ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~   作:人民の敵

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 またちょっと遅れてしまいました。
 もうすぐSAO編も完結です!!もう少し、レイ達のデスゲームでの物語にお付き合い下さい!!
 では、第33話、どうぞっ!!


《第33話》青眼の悪魔

第74層迷宮区

「せやぁ!!」

 

 クラディールを追い払い、迷宮区内に入った俺達は、破竹の勢いで迷宮区を進撃していった。なにせ二つ名持ち、それも攻略組最強を誇るレベルの4人が集結したのだ。いくら最前線のモンスターといえど、瞬く間に粉砕されてしまう。

 

「お疲れ様」

 

 俺は7体目のデモニッシュ・サーバントをポリゴン片に変えた後、3人に言った。

 

「お疲れ、もうすぐ最上階だな」

 

 剣を鞘に納めたキリトが言う。マップを見ると、最上階、つまりフロアボスが鎮座するボス部屋までは後少しだ。

 

「了解。んじゃ、もう一頑張りだな」

 

 

――――――――――

 

 

「さて、着いたが」

 

 俺は目の前に立ちはだかるボス部屋を見て言った。

 

「どうする……覗いていくか?」

 

「ボクはちょこっと見るだけならいいと思うけど」

 

「ボスは守護する部屋から出ないはずだから大丈夫……だと思う」

 

 ユウキとキリトが言う。見るだけなら大丈夫だよな、うん。

 

「じゃあ、開けるぞ……」

 

 俺は3人を見た。全員が頷く。俺はボス部屋の重厚な扉を、慎重に開けた。

 

「一応、転移結晶は準備しとけよ」

 

「はーい」

 

「了解」

 

「分かったわ」

 

 俺達は転移結晶をポーチに準備した後、ボス部屋に突入した。

 

 ボボボと炎がボス部屋の壁を這い、俺達を照らす。そしてその炎が部屋の奥に達した瞬間―――

 

「ゴォォォォォォォォォォ!!!」

 

 大広間の中央に、ボスが出現した。 

 

 山羊の頭にボディビルダー真っ青の筋骨隆々の体。

 

 腰からは蛇のような尾が生えている。

 

 手には無骨な大剣。恐らく物理攻撃型のボス。

 

 HPバーは六本。その上に表示された名は【The Gleameyes】。

 

 【輝く目】もしくは【光る瞳】。

 

「よし、危なくなったらすぐに転移――」

 

「いやぁぁぁぁ!!」

 

「うぁぁぁぁ!!」

 

「……え?」

 

 後ろを振り返ると、全力でダッシュするキリトとアスナの姿が。

 

「どうするの?」

 

 横のユウキが聞いてくる。その右手には、しっかりと剣が握られている。

 

「見捨てるわけにもいかないしな、パリィしながら引くぞ」

 

「OK」

 

 俺も腰からティルウィングを抜く。グリームアイズがその身に余るほどの大剣を振り下ろしてくる。

 

「ぐっ……!」

 

 俺はその刃をティルウィングで受ける。ビリビリと衝撃が伝わってくる。

 

「せやぁ!!」

 

 横からユウキが飛び込み、グリームアイズの刃を共に受ける。

 

キィィィィィィィィン!!

 

「今だ!!」

 

 グリームアイズの刃を弾き返したその瞬間、俺達はボス部屋の外へ素早く駆け出し、部屋の前で剣を構えながら待つ扉が閉まるのを待つ。ユウキは後ろを向き、他のモンスターの攻撃に備える。

 

「行くぞ!!」

 

 扉が完全に閉まってから、俺とユウキはキリト達を追いかけるべく走り出した。

 

 

――――――――――

 

 

「あのな、俺はちゃんと転移脱出出来るようにって言ったよな?敵に背を見せて逃げるのは、追撃される可能性がある危険な逃げ方だって分かってるよな?」

 

 迷宮区の安全地帯でキリト達に追い付いた俺は、取り敢えず怒り飛ばした。

 

「「すいませんでした」」

 

「……まぁいい。それであのボスについてだが、装備は斬馬刀1本。恐らくカテゴリは両手剣で、特殊攻撃ありだろうな」

 

「順番にスイッチしてちょこちょこダメージを与えていくのが有効だな。楯持ちを10人は用意して、当分は1パーティー位の偵察部隊でちょっかい出して傾向と対策を練る必要がありそうだ」

 

 ふと思い出したようにユウキは、時計を確認した。

 

