ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~ 作:人民の敵
というわけで第6話、お楽しみ下さい!
2023年4月14日AM8:00 第24層 パナレーゼ
sideレイ
「……イ、レイっ!」
「すぅすぅ……痛っ!」
下腹部に激しい痛みを感じ、がばっと起き上がると、そこにはいつになく真剣な表情をしたユウキが立っていた。
「…おはよう」
俺は一応挨拶するが釈然としない。起床時間はAM8:30と少し前に決めたはずだ。しかも今日は25層の攻略戦の翌日だ、少し位ゆっくりしてもいいじゃないか、と考えていた。
「おはよう…ってそれどころじゃないんだよ!見てこれっ!」
俺はまだ覚め切ってない目と脳を必死に動かしながら、ユウキが表示したウィンドウを凝視した。ユウキが見せたいのはどうやらスキル欄らしい。片手直剣、索敵、隠蔽…どれもそこまで驚くものではない。
と、ユウキのスクロールする手があるスキルの場所で止まった。
「レイ、ボクが見せたいものっていうのはこれだよっ!」
表示されたスキルの名は《紫憐剣》。効果は………
「……はぁっ!?」
「えっと、効果は《紫憐剣》専用ソードスキルが使えるようになるのと、ソードスキル後の硬直時間が0.5倍になるのと、あと片手直剣装備時の攻撃力が1.5倍になること。そのかわり盾が装備できなくなる、かな」
「……」
俺は黙り込むしかなかった。その効果の強力さからしてユウキのそのスキルは多分ゲーム内で1人しか習得できない《ユニークスキル》だろう。
「…レイ?」
「ん、ああユウキ、そのスキルは多分ユニークスキルだと思う」
「やっぱりかぁ…。レイも調べてみたら?」
「ああ、多分ないとは思うがな……」
といいつつ、俺は自分のスキル欄をスクロールしていった。ほとんどユウキのそれと変わらない、俺の手が一番下に差し掛かった時――
「えっ……」
一番最後にそのスキルはあった。スキル名は——《狙撃》。効果は……。
「狙撃銃と突撃銃が使用可能になる。狙撃銃装備時にモンスターの有効打撃点に攻撃を与えた場合、(0.4×攻撃したプレイヤーのレベル)%の追加ダメージを与える。銃弾は無限に使用でき、《狙撃》専用スキルを使用できる。…これって多分…」
「ユニークスキル、だろうね。だって普通そんなスキル存在するはずないもん。剣と戦闘の世界に、銃が入り込む余地はないはずだから」
「……えぇっ!!」
俺は純粋に驚くしかない。そしてあることに気付いた。
「いくらスキルがあっても銃自体が無かったら意味なくないか?」
「……バカなの、レイ?そんなの対策されているでしょ」
「う…うん?」
俺はそのユウキの言葉の意味を測りかね、首を傾げる。そんな俺を見て「はぁ……」と言いたげなユウキは続けた。
「だから、スキルが存在する以上、アイテムが存在しないはずはないってこと。…1層の時のかっこいいレイはどこに行ったのかなぁ?」
いつもあまり物事を深く考えずに突っ走って結構な確率で失敗しているユウキにだけは言われたくなかったが、1層の時の黒歴史に触れられると俺は黙りこくるしかない。
「……」
「ボクはあの時みたいなかっこいいレイには恋してるけど、今みたいなレイは嫌いだなぁ」
「あの……、ユウキ?」
「うん?何、レイ」
「いや、何でもない」
「え?というか話を戻そうよ。何か追加されてるかもしれないから装備アイテム探したらどう?」
「了解……」
俺はメニューウインドウのアイテム欄をスクロールする。
「……あった」
一番最後に、それらはあった。
その2つの装備を実体化させる。狙撃銃と思われるのは《Distinyslaughter-AR50》。ディスティニースロウターAR50と読むのであろうそれは、所々碧色の装飾を施されているが、現実で見たことがある銃に酷似していた。
「アーマライトAR-50……」
俺は思わずそう呟いた。
アーマライトAR-50。12.7×99mm弾を使用するアメリカのアーマライト社製の対物狙撃銃。装甲車や対地攻撃ヘリの破壊から1500mの距離での対人狙撃まで可能な狙撃銃である。
もう1つの装備は《Lightdifencer-M4CR》。ライトディフェンサーM4CRと読むそれも、碧色の装飾を施されていたが実在する突撃銃に酷似していた。
「M4カービンか……」
M4カービン。5.56×45mm弾を使用する装弾数30発、発射速度900発/mのアメリカのコルト・ファイアーアームズ社製の突撃銃。アメリカ陸軍に制式配備されている優秀な性能を持つ突撃銃である。
