ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~ 作:人民の敵
今回は時間を少し遡ってユウキの誕生日編です。
では、お楽しみください!
《番外編1》ユウキの誕生日
2023年5月23日第4層主街区《ロービア》
sideレイ
「ユウキがどんな物が好きかあまり知らないんだよな……」
俺は街並みを歩きながら言った。
「大丈夫よ、レイ君。私が色々アドバイスするから」
俺の横を歩くのは最近ギルドに入った《閃光》ことアスナと、同じくギルドに入ったらしい《黒の剣士》キリトだ。俺は今日、この2人と買い物に来ている。目的は今日が誕生日のユウキへのプレゼント探しだ。
「恋人の誕生日すら知らなかったからな、レイ、いや《神銃》殿は」
キリトが茶化してくる。確かに俺はユウキの誕生日をアスナに教えられるまで知らなかった。しかし、現実でのことはあまり聞かないのがこの世界の不文律なので、仕方がない部分があると思う。実際、ユウキも俺の誕生日を知らなかった。
「仕方ないだろ、現実でのことはたとえ恋人でもおいそれとは聞けないんだからさ。あと、その《神銃》っていうのをやめてくれ」
「じゃあ、《瞬剣》の方がいいか?」
「……」
《瞬剣》とは、俺がユニークスキルである《狙撃》を取得する前の俺の二つ名で、瞬間的な移動速度が恐ろしく速いから、だという。
「どっちもやめろ。俺はあまりプライベートで二つ名で呼ばれるのは好きじゃないんだ」
俺がそう言うと、キリトは「それもそうだな」と呟いて静かになった。
「というか俺的にユウキの好きな物って食べ物しかないのですがそれは……」
「違うわレイ君、女心ってものを理解してないだけよ。ユウキちゃんの好きな物はもっと他にもあるわ」
いや、俺は男なんですがそれは……
「はいはい………。じゃあ時間はいつまでにするんだ?」
「うーん、まあ4時にはパーティーをしたいから2時には帰ろうかな」
「了解…」
俺達は主街区の中の商業エリアに入った。この層は水路があって景観が良いこともあって、昨年12月、つまり5ヶ月前に攻略されたにも関わらず観光客の数が多い。
「さて、何から見ていくか…」
「アクセサリーショップとかどうだ?」
キリトが言う。こいつはどう考えてもネットゲームにどっぷりな奴にしか見えないクセになぜかこういう買い物などでは役に立つ。
「ん、そうだな。アスナ、いや副団長様はどうお思いで?」
アスナは《聖騎士》と呼ばれるユニークスキル《神聖剣》使い・ヒースクリフがリーダーを務めるギルド《血盟騎士団》で副団長の要職についている。俺がそのことを揶揄すると、アスナは少し怒った様に顔を膨らめた。
「レイ君?あなたが二つ名で呼ばれるのを嫌う様に、私は階級で呼ばれるのが嫌いなの」
「そ、そうですか…」
「まあいいわ。それよりアクセサリーショップだったっけ?いいと思うわ。ユウキちゃんは意外とオシャレだからね」
「もうアスナも意外って言ってるし……」
俺は呟いた。
「細かいことはいいの!とにかく行くわよ!!」
「「りょーかい……」」
俺とキリトはアスナの先導の下、商業エリアの中ほどにあるアクセサリー店に入った。
「ここよ」
「えっと、この層の攻略をしていた時にキリトと2人で主街区を全部見て回ったけどこん
な店は無かった気がするんだけど」
俺はアスナに質問した。
「うーん、確かにそうなんだけどこの前ユウキと2人でこの層に来た時にはあったのよ。
多分、攻略の進み具合によって解放される一種の隠しエリアみたいなものだと思う」
「なーる……。てことは値段は……」
俺は店内のアクセサリーを手に取った。
「高い、だろ?レイ」
「その通りだよ。ここの商品、最前線のものより桁が2つほど違う……。つまり大体10万コル単位だ」