「わ、もう三時だ。 遅くなっちゃたけど、お昼にしよっか」

 

「「「賛成!!」」」

 

 ユウキは手早くメニューを操作し、紫革の手袋の装備を解除して小ぶりなバスケットを出現させた。

 

 バスケットから大きな紙包みを3つ取り出し俺達に配ってくれた。

 

 丸パンをスライスして焼いた肉や野菜をふんだんに挟み込んだサンドイッチだ。

 

 胡椒(こしょう)に似た香ばしい匂いが漂う。

 

 俺達は、口を開けてかぶりついた。

 

「……うまい」

 

 率直な感想を呟いた。

 

「本当ッ!! 嬉しいな~」

 

 ユウキは、笑顔で応じた。

 

「あと、これも作ってみたんだ。 こっちがグログアの種とシュブルの葉とカリム水」

 

 言いながらユウキは、バスケットから小瓶を二つ取り出し、片方の栓を抜いて俺達3人の人差し指に紫色の液体を付着させた。どう考えてもゲテモノ料理の調味料にしか見えないのは俺だけなのか?

 

 俺達3人は、人差し指に付着した紫色の液体をゆっくりと口の中に運んだ。

 

「「「…マヨネーズ!!」」」

 

「凄いよユウキちゃん。 マヨネーズの再現に成功したんだ」

 

「えへへ」

 

「で、こっちは何なんだ?」

 

 俺は、もう一つの小瓶を見た。

 

「こっちは、アビルパ豆とサグの葉とウーラフィッシュの骨で作った調味料だよ」

 

 こちらは、黄緑色の液体であった。

 

 ユウキは、先程と同じ様に俺とキリトの人差し指に液体を付着させた。

 

 俺達は、ゆっくり人差し指を口に運んだ。

 

「「醤油!!」」

 

「醤油は、アスナやお姉ちゃんと協力して再現したんだ」

 

「……女子ってすげぇな」

 

「確かに……」

 

 俺とキリトは率直な感想を言った。

 

 この様な会話をしていたら不意に下層側の入り口からプレイヤーの一団が鎧を鳴らして入って来た。

 

 その時、安全地帯の外から歩いてくる人影があった。

 

「よぉ、キリトにレイ。それにユウキちゃん 、久し振りだな」

 

 奥から現れた人影は、野武士――いやクライン率いるギルド《風林火山》のメンバーだった。

 

「クラインか、久し振りだな」

 

 俺は手を上げる。

 

「まだ生きてたか、クライン」

 

「相変わらず愛想のねぇな野郎だな、キリトよ。 ユウキちゃんも久しぶり。 ……キリトの後ろにいる人……は…」

 

 立ち上がったアスナを見て、刀使いは額に巻いた趣味の悪いバンダナの下の目をを丸くした。

 

「あー、っと、ボス戦で顔を合わせているだろうけど、一応紹介するよ。こいつはギルド《風林火山》のクライン。 で、こっちは《血盟騎士団》のアスナだ」

 

 キリトの紹介にアスナはちょこんと頭を下げたが、クラインの目のほかに口も丸く開けて完全停止した。

 

「おい、何とか言え。 ラグってんのか?

 

 肘でわき腹をつついてやるとようやく口を閉じ、凄い勢いで敬礼気味に頭を下げる。

 

「こっ、こんにちは!! くくクラインという者です二十四歳独身」

 

 どさくさに紛れて妙なことを口走る刀使いわき腹をもう一度今度は強めにどやしつける。

 

 だが、クラインの挨拶が終わると同時に後ろに下がっていた5人のパーティーメンバーが2人に駆け寄ってきた。

 

 俺とキリトは2人に近寄ってくる手前でガードをした。

 

 だが全員我先にと口を開いて自己紹介を始めたのだ。

 

「ま、まぁ、悪い連中じゃないから。 リーダーの顔はともかく」

 

 キリトがそう言った瞬間、向こうから足音――いや、軍靴の響きといったほうがいいか――が聞こえてきた。

 

ザッザッザッザッザッ!!

