ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~   作:人民の敵

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《第36話》決闘

「久しぶりだな、キリト」

 

 俺は最前線である第75層主街区《コリニア》に来ていた。 今日はユウキはおらず、俺だけだった。

 

「それで?わざわざ俺を呼び出したのはどうしてだ?言っとくけどしょうもない理由だったら蜂の巣にするからな」

 

「蜂の巣にされるの!?」

 

 キリトが言った。

 

「で、早く理由を聞かせろ」

 

「分かったよ」

 

――――10分後

 

「前言撤回。しょうもない理由じゃないけど取り敢えず蜂の巣にさせろ」

 

「勘弁してくれよ……」

 

 キリトは後で処理(蜂の巣に)するとして、取り敢えずキリトから聞いた話はこうだ。

 

 アスナがギルドの任務が激務だからということで一時退団を血盟騎士団長ヒースクリフに申請しに行った所、ヒースクリフは条件を付けたらしい。それはキリトとの決闘(デュエル)をし、ヒースクリフにキリトが勝利すること。ここまでは良い。その後が問題だ。ヒースクリフは、この件に関して何の関係もない俺とのデュエルも所望したそうだ。本来なら断る所だが、前の《失踪》の際の恩があるから、断ることができない。

 

「で、それはいつなんだ?」

 

「今日」

 

「キリト、君ふざけてるの?ヒースクリフとやる前にお前とデュエルしてその息の根止めるよ?」

 

 平然と言いやがるキリトに俺は半分キレながら言った。

 

「落ち着け!俺はまだ死にたくない」

 

「もういいや。なるほど、だからこの人だかりが出来ているということか」

 

 俺は背後にある闘技場(コロッセオ)を見ながら言った。そこには200人を越えようかという群衆がたむろしていた。

 

「そうだ、中で(ヒースクリフ)が待っている。行くぞ」

 

「ったく、仕方ないな」

 

 

――――――――――

 

 

「失礼します」

 

 俺はヒースクリフの控え室に入った。今日はまずヒースクリフとキリトがデュエルしたあと、俺がヒースクリフと戦うという感じになっている。

 

「やぁレイ君。今日は無理を言ってすまなかったね」

 

「いえ………団長の”神聖剣”とは一度戦ってみたいと思っていたところです」

 

「そうか。では、私はキリト君とのデュエルがあるのでそろそろ行くよ」

 

「ええ、では後程」

 

 俺は控え室を出て、観客席に向かう。そこにはユウキを初めとしたいつものメンバーが揃っていた。少し遠くには、クラインやエギルの姿も見える。そして、コロッセオの中心に(ただず)む黒い人影。

 

「うまくやれよ、キリト………」

 

 俺は小さく呟いた。ヒースクリフが、キリトが立つのとは逆の入り口から入場してくる。その瞬間、場がわっと沸いた。

 

 司会進行役を任されたというセブンがコロッセオの上部で開始を告げる。

 

「アインクラッド史上稀に見るユニークスキル同士の対決!!まずは1戦目、その二本の刃から放たれる凄まじい剣技に斬れないものはない!!”二刀流”キリト!!」

 

 セブンがキリトを指して言う。うわぁこれすっごい恥ずかしい奴だ。

 

「対するは、その大楯を破れるもの未だ無し!!”神聖剣”ヒースクリフ!!」

 

 そしてデュエル申請が済み、60秒の準備時間が始まる。緊迫した空気が流れ、お互いの剣が日光を反射して鋭く光った瞬間――――

 

シュンッ!!

 

 キリトとヒースクリフは同時に飛び出し、剣戟を交わす。そして、それを挨拶代わりとして、激しい攻防が始まった。キリトが二刀流スキルを発動し、連撃を繰り出すと、ヒースクリフは剣と楯を巧く用いた防御でそれを的確に弾き返す。キリトは楯の方向に回り込み、回避の余裕を作り出そうとしたが、ヒースクリフの楯がそれを許さなかった。

 

 ヒースクリフが楯を突き出し、キリトはやや吹っ飛ばされる。驚いたことに、楯にも攻撃判定が付いているようだ。しかし、ただでやられるキリトではない。ヒースクリフの突き攻撃を敢えて回避せずに受け流し、片手直剣単発重攻撃ソードスキル《ヴォーパル・ストライク》を発動させる。キリトの二刀が、ヒースクリフの十字楯に盛大な金属音を立てて突き刺さった。

 