それを聞いたキリトは目を丸くした。
「でもいいと思うわよ?前に来た時、あまり時間が無かったから何も買わなかったけどユ
ウキはここのアクセサリー気に入っているみたいだけど」
「うーむ、まあここで買おうかな。でもユウキには何が似合うか……、あ」
俺はあることに気付いた。
(確かユウキは自分がキリスト教徒だって言ってたな……じゃあロザリオとかどうなのかな?それならあまり戦闘の邪魔にならずにいつも付けていられるし)
「あのさ、ロザリオとかいいと思うんだけど……」
「ロザリオってあのキリスト教の儀式とかで使うアレ?どうして?」
「いや、ユウキは自分がキリスト教徒だって言っていたからさ。それなら戦闘の邪魔にならないし、どうかな?」
「宗派にもよると思うけど…。確かレイ君はロシア正教だっけ?ユウキちゃんはどうなの?」
「えっと、カトリックだって言ってた」
「うん、それなら大丈夫ね。どれにするの?」
俺は紫水晶をモチーフとしているであるだろう宝石が付いたものを手に取る。アイテム名は《Amethystly・rosario》。効果はクリティカル率を2倍と
「まあ予想通りか……」
約20万コル。まあ俺は攻略組だしほぼユウキとコンビで攻略を進めているためギルドに所属するプレイヤーよりも稼いでいるのは事実なので、出せない金額ではない。
「これにするよ。まあ払えない金額じゃないし便利な効果だしさ」
と言いながら俺はトレード欄に商品の金額分のコルを置き、そのロザリオを購入した。
「これで良し、と。2人はもう何か買っているのか?」
「いいえ、まだよ」
「俺もだ」
「ならここで買うのか?」
俺がそう言うと、2人は首を振った。
「いや、他の物にするわ。やっぱりプレゼントはみんな違う物がいいと思うし」
「そうか……」
俺たちは店を出た。
――――――――――
2023年5月23日第24層主街区《パナレーゼ》
「ふう、今日はいろいろと買ったな……」
俺はストレージを見ながら呟いた。俺がユウキへのプレゼントを買った後、アスナは洋服を、キリトはカチューシャを買い、また食料その他を買い込んでいると、すぐに時間は経ち、我に返った俺達3人は急いでここ、つまりユウキの誕生日パーティーの場所のパナレーゼに戻って来た、という次第である。
「レイ、いつユウキにプレゼントを渡すんだ?」
キリトが訊いてきた。なんとなく顔がにやにやしているような気がするがそれを意識の外に追いやり、俺は答えた。
「うーん、パーティーが終わった後、2人きりになった時に渡そうかな」
「2人とも、皆揃ったよ!!」
アスナがそう俺とキリトに伝えに来た。ユウキは攻略組の中でも有名人なので、このパナレーゼの中央広場を貸し切った攻略組を挙げたパーティになっている。参加者は30人を下らないのではないかと俺は思っている。
「「了解」」
俺とキリトは中央広場に向かった。そこではユウキが「こっちこっち」と俺達に手を振っていた。
「「「「「「「「「「「「ユウキちゃん、誕生日おめでとう!!!」」」」」」」」」」」
集まったメンバーのその声でパーティーが始まった。というか俺にはある疑問があった。
「なあアスナ」
「ん、何?」
「なんで攻略組の連中がユウキの誕生日を知っているんだ?」
中にはプレゼントを渡している者もいて、ユウキは持ちきれないほどのプレゼントを両手で抱え、右往左往している。俺はキリトやアスナとワインを飲みながらユウキのそんな様子を見ていた。
「なんでも、ユウキが自分で言ったって」
「は……?なんで俺には言ってくれなかったんだ……」
「もしかしたら恥ずかしかったのかもね。レイ君は恋人だし余計に、ね?」
俺はため息をついた。
2時間後……