「マジかよ……」
アーマライトAR-50は見たことがあるだけだが、M4カービンは撃ったことがある現実での愛銃とも言うべき銃だ。一応
「……レイ、この狙撃銃、性能がおかしいんだけど」
「ん?えっと、強化試行可能回数が25回で攻撃力が189ってほぼチートじゃねーか!」
俺は叫ぶ。そんなチート武器を手にしてしまったらどうしたらいいのか俺には分からない。
「あ、大丈夫だよボクもだから」
と言いつつユウキは自分の腰から紫色に光る片手直剣を抜いた。よくよく見ると昨日までユウキが装備していたのより細く、光沢が増している。
「えっと、この片手直剣の固有名は≪Macuafitel≫。マクアフィテルっていう武器で、強化試行回数が22回で攻撃力が178、特殊効果がクリティカル率が5%上昇と全攻撃に麻痺効果を付与だよ」
「確かにそれもチート並みの性能だな。ってかなんで2人同時にユニークスキルと最強レベルの武器が出現したんだ?」
俺は一番の疑問を口にする。最前線がまだ26層の時点でこんなスキルと武器が出現すればゲームバランスが崩壊しかねない。
「それはボクにもよく分からないけど、心当たりならあるよ」
「……今日は不調だな。ユウキに理解力で負けるとは……」
俺がそう呟くと、ユウキは心外だとでも言いたげな表情を見せた。
「レイ、それはどう言う意味……?」
「い、いや何でもない。それよりその心当たりとやらを話してくれ」
「……昨日の25層ボス攻略戦だよ」
「あっ……」
ユウキに言われ、俺は思い出した。昨日行われた25層ボス攻略戦では、アインクラッ
ド初のクォーターポイントとして攻略部隊は慎重に慎重を重ねた上で攻略に踏み切ったが、結果は散々な物だった。ボスである双頭巨人型モンスターの猛攻で《アインクラッド解放隊》、通称《軍》の精鋭部隊が殆ど壊滅。ギルドに属していない俺・ユウキ・キリトを始めとする遊撃部隊の特攻で討伐には成功したが、攻略部隊の3分の1近い人数が死亡するという、これまでのボス攻略では最悪の結果となった。
「そういうことか。クォーターポイントを越えたのが引き金として俺達にユニークスキルと装備が出現したってことか」
俺がそう言うとユウキは小さく頷いた。
「やっと分かってくれた。でもボクのこの仮説でもまだ疑問は残るけどね」
「何故俺達にユニークスキルが来たのかってことだな?こんな強力なユニークスキルを持つプレイヤーが2人でパーティーを、しかも比較的最前線が低い時に組めば、間違いなくその2人は《無敵》だ。それこそゲームバランスが崩れるだろうからな」
「うん、そういうこと。やっといつものクールでかっこいいレイになった。……でどうするの、レイ?」
ユウキの二言目が余計だなぁ、と思いながら俺は返した。
「これを公開するのかってことか?ユウキは自分で公開するかどうか決められるだろうな。戦闘中に《紫憐剣》専用ソードスキルを使わなかったらいいだけだしな」
「さっすがレイ!ボクが言おうとしたことをすぐに理解してくれた!……でレイはどうなの?ボクはレイの判断に従おうと思っているけど」
「俺は公開せざるを得ないだろうな。そもそも《狙撃銃》や《突撃銃》なんていう武器カテゴリーは俺以外のプレイヤーには存在しないから銃を見られた瞬間アウトだし、スキル
を活用するには銃を装備しないとダメだから、絶対に他のプレイヤーに銃を見られる。だから隠す=スキル使わない、になるから公開せざるを得ないかな」
俺はため息をつきながらそう言った。
「うーん。レイが公開するならボクもそうするけど、そうなるといくつか問題があるよね?」
ユウキの言葉に俺は頷いた。
「公開したら情報屋とかに追われたり他の攻略組との確執を生みかねないな」
「そういうこと!だからしばらくは隠しとかない?」
「でも使わないのも損だしな……あ」
俺は見つからずにスキルを使う方法を考えついた。
「ユウキ、ちょっと待ってくれるか?」
と言いながら俺はメニューウィンドウを操作し、ある人物にインスタンスメッセージを送った。
1分後、その人物から19層のラーベルクで会おうという返事が返ってきた。
――――――――――
同日 AM9:30 第19層 ラーベルク
side レイ
「久し振りだな、ここは」
俺は転移門に降り立つとそう呟いた。
「確かにね。ここそんなに攻略に苦労した記憶ないからね」