 

 安全地帯のさらに奥から、濃緑の鎧で装備を統一した集団が入ってきた。数は十数人。『アインクラッド解放軍(ALF)』、通称『軍』の部隊だ。

 

「《軍》だ。一応警戒しておくぞ」

 

「ん、了解」

 

「分かった」

 

 軍のリーダー格とおぼしき男が、手をさっと降ろし、『休め』と指示する。途端、軍のメンバーは腰を落とす。その男の装備は、他の連中のそれとは違い、武器や防具にアインクラッド全景を意匠したデザインのエンブレムが刻まれている。

 

 男は口を開いた。

 

「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中佐だ」

 

 一瞬吹きそうになった。うん、マジでこいつらどっかの人民解放軍の劣化コピーだ。うん。

 

 中佐ときたか。まぁ俺も現実だったら中佐相当なんだけどね、うん。

 

 俺は手短に

 

「RSPのレイだ」

 

 と言っといた。するとコーバッツと名乗るその男は横柄な口調でこう問うた。

 

「諸君らはこの先まで攻略しているのか?」

 

「……ああ。 ボス部屋の手前まではマッピングしてある」

 

「うむ。 ではそのマップデータを提供して貰おう」

 

 当然だ、と言わんばかりの男の口調にクラインはプツンとなった。

 

「な……て……提供しろだと!? 手前ェ、マッピングする苦労が解って言ってんのか?!」

 

 未踏破のマッピングデータは貴重な情報だ。

 

 トレジャーボックス狙いの鍵開け屋の間では高値で取引されている。

 

 クラインの声を聞いた途端男は片方の眉を動かし、顎を突き出すと、

 

「我々は君ら一般プレイヤー開放の為に戦っている!!」

 

 大声を張り上げた。 続けて、

 

「諸君が協力するのは当然の義務である!!」

 

 ごめん、あっそとしか言えないんだけど。前線にろくに出てこずに徴税という名目で市民から略奪しているような連中が何を言うかと思えば。

 

 傲岸不遜(ごうがんふそん)とはこのことだ。

 

 ここ一年、軍が積極的にフロア攻略に乗り出してきたことはほとんどないはずだが。

 

「ちょっと、あなたねぇ……」

 

「て、てめぇなぁ……」

 

「このおじさん嫌い……」

 

 上から順に、アスナ、クライン、ユウキだ。

 

 特にアスナとクラインは爆発寸前である。

 

「どうせ街に戻ったら公開しようと思っていたデータだ、構わないさ」

 

「おいおい、そりゃ人が好すぎるぜキリト」

 

「うん、知ってた。お前ならそうするって知ってた」

 

「マップデータで商売する気はないよ」

 

 キリトはそう言いながらトレードウインドウを出し、コーバッツ中佐と名乗る男に迷宮区のデータを送信する。

 

 男は表情一つ動かさずマップデータを受信すると「協力感謝する」と感謝の気持ちなどかけらも無さそうな声で言い、くるりと後ろを向いた。

 

 その背中に向かって声をかける。

 

「ボスにちょっかい出す気ならお薦めはしない」

 

 コーバッツはわずかにこちらを振り向いた。

 

「……それは私が判断する」

 

 そのあんたの判断が信用できないから言ってるんだよ、と言いたくなるのをどうにか抑え、俺はあくまでも慎重に言った。

 

「ボスの部屋を偵察してきたが、生半可な人数でどうこうなる相手じゃない。 仲間も消耗しているみたいじゃないか」

 

「……私の部下はこの程度で音を上げるような軟弱者ではない!!」

 

 部下、という所を強調してコーバッツは苛立ったように言ったが、床に座り込んだままの当の部下たちは同意している様には見えなかった。

 

「貴様等さっさと立て!!」

 

 というコーバッツの声によろよろ立ち上がり、二列縦隊に整列する。

 

 コーバッツは最早こちらには目もくれずその先頭に立つと、片手を上げて振り下ろした。

 

 軍のメンバーは、一斉に武器を構え、重々しい装備を鳴らしながら進軍を再開した。

 

 下の下の愚策。ろくに準備もせず消耗した状況でフロアボスになぞ挑めば、どうなるのか分からないのか?あ、あの軍隊元から作戦をまともに遂行できない組織だったわ……

 

「……大丈夫なのかよあの連中……」

 

 軍の部隊が上層部へと続く出口に消え、規則正しい足音が聞こえなくなった頃、クラインが気遣わしげな声で言った。

 

「まぁ、大丈夫じゃないだろうな」

 

「私もそう思うわ」

 

「一応様子だけでも見に行くか?」

 

「その方がいいな」

 

 俺が言うとクラインの仲間5人も首肯してくれた。

 ここで脱出して後からあの連中が未帰還だとなったら寝覚めが悪すぎる。

 

 

 俺達は軍の連中を追うべく、走り出した。


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