ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~ 作:人民の敵
side レイ
「ごめん、待たせた」
と言って俺は待っていてくれたユウキ・キリト・Asunaのもとに走り寄った。
「もう、レイ遅いよ~。ボク待ちくたびれたよ」
と不満を言うユウキは、それでいて何か嬉しそうだ。多分女性プレイヤーが仲間になったから、男女比が変わったということだろう。
「悪かったって、ご飯奢るからさ……キリトと……アスナさんもどうですか?」
「もちろん俺は大歓迎だけど……」
「……あなた、何で私の名前を?」
えっ!と一瞬言いそうになるが危うい所で自制する。彼女がMMO初心者だということを忘れていた。
「このへんに、自分のHPゲージがあるだろ?その下に俺達の名前もあるはずだ」
アスナの瞳が動き、俺達には見えない文字列を捉えた。
「れ……い。ゆ……う……き。き……り……と。レイ、ユウキ、キリト?これがあなた達の名前?」
「ああ、よろしく、アスナ」
「よろしく!!」
「よろしくな」
上から俺、ユウキ、キリトである。
「よろしく」
アスナが俺達3人の名前を知ったところで、ユウキが俺に、
「レイ、あれくれる?」
と言ってきた。ユウキが右手に持っているものを見て《あれ》の意味を理解した俺は、
右手を動かしてウィンドウを開くと、ユウキの言う《あれ》をアイテム欄から選び、オブ
ジェクト化する。実体化したその小さな素焼きの壺をユウキに渡す。
「ありがとうレイ。優しいね♪」
「褒めても何も出ないぞ」
「また貰えるかもしれないじゃん」
と言いながらユウキは左手にその壺を、持ち、右手に持ったパンを壺に突っ込もうとしてる。
「何、その壺?」
とまたアスナ質問してきた。
「こr」
「これはパンに付けるクリームで、とーっても美味しいんだ!!」
答えようとしたがユウキにセリフを奪われた。
「おいユウキ!!俺のセリフ奪うな!」
「いいじゃん別に。前回殆ど喋ってないんだから!」
……前回?こいつ、何言ってるんだ?と俺は思ったがあえてスルーした。
「うーん、ユウキちゃん!これ美味しいね!」
「でしょ!!」
と言う声に後ろを見やるとユウキとアスナの2人が恐ろしい勢いでパンとクリームを減
らしていた。
「ストップ、ストープ!」
と俺は2人の勢いを止めようとしたが、
「ぬぁに、レイ」
「こんなに美味しいもの譲る訳ないわ!」
といった具合で女性2人にそう言われると俺は何も言えない。一縷の望みを込めてキリトを見ると、俺に聞くな、といいたげな顔をしていた。
「あの~、この後俺が食事奢ることになってるんですけど……」
と控えめに俺が言うと、女性陣ははっと気が付いたらしい。
「「なんでその事を言わないの(よ)」」
と同時にユウキの右手がレイの顔に飛び込んで来た。幸いここは《圏内》なので、ユウキのその一撃は
「……理不尽だっ!」
さすがにこれは俺は悪くないと思う。
「もういいや、ご飯の件はまた後日ってことで、さっさと宿屋に行こ」
ユウキのその言葉が、後々大きな禍根となることを、この時の俺は知らなかった。
――――――――――
「ここだ」
「え、この広さで普通の宿より30コル高いだけ!?どんな穴場見つけてんのあなた達!」
「といっても1つしか確保できてないから、普段はユウキを寝室に入れて俺とキリトはリビングのソファーで寝てる。……お風呂はそこなので、どうぞ」
と俺がいうと、アスナはユウキと風呂の中に消えた。
side ユウキ
「ささっ、アスナも入って」
とアスナを湯船に入らせた後、ボクも入る。最近ずっと1人で入っていた(パーティーメンバーが2人とも異性なので、仕方ないが)ので、他の子とお風呂に入るのは、デスゲーム化したSAOにログインした日に姉と入ったきりだ。
「お姉ちゃん、どうしてるんだろう……」
と呟くと、アスナが聞いてきた。
「ユウキちゃんってお姉ちゃんいるの?」
「うん、一緒にSAO買って、一緒にログインしようって言ってたけど、お姉ちゃんが用事
で家に帰るのが遅くなって、ボクが先にログインしたんだ。お姉ちゃんがログインしているかも分からないから、ちょっと寂しいかな…」
「ふうん……。大変なんだね。で、ユウキちゃんはレイとキリト、どっちの方が好き?」
