ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~   作:人民の敵

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《第42話》骸骨の狩り手を伐つもの

第55層《グランザム》

 

 

「……偵察隊が全滅した……ですか」

 

 俺は喉から声を絞り出すように言った。

 

「昨日のことだ。 75層迷宮区のマッピング自体は、時間が掛かったが何とか犠牲者を出さず終了した。 だがボス戦はかなりの苦戦が予想された……」

 

 それについては俺も考えていた。かつての25層、50層ボス戦が当時多くの犠牲を払った(もしくは払いかけた)ように、クォーター・ポイントの75層ボス戦は、かなりの苦戦が強いられると。

 

「……そこで、我々は五ギルド合同パーティー二十人を偵察隊として送り込んだ。 偵察は慎重を期して行われた。 十人が後衛としてボス部屋入口で待機し……、最初の十人が部屋の中央に到着して、ボスが出現した瞬間、入り口の扉が閉じてしまったのだ。 ここから先は後衛の十人の報告になる。 扉は五分以上開かなかった。 鍵開けスキルや直接の打撃等、何をしても無駄だったらしい。 ようやく扉が開いたとき――」

 

 ヒースクリフの口許が固く引き結び、一瞬目を閉じ、言葉を続ける。

 

「部屋の中には、何も無かったそうだ。 十人の姿も、ボスも消えていた。 転移脱出した形跡も無かった。 彼らは帰ってこなかった……。 念の為、はじまりの街最大の施設《黒鉄宮》まで、血盟騎士団メンバーの一人に彼らの名簿を確認しに行かせたが……」 

 

 その先は言葉に出さず、首を左右に振った。

 

「……十……人も……」

 

 ユウキは絞り出すように呟いた。

 

「結晶無効化空間か……?」

 

俺の問いにヒースクリフは小さく首肯した。

 

「アスナ君によれば74層もそうだったそうだな。恐らく、ここから先の全てのボス部屋は基本結晶無効化空間だと言っていいと思われる」

 

「そんな……」

 

 ユウキが言う。緊急脱出不可能となれば、ボス戦での死者は加速度的に増加していく。しかも今回は物理的な脱出も不可能だ。

 

「……そう言えば、まさか偵察隊にRSP(うち)のメンバーは……」

 

「ファルス君に偵察隊の指揮を取ってもらっていたが、彼は指揮官ということで後衛で待機してもらっていたので無事だ。安心してくれ」

 

「そうですか。安心しました。しかし、脱出不可能となると、本格的にこのゲームはデスゲームになって来たということですね」

 

「だからと言って攻略をやめるわけにはいかない。我々攻略組には、アインクラッドに囚われた全プレイヤーの希望として、戦わなければいけないのだ」

 

「しかし、どうするんです?」

 

「結晶による脱出が不可能な上、今回はボス出現と同時に退路が絶たれてしまう構造のようだ。ならば統制が取れ得る限りの大部隊をもってあたるしかないだろう。休暇中、それも新婚の君たちを召還するのは本意ではなかったが、致し方ない措置だったと了解してくれ給え」

 

「そういうことなら喜んで協力させていただきます。遠距離攻撃が可能な僕が断るわけにもいかないでしょうし。ただし条件が二つあります。一つ、僕は自分の判断で戦うこと。二つ、ユウキに危険が及べば、攻略部隊よりも彼女を守ること」

 

 ヒースクリフは微笑んだ。

 

「何かを守ろうとするものは強いものだ。君たちの勇戦を期待するよ。攻略開始は三時間後。予定人数は君たちを含めて36人。75層主街区コリニア市に1時集合だ。では解散」

 

 そう言うと、紅衣の聖騎士と配下たちは一斉に立ち上がり、部屋を退去していった。

 

 

――――――――――

 

 

「三時間かー何してよっか」

 

 ユウキは鋼鉄で出来た机に腰かけて言った。その姿を少し見つめる。

 

「ユウキ……少し話をしてもいいか」

 

「……?」

 

 ユウキは不思議そうな目でこちらを見る。俺は続けた。

 

「怒らないで聞いてくれ。今日のボス戦……」

 

「待って。もしレイが、ボクにボス戦に参加していないでって言いたいなら、ボクはいくらレイの頼みでもそれは出来ないよ」

 

 俺の言葉が終わらないうちに、ユウキはキッとして言った。

 

