の前に、リザルト・ウィンドウが表示さされた。今度は俺の敗北だ。

 

「何だ、そのソードスキル?」

 

 俺は回復を済ませ、ユウキに話し掛けた。計十一連撃、恐ろしい威力と連撃だ。

 

「あれは《紫憐剣》最上位剣技の《マザーズ・ロザリオ》っていう技だよ」

 

「なんで覚えたてのユウキが最上位ソードスキルを使えるんだ?」

 

 普通ソードスキルというのは使用している武器の熟練度に応じて種類が増えてくるものだ。だからスキルを覚えたてのユウキが最上位の剣技を使えるというのは少し驚きだ。

 

「このスキルは最初から全部のソードスキルを使えて、熟練度に応じて威力が上がる仕組みみたいなんだ」

 

「うげぇ、じゃあ初期状態であの威力ってことは熟練度が上がればバケモノみたいな威力になるのか……」

 

 俺は呟いた。直撃を受けたから分かるが、初期威力であれだけのダメージとノックバックだ。もし熟練度がマックスになった時にはどれほどの威力になるのか、想像するだけで恐ろしい。

 

「まぁまぁ、あまり他人のスキルのことを聞くのは……な?」

 

「すまんすまん。次は俺とユウキだろ?早くしようぜ」

 

「はぐらかされた気がするけど……まぁいっか!やろう、キリト」

 

――――――――――

 

「ぜぇ、ぜぇ、キリト、ユウキ、もうやめないか?もう俺無理」

 

 俺は喘ぐように呼吸しながら、同じようにぐったりしているキリトとユウキに言った。あれから3人でデュエルを繰り返した。多分30回はしただろう。時刻は7時を回っていた。

 

「そ、そうだな」

 

「ボ、ボクももう無理だよ」

 

 とキリトとユウキが言った。

 

「帰るか……」

 

「そうするか。俺はラーベルクに戻るけど、レイとユウキはどうする?」

 

「俺はユウキとパナレーゼに戻るよ。な、ユウキ」

 

「うん、ボクはレイと一緒に帰るよ」

 

 キリトと、俺とユウキの3人は、主街区の転移門に向け歩き出した。

 




 今回、マザーズ・ロザリオ登場という一大イベントがありました。次回は月夜の黒猫団が全滅した時の話になります。
 では次回もお楽しみに!

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