「お疲れユウキ、大変だったね」
参加者が帰り、今は俺とキリト、アスナ、そしてユウキの4人だけになった広場で、アスナはユウキに声を掛けた。
「ありがとアスナ。ボクもびっくりだよ。まさか自分の誕生日がこんな賑やかになるなんて、ね」
ユウキは苦笑いしながら言った。その手に、キリトとアスナからの誕生日プレゼントが渡される。
「ユウキ、誕生日おめでとう」
「おめでとう」
キリトとアスナからの言葉とプレゼントに、ユウキは顔を綻ばせた。
「ありがとう、2人とも」
ユウキはそう言うと、俺に視線をずらし、じっと見てきた。俺がユウキに声を掛けようとしたその刹那、
「あ、この後ギルドの例会があるんだった」
「俺もだ。じゃあレイ、後は頼んだぜ」
とキリトとアスナがそそくさと広場から去り、そこには俺とユウキしか残されていなかった。
「……」
「………えっと、誕生日おめでとう、ユウキ」
俺はややぎこちなくユウキに祝いの言葉を掛けた。そして誕生日プレゼントのロザリオをユウキに渡す。もちろん
「うん…。ありがとう、レイ。えっと、これはもう開けていいの?」
「ああ、いいよ」
俺がそう言うと、ユウキは包装を外し始める。《外す》といってもアイテムから包装用のアイテムを外すだけだが。
「わあ…!」
ユウキが中から現れた紫色に光るロザリオを見て感嘆の声をあげる。
「レイ、ボクがキリシタンだって言ったのを覚えていてくれたんだ。もしかして、今日キリトやアスナと買い物に行ってたのって…?」
「ああ、それを買いに行くためだよ。効果も凄いから見てみろよ」
というとユウキはロザリオのステータス画面を表示し、しばし見た後、目を見開いた。
「ええっ!?クリティカル率2倍に
「大体20万コル位かな」
さらりととんでもない額を口にした俺にユウキが驚いたように首を振る。
「レイ、ボクのためにそんなアイテム買ってくれたの!?嬉しいけどいいの?」
「いいさ、別に金に困っているわけではないし、ユウキは大事なパートナーだろ?ユウキが気に入ってくれたら別に構わないさ」
俺がそう言うとユウキは少し顔を赤らめながらもはにかんだような笑顔になって言った。
「レイ……ありがとう。じゃあボクからほんの少しだけでもお返ししたいからちょっと目を瞑ってて」
「え、いいよ。俺がしたくてしてることだし」
俺がそう言ってもユウキは「いいからいいから」と俺の瞼を閉める。何があるのか一抹の不安に似た何かを心を抱きながら俺が待っていると—
チュッ
「……!!」
俺が慌てて瞼を開けるとユウキが俺の頬にキスをしていた。
「へへっ…」
ユウキはそう微笑み、俺の頬から自分の唇を離すと言った。
「ありがとうね、レイ。ボク、レイにこんな素敵なプレゼントを貰ってすっごく嬉しい
よ。だから、ほんの少しだけお返しさせて貰ったよ」
その言葉を聞くと俺は少し微笑みながらユウキを抱きしめた。
俺にできるのはこれくらいだ。俺には敵を叩き潰す強さはあっても誰かを守るような強さはない。ましてや、誰かを守ろうと思う資格すらない。でも、この少女を守ることで今まで守れなかった人々、いやこのデスゲームが始まった日に俺が見捨てた九千人に対して俺が背負った十字架の重さが少しでも軽くなるような贖罪になるなら、俺は命を賭してもユウキを守り切る。
「ありがとうを言うのは俺の方さ。今までこんな俺といてくれて、感謝しているよ」
「レイ……」
ユウキは目を潤ませていた。その姿を見て俺は心の中に秘めた決意をさらに堅くした。
この日は俺にとって忘れられない日になった。
はい、今回は番外編第1弾ということで少し甘め(?)でした。この後も10話ごと位に番外編を出していこうと思うのでよろしくお願いいたします!!
では、次回もお楽しみに!