「……しかし、俺はユウキをクォーターポイント、それも危険性が極めて高いボス戦になんて――」

 

「プロポーズしてくれたとき、レイはボクに言ったよね。『現実世界でも必ず再会しよう』って。その時、ボクは思ったんだ、ずっとレイと一緒にいたいって。だから、レイが行くなら、ボクだって行くよ」

 

「ユウキ……」

 

 ユウキは机から降り、俺に近づくと、手を差し出した。

 

「今までもこれからも、レイはボクの最高のパートナーだよ。レイは……?」

 

 俺は、差し出した手を取り、ユウキの手の暖かさを感じとる。

 

「……ああ。俺にとっても、ユウキは最高のパートナーだ」

 

「うん、そうだよね!!それに、ボクたちにはあまり時間がない……んでしょ?それなら、ますますボクたちがうじうじしてる暇はないよね」

 

 ユウキは、一転して真剣な目付きになる。

 

「……そうだな。もう2年経つんだ。いくら病院施設に搬送しているとは言っても、筋肉や臓器は意識不明の状態だと少しずつ衰弱していく。俺たちに残された時間は……多く見積もって3年……かな」

 

「そうだよね。ボクはレイと現実世界でもう一度会ってみたい。だから、一緒に頑張ろうね!!」

 

「そうだな、一緒に……生きて帰ろう」

 

 

――――――――――

 

 

 そして集合時間にグランザムの転移門前に向かうと、そこには攻略組の最精鋭部隊が集結していた。そして俺はその中のある人物に会いに行く。

 

「……兄さん」

 

「しばらく留守にしてすまなかったな。今回は俺も参加する」

 

 今は俺の弟、アズサが率いてるギルド《レインボー・スピリッツ》の面々のもとに、俺は久しぶりに行った。

 

「久しぶりね、レイ君。ユウキちゃんとの熱々な新婚生活はどうだったのかしら」

 

 幼馴染のセブンも参加するらしい。

 

「恐らく期待しているようなことは起きなかったぞ。……セブンも、参加するんだな」

 

 セブンは肩を竦めて答える。

 

「私は戦闘職じゃないんだけどね。《吟唱》スキルを使ってバフ掛けが役割らしいけど……そんな余裕ないかも」

 

「ヘイト集めるもんな……」

 

 そんなこんなで色んなメンバーと久しぶりに会話をした後、(キリト)のもとに向かう。そこには、奴の他に、馴染みの顔が2人いた。

 

「クラインさん、そしてエギルさん。御無沙汰しています」

 

 俺がそう言うと、2人の存在に気づいたキリトが言った。

 

「なんだ……、お前らも参加するのか」

 

 キリトが言うと、エギルが反駁する。

 

「なんだってことはないだろう! 今回はえらい苦戦しそうだって言うから、商売を投げ出して加勢に来たんじゃねぇか。 この無理無欲の精神を理解できないたぁ……」

 

 野太い声を出して主張しているエギルの腕を、キリトがポンと叩き、

 

「無欲の精神はよーく解った。 じゃあお前は戦利品の分配から除外していいのな」

 

 そう言うと、途端に頭に手をやり眉を八の字に寄せた。

 

「いや、そ、それはだなぁ……」

 

 情けなく口籠るその語尾に、俺、ユウキ、キリト、クラインの笑い声が重なった。笑いは集まったプレイヤーたちにも伝染し、皆の緊張が徐々に解れていくようだった。

 

 午後一時になり、転移門から新たな人影が出現した。彼らは血盟騎士団の精鋭部隊。真紅の長衣に十字盾を携えたヒースクリフと、血盟騎士団副団長《閃光》のアスナの姿もある。彼らを目にすると、プレイヤーたちの間に再び緊張が走った。

 

 ヒースクリフは、プレイヤーの集団を二つに割りながら、真っ直ぐに俺とユウキの元に歩いて来た。

 

 立ち止まったヒースクリフは俺とユウキに軽く頷きかけると、集団に向き直って言葉を発した。

 

「欠員はないようだな。 よく集まってくれた。 状況はすでに知っていると思う。 厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。――解放の日のために!」

 

 ヒースクリフの力強い叫びに、プレイヤーたちは一斉に声を上げ答えた。凄まじいカリスマ力だ。……それが()()を裏付けるものにならないことを祈ろうか。

 

