ソードアート・オンライン~スコープの先にある未来へ~   作:人民の敵

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《第26話》棺桶の口を閉じるためには

第56層 聖竜連合本部

sideレイ

 

 今日、ここ聖竜連合本部で笑う棺桶(ラフィン・コフィン)討伐作戦の作戦会議が行われる。

 2日前、某所から入った情報の場所にUCSFの偵察隊を向かわせ動向を監視させたところ、十数名のラフコフメンバーの出入りが確認できた。よって今日、会議が行われる。討伐作戦の目的はラフコフメンバーの無力化及び黒鉄宮の牢獄(ジェイル)へ収監すること………………だが、俺はそう容易く事が運ぶとは思えないが。

 

 《笑う棺桶討伐特設部隊》、略して《討伐隊》は、UCSFメンバーを軸に、RSP・KoB・DKB・DoDの大手ギルド+ソロプレイヤーで構成されたが………RSPからは俺とスメラギ、ファルスの3人しか参加していない。なぜなら……

 

「定時になりました。これより、笑う棺桶討伐作戦会議を行います。議長兼特設部隊長のレイです」

 

 俺は壇上で言った。

 

「手元に配布した資料をご覧ください。主要な幹部の情報、そして拠点の情報が記されています」

 

 俺は資料を掲げた。

 

「その資料には、笑う棺桶のリーダー『PoH(プー)』、サブリーダーの《煌剣》『ディスペア』、幹部プレイヤーの『赤目のザザ』、『ジョニー・ブラック』の情報が掲載されています。掲載されている情報には、5人の特徴、使う武器も。次に拠点ですが、2日前に偵察部隊が発見した第17層の主街区から南に約2kmの位置にある洞窟です」

 

 俺はそう言った。

 

「なお、本作戦では基本的に捕縛による無力化及び鎮圧を目指しますが、部隊員の安全を優先するため、緊急の場合には殺害による鎮圧も許可します」

 

 俺の言葉に場はどよめく。そりゃそうだ、誰だって自衛するために人を殺せと言われてはいそうですかと言える人間は滅多にいない。この中では、自衛隊の特殊訓練を受けている俺とスメラギぐらいだろう。

 

 また、この作戦に俺、スメラギ、ファルスの3人しか参加していない理由は、ユウキやセブン達に人殺しをさせるわけにはいかないからだ。

 

「作戦は二時間後に開始する。 解散」

 

 こうして、ラフィン・コフィン討伐作戦会議が終了した。

 会議が終了したと同時に声をかけて来た2人の人物がいた。

 その人物は、キリトとギルド《風林火山》のリーダー、クラインだった。

 

「お前も参加するんだな」

 

「まぁ……、そうだな」

 

「ユウキちゃんやセブンちゃんは、どうしたんだ?」

 

「ああ……、あいつらは家に置いてきたよ。他の奴らも一緒さ。ついでにアスナも」

 

 ユウキやセブン達には、このラフィン・コフィン討伐作戦には参加させられない。

 

「何でアスナさんが一緒なんだ?」

 

「アスナには、今日一日ユウキの傍にいてくれって頼んだんだ」

 

 それに親友のアスナにもこんな危ない作戦には参加させたくないからな。

 キリトとクラインは、俺の思っていることを察したのか、これ以上は聞いてこなかった。

 

 

二時間後。

 

「これから回廊結晶を使い、笑う棺桶が根城にしている洞窟前に移動する」

 

 俺達は、笑う棺桶が根城にしている場所に向かった。

 俺は、目的地に到着したと同時に言った。

 

「総員、匍匐態勢で警戒」

 

 俺達、討伐隊は、草むらに身を潜めている。

 ここから洞窟に続く坑道の入口がある。

 

「総員、突入」

 

 俺の言葉と同時に討伐隊は洞窟に続く坑道を通り、笑う棺桶が居ると思われる、大部屋へ突入した。

 だが、周りを見渡しても笑う棺桶のメンバーは一人もいなかった。

 

「誰も、いないぞ……?」

 

 討伐隊の一人が言った。

 次の瞬間、奴らは、討伐隊の背後を襲ってきたのだ。

 何処からか、討伐作戦の情報が漏れていたのだ。

 俺達は完全に囲まれてしまっていた。

 

「………面白い」

 

 俺達討伐隊は、すぐに態勢を立て直し反撃した。

 俺は、襲い掛って来るラフコフメンバーの手首、足首を射撃し戦闘不能にさせていった。

 

「武器を捨てて大人しく投降しろ」

 

 俺が話しかけたラフコフメンバーは、すでにHPゲージがレッドに突入していた。

 

「俺がこの程度でビビるとでも思っていたのか!!」

 

 そのラフコフメンバーは俺に向かって突撃してきた。

 俺は反射的にダブル・タップでそのメンバーを射撃した。自衛隊の特殊訓練で染みついたその動作。それで、メンバーのHPは0になった。

 男の体は、ポリゴンを四散した。

 その瞬間、俺の脳裏にとある記憶がフラッシュバックした。

 

 

「…………………!!!!」

 

 俺は今までに感じたことがない動悸を胸に感じ、思わず胸を押さえた。

 

 俺の脳裏には、かつて俺が命を奪った兵士の顔が思い浮かんだ。その瞬間、俺の脳の自制が切れた。

 

 

 