「ふぇっ!?」
そのアスナの質問に、ボクはどう答えたらいいのかしばらく迷ったが、本心の方を答え
た。
「うーん。ボクはレイの方が好きかな」
「ユウキちゃん、顔がすごく赤いよ。ホントにレイに恋してるんじゃないの?」
と言われてボクは水に自分の顔を写した。
「…えっ!!」
水面に写った自分の顔はとても赤かった。確かにボクはレイに好意を抱いているけど多
分パーティーメンバーとしてで、恋愛感情はない、はず。
「い、いやアスナ、ボクはそういう意味でレイのことが好きだっていう訳じゃないか
ら!」
「分かったよユウキちゃん、まあレイのことをユウキちゃんが好きだということだけ覚え
ておくわ」
「違うって!」
まぁ確かにボクがレイのことを好きなのは間違いではないし、まっいっか。
その後もボク達は裸で話をした。
side レイ
「………キリト」
「………何だ、レイ」
「俺達何していたらいいんだ?」
俺は今日貰った《アルゴの攻略本・第1層ボス編》を読みながら言った。正直、風呂場に視線を向けそうとするのを抑えられなくなっている。
「俺に聞くな……」
コン、コココンと小刻みにノックがあった。
「……あいつか」
俺は言った。あのノックは俺達とある人物の間で決めた合図だ。
「多分な。でも一応警戒してくれ」
「了解」
といって俺は背中の《アニールブレード+6》をいつでも抜けるように構えた。
「…開けるぞ」
ガチャッ!
「よう、アルゴ、珍しいな」
窓から入ってきた人物、情報屋《鼠のアルゴ》は、俺とキリトを見てニッと笑った。
「まあナ、クライアントが、どうしても今日中に返事を聞いてこいっていうもんだからサ」
そのまま、平然と部屋に侵入し、俺達が座っているソファーの向かいに座った。俺は部
屋のワゴンに移動し、自分を含めて3人のミルクを入れ、ソファーに戻った。テーブルにコップを3つ置くと、《鼠》はニヤッと笑った。
「レー君にしては気が利くナ。睡眠毒でも入っているのカ?」
「それはシステム上無理だろ。というか第一《圏内》でそれをやっても意味がないだろ
う」
「確かにナ」
とアルゴは頷き、俺が差し出したミルクをごくっと飲み干した。
「飲み放題にしては上質な味設定だナ。瓶詰めして売ったらどうダ?」
俺はキリトと目を合わせてニヤッとした。
「なんダ、やったことあるのカ?」
「ああ、結果は失敗。宿から持ち出すと5分で耐久値が全損して腐敗する。罰ゲームに
使ってもいいと思えるほどのまずさだよ」
「それは飲みたくないナ。んで、本題に入るゾ」
「ああ、また交渉か?」
「ああ、キー坊とレー君の剣を買いたいって話、今日中ならそれぞれ3万9800コル払う
そーダ」
「「はぁっ!?」」
俺とキリトは同時に叫んだ。
それぞれ3万9800コル払うと、合わせて7万9600コルになる。俺達の《アニールブレード+6》は確かに1層最強クラスの剣だが、入手するためのクエストの苦労と強化費用を足しても3万コル+αで入手できる。
それを2本原価より割高で買おうとするのはおかしいと思うべきだろう。
「で、名前は何コルで売ってくれるんだ」
「千五百コルダ」
「うーん、1.5kかぁー。分かった、出す」
といって俺は五百コル金貨3つを弾いてアルゴに渡した。
「毎度。んじゃ確認してクル」
といってチャットを打つと、すぐ戻ってきた。
「教えて構わないそーダ。……キバオウサ」
「「……………」」
俺達は2人して黙るしかなかった。
「今回も交渉は不成立ってことでいいんだナ?」
「ああ。この交渉は不可能だ、とも伝えてくれ」
「……分かったヨ。ついでに隣の部屋借りていくヨ。夜装備に着替えたいからナ」
「ああ、……ん?」
俺はアルゴが風呂場に入るのを見ながら疑問を抱いた。何か大事なことをわすれている
ような気がする。
「……………あ!確か風呂には……」
と俺が気付いた時にはもう遅かった。
「キャァァァァ!」
「イヤァァァァ!」
という悲鳴とともにアルゴではない2人のプレイヤーが出てきたところで、俺とキリト
の記憶は終わっていた。
今回は《プログレッシブ》編ではお馴染みの情報屋《鼠のアルゴ》を登場させました。あと、今回は一瞬ユウキパートを入れて、ランのフラグをかなり強引に立てました。ユウキちゃんが若干メタかったですね。では、次回もお楽しみに!