 ヒースクリフはこちらに振り向くと、微かな笑みを浮かべ言った。

 

「レイ君、今日は頼りにしているよ。"狙撃"、存分に揮ってくれたまえ」

 

「俺は後方支援に回りますよ。前線はユウキやキリトがやってくれるでしょう」

 

 その言葉にヒースクリフは少し意味ありげな笑みを見せた後、再び攻略部隊に向き直り、言った。

 

「では、出発しよう。 目標のボスモンスタールーム直前の場所まで回廊(コリドー)を開く」

 

 ヒースクリフが手に持ったクリスタルは砕け散り、ヒースクリフの前に青く揺らめく光の渦が出現した。俺たち攻略部隊は、その光のなかに消えた。

 

 

――――――――――

 

 

 75層迷宮区は、僅かに透明感のある黒曜石のような素材で組み上げられていた。鏡のように磨き上げられた黒い石が直線的に敷き詰められている。空気は冷たく湿り、薄い靄がゆっくりと床の上を棚引いている。

 

 そして、俺の隣に立ったユウキが、寒気を感じたように両腕を体に回し、言った。

 

「なんか……嫌な感じだね」

 

「……あぁ」

 

 俺は短くそう答えた。今まで数多のボスを討伐し、その数だけ迷宮区を突破してきているのだ。流石に迷宮区の雰囲気だけでボスの強さが手に取るように分かるなんていうことはないが……今回はなんとなく分かる。間違いなく、今回のボスはヤバい。いや、死神ほどではないと信じたいが。

 

「流石にクォーターポイントだ。ピリピリしてるな」

 

 周囲では攻略部隊のメンバーたちが緊張した顔をしながら必要なアイテム類や装備を確認している。俺もそれにならい、装備品を確認する。主武装であるスナイパーライフル、近接戦闘用の副武装であるティルウイング。この大人数の中では流石にアサルトライフルを乱射しながら"狙剣一体"を使うことは危険すぎる。だから今回は単発攻撃力が高く、精密な狙いが可能なスナイパーライフルで弱点を集中的に狙いつつ状況によっては状態異常弾で直接ボスと交戦する前衛部隊を支援するスタイルで行く。

 

「……丈夫だよ」

 

「えっ……?」

 

 ユウキが何か言ったが、うまく聞き取れなかった。

 

「大丈夫だよ。ボクたちは、多分…いや絶対生きて帰れるから」

 

「ああ……そうだな。約束だ」

 

 小指を結ぶ。その時、あらかたのメンバーの準備が終わったのを見たヒースクリフが鎧をならした。

 

「皆、準備はいいかな。 今回、ボスの攻撃パターンに関しては情報が無い。 基本的にはKoBが前衛で攻撃を食い止めるので、その間に可能な限りパターンを見切り、柔軟に反撃をして欲しい。範囲攻撃の時は……」

 

 そこまで言ってヒースクリフはちらりと俺を見た。俺は小さく頷く。

 

「一旦下がり、彼に任せる。では――行こうか」

 

 そう言った後、ヒースクリフはボス部屋の扉を開ける。扉が開ききった瞬間、攻略部隊の前衛部隊が素早く抜剣しボス部屋に突入。ヒースクリフを中心に散開しボス出現に備える。キリトやアスナ、そしてユウキも前衛部隊に混じっている。

 

「俺も準備するか」

 

 俺は素早くアイテムポーチから二脚を取り出しスナイパーライフルを地面に固定する。スコープの倍率を調整し、腰に状態異常弾の詰まったマガジンを用意する。リロードして安全装置を外し、俺自身が横になれば準備完了だ。

 

「評定手は必要かしら?」

 

 その声に頭をあげる。そこにはセブンが立っていた。

 

「お願いする」

 

「分かったわ」

 

 評定手とは、本来スナイパーの側にいて着弾観測や身辺警護を行う者を指す。まぁ要するに『スコープに集中して攻撃に気づかない可能性高いから知らせてね』ってことだ。

 

「……まだか?」

 

 俺は呟いた。ライフルを展開し終わっても、まだボスは出現していない。が―――

 

「退路は塞がれたわね」

 

 セブンの声に後ろを振り向く。確かに、扉は既に固く閉じられていた。ついでに言うと結晶もやはり使えない。

 