 殺せ。この連中はあの兵士たちと同じ、自分の欲の為に無辜の民を一方的に殺戮したテロリストだ。殺すのを躊躇う必要などない。むしろ殺せ。この連中を消せば、この世界(アインクラッド)は安穏になる。殺すことは勲章だ。あの時のように、民を守り、テロを撲滅する。その名の下では殺すことはむしろ称賛される。殺せ。殺せ。殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ――――――

 

 

 頭に響くその声に、俺は気付いた。今までのユウキたちの前での《レイ》はあくまでも仮面だ。目的の為なら障害になるものは排除する。法にのっとるなら殺害も厭わない。それがホントの俺、《楓野柃》だ。そうだ、今までの俺は偽りだ。()()()()()()()()()()ため、公共の利益を守るため、そのためには手段を選ばない。それが俺の本性だったはずだ。

 

「ハハッ………」

 

 俺は近くから襲ってきた両手剣使いの首を撃ちHPを吹き飛ばした。後ろから斬りかかって来た短剣使いを手榴弾で吹っ飛ばし、ダブル・タップで体力を削りきる。さらに射撃で2人ほど殺した。

 

「あれー。 神銃じゃん」

 

「神、銃、お前を、殺す」

 

 現れたのは、ジョニー・ブラックと赤目のザザであった。

 ジョニー・ブラックは、俺の眉間目掛けて毒ナイフを投擲してきた。

 俺は、寸前で頭を下げ回避する。

 

「へぇー。 あれを避けるんだ」

 

 確かに、今の攻撃は並の反応速度では回避することは不可能だった。

 

「あっ、そう言えば絶剣のお嬢ちゃん達は一緒じゃないの?」

 

「そう、言われれば、確かに」

 

「…………」

 

「いないのかー。 殺したかったのにな」

 

「死ね……」

 

 俺は3発撃った。

 だが、3発とも同時に放たれたピックによって相殺されてしまう。

 

「手伝うか」

 

 赤眼のザザはジョニー・ブラックに言った。

 

「おいおい! こんなに楽しい殺し合いなのに横取りはいけないよ」

 

「そうか」

 

 ジョニー・ブラックは俺に毒ナイフを構え突進するように突っ込んできた。

 俺は紙一重で避け、狙剣一体ソードスキル《テミス・ソード》を発動させた。

 この攻撃によって毒ナイフを装備していた右手を吹き飛ばした。

 だが、ジョニー・ブラックは態勢を立て直し、俺に向き直った。

 

「あーあ。 手が斬り飛ばさせちゃったよ」

 

「だから、手伝うと、いった」

 

 とても緊張感のないやり取りだった。

 

「黙れ。気が散る」

 

 俺は炸裂弾を装填した自動小銃を向ける。

 

「おお、怖い怖い。」

 

 ジョニー・ブラックは左手に毒ナイフを装備し、斬りかかってきた。

 

「さてと。 第二ラウンド、行こうか」

 

 ジョニー・ブラックは俺に向かって突進してきた。

 俺の銃剣とジョニー・ブラックの毒ナイフがぶつかり火花が散った。

 俺は、鍔競り合いを行いながらも口を開いた。

 

「さっさと死ね。他にも浄化しなきゃならない奴が腐るほどいるからな」

 

 その瞬間、俺の右親指が弾けた。そして、ジョニー・ブラックの動きが止まる。

 

「な、に……?」

 

「せめて地獄で良い裁きを受けるんだな」

 

 俺が言った瞬間、ジョニー・ブラックはポリゴンの欠片となって消滅した。 

 

「逃げる、か」

 

「ちっ……」

 

 煙幕を使って脱出する赤眼のザザを俺は舌打ちしながら見送った。

 

―――――――――――

 

「やった、か……」

 

 俺は誰にも聞こえない声で呟いた。否、誰もいないのだ。ジョニー・ブラックを仕留めた後、俺は何人かのラフコフメンバーを道連れに回廊(コリドー)結晶を使い、そして全滅させた。

 

「落ちたな……」

 

 俺はため息を吐いた。これからどうするか……

 

「どうする……?」

 

 俺は1人呟いた。どの顔下げてユウキたちに会えばいい?俺のもう一つの人格はまだ彼女たちに知られるわけにはいかない。このゲームはまだ序章。いや、まだ始まってすらいないのだ。

 

「……あの人に連絡するか」

 

 

――――――――――――

 

 

 

sideキリト

 

 俺達、討伐隊はアジトを出た安全エリアで今回の作戦結果の報告をした。

 

「被害は《討伐隊》からは十一人。笑う棺桶(ラフィン・コフィン)からは、二十一名のプレイヤーが消滅した。多大な犠牲が出てしまったが、これで笑う棺桶の勢力はゼロ近くまで殲滅できた。これ以上被害が出る事はないだろう」

 

 この言葉を発したのは今回の指揮を取っていた聖竜連合の幹部プレイヤーだった。

 確かに、笑う棺桶の勢力はゼロ近くまで殲滅出来たが、幹部プレイヤーの赤目のザザ、ディスペアは逃走。笑う棺桶のリーダー、PoHの姿は確認することが出来なかった。そして……

 

 今回の作戦の立案者であり前線司令官であったUCSF総司令官、レイの姿が忽然と消えたのだ。

 

 俺は《風林火山》のギルドリーダー、クラインに声を掛けた。

 

「悪い、クライン。 俺はもう帰るわ……」

 

「……そうか」

 

俺は第50層「アルゲード」に足を向けた。

 




 はい、ラフコフ討伐戦です。
 途中のフラッシュバックの事はまた後で詳しく話します。
 突然消えたレイの行方は!?
 次回もお楽しみに!!
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