「よくよく考えたらこのゲームが始まって半年近くで4分の1がクリアされたんだよな……」
「そうだね……このままのペースで行けば1年半でクリアされるってこと?」
「かもな」
などと俺とユウキが話しているとその人物は俺達の前に現れた。
「久しぶりだな、キリト」
《黒の剣士》ことキリトは俺が話し掛けるとニッと笑った。
「昨日ボス攻略で会ったばかりだろ、レイ」
「そうか、じゃあ付け足し。プライベートの場では久しぶりだな」
という俺の返しにキリトは苦笑した。
「で、急を要する用件って何だ?ボス戦の後でゆっくりしようとした俺を引っ張り出すくらいだから相当なことだろ?」
「ああ、ここでは話せないからどこか誰にも聞かれない場所に移って話す」
誰にも聞かれたくないというフレーズに何か感づいたらしいキリトは俺とユウキを交互に見てから頷いた。
「分かった。じゃあ取りあえず宿屋にいくか」
「ああ」
――――――――――
「……2人同時にユニークスキルが!?」
俺とユウキがユニークスキルと装備のことをかいつまんで話すと、キリトは目を見開いて叫んだ。
「キリト、声が大きいよ……」
ユウキがキリトを非難する。宿屋の部屋の中でもノック、戦闘の効果音、そして
「まぁ、多分聞かれてないからいい。んで、キリトにはちょっと協力して欲しいんだ」
ユウキはキリトをまだ非難する目で見ていたが、俺が仲裁すると目線を戻した。
「なんだ?」
「誰もいない狩場を教えてくれ。《お前なんか問題にならない》とまで豪語した知識を活かしてさ」
「あははー、確かに1層の時にレイに向かってそんなこと言ってたねー」
俺とユウキに1層の黒歴史をつつかれ、キリトは心外だとでも言いたげな表情をした。
「あのなぁ、あれはやりたくてやった訳じゃないからな?」
「分かっているよ。あれは俺やアルゴ、他のベータテスターを守るためだろ?」
「呼んだカ?」
「そうそうお前ら2人を庇うため……ってええっ!!」
その聞き覚えのある声に俺達3人が窓の外を見やると、今一番会ってはいけないであろう人物がいた。
「アルゴっ!?お前いつからここに?」
俺がある危惧を抱きつつ尋ねた。
「いつって最初からだヨ。3人がユニークスキルの話をしていたのもバッチリ耳に入っていたヨ」
万事休すだ。アルゴにこの情報を知られると《隠す》という行為はもはや意味が無くなる。ユウキの指摘は外れてなかったのだ。そのユウキは「だから言ったのに」と言わんばかりにキリトに怒りの視線を送っている。
「キリト……お前には失望したよ。行こう、ユウキ。こいつと話していると自然に情報が漏れる」
「うん、そうしよう」
といって席を立とうとする俺とユウキを、キリトが慌てて呼び止めた。
「ちょ、待ってくれ2人共!アルゴ、この情報は売らないでくれ!」
「情報秘匿料1万5000コル払うなら情報は売らないサ」
ここでさらっと料金を請求するのがアルゴの商人魂だ。
「どうするキリト?料金を払って俺達と友達のままでいるかそれとも払わず俺達と絶交するか、お前が選べ」
俺がそう言うと、キリトは一瞬逡巡するような表情を見せたが、すぐに決断した。
「分かった、払うよ」
「さすがキリト、俺の親友なだけはあるな!」
と俺が褒めると、キリトは少しニヤッとしながらアルゴに1万5000コルを支払った。
「毎度。あと、レー君はオイラに情報を売る気はないカ?」
アルゴはキリトから情報料を受け取ると、今度は俺に話しかけてきた。
「何をだ?」
「ユーちゃんとどこで寝泊まりしているのか」
このアルゴの言葉に、ユウキは顔を赤くして黙り込んだ。
「教えません」
「なるホド。《ユーちゃんと寝泊まり》の部分は否定しないわけだナ」
「その情報も売らないでくれ!俺とユウキが恐ろしいことになるから!」
俺は相変わらず顔を赤くしているユウキを見ながら言った。ユウキはアインクラッドで1・2を争う美少女だ。そんな彼女の追っかけやファンは実に多く、実際ユウキと基本的に2人で行動していることを友人になじられたこともある。そんな彼女が俺と一緒に寝泊まりしていると知られたら最悪《圏外》で襲われるなんていうことになりかねない。
という俺の心の中を読み取ったのか否かアルゴはニッと笑いながら言った。
「安心してくレ。この情報は売らないでいるヨ。おっト、もうこんな時間カ。オイラはもう帰るかナ」
というとアルゴはすっと出ていった。
ふう……今回も頑張った!次回はレイとユウキが実際にスキルを使います。お楽しみに!!