「おい―――」

 

 長い沈黙に耐えられなくなったように誰かが声を挙げた、その瞬間。

 

「上だ!!」

 

 ユウキの言葉が鋭く響く。俺は反射的に銃身を上に向けた。

 

「退けッ!!」

 

 鋭く警告の言葉を発してから曳光弾を天井に向け撃つ。曳光弾は天井を照らし、ボスを明るく照らし出した。

 

「げっ」

 

 照らされたボスを見る。灰白色の円筒形をした体節一つ一つからは、骨剝き出しの鋭い脚が伸びている。その体を追って視線を動かしていくと、徐々に太くなる先端に、凶悪な形をした頭蓋骨があった。流線型に歪んだその骨には二対四つの鋭く吊りあがった眼窩がある。

 

 大きく前方に突き出した顎の骨には鋭い牙が並び、頭骨の両脇からは鎌状に尖った巨大な骨の腕が突き出している。

 

 その名は《The Skullreaper(骸骨の狩り手)》。こいつは、不意に全ての足を大きく広げ――俺たちの真上に落下してきた。

 

 

「各員、散開しろ!!十分に距離を取るんだ!!」

 

 ヒースクリフが指示を出す。その間にも俺は弱点とおぼしき眼窩を攻撃する。

 

「マジかよ」

 

 俺は半ば絶望していう。熟練度MAXにした"狙撃"スキル、更に近距離攻撃による攻撃力ボーナスを加えたスナイパーライフルの一撃で体力ゲージが数ミリも減らないのだ。相応な堅牢さを持っているのだろう。

 

 その時、俺は見た。落ちてくるスカルリーパーのちょうど真下にいた三人の動きが、僅かに遅れたのだ。

 

「こっちだ!!」

 

 キリトが慌てて叫んだ。

 

 呪縛の解けた3人が走り出す――。

 

 だが。その背後に、スカルリーパーが地響きを立てて落下してきた、床全体が大きく震えた。

 

 足を取られた三人がたたらを踏む。不味い、あれは状態異常の一種である"振動"だ。"状態異常耐性"スキルのModスキルである"耐震"を取らないと無効化できない行動束縛状態異常。

 

 3人に向かって巨大な大鎌が横薙ぎに振り下ろされ、背後から同時に切り飛ばされた。

 

 宙を吹き飛ぶ間にも、HPバーが猛烈な勢いで減少していく――黄色の注意域から、赤の危険域と――。そして、あっけなくゼロになった。

 

まだ空中にあった三人の体が、立て続けに無数の結晶を撒き散らしながら破砕した。消滅音が重なって響く。

 

「一撃必殺だと……!?」

 

 俺は目を剥いて叫んだ。SAOはレベル制のMMOだ。つまり、レベルを上げれば上げるほど体力その他のステータスは強化され、生き残りやすくなる。そういう意味で言えば今ここでボスと対峙している部隊はSAOの中でも特に高レベルなプレイヤーが集まっている。つまり死ににくいプレイヤーを集めたはずだ、それでも一撃必殺。いや――

 

「HPバーの減り方を見るに、即死攻撃ではない。恐らくガードは効くはずだ」

 

 俺はボソっと呟いた。即死攻撃ではなく、体力に対しての火力が異常なまでに高いため即死する、いわゆるオーバーキル。

 

「こんなの……無茶苦茶じゃない……」

 

 アスナの声が聞こえる。瞬く間に3人の命を奪った鎌は、次の獲物を求めて猛烈な勢いで前衛部隊に襲いかかった。

 

「うわぁぁぁぁぁあぁぁー!!」

 

 大鎌はもっと生け贄を寄越せと言わんばかりに大きく振りかぶられる。その真下に飛び込んだ人影があった。ヒースクリフだ。巨大な盾を掲げ、大鎌を迎撃する。

 

 すさまじい衝撃音が生じ、火花が飛び散る。だが、鎌は二本あった。左側の腕でヒースクリフを攻撃しつつも、右の鎌を振り上げて凍りついた前衛部隊に突き立てようとする。

 

「させるかッ!!」

 

 場を切り裂くような声と共にキリトが飛び出し、剣を迎撃する。アスナも加勢し、2人で鎌を押し止める。

 

「レイ君、ユウキ君!!我々が鎌を食い止める。その間に攻撃を叩き込んでくれ」

 

 ヒースクリフがこちらを見て言う。俺はユウキと一瞬目を合わせ、答えた。

 

「了解。ありったけの弾をぶち込んでやりますよ」

 

「助かる。後衛部隊の諸君も、レイ君たちと協同してボスを攻撃してくれ」

 

 その声をきっかけに、攻略部隊の反撃が開始された。

 

「ええいもう狙いなんて知るか、撃ち込みまくってやる」

 

 俺は頭部に銃弾を叩き込み続ける。隙間を貫通しないように位置を微調整しながら引き金を引く。

 

タァン!!