 そしてお互い一旦距離を取り、会話を交わした後、間合いを詰めて超高速の連続技の応酬が開始された。キリトの剣をヒースクリフの楯が弾き、ヒースクリフの剣をキリトのもう一本の剣が弾き返す。2人の間には様々な色のソードスキルのエフェクトが飛び散り、石畳の床を衝撃音が揺らし続ける。

 

 もう剣の軌道すら見えないレベルの攻防が展開されていた。お互いの小攻撃がクリーンヒットし、少しずつキリトとヒースクリフのHPが削られていく。もうすぐ5割を切るかと思われたそのとき、キリトが奥義を発動した。

 

 ”二刀流”上位剣技《スターバースト・ストリーム》。恒星から迸るプロミネンスのごとき剣戟の奔流が、ヒースクリフに襲いかかる。さしもの鉄壁も、この刃の前には後手に回らざるを得ない。そして15撃目でヒースクリフの防御が僅かに崩れた。そこに出来た間隙を16撃目の刃が貫き、勝負の決着が付く―――と思われたその時。

 

「な……んだ?」

 

 ほんの一瞬、時間にしてコンマ数秒の間、時間の流れが遅くなるような感覚を覚えた。そして、その間に、ヒースクリフの楯が、通常の速度ではあり得ない速度で移動し、キリトのスターバースト・ストリームを弾き返した。大技を防がれたキリトの硬直時間は大きく、動けないキリトに向け、ヒースクリフの突きが繰り出された。そのダメージは、デュエルを終わらせるには的確すぎるダメージだった。

 

「し、勝者、”神聖剣”ヒースクリフ!!」

 

 セブンのそのアナウンスを聞くや否や、俺は立ち上がり下へ向かう階段に向かった。

 

 

――――――――――

 

 

 10分の準備時間を終え、俺はスタジアムへの道を歩み始めた。体の右側の鞘にはティルウィングが、左側のホルダーには銃剣を装備したHK416Cがある。

 

 俺がヒースクリフの正面に立つと、セブンのアナウンスが始まる。

 

「2戦目、その剣と銃から編み出される変幻自在な戦闘スタイルの前に敵無し!!”狙剣一体”レイ!!」

 

「”二刀流”をも下した鉄壁の”神聖剣”と、リーチの長さや手数で圧倒的なアドバンテージを誇る”狙剣一体”。果たして、勝つのはどちらなのか!?」

 

 俺はそのセブンの言葉が終わるタイミングを待ってヒースクリフにデュエル申請を送る。モードは制限時間初撃決着モード。

 

「お手柔らかに頼むよ、レイ君」

 

「それはこっちの台詞ですよ、団長」

 

 俺の言葉にヒースクリフは少し笑った。しかしすぐにその目には真剣な眼差しが宿る。

 

「………」

 

 カウントが少しづつ減っていく、それに伴い、両者の集中力が高まり、次第に周囲の音は消えていく。

 

そしてカウントが消えた瞬間――

 

「セイッ!!」

 

 両者は同時に飛び出した。俺は両手に武器を持ち、右手のティルウィングを横殴り気味に叩き付けた。勿論ヒースクリフはそれを盾で受け流す。そして剣を突き出し、俺に向け斬りかかってくる。

「ぬんっ!!」

 体の前に出したHK416Cで剣を受け流す。そしてその反動でわざと吹っ飛ばされ――

 ワンマガジン分撃つ。その銃弾を防ぐためにヒースクリフが盾を構え、彼の視界が塞がれたその瞬間、俺は賭けに出た。

タンッ

 最大の跳躍力を使い、思い切り地面を蹴り跳ぶ。この行動に驚いたのか、ヒースクリフの動きが一瞬止まった。ここだ。

 ヒースクリフの真上に跳んだ俺は、上空からの一撃を放った。

キィィン

 しかし、それは間一髪のところでヒースクリフの剣に防がれた。しかし、俺の目的はそっちじゃない。

シュンッ

 ティルウィングを突き出したまま、HK416Vを刺し込む。流石にこれには反応しきれなかったのか、銃剣はヒースクリフにクリーンヒットした。しかし、クリティカルではないのでデュエルはまだ終わらない。

 キリトのデュエルを見て思ったことは二つ。まず一つ、安易なソードスキルは危険だということ。硬直時間にクリティカルを入れられたらたまったもんじゃない。二つ、盾の攻撃範囲に入らない、もしくは盾を攻撃に転じさせない立ち回りが必要だということ。盾に攻撃判定があるのなら、それにスリップダメージを入れられ判定負けという可能性も出てくる。

