ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~   作:人民の敵

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《第27話》破滅する偶像

sideユウキ

 昨日のラフィン・コフィン討伐戦からレイがどこかに消えた。キリト曰く、討伐戦の途中で十数人のラフコフメンバーと共にどこかへ消えたという。

 

「どこに行ったの……?レイ……」

 

 ボクは言った。あれからギルドやフレンドの追跡機能も切られ、レイの行方は分からなくなった。ただ、生きていることは確かだった。そしてもう一つ、彼が行方を眩ませた直後、極端に犯罪者ギルドが減り始めた。あるギルドは狙撃され全滅し、あるギルドは全員が対人地雷によって爆殺された。あるギルドは銃剣で全員を斬殺された。それを知ったプレイヤーはその犯罪者ギルドに対する徹底的な虐殺を《神の浄化》と呼んだ。そして……

 

「やはり、犯罪者を虐殺しているのはレイなのか…………?」

 

 隣でキリトが言う。殺害方法や手並みの良さから考えられるのは1人しかいない。

 

 

 

 この世界(アインクラッド)で唯一人自由自在に銃を操り、自衛隊の特殊訓練を受けたレイしか。

 

「なんで……?」

 

 ボクはまた呟いた。どうしてレイがそんな無慈悲な殺戮(さつりく)を繰り返すのかボクには分からなかった。レイは、犯罪者を『浄化すべき存在』と思っているのは知っていた。だからUCSFを作ったことも。

 でも………

 

 

「なんでレイは殺すの?ここで人を殺したら現実でも死ぬって分かっているはずなのに………!」

 

「ユウキちゃん……」

 

 振り返ると、セブンがいた。

 

「話したいことがあるの。来てくれるかな……?」

 

 セブンが言う。彼女の声は、どことなく暗い。

 

「う、うん」

 

――――――――

 

「それで…話って何?」

 

 ボクが聞くと、セブンは頷いてから話し出した。

 

「これは……私とレイ君がアメリカに留学していた時に話は遡るの」

 

 そこからセブンの話は始まった。

 

「私たちは、卒業の時、2人で共同研究を卒業研究としてしたの。そのテーマは…………《仮想現実の有効性と技術的可能性についての研究》。つまり…VR技術についての研究」

 

「え?」

 

「しばらくその研究を続けていた私たちのもとに、ある人物が訪れてきたの。研究を手助けしたいと言ってね。その人物の名前は…………………………………」

 

 

 

「時の天才量子物理学者、茅場晶彦」

 

「え、茅場晶彦って、あの?」

 

 ボクは驚いて訊いた。

 

「ええ…それで、このゲームは楽園(ユートピア)から反理想郷(ディストピア)に変わり果てた。そうしたのは…ある意味では私とレイ君なの」

 

「ど、どういう事?」

 

「もう少しで研究が完成するという日、茅場博士は私たちにある事を話したの。それが、このVRMMO《ソードアート・オンライン》の開発に参加しないかという話だったの。私たちはそれを承諾した。私たちは脳をスキャンする、つまりVR技術の根本の部分を開発した。そして茅場博士はそれを私たちが渡す際、ある言葉を残したの。その言葉が………」

 

 セブンは一旦息を整えてから言った。

 

「『これはゲームであっても遊びではない』。私たちがあの時、開発への協力を拒んでいたら、このゲームは生まれていなかったかもしれない。そうすれば、今まで死んだ3500人以上の人々は生きていたかもしれない。私たちは、すでに何千人もの人を……………」

 

 セブンの目には涙が浮かんでいた。普段はクールなイメージが強い彼女だけに、余程の事なのだろう。

 

「大丈夫?」

 

 ボクが声を掛けると、セブンは「ありがとう」と言ってから首を一度振った。

 

「まだ、なの」

 

「え?」

 

「これは私たちの罪の話。これから話すのはレイ君のもう一つの人格の話」

 

 セブンは言った。そして続ける。

 

「ユウキちゃんのレイ君のイメージは?」

 

 いきなり聞かれ、ボクは戸惑った。彼のイメージ。ボクの彼のイメージはクールでちょっとシャイだけど優しい。そんな感じだ。

 

「クールで優しい………かな」

 

「でしょうね。ほとんどの人は彼の印象をそう位置付ける。だけど、それは彼の表の人格」

 

 一呼吸置いてからセブンは言った。

 

「彼のもう一つの人格はユウキちゃんの彼のイメージを覆す物。それでもいいなら話すけど、それが嫌なら私はこれ以上話さない」

 

 ボクは頷いた。もうここまで聞いたからには逃げるわけにはいかない。

 

「そう。なら話すわ。先に1つユウキちゃんに訊くわ。『横須賀戦争』は知ってる?」

 

 ボクは頷く。

 

「正直に言うわ。レイ君はその時に自衛官として出撃し……そして、敵兵士2名を射殺している。彼流に言えば《呪われた存在》ね。しかも彼の場合、殺した(射殺した)ことによって勲章、最高位の大勲位菊花章を受け、彼の罪は栄誉となった」

 

「2人を射殺……?」

 

「そう。そしてあの事件以降、彼は変わり果てた」


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