 

「……ん?」

 

 眼窩を正確に攻撃すると、ほんのわずかな時間だが、スカルリーパーが怯んだ。

 

「……これが正規の攻略法だったら質が悪すぎるぜ」

 

 ヒースクリフもそれに気づいたらしく親指をこちらに立てている。俺は少し頷き、スコープに集中する。スカルリーパーはヘイトを俺に向けているが、ヒースクリフやキリトに鎌を押さえられ俺に攻撃の矛先を向けられないという状況だ。

 

「うわぁぁぁぁ」

 

 このままなら――と思った矢先に悲鳴が上がる。セブンに聞くと、側面から攻撃を試みたプレイヤーが足に突き刺されていた。あれにも攻撃判定があるらしい。

 

「はぁ……ユウキ!!」

 

「何!?レイ」

 

 ユウキは忙しくステップしながら答える。俺が眼窩を狙撃している中で彼女は器用に銃弾を避けながら頭部に斬撃を加えていた。セブンが射撃タイミングを教えているのが大きいのかもしれないがそれでも避ける反射神経は流石といっていい。

 

「一旦頭を狙うのをやめる。好きに暴れていいぞ」

 

「了解!」

 

 ユウキに言ってから俺はスカルリーパーの足を睨み、腰からマガジンを取り出しリロードし直す。リロードが終わったのを確認し、俺は側面にいるプレイヤーに言った。

 

「離れろ!!」

 

流石に彼らにユウキ並みの反射神経を求めるのは酷だろう。俺はプレイヤーを離れさせた上で、足に向け発砲した。

 

シュンッ

 

「これでどうだ」

 

 鋭い音を鳴らしながら銃弾が足に突き刺さっていく。根本を正確に射抜いた弾はやがて――

 

スパンスパンスパン!!

 

「狙い通りだ」

 

 俺は足を見据えながら言った。着弾後斬撃ダメージを持つ鎌鼬(かまいたち)を発生させる斬烈榴弾を叩き込んだ足は、見事に根本から切れていた。後はこれを反対側の足にも叩き込んだ後眼窩を攻撃し続けるだけだ。

 

「やぁぁぁ!!」

 

 そして頭上を見据えると、ユウキが"紫憐剣"の奥義である《マザーズ・ロザリオ》をボスに叩き込んでいた。大きく攻撃力がブーストされた連撃は、スカルリーパーの体力を大きく削り取る。

 

「よし、行くぞ。ありったけの攻撃を叩き込めッ!!」

 

 後衛部隊が続々と攻撃に参加し、確実にスカルリーパーの体力は減っていった。俺も眼窩に銃弾を撃ち込み続け、鎌を防いでいるヒースクリフやキリトもスリップダメージを入れていく。

 

 そして――死闘を続けること一時間が経った。スカルリーパーの体力は残り数ドットとなり、後一撃で止めというその瞬間

 

「キシャァァァァァァァ!!」

 

「なっ!!」

 

 スカルリーパーが防御を崩し、俺に目掛けて突進してきた。突破されたヒースクリフとキリト、アスナがこちらを向く。

 

 スカルリーパーは大鎌を振り上げ、そして―――

 

「レイ――――――!!!」

 

 ユウキの叫び声が耳をつんざく。スカルリーパーの大鎌が俺に振り下ろされた。

 

「……」

 

 しかし、俺はむしろ冷静だった。鎌は俺に突き刺さると思われた。しかし――

 

「チェック・メイトだ」

 

 スカルリーパーよりもコンマ数秒早く俺は引き金を引き、放たれた銃弾は正確に眼窩を貫通、そしてスカルリーパーを――――

 

パリィィン!!

 

 爆散させた。こうして、75層ボスの討伐は完了した。


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