 だから俺は――

 ヒースクリフの攻撃を剣で、銃で受け流しながら一歩飛び退き銃撃を浴びせる。貴重な一撃のアドバンテージ、これを失わないような立ち回りを心がけなければならない。

 

「慎重だね。君らしいじゃないか」

 

「そりゃどうも。正面からやり合うのは僕の性に合わないんでね」

 

 盾を封じるための牽制射撃をしつつ応じる。両者互いにソードスキルを使わず、先ほどのキリトとの戦闘に比べれば派手さには欠ける。

 両者一歩も引かないような息が詰まる攻防が続き、試合時間が残り一分を切った時、俺は動いた。

 ヒースクリフの盾を弾き、俺は最後の大攻勢を仕掛けた。まずは

 

片手直剣七連撃ソードスキル《デッドリー・シンズ》

 

銃で攻撃を警戒しつつ、挨拶代わりに七発叩き込む。勿論ヒースクリフは全て盾で攻撃を撃ち落とした。しかし、まだ俺の攻撃は終わらない。

 

「ぬおっ…」

 

 ティルウィングがソードスキルを終えたその瞬間、HK416Cの銃剣が光を帯びる。

 

"狙剣一体"六連撃ソードスキル《シンフル・ヒードラン》

 

 更に六発の刃がヒースクリフに襲い掛かった。剣と盾で全て防ぐヒースクリフは流石と言わざるを得ないが、少しずつ防御が崩れ始めた。この機を逃すわけにはいかない。

 HK416Cが帯びた光が消えた瞬間、ティルウィングは既に次のソードスキルの準備に入っていた。

 

片手直剣六連撃ソードスキル《ルーン・スティング》

 

 止めと言わんばかりにティルウィングの六つの軌跡がヒースクリフに向かう。ヒースクリフは何とか迎撃するが、四発目で体勢が崩れた。

 

「なっ…」

 

 残る二発が倒れ込むヒースクリフを襲う。これが入れば間違いなくクリティカル判定になり、勝負がつく――はずだった

 

「ぬうん!!」

 

 ヒースクリフは地面を蹴り、剣を回避するかのように体を回転させた。そしてそのままソードスキルを発動させ、俺の首めがけて突っ込んできた。

 

「はぁっ!?」

 

 まさかこんな動きが出来るプレイヤーがいるとは。俺は咄嗟にHK416をヒースクリフに向け、引き金に手を掛けた。

パァン!!

 銃弾と剣が交錯し相手を屠らんと進む。そして二つの形の刃はお互いを貫き、勝負はついに決する――と思われた。

キィン!!

 しかし、二つの刃が相手を貫くことはなかった。ギリギリで制限時間を迎え、引き分けとなったのである。

 

「タイムアップ!!勝者なし!!」

 

 セブンのその声を聞き、剣と銃を持った両手を下げる。これまでで一番精神力を使った戦いだった。しかし、流石は"神聖剣"と言ったところか。まるで防御の隙がなかった。

 

「お疲れ様、レイ君。いい試合が出来たよ」

 

「こちらこそ。お相手していただき、ありがとうございました」

 

 俺とヒースクリフは互いに握手し、それぞれの控え室に戻る。部屋に戻ると、そこにはユウキとキリトが待っていた。

 

「レイ、お疲れ。まさか引き分けまで持ち込むとは……流石だな」

 

 俺は労いの言葉に対して手をあげて応じながら椅子に座った。

 

「サンキュ。いやー疲れた。キリトが戦ったのを見て下手に攻めるのは危険だなと気付いたからな……最後の一分で一気に勝負を決めるつもりだったが、生憎時間が足らなかったよ。流石の防御力というべきだ」

 

「そうかい。じゃ、行くか……」

 

「??」

 

 そのキリトの言葉に、俺とユウキは首をかしげた。キリトはそれを見て、ため息を吐く。

 

「元はアスナの退団話からこうなったんだ。既にアスナは行ってるが、俺たちも血盟騎士団本部に向かうぞ」

 

 そうだった。デュエルに夢中で忘れていたけど元はこいつがヒースクリフに売られた喧嘩を何故か俺を巻き込んで買ったせいでこうなったんだった。後で締めとかないと。

 

「じゃあ、行くか」

 

 俺たちは闘技場を出て、血盟騎士団本部がある第五十五層《グランザム》に向かった。


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